シンガポールのAuctuCel Pte Ltdは2026年8月4日、細胞治療の製造に用いる次世代の化学組成既知(chemically defined)培地「AuctuPrime」を発表した。同社の発表によれば、Sperikonとの共同開発によるもので、動物由来血清と、ヒト血小板由来の添加物(ヒト血小板ライセート等)の双方への依存をなくすことを狙った処方である。
血清や血小板由来の添加物を外すことで、研究者や製造者が工程をより制御しやすくなり、ばらつきの低減と、より大きな規模での製造への備えにつながるとしている。なお本製品は培養工程で使う製造原材料であり、細胞治療製品そのものではないと明記されている。
「ばらつきの持ち込み口」としての培地
細胞治療の製造では、原材料の素性が最終製品の品質にそのまま乗る。なかでも培地の添加物は、長らく最大の変動要因のひとつだった。
ウシ胎児血清(FBS)は、細胞をよく増やす一方で、成分が完全には分かっていない。ロットごとに組成が違い、同じ工程を回しても増殖速度や分化の傾向が変わる。ウシ由来である以上、伝達性海綿状脳症(TSE/BSE)などの外来性因子に関するリスク評価と、原産国を含めた原材料管理も避けられない。
その代替として広く使われてきたのがヒト血小板ライセート(hPL)である。ヒト由来なので異種成分の問題は減り、間葉系幹細胞などでは血清よりよく増える例も報告されてきた。ただしドナーに由来する原料である以上、供給量はドナーの確保に縛られ、ロット間差もドナー差として持ち込まれる。工程を大きくしていくほど、この2点が効いてくる。
化学組成既知の培地は、成分と濃度がすべて規定されている。生物由来の原料に頼らないため、ロット間の再現性を設計で担保でき、供給の見通しも立てやすい。今回の発表が「ばらつきの低減」と「より大きな規模への準備」を並べているのは、この2つが同じ原因から来ているためである。
置き換えは処方だけの問題ではない
一方で、血清やhPLからの切り替えは、培地を差し替えれば終わる話ではない。実務では次の作業が伴う。
- 細胞の順化:血清に慣れた細胞をそのまま化学組成既知の培地に移すと、増殖が落ちたり形態が変わったりする。段階的に馴らす工程が要る。
- 品質特性の再確認:増殖速度だけでなく、表面マーカー、分化能、目的とする機能が保たれているかを確認する必要がある。細胞治療では、これらが製品の品質特性そのものになる。
- 接着系での足場:血清由来のタンパク質が担っていた接着の役割を、コーティング材などで補う設計が必要になる場合がある。
- 工程の再確立:培地が変われば、フィード戦略も収穫のタイミングも動く。既存工程との同等性を示す作業が発生する。
化学組成既知の培地に移ることの利点は、こうした初期の負担を払い切った後に、ロットごとの当たり外れが減るという形で返ってくる。臨床から商用製造へ進む段階で効いてくる投資だと言える。
※ 本ページは公開情報(Media OutReach経由の発表)をもとにしたProglenth編集部による整理です。処方・入手方法の詳細は一次情報をご確認ください。