抗体医薬基礎知識・分析

純度とは?抗体医薬における凝集体・断片の評価とSEC / CE-SDS分析

抗体医薬の品質評価で使われる「純度」は、単に“きれいかどうか”を表す言葉ではありません。目的物質である抗体が、完全長のモノマーとしてどれだけ存在しているか、そしてその周辺に凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →二量体同種の分子が2つ結合した会合体で、インスリンが六量体から解離する際に経る中間的な状態。、多量体、断片、分解物がどれだけ含まれているかまで含めて確認します。

純度とは?抗体医薬における凝集体・断片の評価とSEC / CE-SDS分析

低分子医薬品化学合成によって製造される比較的分子量の小さな有機化合物の医薬品で、バイオ医薬品と区別される。なら、HPLCイオン対試薬を使い疎水性の差で分ける液体クロマト。一本鎖と二本鎖RNAの分離やdsRNA除去に使われます。で主成分ピークと不純物ピークを分けて「純度」を評価する場面が多くあります。ところが抗体医薬は分子量が大きく、立体構造を持ち、製造・精製・保存中にさまざまな形で変化します。そのため「目的抗体があるか」だけでなく、目的抗体がどのような分子状態で存在しているかまで読む必要が出てきます。

その中心となる分析法のひとつが、SEC-HPLC(Size Exclusion Chromatography-HPLC)です。抗体をサイズの違いで分離し、モノマー、高分子量体、低分子量体モノマーより小さい分子種の総称。抗体の断片や分解物がこれにあたる。を評価します。これを補完するのが、変性条件で分子量成分を見る CE-SDS、溶液中の凝集状態を直接捉える DLSAUC です。ひとつの数値としての「純度」の裏側には、製品由来不純物と工程由来不純物の別があり、SEC-HPLC多孔質の担体を通る時間差で分子をサイズ順に分離し、抗体の凝集体や断片がどれくらい含まれるかを測る手法です。詳しく →CE-SDSSDSで処理したタンパク質をキャピラリー電気泳動で分離し、抗体などの純度や分子サイズ分布(断片・凝集)を評価する手法です。詳しく →は同じサンプルでも異なる分子状態を映し出します。そして同じ抗体でも、DSとDPでは読むべきポイントが変わってきます。製造工程全体での位置づけは 抗体医薬の工程フロー も参照してください。

純度とは何を見る分析か

抗体医薬における純度評価では、目的抗体が主成分として存在していることを確認します。

ここでいう目的抗体は、多くの場合、完全長IgG抗体のモノマーです。抗体は重鎖と軽鎖からなる高分子タンパク質であり、製造工程や保存条件によって凝集、断片化主鎖が切れて分子が分かれる劣化。低分子量体(LMW)として現れ、酸性側などで進みやすい。、分解、修飾などを受けることがあります。

そのため、抗体医薬の純度では、次のような成分を分けて考えます。

分類主な分析法
主成分完全長抗体、モノマーSEC-HPLC、CE-SDS
高分子量体凝集体、二量体、多量体SEC-HPLC、DLS、AUC遠心中の試料の沈み方を光で測り、分子の大きさや会合状態を調べる分析装置です。純度や凝集の評価に使います。詳しく →
低分子量体断片、分解物SEC-HPLC、CE-SDS
電荷異性体抗体などで電荷が異なる分子種のことです。脱アミド化などの修飾で生じ、酸性側・塩基性側の割合を分離して測る品質指標です。詳しく →酸性バリアント、塩基性バリアントCEX-HPLC陽イオン交換カラムでタンパク質を表面電荷の違いにより分離し、脱アミド化などで生じる電荷バリアントの割合を調べる手法です。詳しく →icIEFキャピラリー内にpH勾配をつくり、タンパク質を等電点の違いで分離して全長を撮像し、電荷の不均一性を評価する手法です。詳しく →
工程由来不純物mRNA製造などで生じる二本鎖RNA(dsRNA)や鋳型DNAなど、製造工程に由来する不純物の残存量を調べる試験です。詳しく →HCP、残存DNA、Protein AリークProtein Aアフィニティ精製で漏れ出したProtein Aの残存量を測るELISAです。精製由来の不純物として管理するために使います。詳しく →ELISA、qPCR、LC-MS液体クロマトグラフで成分を分離したうえで質量分析計にかけ、分子量を測って物質の同定や定量を行う手法です。詳しく →など

