純度とは?抗体医薬における凝集体・断片の評価とSEC / CE-SDS分析

抗体医薬の純度は、1個のままの抗体(モノマー)以外のものがどれだけ混じっているかを示す数字で、混じっているのは主に、抗体どうしがくっついた凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →と、抗体が切れてできた断片です。凝集体は患者の免疫反応を引き起こすおそれがあり、保存のあいだにも増えることがあるため、純度は出荷できるかどうかに加えて、有効期限を何か月にできるかも左右します。
ただし、純度の数字だけでは、モノマー以外の残りが凝集体なのか断片なのかは分からず、SECとCE-SDSSDSで処理したタンパク質をキャピラリー電気泳動で分離し、抗体などの純度や分子サイズ分布(断片・凝集)を評価する手法です。詳しく →のどちらで測ったかによって見えるものも違います。
この記事では、純度の数字が表すもの、凝集体と免疫反応のリスク、SEC分子を天然に近い条件でサイズにより分ける液体クロマトグラフィー。凝集体の主要な定量法。詳しく →とCE-SDSの違い、凝集が増えやすい工程、報告書で確かめる点を順に説明します。
1. 純度の数字が表すもの ― HMWとLMW
抗体はY字の形をした大きなたんぱく質です。製造や保管のあいだに、2個、3個とくっついて凝集体(塊)になったり、ヒンジ部(Y字の腕と軸をつなぐ柔軟な部分)で切れて断片(かけら)になったりします。大きい側の凝集体をまとめて高分子量体(HMW)モノマーより大きい分子種の総称。二量体・多量体など凝集体がこれにあたる。、小さい側の断片を低分子量体モノマーより小さい分子種の総称。抗体の断片や分解物がこれにあたる。(LMW)と呼びます。
凝集体も断片も元は同じ抗体なので、不純物の種類のうち「製品由来の不純物」に入ります。目的の抗体とよく似ているため、精製で取り除き切ろうとすると抗体そのものもかなり失われ、保存のあいだに新たにできる分もあります。
そのため規格は「ゼロにする」ではなく「どこまで許すか」という形で置かれます。生物薬品の規格の決め方を示した国際的な指針 ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく → でも、純度は中心的な項目の一つです。
ただし、「モノマー98%」と書かれていても、残り2%の中身はこの数字からは分かりません。凝集体が多いのか、断片が多いのか、それとも測定の途中で生じたものなのかで、原因も打つ手もまったく変わります。
純度の報告を受け取ったら、まず残りの数%が凝集体なのか、断片なのかを確かめます。
2. 凝集体と免疫反応のリスク
凝集体が警戒されるのは、患者の免疫反応を引き起こすおそれがあるためです。体の免疫は、同じ形が規則正しく並んだものを異物として見つけやすい性質を持っています。
抗体の凝集体の形はさまざまで、その中に元の形を保ったまま規則正しく並んだものがあり、患者の体に薬への抗体(抗薬物抗体投与した抗体医薬を異物とみなして患者の免疫系が作る抗体。薬の効果低下や安全性の問題を招く。詳しく →、ADA)を作らせるきっかけになりうると考えられています。ADAができると、薬が効きにくくなったり、アレルギーに似た反応が出たりします。
FDA は2014年のガイダンス「Immunogenicity Assessment for Therapeutic Protein Products」で、免疫反応のリスクに関わる製品側の要因の一つとして凝集体を挙げています。
凝集体が回収の理由になった例として、2013年7月、香港とオーストリアの当局が、抗体製剤 Thymoglobuline(日本での販売名はサイモグロブリン)の回収を相次いで告知しました。対象は1つの製造バッチで、出荷したあとも続けていた安定性試験出荷時から有効期限まで品質特性が規格内にとどまることを確認する試験。詳しく →で、凝集体が規格の上限を超えていました。
Thymoglobuline は Genzyme 製で、ウサギから作るポリクローナル抗体の製剤です。1種類の抗体だけからなるモノクローナル抗体単一のクローンに由来し、同じ標的部位を認識する均一な抗体。詳しく →とは違い、何種類もの抗体が混ざっています。
回収を告知した香港衛生署は、アナフィラキシーなどの免疫反応が増えるリスクは理論上ありうるものの低いとしていますが、それでも回収は行われました。出荷時に合格していても、保存のあいだに凝集体が少しずつ増えることがあります。
3. SECとCE-SDSの違い
純度は、原理の違う方法を少なくとも2つ組み合わせて測るのが一般的です。
中心になるのはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)多孔性樹脂の孔に小分子ほど入り込む時間差を利用し、分子をサイズで分けるクロマトグラフィー。詳しく →です。細かい穴の空いた粒を詰めた筒(カラム)に試料を流すと、大きな凝集体は穴に入れずに先に出てきて、小さな断片は穴に入り込むぶん遅れて出てきます。東ソー(Tosoh Bioscience)の TSKgel や、Waters、Agilent のカラムが広く使われ、日々の出荷試験に組み込みやすい方法です。
ただし SEC には見えにくいものがあり、弱くくっついただけの凝集体は、カラムの中で薄められるうちにほどけてしまい、実際にはあるのに数字に出ないことがあります。逆に大きすぎる凝集体は、試料の前処理やカラムの入口で止まり、そもそも測定に乗りません。試料を流す液(移動相クロマトグラフィーにおいて試料を運ぶ液体(または気体)で、組成や流量が分離性能に大きく影響する。詳しく →)の塩の濃さを変えるだけで、値が動くこともあります。
