自家細胞治療の同等性評価とは?製造変更で何を比べるか

抗体医薬は、製造工程を変えても、取っておいた変更前の製品と並べて測れば、品質が同じだと示せます。自家CAR-T患者や健常ドナーのT細胞にCAR(キメラ抗原受容体)を導入し、がん細胞を攻撃させる細胞治療。詳しく →には、並べる相手がいません。変更前に作った製品は、すべて患者に投与されて、手元に残らないからです。工程を変えたとき、品質が変わっていないと、どうやって示すのでしょうか。
手がかりは二つあります。同じ患者の材料を二つに割って、新旧の工程で作り比べること。あるいは、変更前と変更後のロットをそれぞれ集めて、分布どうしを比べること。FDAが2023年7月に示した案(ドラフト)も、自家製品には、集めた出発材料を二つの小分けにして、変更前と変更後の工程で作る設計を挙げています。ただし材料の量には限りがあるので、割る設計だけで足りるとは限りません。割った比較とロットの分布の比較を組み合わせて、証拠を積むのが現実的です。
製造の変更は、装置の自動化、施設の移管、原材料や受託先の切り替えと、日常的に起きます。品質保証なら比較の計画、購買なら装置や受託先を替えたときに生じる評価の負担、製造なら変更前の試料と記録の残し方が論点です。営業の立場でも、顧客が装置の入れ替えを考えているなら、評価の負担を先に聞くのが近道です。
比べる相手がいない ― 抗体医薬との違い
同等性評価の枠組みは、ICH Q5E製造工程の変更前後で製品が同等・比較可能かを評価する考え方を定めたガイドライン。詳しく → が定めています。変更の前後で、製品の品質に悪影響がないことを示す考え方です。
この枠組みは、変更前の製品を手元に置いて比べられることを前提にしています。抗体医薬では、その前提が成り立ちます。
| 抗体医薬 | 自家細胞治療生きた細胞そのものを有効成分とする医薬。CAR-Tなどが代表。詳しく → | |
|---|---|---|
| 出発材料 | 同じ細胞バンクから、何度でも用意できる | 患者ごとに別。同じ材料は二度と手に入らない |
| 変更前の製品 | 凍結して、何年も参照品として保管できる | 投与されて残らない。残せるのは少量の試料 |
| 繰り返して確かめる | 必要なだけロットを作れる | 一人分は一度しか作れない |
| 比べる単位 | 変更前の参照品と変更後の製品 | 個々のロットではなく、ロットの集まり |
そのため、Q5E の考え方は使えても、手順をそのまま持ってくることはできません。抗体医薬の側の考え方は、比較可能性試験(ICH Q5E)にまとめてあります。
自家細胞治療の同等性評価製造プロセス変更の前後で原薬・製剤の品質特性が実質的に同等であることをデータにより確認する評価手順。詳しく →は、同じものを比べる評価から、ばらつきの中で工程の効果を取り出す評価へ変わります。
患者の違いが邪魔をする ― 工程の差と患者の差
患者の細胞は、そもそも条件がそろっていません。年齢、疾患の進み具合、前治療の内容と回数、リンパ球の数と状態。どれも出発材料の質を左右し、最終製品の性質に表れます。同じ培養を回しても、ロットごとに到達する細胞数が大きく違うのは、このためです。
だから、変更の前後でロットの分布に差が出ても、原因は二つ考えられます。工程を変えたから差が出たのか、たまたま組み入れた患者の背景が違ったのか。陸上のタイムを比べるのに、変更前は短距離の選手、変更後は長距離の選手が走っていたら、靴を替えた効果は分かりません。それと同じ状態です。
対策として、患者の背景(前治療の回数、疾患、年齢)を記録して、層に分けて比べる方法があります。ただし層に分けると、一つの層に入るロットはさらに減ります。切り分けやすさと、ロット数の確保は、限られたロットの取り合いです。
ロットの差が工程によるのか患者によるのかは、ロットを増やすか、材料をそろえるかしないと、切り分けられません。
材料を割って作り比べる ― 最も強い設計と限界
交絡(工程の差と患者の差が混ざること)を根本から断つ方法が、一つだけあります。
一人分のアフェレーシス血液成分を分離して目的の細胞(単核球など)を採取する手法。細胞治療の出発材料の採取に使う。詳しく →材料を二つに分け、片方を変更前の工程で、もう片方を変更後の工程で処理します。出発材料が同じなので、できた製品の差は、工程の差で説明できます。FDAの2023年7月の案が自家製品に挙げているのも、この小分けの設計です。得られる証拠としては、最も強い部類に入ります。
制約は量です。臨床用の工程は、一定量以上の出発細胞を前提にしていることが多く、二つに割ると、片側がその条件を満たさないことがあります。そこで、健常ドナーから採った材料で割る設計が、現実的な選択肢です(白血球アフェレーシス)。
ただし、健常人の細胞は、患者の細胞とは性質が違います。患者の細胞は、前治療で傷んでいたり、数が少なかったりしますが、健常人の細胞はそうではありません。つまり、良い条件での比較です。工程の頑健性を見るなら、厳しい条件でも比べたいので、細胞数を減らす、活性化の刺激を弱めるなどして、患者の材料に近い条件を作る設計が取られることがあります。
健常人の材料は、分析法の確認にも使えます。健常人の材料から作った製品を分析の対照にすれば、測定系が正しく働いているかを、毎回確かめられます。
健常人の細胞は製品の代わりにはなりませんが、工程と分析の確認には使えます。割った材料での比較と、ロットの分布の比較を、両方持つのが実務の組み方です。
よくある失敗 ― 変更が決まってから気づくこと
同等性評価でつまずく原因の多くは、解析の前にあります。