ここで重要なのは、純度という言葉が、ひとつの分析だけで完結するものではないという点です。

ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。では、バイオ医薬品抗体・タンパク質・核酸など生体由来の分子を利用して製造された医薬品の総称。の絶対的な純度を決めることは難しく、純度や不純物の評価結果は分析法に依存すると説明されています。つまり、抗体医薬の純度は「何%です」と単独で語るよりも、 どの分析法で、どの種類の不純物やバリアントを見ているのかとセット で理解する必要があります。

POINT

抗体医薬の純度は「何%か」を単独で語る指標ではありません。どの分析法で、どの種類の不純物・バリアントを見ているのかとセットで読むことが前提になります。

抗体医薬の不純物は2つに分けて考える

抗体医薬の不純物は、大きく分けると 製品由来不純物目的物質そのものの変化体(凝集体・分解物など)を指し、製造工程に由来する工程由来不純物とは区別して管理します。詳しく →工程由来不純物 があります。

製品由来不純物とは、抗体そのものが変化して生じる不純物です。たとえば、凝集体、断片、分解物、ミスフォールド体、化学修飾核酸の糖・骨格・末端に施し、安定性・結合力・免疫原性を整える改変。を受けた分子種などが含まれます。

一方、工程由来不純物とは、製造工程から持ち込まれる不純物です。代表例として、宿主細胞由来タンパク質医薬品を作る宿主細胞に由来するタンパク質の不純物です。安全性に関わるため、精製後の残存量を測ります。詳しく →であるHCP、残存DNA、Protein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく →リーク、培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。成分、精製工程由来成分などがあります。

種類由来
製品由来不純物抗体そのものの変化凝集体、断片、分解物、修飾体
工程由来不純物製造工程からの持ち込みHCP、残存DNA製造に使った宿主細胞に由来するDNAの不純物です。安全性の観点から、精製後にどれだけ残っているかを測る試験です。詳しく →、Protein Aリーク

この分類は、純度評価を理解するうえで重要です。

「不純物」とひとことで言っても、抗体そのものが変化したものと、製造工程から持ち込まれるものでは、評価する分析法が異なります。

HCPや残存DNAも品質上は重要ですが、それらは抗体そのものが壊れたものではなく、細胞培養や精製工程から残る不純物です。そのため、HCPはELISA抗原と抗体の結合を酵素反応による発色などで検出し、目的の物質の有無や量を測る手法です。不純物や力価の測定に広く使われます。詳しく →やLC-MS、残存DNAはqPCR核酸を増幅しながら蛍光の増え方を追い、標的DNA・RNAの量を測る装置です。増幅の立ち上がりの早さから濃度を求めます。詳しく →などで別に評価されます。不純物の全体像は、関連記事もあわせて整理すると理解が進みます。

一方、凝集体や断片は、抗体そのものに由来する不純物です。抗体が会合したり、切断されたり、分解されたりすることで生じるため、 純度評価の中心的な対象 になります。

純度評価で主に見るのは製品由来不純物

抗体医薬の品質評価では、製品由来不純物と工程由来不純物の両方を管理します。ただし、「純度」として SEC-HPLCCE-SDS で評価する対象は、主に抗体そのものに由来する成分です。

たとえば、抗体分子が複数集まった凝集体、抗体が切断されて生じた断片、分解物、修飾体などがこれにあたります。

一方、HCP、残存DNA、Protein Aリークなどは工程由来不純物であり、SEC-HPLCで主に評価する対象ではありません。これらはELISA、qPCR、LC-MSなど、別の分析法で管理されます。

つまり、抗体医薬の純度評価では、まず 「抗体そのものが目的の分子状態を保っているか」 を見る必要があります。その代表的な確認対象が、モノマー、凝集体、高分子量体、低分子量体、断片です。

このように整理すると、純度評価でSEC-HPLCが使われる理由が見えてきます。抗体そのものに由来する不純物のうち、凝集体や断片は、抗体モノマーとは分子サイズが異なるためです。

POINT

純度評価では主に製品由来不純物(凝集体・断片・修飾体など)を対象とします。HCPや残存DNAなどの工程由来不純物は、純度とは別の分析項目として管理します。

凝集体・断片は「サイズの違い」として現れる

凝集体や断片は、抗体モノマーとは分子サイズが異なります。

凝集体は、抗体分子が複数会合した高分子量体です。モノマーより大きな分子として存在します。一方、断片や分解物は、抗体の一部が切断された低分子量体として現れます。

成分分子サイズ
高分子量体モノマーより大きい凝集体、二量体、多量体
モノマー目的抗体の主成分完全長IgG抗体
低分子量体モノマーより小さいFab重鎖の一部と軽鎖がジスルフィドで連結した約50kDaの抗体フラグメント。2本鎖で折りたたみがやや複雑。断片、Fc断片、分解物

