製品由来不純物と工程由来不純物の違いとは?

製品由来不純物と工程由来不純物は、バイオ医薬品抗体や組換えタンパク質など、生きた細胞や微生物に作らせる医薬品の総称です。細胞治療・遺伝子治療の製品を含めて呼ぶこともあります。化学合成で作る核酸医薬やペプチドは、ふつう含めません。詳しく →の不純物を、どこから来たかで分けた呼び方です。製品由来不純物は目的の抗体そのものが形を変えたもの、工程由来不純物は製造に使う細胞や資材から持ち込まれたものを指します。
ただし、どちらに当たるかで、原因を探す部署も数字の読み方も変わります。工程由来不純物は、総量の数字が小さくても、種類によっては臨床で問題になることがあります。
この記事では、2つの不純物の分け方、直す場所と測り方、総量の数字では見えにくい宿主タンパク質の例、現場でよくある取り違え、報告書で確かめることを順に説明します。
1. 二つの不純物 ― 形を変えた抗体と持ち込まれた異物
生物薬品の規格の考え方を定めたICH Q6Bは、不純物を由来で分けています。国内の通知では、製品由来を「目的物質由来不純物」、工程由来を「製造工程由来不純物製造の過程で入り込む不純物。HCPや宿主細胞由来DNA、培地成分、Protein Aリークなどが含まれる。」と呼びます。
製品由来不純物は、目的の抗体が製造や保管のあいだに変化してできたものです。抗体どうしがくっついた塊(凝集体)、途中で切れたかけら(断片)、アミノ酸の一部が化学的に変わった分子(脱アミド化アスパラギンなどが変化して電荷が変わる化学的分解。特定の隣接配列で起きやすい。詳しく →体や酸化体)が代表です。
どれも元は同じ抗体なので大きさや性質は目的物とよく似ており、精製で簡単には分けられません。
工程由来不純物は、製造に使う細胞や資材にもともと含まれていて、抗体と一緒に残ったものです。代表は、抗体を作らせたCHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞)自身のたんぱく質である宿主細胞由来タンパク質(HCP)生産に使う細胞に由来し製品に残るタンパク質不純物。精製で除去し、残存量を管理します。詳しく →と、同じ細胞のDNAです。
培地の成分、精製カラムから剥がれ落ちたProtein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく →リガンド担体ビーズ表面に結合させた官能基やタンパク質で、目的物や不純物と相互作用して分離を担う部分。詳しく →(抗体をつかまえる部品)、泡を抑える消泡剤培養や撹拌で生じる泡を抑えるために加える添加剤で、泡による酸素供給の低下やあふれを防ぎます。詳しく →も、この仲間に入ります。いずれも工程に元からあるもので、抗体とは性質がまるで違うため、取り除く手立てを工夫できます。
ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく →には、もう一つ覚えておきたい区別があります。目的物と形が少し違っていても、効き目と安全性が目的物と同等であれば「目的物質関連物質」と呼び、不純物には数えません。
たとえば電荷異性体抗体などで電荷が異なる分子種のことです。脱アミド化などの修飾で生じ、酸性側・塩基性側の割合を分離して測る品質指標です。詳しく →(表面の電荷がわずかに違う抗体)は、分析ではいくつもの山に分かれて見えますが、主ピーク以外がすべて不純物とは限りません。どこからを不純物とするかは、製品ごとに活性や安全性のデータで決めます。
ウイルスや細菌、マイコプラズマ細胞培養に混入しうる微小な細菌。セルバンクなどで否定試験が求められる。詳しく →、微生物が出すたんぱく質分解酵素のように、本来の工程に含まれないものは「混入汚染物質」として別枠で扱います。
混入汚染物質は入れないことが原則で、入りうるもの(細菌など)は工程の途中で決めた管理値で抑えます。ウイルスとマイコプラズマには、「ここまでなら許す」という考え方そのものが当てはまりません。
ウイルスについては、万一入っても精製工程で除けることもあわせて示します(ウイルスクリアランス)。ここまでの分け方を、ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q6Bの言葉で1枚にまとめたのが次の図です。

| 製品由来不純物 | 工程由来不純物 | |
|---|---|---|
| 正体 | 形や化学構造が変わった抗体 | 細胞や資材から持ち込まれた別の物質 |
