CAR-T の特異性を上げる synNotch-CAR 回路について、スイッチが切れているはずの状態でも CAR が少し出てしまう「漏れ」が、標的細胞の見分けを鈍らせることを定量したプレプリントが bioRxiv に公開された。著者らは複数の設計で漏れの量を測り、微分方程式モデルで見分けの良さが漏れの量・CARの効き目・細胞数の比で決まることを示したうえで、C末端にタグを付けて漏れを減らす方法を試している。
2つの抗原の「かつ」で判定する仕組み
CAR-T の副作用の多くは、標的にした抗原が正常な組織にもあることから来ます。抗原ひとつで見分けようとする限り、この問題は消えません。
そこで出てきたのが、2つの抗原の組み合わせで判定する設計です。synNotch は抗原Aを認識すると転写を起こす人工の受容体で、その下流に抗原Bに対するCARを置きます。AかつBを満たす細胞だけを攻撃する、という論理になります。
考え方は明快ですが、実装すると回路は理想どおりには動きません。今回の焦点である「漏れ」がその代表で、スイッチが切れている状態でもCARが少し出てしまうと、B陽性というだけの細胞まで攻撃しうる。結果として、かつ(AND)が、または(OR)に近づいてしまうわけです。
効き目を上げるほど、漏れが効く
抄録が挙げている3つの依存項には、直感に反する部分があります。CARの効き目が高いほど、漏れの影響は大きくなります。わずかな発現量でも殺傷が成立してしまうためで、特異性を上げる設計と効き目を上げる設計が、この点でぶつかります。細胞数の比が高い場合も同様で、数が多ければ低い確率の事象も積み上がります。つまり、回路をそのままにして投与量で逃げるのは難しいということです。
著者らが付けたC末端のタグ——分解系に送る配列、細胞内に引き込む信号など——は、転写を抑えるのではなく、出てしまったものを減らす方向の手立てです。
回路が複雑になるほど、製品として管理する項目も増えます。重要品質特性は CAR の発現量だけでなく誘導前後の比になり、力価試験は抗原の組み合わせを変えた条件が要り、ベクターコピー数の規格の意味も変わります。ロット間で漏れの程度が揃うかも見なければなりません。工程の複雑さは、たいてい試験の複雑さとして返ってきます。
なお、これはプレプリントで査読を経ていません。改善の程度や検証の範囲は抄録からは分かりません。
※ 本ページは公開情報(bioRxiv のプレプリント)をもとにしたProglenth編集部による整理です。プレプリントは査読を経ていません。手法・結果・適用範囲の詳細は一次情報をご確認ください。