このように、抗体医薬の製品由来不純物の一部は、「サイズの違い」として整理できます。

そのため、モノマー、凝集体、断片を分けて見る分析法として、SEC-HPLC が使われます。SEC-HPLCでは、抗体成分をサイズの違いで分離し、モノマー割合、高分子量体割合、低分子量体割合を評価します。

つまり、SEC-HPLCは単に「HPLCで純度を見る方法」ではありません。抗体医薬においては、製品由来不純物のうち、 サイズバリアントとして現れる凝集体や断片を読むための分析法 です。

SEC-HPLCで見るモノマー・凝集体・断片

抗体医薬の純度評価で代表的に使われるのが、SEC-HPLC です。

SEC分子を天然に近い条件でサイズにより分ける液体クロマトグラフィー。凝集体の主要な定量法。はSize Exclusion Chromatographyの略で、分子のサイズの違いによって成分を分離するクロマトグラフィーです。抗体医薬では、モノマー、凝集体、高分子量体、低分子量体を分けて評価するために使われます。

SEC-HPLCでは、一般的に大きな分子ほど早く溶出し、小さな分子ほど遅く溶出します。抗体医薬のクロマトグラムでは、主成分であるモノマーのピークを中心に、その前後に高分子量体や低分子量体のピークが現れます。

SEC-HPLC上の位置成分解釈
早く出るピーク高分子量体凝集体、二量体、多量体
メインピークモノマー完全長抗体
遅く出るピーク低分子量体断片、分解物

たとえば、抗体モノマーが主ピークとして検出され、その前に小さなピークがあれば、凝集体や二量体などの高分子量体が存在する可能性があります。メインピークより後ろにピークがあれば、断片や低分子量の分解物が含まれている可能性があります。

SEC-HPLCで得られる結果は、ピーク面積比として評価されることが多く、モノマー割合、高分子量体割合、低分子量体割合として整理されます。USP <129> では、組換えモノクローナル抗体単一のクローンに由来し、同じ標的部位を認識する均一な抗体。に対するSECを含む分析手順が示されており、規格試験や工程内管理工程の途中で中間体の力価や純度などを確認する管理。最終規格の前に品質を作り込む要素。で広く用いられています。

ただし、SEC-HPLCの結果を読むときには注意も必要です。

SEC-HPLCは、抗体を移動相で希釈してカラムに通す分析です。そのため、高濃度製剤抗体を150〜250mg/mL級まで濃くした製剤。皮下注の自己注射に向くが、粘度や凝集の課題が生じる。中で起きている可逆的な凝集や相互作用が、そのまま見えるとは限りません。また、カラムとの非特異的相互作用、移動相条件、サンプル調製、注入濃度によってピーク形状や回収率が変わることもあります。

SEC-HPLCは抗体凝集体の評価で広く使われる方法ですが、凝集体の解析では、必要に応じてMALS、AUCDLS などの直交法を組み合わせることもあります。凝集体の評価戦略をさらに詳しく確認したい場合は、凝集体分析 もあわせて参照してください。

凝集体はなぜ問題になるのか

凝集体は、抗体分子が複数集まった高分子量体です。

抗体はタンパク質であるため、温度、pH、塩濃度、界面、撹拌、凍結融解、濃縮、光、保存期間などの影響を受けます。これらのストレスによって、抗体分子同士が会合し、二量体や多量体、より大きな凝集体を形成することがあります。

凝集体が問題になる理由は、単に純度が下がるからではありません。

凝集体は、以下のような品質リスクと関係します。

観点凝集体が関係する理由
安全性免疫原性リスクの指標になり得る
有効性有効成分モノマーの割合が低下する
安定性製剤処方や保存条件の影響を受ける
製造工程低pH、濃縮、撹拌などの工程ストレスを反映する
規格設定高分子量体の許容範囲を管理する必要がある

特に抗体医薬では、凝集体は免疫原性の観点から注意されます。すべての凝集体が同じリスクを持つわけではありませんが、タンパク質医薬品では凝集体の存在が免疫応答に影響する可能性があるため、開発・製造・安定性評価で継続的に確認されます。