1つめは、変更前の記録を残していないことです。変更が決まってから比較の相手を探しても、変更前の測定値が少ない、患者の背景が記録されていない、という状態では手遅れです。重要品質特性製品の品質を保つために、適切な範囲に収まっている必要がある物理的・化学的・生物学的・微生物学的な性質です(ICH Q8)。規格試験だけでなく、工程の管理で保証するものも含みます。詳しく →(製品の品質を左右する特性)の測定値を、ロットごとに患者の背景と並べて蓄積しておくのが、いちばん安い備えです(細胞治療製品のCQA)。
2つめは、変更の束ね方です。変更のたびに評価が要り、ロットも検体も使います。閉鎖系の自動装置への切り替え、施設の移管、凍結の導入を別々に進めれば、評価の回数だけ時間と材料が消えます。一方で、まとめすぎると、差が出たときにどの変更が原因か切り分けられません。まとめる変更と分ける変更は、リスクの大きさで決めます。FDAの案も、ICH Q9リスクに基づいて品質を判断する、品質リスクマネジメントの考え方を示すICHのガイドライン。詳しく → のリスクの考え方に立って、変更ごとに悪影響の重さと起こりやすさを評価するよう求めています。
3つめは、物差しを同時に替えることです。分析法を変更の前後で替えると、差が出ても、製品の差か測定の差か分かりません。効力試験製品が本来の生物学的な作用をどれだけ発揮するかを測る試験です。有効性を保証するための重要な品質指標です。詳しく →のように、自家製品では基準にする標準品も作りにくい分析法は、とくに慎重に扱います(細胞治療の効力試験)。
4つめは、「差がない」を「同等」と読むことです。平均を比べて差が見つからなくても、ロット数が少なければ、差があるのに検出できていないだけかもしれません。同等性の検定は、あらかじめ「この幅に収まれば同等とみなす」と決めておき、実測がその幅に収まるかを見ます。難しいのは幅の根拠です。臨床で許容できる差から決めるのが筋ですが、根拠を持っている項目は多くありません。幅を狭くするほど、必要なロット数は増えます。
5つめは、比較の計画を当局に見せるのが遅いことです。CAR-T製品向けのFDAのガイダンス(2024年1月の最終版)にも、分析による同等性評価の推奨が載っています。FDAの案は、比較の計画書(プロトコル)を早めに出して、試験の設計と統計の方法について意見を求めるよう勧めています。変更の影響は、分析だけでは判断できず、非臨床や臨床の検討が要る場合もあります。導入遺伝子ベクターで細胞に運んで働かせる目的の遺伝子。詳しく →の配列を変える、自家から他家に切り替えるといった変更は、同等性の問題ではなく、別の製品として扱われることがあります。
同等性評価の失敗は、解析の巧拙より、変更の前に何を残し、何を決めていたかで分かれます。
明日から確かめられること ― 製造変更と受託先選定の確認項目
製造の変更を計画するとき、また装置や受託先を比べるときに使える確認項目です。
- 変更の種類(装置の入れ替え、施設の移管、原材料、ベクター、分析法、受託先)を分けて、まとめる理由と分ける理由を書けるか
- 変更の前に、重要品質特性の測定値と患者の背景を、ロットごとに蓄積しているか
- 比べる物差しの分析法は、変更の前から使えていて、検証が済んでいるか
- 材料を割る設計はできるか。割ったあとでも、必要な細胞数は足りるか。健常ドナーの材料は手配できるか
- 「同等」とみなす幅と、その根拠を、重要品質特性ごとに決めたか
- 比較の計画を当局に事前に見せて、助言を得る時期を、スケジュールに入れたか
- 装置や受託先の候補は、変更管理工程・設備・手順などの変更を評価・承認し、品質への影響とともに記録する仕組み。詳しく →と同等性評価の経験があるか。将来の入れ替えを見込んだ契約か
分析に使う装置や試薬は、細胞治療の効力試験とフローサイトメトリーの一覧から探せます。
次の疑問に応える記事も用意しています。装置を替えたときの説明が要る場面は細胞治療の洗浄・濃縮装置と閉鎖系での細胞製造、自家と他家で何が変わるかは自家と他家の細胞治療、出荷までの試験は細胞治療の出荷試験で読めます。
参考文献
- ICH Q5E 生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の製造工程の変更に伴う同等性変更前後が完全に同一でなくても、品質・安全性・有効性で高い類似性を保ち差異が悪影響しないと言える状態。詳しく →/同質性評価について
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q9(R1) 品質リスクマネジメント
- FDA, Manufacturing Changes and Comparability for Human Cellular and Gene Therapy Products(Draft Guidance, 2023年7月)
- DIA Global Forum, New FDA Guidance Addresses Challenges with Cell and Gene Manufacturing Comparability and Complexity(自家製品の小分けの設計、リスクに基づく評価、計画書の早期相談の要約)
- FDA, Considerations for the Development of Chimeric Antigen Receptor (CAR) T Cell Products(Final Guidance, 2024年1月)
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