力価・濃度とは?抗体医薬における含量・生物活性の評価
抗体医薬の品質を見るとき、「濃度」と「力価」は分けて考えます。濃度は製品中に抗体タンパク質がどれだけ含まれているか(量)を示し、力価はその抗体が標的に結合する、シグナルを阻害する、細胞応答を起こすといった機能をどれだけ発揮できるか(効き目)を示します。量があることと、機能していることは別の事実であり、抗体医薬ではこの二つを別々の試験で確認します。

たとえば培養上清中に抗体がどれだけ蓄積したかを示す指標は、現場では「タイター(titer)」とも呼ばれ、収量や工程進行の判断に使われます。一方、最終製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。で問われるのは、表示量どおりの抗体が入っているか(含量)と、その抗体が規定どおりに働くか(生物活性・力価)です。同じ「量」と言っても、上流の収量を見る濃度と、製剤の含量を見る濃度では目的が違います。
こうした違いは、A280波長280nm付近の紫外線吸収を利用してタンパク質濃度を推定する測定法。芳香族アミノ酸などが光を吸う性質を使う。(UV-Vis分光光度計)や Protein A HPLC による含量測定と、ELISA や BLI ・ SPR による結合・力価評価という、性格の異なる分析の使い分けにつながります。工程進行やDS / DPでの判断も、この二つの軸をどう読むかで決まってきます。製造工程全体での位置づけは 抗体医薬の工程フロー も参照してください。
濃度と力価は何が違うのか
濃度は抗体タンパク質の量を示し、力価は抗体が期待される機能をどれだけ示すかを表します。
同じ濃度の抗体溶液であっても、片方は標的に強く結合し、もう片方は構造変化によって結合能が低下していることがあります。この場合、濃度は同じでも力価は同じとは言えません。抗体医薬はタンパク質製剤であり、単に分子が存在しているだけでは品質を十分に説明できません。
ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。では、バイオテクノロジー応用医薬品・生物起源由来医薬品の規格として、確認試験、純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →、不純物、力価(potency)、含量(quantity)などの試験項目が整理されています。濃度と力価は、抗体医薬の品質を異なる側面から確認するための、独立した規格項目として位置づけられます。
濃度は「どれだけ入っているか(量)」、力価は「どれだけ働くか(効き目)」を見る指標です。 量が十分でも機能が保たれているとは限らないため、抗体医薬では両方を分けて確認します 。
濃度(含量)では何を、どう測るのか
濃度測定では、抗体タンパク質が試料中にどれだけ含まれているかを確認します。
原薬であるDSでは精製後にどれだけ抗体が回収できたか、製剤であるDPでは最終製品中に表示量どおりの抗体が含まれているかを確認します。安定性試験出荷時から有効期限まで品質特性が規格内にとどまることを確認する試験。では、保存後に見かけの濃度が大きく変化していないかを見ることもあります。
代表的な測定法には、A280によるUV吸光度測定、Protein A HPLCプロテインAカラムへの抗体の結合と溶出を利用し、培養液や試料中の抗体(IgG)濃度を定量する手法です。詳しく →、SEC-HPLC多孔質の担体を通る時間差で分子をサイズ順に分離し、抗体の凝集体や断片がどれくらい含まれるかを測る手法です。詳しく →などのクロマトグラフィー定量があります。
A280と吸光係数
A280は、タンパク質中の芳香族アミノ酸(トリプトファン、チロシン)とジスルフィド結合が280 nm付近の紫外光を吸収する性質を利用して、タンパク質濃度を推定する方法です。濃度はLambert-Beerの法則吸光度が物質の濃度と光路長に比例するという関係。A280からタンパク質濃度を求める計算の土台になる。 A = ε・c・l に基づいて算出し、 抗体ごとに固有の吸光係数物質が特定波長の光をどれだけ吸うかを表す係数。A280からタンパク質濃度を計算する際に分子ごとの値を用いる。(ε、典型的にはIgGで 1.4 〜 1.5 mL/mg/cm 前後)を用いる点が要点です 。アミノ酸配列から計算した吸光係数や、実測で確定した値を用います。
UV-Vis分光光度計 は、USP <857> でも200〜780 nmの範囲で単色光を扱い、吸光度または透過率を測定する光学システムとして説明されています。A280測定では、散乱の影響を補正するため320〜340 nm付近のベースラインを差し引く、濁りや凝集の影響を避ける、希釈を吸光度の直線範囲(おおむね 0.1 〜 1.0 Abs)に収めるといった運用が、値の信頼性を左右します。
Protein A HPLCによる選択的定量
培養上清やハーベスト液には宿主細胞タンパク質(HCP)抗体を作る宿主細胞に由来し製品に残るタンパク質。代表的な工程由来不純物でELISA等で管理する。や培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。成分が共存するため、A280では抗体以外の吸収まで拾ってしまいます。これに対し Protein A HPLC は、Protein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく →カラムがFc領域抗体の定常部にあたる「足」の部分。FcγRや補体、FcRnと相互作用し、機能や血中半減期を担う。を選択的に捕捉する性質を利用して、共存タンパク質の中から抗体だけを定量します。
