インドのバイオテク企業Immuneel Therapeuticsと、同国のTHSTI(Translational Health Science and Technology Institute)が、CAR-T細胞療法の開発とレンチウイルスベクター(LVV)製造に向けた戦略的パートナーシップを発表した。両者はCAR-T細胞療法の前進と、その製造に不可欠なLVVの国内製造基盤の確立を目標に掲げており、インドにおける細胞・遺伝子治療(CGT)の製造エコシステムを強化する取り組みとして広く注目されている。
CAR-T療法とレンチウイルスベクター製造の切り離せない関係
CAR-T細胞療法は、患者自身のT細胞を体外で採取し、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする遺伝子を導入したのち再投与する治療法だ。この遺伝子導入工程で中心的な役割を担うのがレンチウイルスベクター(LVV)である。LVVはHIVを由来とするウイルスを安全に改変したものであり、T細胞のゲノムにCARをコードする配列を安定的に組み込む能力を持つ。
LVVの製造は高度な専門性を要する。プロデューサー細胞(多くはHEK293T細胞)を用いた一過性トランスフェクション、あるいは安定化細胞株を使った生産が行われるが、ウイルス粒子の回収率・感染性・安全性を同時に担保しなければならない。また、ベクターの品質管理には感染性粒子力価(TU/mL)、p24抗原量、残留プラスミドの測定など複数の試験が必要であり、GMP準拠の製造はとりわけ工数が大きい。CAR-T製品1ロット当たりに必要なLVV量は患者数や用量設計によって異なるが、十分な感染多重度(MOI)を確保するために高力価かつ高品質のLVVが求められる。
インドのCGT製造:研究から実製造への転換期
インドは製薬製造大国として知られる一方、細胞・遺伝子治療の製造基盤は欧米・日本に比べて発展途上にある。その背景には、GMP対応の閉鎖系バイオリアクターや精製設備などのインフラ不足、専門人材の不足、そして規制ガイダンスの整備途上という構造的課題がある。eHealth Magazineの最新報告でも、インドのCGT領域は研究段階から実際のGMP製造へのスケールアップに苦労しているとされている。
こうした状況の中、ImmuneelとTHSTIの提携は、研究機関の科学的知見と企業の製造ノウハウを結合させることで、国内でのLVV供給チェーンを確立しようとするものだ。国産LVVの安定供給が実現すれば、欧米からの輸入コストと調達リードタイムの削減が見込まれ、インド国内でのCAR-T製品のアクセス向上にもつながり得る。アジア太平洋地域では細胞・遺伝子治療の上流製造、特にプラスミドDNAやウイルスベクターの供給がボトルネックとして指摘されており、今回の提携はこの課題への一つの回答ともいえる。
ImmuneelはすでにインドでCAR-T療法の臨床開発を進めており、THSTIは公的研究機関としてトランスレーショナルリサーチの蓄積を持つ。製造技術と規制対応の両面でシナジーが期待される提携であり、インドが今後CGT製造の新たなハブとなれるかを占う試金石になりそうだ。
※ 本ページは公開情報(businessnewsthisweek.com報道)をもとにしたProglenth編集部による整理です。詳細・数値は一次情報もあわせてご確認ください。