もう1つの主な方法が、キャピラリー電気泳動細い管(キャピラリー)に電圧をかけ、分子の電荷やサイズの違いによる移動速度の差で成分を分離する分析法です。詳しく →を使う CE-SDS です。界面活性剤の SDS で抗体の立体構造をいったんほどき、細い管の中で重さの順に並べます。
SEC では1つの山に重なっていた断片も、CE-SDS なら分かれて見えます。還元剤で鎖どうしのつなぎ目を切る条件にすれば、重鎖抗体を構成する2種類のポリペプチド鎖のうち分子量が大きい方で、抗体の基本骨格と主要な機能領域を担う。詳しく →と軽鎖抗体を構成する2種類のポリペプチド鎖のうち分子量が小さい方で、重鎖と対になって抗原結合部位を形成する。詳しく →を別々に評価できます。装置では SCIEX の PA 800 Plus や Bio-Techne の Maurice がよく使われます。
一方で、形をほどくと、共有結合でつながっていない凝集体はばらけてしまうため、CE-SDS は凝集体を数える目的には向きません。

| SEC | CE-SDS | 動的光散乱(DLS)粒子による散乱光のゆらぎから粒径分布を求める測定法。集団平均を見るため大粒子に感度が偏る。詳しく →・分析超遠心遠心中の試料の沈み方を光で測り、分子の大きさや会合状態を調べる分析装置です。純度や凝集の評価に使います。詳しく →(AUC)など | |
|---|---|---|---|
| 何で分けるか | 液の中での大きさ | 立体構造をほどいたあとの重さ | カラムを通さず、液のまま別の原理で大きさや重さを測る |
| 得意なもの | 塊(高分子量体)の割合 | かけら(低分子量体)、重鎖・軽鎖の内訳 | SEC でほどけたり止まったりする塊の裏取り |
| 苦手なもの | 弱い塊、大きすぎる塊 | 共有結合でない塊 | 分解能や定量性が低い(DLS)、手間がかかる(AUC) |
| 主な使いどころ | 出荷試験・安定性試験 | 出荷試験・安定性試験 | 開発段階の特性解析規格試験より高い分解能で製品の品質特性を詳しく調べること。比較可能性の評価などで用いる。詳しく →、方法の妥当性確認 |
SEC と CE-SDS で値が食い違っても、どちらかが間違っているとは限りません。SEC は主に液の中でくっついているかを、CE-SDS は主に切れているかを見ているため、両方の値が同時に正しいことはよくあります。
FDA でモノクローナル抗体を扱う部門にいた担当者も、2008年に業界誌へ寄せた記事で、凝集体の評価には複数の分析法が要ると述べています。
SEC の山が二量体なのかを光散乱で確かめたいときは SEC-MALS を、CE-SDS の結果を詳しく読みたいときは CE-SDS の見方 を開いてみてください。DLS溶液中の粒子がブラウン運動で散乱させる光の揺らぎから、タンパク質や凝集体の粒径分布を測る手法です。凝集の有無を素早く確認できます。詳しく → や AUC まで含めた使い分けは、凝集体をどの分析で見るかで比べられます。
肉眼では見えないものの、抗体1個よりはるかに大きい粒子(サブビジブル粒子)は、SEC でも CE-SDS でも数えられません。注射剤では薬局方の不溶性微粒子試験で別に数えます。純度とは別の試験成績に載っているので、両方がそろっているかを確かめます(サブビジブル粒子)。
1つの方法の数字だけで「純度に問題なし」と判断せず、どの方法で何を見た値かを組にして読みます。
4. 凝集が増えやすい工程 ― 低pH・UF/DF・凍結融解
凝集が増えやすい工程はどれも培養が終わったあとにあり、抗体医薬の製造の流れでいえば、Protein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく → での捕捉から濃縮、原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →の保管までに散らばっています。
- 低pH:精製では、Protein A クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →から抗体を外すときの酸性条件と、そのあとウイルスを不活化ウイルスの感染性を失わせること。低pH保持や溶媒/界面活性剤処理で、エンベロープウイルスに効きやすい。詳しく →するために酸性で保持する工程が代表です。酸性の液の中では抗体の形が少しゆるみ、くっつきやすくなります。
- UF/DF半透膜で目的物質を濃縮したり(限外ろ過)、緩衝液を目的の組成に置き換えたり(ダイアフィルトレーション)する工程です。膜面に沿って液を流すTFF方式が使われます。詳しく →:限外ろ過で濃縮する工程(UF/DF)では、抗体どうしの距離が近づきます。
- 凍結融解凍結と融解の繰り返し。濃縮・局所pH変化・氷界面への吸着が重なり凝集の引き金になる。詳しく →:原薬を凍らせて溶かす操作も、氷との境目で抗体が傷みやすい場面です(原薬の凍結融解)。
自社の工程でどう抑えるかは、抗体の凝集は工程のどこで増えるかで工程ごとに確かめられます。
製剤になってからも凝集体は増えることがあり、輸送中の揺れで液が泡立つと、空気との境目で抗体が変性する場合があります。薬液を充填済みの注射器(プレフィルドシリンジあらかじめ薬液を充填した注射器そのものを製品にする容器形式。自己注射やオートインジェクターに用いる。)では、筒の内側に塗られたシリコーン油が凝集体のきっかけになることがあります(プレフィルドシリンジの凝集)。
数字を読むときは、どこで測った値かを意識します。原薬の純度は培養から精製、原薬の保管までの出来を反映し、製剤の純度には、さらに処方や容器、充填の出来が加わります。