このためProtein A HPLCイオン対試薬を使い疎水性の差で分ける液体クロマト。一本鎖と二本鎖RNAの分離やdsRNA除去に使われます。は、上流の力価(タイター)モニタリングや、各工程での抗体回収率の把握、Protein A精製ステップの評価に広く使われます。標準曲線既知濃度の標準物質を段階希釈して得た濃度とシグナルの関係曲線で、未知試料の濃度を逆算するために用いる。を用いた相対定量で、培養期間中の抗体蓄積をロット間で比較できる点が、工程進行の判断に直結します。なお原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。精製の流れは Protein Aクロマトグラフィー や 抗体医薬の工程フロー で確認できます。
| 測定法 | 主な対象 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| A280(UV-Vis紫外から可視の光の吸収を測り、タンパク質やDNAなどの濃度測定や純度の確認を行う装置です。詳しく →) | 精製後タンパク質 | 簡便・迅速、吸光係数が必要 | DS / DP含量、UF/DF半透膜で目的物質を濃縮したり(限外ろ過)、緩衝液を目的の組成に置き換えたり(ダイアフィルトレーション)する工程です。膜面に沿って液を流すTFF方式が使われます。詳しく →後の濃度確認 |
| Protein A HPLC | 抗体(Fc) | 共存物中で抗体を選択的に定量 | 培養タイター、回収率、工程進行 |
| SEC-HPLC定量 | モノマー等 | サイズ分離と同時に定量 | 純度と濃度の同時把握 |
濃度測定は抗体がどれだけ存在するかを見る分析であり、その抗体が本来の機能を保っているかまでは直接示しません。
力価(生物活性)では何を、どう測るのか
力価測定では、抗体が期待される機能をどれだけ発揮できるかを確認します。
抗体の作用は製品によって異なります。標的抗原への結合が重要な場合もあれば、リガンドと受容体の相互作用の阻害、細胞応答の変化、ADCCやCDCのようなエフェクター機能抗体が免疫系を動かして標的細胞を排除する働き。ADCCやCDCなどがある。が重要な場合もあります。力価試験細胞や生体分子に実際に作用させ、医薬品の生物活性(どれだけ効くか)を数値化する試験。では抗体を段階希釈し、濃度ごとの反応を測定して、標準品や参照ロットと比較した相対力価検体の力価を標準品と比べて表す値。生物系の日間変動を比で打ち消せる。(relative potency)として評価することが一般的です。指標としては結合シグナル、阻害率、発光量、蛍光強度、細胞生存率、EC50、IC50対象の働きを半分に抑えるのに必要な薬物濃度で、値が小さいほど強く阻害する。hERG阻害の強さを表す。などが用いられます。
結合アッセイ:ELISA / BLI / SPR
抗体の結合活性を見る基本的な手法が ELISA です。プレート上に固定した抗原への結合を酵素反応で検出し、用量反応曲線濃度を振ったときの応答の変化を表す曲線で、ここからIC50やEC50を導く。からEC50応答を半分まで立ち上げる濃度のことで、作動薬など活性化系の効力指標に使う。や相対力価を算出します。試薬・装置のハードルが低く、ロットリリースや安定性試験で広く使われます。
一方、結合の動態をラベルフリー蛍光や酵素などの標識を付けずに、分子の結合をそのまま検出する方式。標識による活性への影響を避けられる。でリアルタイムに測るのが BLI (バイオレイヤー干渉法センサー先端に結合した分子の膜厚変化を光の干渉で捉え、抗体などの結合・解離のしやすさ(親和性)をリアルタイムで測る手法です。詳しく →)と SPR (表面プラズモン共鳴)です。いずれも結合・解離の経時変化から会合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)結合した分子が離れていく速さを表す定数。小さいほど離れにくく、標的への滞留時間が長い。、平衡解離定数抗体と抗原などの結合の強さ(親和性)を表す指標。解離速度定数kdを会合速度定数kaで割った値(kd/ka)で、小さいほど親和性が高い。(KD)を求められ、 単なる結合の有無ではなく「どれだけ強く・速く結合するか」という親和性・速度論を定量できる点が特徴です 。BLIはディスポーザブルなバイオセンサーをディップして測る方式で多検体のスクリーニングに、SPRはフローセル液体サンプルを一定の流れで流しながら光学的に撮像・計測するための、装置内部に組み込まれた薄い流路構造体。方式で精密な速度論解析に向くといった使い分けがあります。
| 手法 | 検出原理 | 主に得られる指標 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| ELISA抗原と抗体の結合を酵素反応による発色などで検出し、目的の物質の有無や量を測る手法です。不純物や力価の測定に広く使われます。詳しく → | 酵素発色 | EC50、相対力価 | リリース試験、安定性試験 |
| BLI | バイオレイヤー干渉 | ka / kd / KD | 多検体スクリーニング、濃度測定 |
| SPR | 表面プラズモン共鳴 | ka / kd / KD | 精密な速度論・親和性解析 |