| 代表例 | 凝集体、断片、脱アミド化体、酸化体 | HCP、宿主細胞DNA生物製剤の製造に使用した宿主細胞のゲノム由来のDNAで、製品品質上除去が求められるプロセス関連不純物。詳しく →、Protein Aリガンド、培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →成分 |
| 主な対策 | 作らない、増やさない(培養・精製の条件、処方、保存) | 精製で取り除く |
| 数字の書き方 | 全体に占める割合(%) | 抗体の量あたりの量(ppm、ng) |
| 主に測る段階 | 原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →・製剤・保存中 | 主に原薬 |
報告書の「不純物」が形を変えた抗体なのか、持ち込まれた異物なのかを見分けることが、原因を探す最初の一歩です。
2. 直す場所と測り方 ― 作らない工夫と取り除く工程
製品由来不純物も精製である程度は減らせますが、目的物とよく似ているため、取り除こうとするたびに目的の抗体も一緒に失います。そのため対策の中心は、そもそも作らない、増やさない工夫に置かれます。
培養の温度や日数、精製で酸性にしておく時間、製剤の処方、保存や輸送の条件を見直していきます。凝集体は出荷後の保存中にも少しずつ増えるため、安定性試験出荷時から有効期限まで品質特性が規格内にとどまることを確認する試験。詳しく →で有効期限の最後まで追いかけます。
2013年には、ウサギ由来の抗体製剤Thymoglobulineの1ロットが、保存中に凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →が規格を超えたために世界規模で回収されました(純度の記事で詳しく紹介しています)。
工程由来不純物は目的物と性質が違うため、精製の各段で取り除くのが基本です。抗体の精製では、Protein A樹脂でつかまえる最初の工程で大半を落とし、その後のイオン交換クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →などで残りを詰めます。
ただし、精製に入ってくる量は上流で決まります。培養の終盤に細胞が多く死ぬと、壊れた細胞からHCP医薬品を作る宿主細胞に由来するタンパク質の不純物です。安全性に関わるため、精製後の残存量を測ります。詳しく →やDNAがまとめて出てきて、下流の負担が増えます。
測り方も分かれ、製品由来は、大きさや電荷といった性質ごとに分析を分けて、それぞれ「全体のうち何%」と割合で読みます。大きさの分析なら、凝集体が増えたぶん、ばらばらの抗体(単量体)の割合が減る、という関係です。
工程由来は、項目ごとに専用の方法で量を測ります。HCPはELISA(抗体を使った検出法)、DNAはqPCR(定量PCR)が基本です。
CHO細胞のHCPなら、Cygnus TechnologiesのCHO HCP ELISA製品に残る宿主細胞由来タンパク質(HCP)の量を抗体で測るELISAです。不純物の除去具合を確認する品質試験に使います。詳しく → Kit(第3世代)のような汎用キットが広く使われています。結果は抗体の量あたりで表すため、抗体の濃度(力価・濃度)が正しく測れていることも前提です。
HCPは、抗体の重さに対して1万分の1、つまり100 ppmを下回る水準が業界でよく使われる目安です。法令で決まった上限はなく、製品ごとに設定されます。
ELISA抗原と抗体の結合を酵素反応による発色などで検出し、目的の物質の有無や量を測る手法です。不純物や力価の測定に広く使われます。詳しく →は、キットの抗体が認識できないHCPを拾えない点に注意が要ります(HCPとカバー率)。DNAは量に加えて、どれくらい短く切れているかも見ます(残存DNA)。
測る段階にも違いがあります。HCPやDNAの量は保存中に増えないため主に原薬で確かめ、製品由来は原薬と製剤の両方で測り、保存中も追います。
原薬では少なかった凝集体が製剤で増えていたら、原薬を製剤にする工程(調製・ろ過・充填)か、その後の保存のどこかで増えたと見当がつきます(原薬と製剤の違い)。

製品由来は「作らない」側で、工程由来は「取り除く」側で手を打つのが基本です。
3. 総量の数字では見えにくい宿主タンパク質の例
工程由来不純物は、ELISAで測った総量が目安を下回っていれば安心だと考えがちですが、そうとは限らない例があります。
その一つが、ジェネンテック(Genentech)が喘息の治療薬として開発していたレブリキズマブ(lebrikizumab)です。臨床試験用の製剤に、薬を作らせた細胞から持ち込まれたハムスター由来のたんぱく質PLBL2(ホスホリパーゼB様タンパク質2ポリソルベート分解に関与する候補として報告される脂質分解酵素。詳しく →)が残っていました。
