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動的光散乱(DLS)

粒子のブラウン運動による散乱光のゆらぎから拡散係数を求め、ストークス・アインシュタイン式で流体力学的半径(Rh)・粒子径分布・多分散度(PDI)を算出する。少量・非破壊・短時間で凝集の早期検出ができ、製剤スクリーニングや熱安定性(Tm/Tagg)評価、LNP・ウイルスの粒子径確認まで広く使われる。

流体力学的半径粒子径分布多分散度(PDI)凝集早期検出

用途・特徴

DLSはレーザー光を試料に照射し、ブラウン運動する粒子からの散乱光強度の時間ゆらぎを自己相関関数として取得する。減衰の速さから並進拡散係数Dを求め、温度・粘度を既知としてストークス・アインシュタイン式から流体力学的半径Rhへ換算する。測定は数十マイクロリットル〜数百マイクロリットルの少量・非破壊で済み、1測定あたり数十秒〜数分と短い。

得られる主な指標は強度基準の平均粒子径(Z-average)と多分散度(PDI)で、単分散に近いタンパク質溶液でPDIは概ね0.1前後、凝集や夾雑が増えると0.2〜0.3以上に上がる。キュムラント解析でZ-average/PDIを、分布解析(CONTIN等)で多峰の粒子径分布を出す。強度は粒径の6乗に比例するため、微量の大きな凝集体(HMW)にきわめて敏感で、SEC前の凝集スクリーニングに向く。

一方でDLSは分離を伴わないアンサンブル測定のため、近接したサイズの成分を分けにくく、定量性は限定的である。SLS(静的光散乱)を併用すればモル質量や第二ビリアル係数(A2/B22/kD)が得られ、SEC-MALS・AUCと組み合わせることで分布の確定と相互の検証ができる。

Point
  • 流体力学的半径Rh・Z-average・PDIをブラウン運動から算出(非破壊・少量)
  • 散乱強度が粒径の6乗依存のため、微量のHMW凝集体に高感度
  • 温度ランプでTm(融解)・Tagg(凝集開始温度)を取得し熱安定性を評価
  • プレートリーダー型は96/384ウェルで製剤スクリーニングを高スループット化
  • SLS併用でモル質量・kD/A2(コロイド安定性)まで一台で取得可能
  • 高濃度抗体(mAb)の相互作用パラメータ(kD)評価に対応する機種あり
  • LNP・ウイルス(AAV等)の粒子径・PDI確認に利用、CQAの傾向把握に有効
  • 分離を伴わないため成分分離・定量はSEC/AUCで補完する前提で使う

使用方法

キュベット型・プレート型で操作は共通。希釈・脱気・除塵が測定品質を左右するため、サンプル調製を丁寧に行う。

1測定条件設定(温度・分散媒・屈折率/粘度)
2サンプル調製(希釈・脱気)
3ろ過・除塵(0.1〜0.22µm)
4キュベット/ウェル充填・気泡除去
5温度平衡・恒温待ち
6相関関数の測定・繰り返し取得
7キュムラント解析(Z-average/PDI)
8分布解析(CONTIN等)でRh分布
9熱安定性ランプ(Tm/Tagg)
10判定・記録・SEC等へ展開
強度分布は微量の大粒子を過大に見せるため、解釈では体積/個数分布や相関関数のベースライン、相関図の品質指標を必ず確認する。除塵不足の塵・気泡は偽の大粒子ピークとして現れやすい。

DLS と SEC-HPLC(凝集体評価)

どちらも凝集体評価の中心手法だが、原理(アンサンブル測定 vs 分離分析)が異なり、得意領域が補完的。

結論

凝集の有無・傾向を少量で素早く掴むならDLS、HMW%・LMW%を定量し規格判定するならSEC-HPLC。スクリーニングはDLS、確定・出荷判定はSEC-HPLCという使い分けが実務的。

原理

サイズ排除による物理分離+UV検出

散乱光ゆらぎからの拡散係数測定(無分離)

主な出力

モノマー/HMW/LMWの面積%・保持時間

Rh・Z-average・PDI・粒子径分布

定量性

高い(%を規格判定に使用、ICH Q6B)

限定的(相対的な傾向把握が中心)

分離能

近接サイズも分離可(カラム性能依存)

概ね3倍以上の径差がないと分離困難

凝集の早期検出

カラム通過・希釈で可逆凝集を見落とす場合あり

原液近い条件で微量HMWに高感度

サンプル量・所要時間

数十µL、1試料15〜30分前後

数十µL、1試料数十秒〜数分(非破壊)

適用範囲

タンパク質の可溶性凝集が中心

タンパク質〜LNP・ウイルスまで広い

位置づけ

規格・出荷判定の基幹分析

スクリーニング・安定性・処方探索

主な測定指標と読み方

DLSの一次出力と、実務での目安・注意点を整理する。

指標意味目安・読み方
Z-average(Rh)キュムラント解析の強度平均径再現性が高く一次指標。多峰系では平均化で実態とずれる
PDI多分散度(分布の広がり)単分散タンパク質で〜0.1、0.2〜0.3超で凝集/夾雑を疑う
粒子径分布CONTIN等によるRh分布強度/体積/個数で見え方が変わる。微量大粒子は強度で過大
相関関数の品質ベースライン・切片・S/N塵・気泡・濃度過多で乱れる。品質指標で測定可否を判断
Tagg / Tm凝集開始温度/融解温度温度ランプでRh・散乱強度の立ち上がりから推定
kD / A2(B22)コロイド/熱力学的相互作用係数SLS併用。正で反発(安定)、負で引力(凝集傾向)