細胞ベースアッセイ
作用機序によっては、結合だけでなく細胞応答の惹起や阻害、ADCC / CDCといった機能を直接見る細胞ベースの バイオアッセイ が必要になります。USP <1034> では、タンパク質、ワクチン、複雑な混合物、細胞・遺伝子治療製品などにおいて、生物活性や力価の確認、安定性モニタリングにバイオアッセイが重要であると説明されています。細胞や標準品を用いるためばらつきが大きく、参照標準品の管理、用量反応曲線の平行性検定、相対力価としての算出が品質の鍵になります。
なぜ濃度だけでは足りないのか
濃度が同じでも、抗体の機能が同じとは限りません。
抗体は立体構造を持つタンパク質です。製造工程や保存中に凝集、分解、酸化、脱アミド化、糖鎖構造の変化などが起こると、標的への結合や生物活性に影響することがあります。凝集体の増加は安全性・有効性のリスクに、断片化や低分子量種の増加は目的分子の保持に関わります。電荷バリアントや糖鎖構造の違いも、安定性、薬物動態、エフェクター機能に影響します。
特にFc領域を介した機能を持つ抗体では、コアフコースの有無などの糖鎖構造がADCC活性に直接関わります。同じ濃度の抗体であっても、これらの品質属性が変化すれば機能は同じとは限りません。だからこそ抗体医薬では、「量を見る分析」と「機能を見る分析」を組み合わせて品質を確認します。純度(凝集体・断片)や電荷異性体との関係は 純度の分析 や 電荷異性体の評価 もあわせて整理すると理解が深まります。
工程進行とDS / DPでの判断
濃度と力価は、工程のどの段階で見るかによって、判断の意味合いが変わります。
上流の培養工程では、Protein A HPLCで測るタイターが収量と工程進行の主な指標になり、ハーベストの判断や工程比較に使われます。精製工程では各ステップ後の濃度から回収率を、UF/DFやTFF後はA280で濃縮の到達度を確認します。最終的な品質判定は、DSとDPで対象を変えて行います。
DSでは精製された抗体そのものの品質を確認します。濃度、純度、凝集体、電荷バリアント、糖鎖、力価などを組み合わせ、抗体分子として目的の品質を満たしているかを見ます。DPでは製剤として患者に投与される状態で品質を確認し、表示量に対する含量、保存中の力価維持、処方・容器・保存条件による機能低下の有無を確認対象とします。
同じ濃度・力価でも、上流では「収量・工程進行」、DSでは「抗体分子としての品質」、DPでは「製剤としての品質」を見ています。 見る指標は重なっても、判断している対象が違います 。
この分析で使われるもの
濃度測定と力価測定では、使われる装置・試薬の性格が異なります。
濃度測定は比較的シンプルに見えますが、製剤組成や濁り、凝集、添加剤の影響を受けることがあります。UV-Vis分光光度計 によるA280や Protein A HPLC が代表的です。力価測定は、ELISA ・ BLI ・ SPR や細胞ベースアッセイを用い、参照標準品の管理、ばらつきと再現性の管理、相対力価としての算出が重要になります。各手法の詳細は 力価・濃度の分析 も参照してください。
まとめ
抗体医薬では、濃度と力価を分けて確認します。濃度は抗体タンパク質がどれだけ含まれているか(量・含量)を、力価はその抗体が期待される機能をどれだけ発揮できるか(効き目・生物活性)を示します。
量が十分でも機能が保たれているとは限りません。構造変化、凝集、分解、糖鎖の違いなどによって、同じ濃度でも力価が変わることがあります。そのため品質分析では「量を見る分析」と「効き目を見る分析」の両方が必要です。
A280やProtein A HPLCによる含量測定は抗体がどれだけ含まれているかを、ELISA・BLI・SPRや細胞ベースアッセイによる力価試験はその抗体が期待される機能を示すかを見ています。上流のタイター、DSの分子品質、DPの製剤品質という段階の違いも踏まえると、抗体医薬の品質を「量」と「機能」の両面から一貫して整理できます。
参考文献
- ICH Q6B: Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products.
- USP <1034>: Analysis of Biological Assays.
- USP <1032>: Design and Development of Biological Assays.
- USP <857>: Ultraviolet-Visible Spectroscopy.
- Wang X, An Z, Luo W, Xia N, Zhao Q. Molecular and functional analysis of monoclonal antibodies in support of biologics development. Protein & Cell. 2018.
- Torkashvand F, Vaziri B. Main Quality Attributes of Monoclonal Antibodies and Effect of Cell Culture Components. Iranian Biomedical Journal. 2017.
- Reusch D, Tejada ML. Fc glycans of therapeutic antibodies as critical quality attributes. Glycobiology. 2015.