PLBL2は、抗体と一緒に精製で残りやすいHCPの一つです。HCPの総量を測るELISAでは、このPLBL2が実際より少なく数えられていました(HCPとカバー率)。
2016年に公表された論文が、PLBL2の影響を伝えています。PLBL2を減らす前の治験薬臨床試験(治験)において被験者に投与するために製造された、未承認または既承認の医薬品のこと。詳しく →を使った試験では、レブリキズマブを投与された人の大半に、PLBL2に対する抗体ができていました。
安全性の問題との関連は見られませんでしたが、開発元は精製を見直し、PLBL2を大幅に減らした治験薬に切り替えています。切り替えたあとの試験の中間解析では、PLBL2に対する抗体ができる頻度がはっきり下がっていました。
もう一つは、製剤の側で起きる問題です。HCPの中には、脂肪を分解する酵素(リパーゼ脂質を加水分解する酵素。製剤中のポリソルベートを分解し、遊離脂肪酸の析出や安定性低下を招くHCPの代表。詳しく →)の仲間が混じることがあります。
この酵素が製剤に入っている界面活性剤のポリソルベートタンパク質の凝集や容器壁への吸着を防ぐため製剤へ少量加える添加剤で、細胞培養で細胞を保護する目的でも使われます。詳しく →を少しずつ分解し、出てきた脂肪酸が保存中に粒子となって現れることがあります。2016年の報告では、100万分の1にも届かない量の酵素で分解が起きていました(ポリソルベートの分解)。
どちらの例も、量の合計だけを見ていては気づきにくい問題でした。ELISAはHCPの総量をまとめて測る方法で、個々のたんぱく質の名前までは分かりません。近年、質量分析分子をイオンにして、質量と電荷の比で分け、分子の質量を精密に測る手法です。タンパク質の同定、修飾の位置の特定、不純物の確認などに使い、液体クロマトグラフと組み合わせることが多くあります。詳しく →(LC-MS)でHCPを一つずつ特定する方法が併用されるのは、このためです(LC-MSによるHCP分析)。
工程由来不純物は、原薬の時点で総量の数字が小さくても、種類によっては製剤の中や患者の体で影響が出ることがあります。
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ほかの会員向けの記事を見る →参考文献
- ICH Q6B: Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products(1999年3月 Step 4). (link)(用語集の Impurity、Product-related substances医薬品原薬や製剤中に含まれる、主成分以外の化学物質や主成分の分解・変換によって生じる物質の総称。詳しく →、Product-related impurities、Process-related impurities、Contaminants)
- 厚生労働省医薬局審査管理課長通知「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定について」(医薬審発第571号、2001年5月1日)。ICH Q6B の国内通知で、目的物質関連物質・目的物質由来不純物・製造工程由来不純物・混入汚染物質の用語. (link)
- Fischer SK, et al. Specific Immune Response to Phospholipase B-Like 2 Protein, a Host Cell Impurity in Lebrikizumab Clinical Material. AAPS J. 2017;19(1):254-263(2016年オンライン公開). (link)
- Hall T, et al. Polysorbates 20 and 80 Degradation by Group XV Lysosomal Phospholipase A2 Isomer X1 in Monoclonal Antibody Formulations. J Pharm Sci. 2016;105:1633. (link)
- BASG(オーストリア連邦医療安全局), Thymoglobulin 回収告知(2013年7月4日)
- USP〈1132〉Residual Host Cell Protein Measurement in Biopharmaceuticals(有償の公定書。現行版は USP–NF で確認のこと)
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