選定チェックリスト

用途と運用に合うDLSを選ぶための確認項目。

スループットキュベット型(高感度・少数)か、96/384プレート型(処方スクリーニング)か
測定モード後方散乱(NIBS等)・多角度(MADLS/MAPS)・側方の有無と切替
最小サンプル量1測定あたりの必要量(数µL〜)と回収可否・キュベット仕様
サイズ範囲対象(タンパク質Rh数nm〜LNP/ウイルス数十〜数百nm)をカバーするか
温度制御Tm/Tagg測定の温度範囲・ランプ速度・恒温安定性
併用測定SLS(モル質量・kD/A2)、UV濃度、ゼータ電位の同時取得可否
高濃度対応原液近い高濃度mAbを希釈せず測れるか(多重散乱補正)
定量性・濃度粒子濃度測定(MADLS等)の要否と適用範囲
解析ソフトCONTIN等の分布解析・品質判定・データ出力/監査対応
データインテグリティ21 CFR Part 11対応・監査証跡・電子記録の要否(GMP運用時)
スループット運用オートサンプラー・プレート自動化・バーコード連携の要否
設置・保守光学系のアライメント頻度、校正(NIST標準粒子)・サポート体制

測定品質を左右する要因と対策

DLSは前処理依存が大きい。よくある誤差要因と対処をまとめる。

要因影響対策
塵・微粒子混入偽の大粒子ピーク・PDI上昇0.1〜0.22µmろ過、洗浄済みキュベット、無塵環境
気泡相関関数の乱れ・スパイク脱気、ゆっくり充填、温度平衡で泡を抜く
濃度過多/多重散乱見かけRhの低下・歪み適正濃度へ希釈、後方散乱/高濃度対応機を選択
温度未平衡粘度変動でRh誤差測定前の恒温待ち、温度依存粘度の自動補正
分散媒パラメータ誤入力Rh換算誤差屈折率・粘度・誘電率を分散媒に合わせ正確に設定
低散乱の小分子S/N不足・ばらつき積算延長、必要に応じSLSや別手法を併用

使用される工程

開発初期の処方探索から、製造工程のCQA傾向把握まで、凝集・粒子径が問われる場面で使われる。

製剤・処方スクリーニング

pH・塩・界面活性剤・賦形剤の条件を振り、Rh/PDIの変化から安定な処方を絞り込む。

主な用途
  • プレート型で多条件を並列
  • PDI上昇で凝集傾向を検知
  • kD併用で相互作用を評価

熱安定性評価(Tm/Tagg)

温度ランプでRhと散乱強度を追跡し、凝集開始温度Taggや融解温度Tmを推定する。

主な用途
  • 処方間の安定性順位付け
  • DSF/nanoDSFと相補
  • 保存安定性の予測材料

凝集体スクリーニング

SEC前の一次スクリーニングとして、微量HMWの有無を少量・短時間で確認する。

主な用途
  • 強度6乗依存で高感度
  • 可逆凝集の傾向把握
  • 原液近い条件で測定

精製・回収のモニタリング

クロマト溶出画分やUF/DF後の試料でRh/PDIを確認し、凝集の混入を早期に把握する。

主な用途
  • 画分ごとの品質確認
  • バッファ交換後の安定性
  • 工程変更の影響評価

LNP・ナノ粒子の粒子径評価

mRNA-LNPなどの粒子径とPDIを測定し、処方・製法条件のCQA傾向を把握する。

主な用途
  • 平均径・PDIの管理
  • 処方/混合条件の最適化
  • ゼータ電位と併用

ウイルスベクター評価

AAV・レンチウイルス等の粒子径分布や凝集体の有無をスクリーニングする。

主な用途
  • 凝集体の早期検出
  • 製法条件の比較
  • SEC-MALS/AUCと相補

原薬・原料の受入確認

ロット間でRh/PDIを比較し、原料・中間体の品質ばらつきを傾向として確認する。

主な用途
  • ロット間比較
  • システム適合性確認
  • 逸脱の早期検知

コロイド安定性(kD/A2)評価

濃度系列のDLS/SLSからkD・A2(B22)を求め、高濃度処方の自己会合傾向を評価する。

主な用途
  • 高濃度mAbの粘度予測補助
  • 正/負で安定性を判断
  • 処方比較に活用

使用されるモダリティー

凝集・粒子径が品質に直結するモダリティーで広く使われる。タンパク質系では凝集・処方探索、粒子系では粒子径管理が主な役割。

抗体医薬
関連度
凝集スクリーニング処方探索kD評価
mAbの可溶性凝集の早期検出、高濃度処方のkD/粘度傾向把握、熱安定性比較に中心的に使う。
Fc融合・組換えタンパク質
関連度
Rh/PDI確認Tm/Tagg処方安定性
多ドメイン蛋白の凝集傾向や熱安定性の把握、精製画分の品質確認に適する。
二重特異性抗体
関連度中〜高
凝集評価ミスペア由来HMW傾向安定性比較
構造が複雑で凝集しやすく、処方間の安定性順位付けや凝集の早期検出に有用。
ADC
関連度中〜高
コンジュゲ後の凝集疎水性影響安定性
薬物結合により増えやすい凝集の傾向を、原薬近い条件で素早く確認できる。
mRNA-LNP
関連度
粒子径PDI管理処方/混合条件
LNPの平均粒子径とPDIをCQAとして測定し、処方・製法条件の比較に使う。
AAV
関連度中〜高
粒子径分布凝集体検出製法比較
カプシドの凝集体スクリーニングや粒子径傾向の把握に。定量はSEC/AUCで補完。
ワクチン
関連度
抗原/粒子サイズ凝集確認安定性
サブユニットやVLP・粒子型抗原のサイズ・凝集の傾向確認に利用される。

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