積水化学工業は、遺伝子治療用ウイルスベクターの製造に使う、天然由来ポリマーを用いた遺伝子導入試薬を開発し、2026年5月に米ボストンで開かれた米遺伝子細胞治療学会(ASGCT 2026)で初めて発表した。同社はこれまで建材・化成品・医療機器材料などに強みを持つ素材メーカーだが、今回の試薬はライフサイエンス事業の新しい領域にあたる。
天然由来の素材を遺伝子導入媒体として活用する点に、既存の合成系トランスフェクション試薬との差別化軸が置かれている。
細胞・遺伝子治療の上流工程を支える遺伝子導入試薬
遺伝子導入試薬(トランスフェクション試薬)は、外来のDNAやRNAを細胞内に送り込むための媒体であり、遺伝子治療用ウイルスベクター(AAVやレンチウイルス)の製造工程における一過性トランスフェクション段階でも不可欠な役割を担う。現在市場を席巻しているのはポリエチレンイミン(PEI)をはじめとする合成ポリマー系や脂質系の試薬であり、高い導入効率を誇る一方、細胞毒性や非特異的な炎症誘導が課題として挙げられることがある。天然由来ポリマーを用いることで、細胞への影響を低減しながら効率的な遺伝子導入を実現できる可能性があり、特にGMPグレードの製造工程への適用において安全性プロファイルが重視される。
素材メーカーの参入が示す市場の広がり
遺伝子治療市場の拡大を背景に、ウイルスベクター製造に必要な試薬・消耗品の需要は急速に高まっている。プラスミドDNA、トランスフェクション試薬、培地・添加剤などは「上流サプライチェーン」として製造ボトルネックの核心に位置づけられており、こうした状況のなか、化学・素材メーカーが独自の材料技術を梃子にバイオプロセス試薬市場へ参入する動きは今後も続く可能性が高い。積水化学の開発は、日本の素材産業が遺伝子治療バリューチェーンの一翼を担おうとする新たな潮流を象徴しており、同社の天然ポリマー技術がGMP製造工程での採用に向けてどのような評価を受けるかが今後の焦点となる。
※ 本ページは公開情報(日経バイオテクONLINE報道)をもとにしたProglenth編集部による整理です。詳細・数値は一次情報もあわせてご確認ください。