原薬では凝集体が少なかったのに製剤で増えていたなら、原因は原薬より後にあると見当がつき、製剤の調製やろ過、充填のほか、その後の保管や輸送も候補に入ります。安定性試験では、1回の値よりも、時間とともにどれくらいの勢いで増えていくかを見ます(ICH Q5C の安定性試験)。

5. 報告書と試験成績書の確認項目
分析の担当者でなくても、報告書の「モノマー98%」が何を表し、何を表していないかを知っておくと、問い合わせや逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →の場面で迷わずに済みます。純度の報告書や試験成績書を手にしたら、次の点を見ておくと、数字の意味を取り違えにくくなります。
- どの方法の値か:「純度」が SEC の値か CE-SDS の値か、モノマーの割合か主ピークの割合かを確かめます。
- 測定条件:前回と同じカラムと移動相、注入量で測っているかを確かめます。
- 原薬と製剤の差:原薬と製剤で値が違うなら、どちらの段階で増えたのかを見ます。
- 安定性試験での増え方:凝集体が増えていく勢いから見て、有効期限の終わりまで規格に収まりそうかを見ます。
- サブビジブル粒子おおむね2〜100μmの目に見えない微粒子。SECなどの守備範囲を外れ、光遮蔽や画像式で計数する。詳しく →:SEC とは別の試験で数えているかを確かめます。
試験を頼む先が社内の分析部門でも受託試験機関でも、尋ねておきたいことは次の2つです。
- CE-SDS の条件:還元剤を使う条件と使わない条件のどちらで測ったかを尋ねます。
- SEC で見えにくい凝集体の確認:弱い凝集体や大きすぎる凝集体を、開発の段階で DLS や AUC で確かめてあるかを尋ねます。
この2点の答えがあると、その数字が何を表し、何を表していないかがはっきりします。
購買や分析の立場で特に気をつけたいのは、カラムの銘柄や測定条件の切り替えです。SEC の値は条件で動くため、替えた前後で過去のデータとそのまま比べられなくなることがあります。
コスト削減や供給不安でカラムを替えるときは、事前に新旧で同じ試料を測り比べ、変更管理の手続きに乗せておきます。候補のカラムや装置は、SEC-HPLC と CE-SDSシステム の製品ページで探せます。凝集体の測り方をもう少し広く知りたい場合は、凝集体分析のページから読めます。
参考文献
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q6B: Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products(1999年3月 Step 4). (link)
- ICH Q5Cバイオテクノロジー応用医薬品の安定性試験の考え方を示す国際調和ガイドライン。詳しく →: Quality of Biotechnological Products: Stability Testing of Biotechnological/Biological Products(1995年11月 Step 4). (link)(2025年4月公表の ICH Q1 改訂案〈Step 2〉は Q5C の内容を統合する方針。最終化の状況は ICH の公式サイトで確認のこと)
- FDA, Guidance for Industry: Immunogenicity Assessment for Therapeutic Protein Products(2014年8月)
- Cordoba-Rodriguez RV. Aggregates in MAbs and Recombinant Therapeutic Proteins: A Regulatory Perspective. BioPharm International. 2008;21(11).
- Philo JS. Is any measurement method optimal for all aggregate sizes and types? AAPS J. 2006;8(3):E564-E571. doi:10.1208/aapsj080365
- Hong P, Koza S, Bouvier ESP. Size-Exclusion Chromatography for the Analysis of Protein Biotherapeutics and their Aggregates. J Liq Chromatogr Relat Technol. 2012;35(20):2923-2950. (link)
- BASG(オーストリア連邦医療安全局), Thymoglobulin 回収告知(2013年7月4日)
- 香港特別行政区政府 衛生署, Batch recall of Thymoglobuline for IV Injection 25mg/5ml(2013年7月2日)
- USP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく →〈129〉Analytical Procedures for Recombinant Therapeutic Monoclonal Antibodies(SEC と CE-SDS の手順を収載)、USP〈787〉Subvisible Particulate Matter in Therapeutic Protein Injections、USP〈788〉Particulate Matter in Injections(いずれも有償の公定書。各章の現行版は USP–NF で確認のこと)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/purity