また、凝集体は工程の状態を反映します。

たとえば、Protein A精製後の低pHウイルス不活化では、抗体が酸性条件にさらされます。UF / DFでは濃縮やバッファ交換によってタンパク質濃度が上がり、分子間相互作用が強くなる場合があります。製剤化後は、保存温度、容器、界面、撹拌、凍結融解などが凝集体形成に影響します。各工程の関係は 抗体医薬の工程フロー で全体像を確認できます。

そのため、SEC-HPLCの凝集体ピークは、単なる不純物ピークではありません。 製造工程や製剤条件が抗体に与えたストレスの結果として読む 必要があります。

CE-SDSはSEC-HPLCで見えない何を補うのか

SEC-HPLCは、抗体が溶液中でどのようなサイズ状態にあるかを見る分析です。

一方、抗体の純度評価では、CE-SDS もよく使われます。CE-SDSは、Capillary Electrophoresis-Sodium Dodecyl Sulfateの略で、SDSによってタンパク質を変性させ、分子量の違いで分離するキャピラリー電気泳動法です。

SEC-HPLCとCE-SDSの違いは、見ている状態にあります。

分析法見ている状態主に分かること
SEC-HPLC溶液中のサイズ状態モノマー、凝集体、断片
CE-SDSSDS変性後の分子量成分完全長抗体、重鎖、軽鎖、断片

CE-SDSには、主に非還元条件と還元条件があります。

条件見るもの意味
非還元CE-SDS完全長抗体、断片、高分子量成分抗体全体としての純度
還元CE-SDS重鎖、軽鎖、断片サブユニットレベルの確認

非還元CE-SDSでは、ジスルフィド結合を保った状態で抗体全体を見ます。そのため、完全長抗体の割合や、断片、高分子量成分の存在を確認できます。

還元CE-SDSでは、ジスルフィド結合を切断し、重鎖と軽鎖に分けて評価します。これにより、重鎖・軽鎖のサイズ、断片、分解物、サブユニットレベルの異常を確認しやすくなります。

つまり、SEC-HPLCとCE-SDSは代替関係ではありません。

SEC-HPLCは、抗体が溶液中でどのサイズ状態にあるかを見ます。CE-SDSは、抗体を変性させたときにどの分子量成分が含まれているかを見ます。この2つは、 同じ「純度」に関係していても、見ているものが違います⁠。

POINT

SEC-HPLCとCE-SDSは代替ではなく補完の関係です。SEC-HPLCは溶液中のサイズ状態、CE-SDSは変性後の分子量成分を見ます。同じ純度でも、見ている対象が異なります。

DLS・AUCによる凝集体評価の補完

SEC-HPLCは凝集体評価の中心ですが、希釈やカラム相互作用の影響を受けるため、必要に応じて溶液中の状態をそのまま捉える直交法を組み合わせます。代表的なものが DLS(動的光散乱)と AUC(分析超遠心)です。

DLSは、溶液中の粒子のブラウン運動による散乱光のゆらぎから、流体力学的半径と粒子サイズ分布を求める手法です。希釈を最小限にして測定でき、サブミクロンオーダーの大きな凝集体や、サイズ分布の広がりを早期にスクリーニングするのに向いています。一方で分解能は高くないため、モノマーと二量体を厳密に分けるような用途には不向きです。

AUCは、サンプルを高速回転で沈降させ、沈降係数の違いから分子種を分離・定量する手法です。固定相を使わないため、SEC-HPLCで懸念される非特異的相互作用や希釈の影響を受けにくく、SEC結果の検証(直交確認)に用いられます。測定時間やスループットの面ではルーチン試験よりも特性解析や検証に向いた方法です。

分析法主な情報位置づけ
SEC-HPLCモノマー / 高分子量体 / 低分子量体の面積比純度の主測定。ルーチン・規格試験
DLS流体力学的半径、サイズ分布希釈最小での凝集スクリーニング
AUC沈降係数による分子種分離・定量SEC結果の直交確認、特性解析

これらの手法は、SEC-HPLCの結果を否定するためではなく、 同じ凝集体を別の原理から確認して結論を補強する ために使われます。凝集体評価の全体設計は 凝集体分析純度分析 も参照してください。

電荷異性体分析とは何が違うのか

抗体医薬の品質評価では、純度に近い領域として 電荷異性体 分析があります。

電荷異性体とは、抗体分子の電荷状態が異なるバリアントです。代表的には、酸性バリアントや塩基性バリアントがあります。

これらは、脱アミド化、C末端リジン、糖鎖、酸化、シアル酸、その他の修飾などによって生じることがあります。電荷異性体は、抗体の活性、安定性、結合性、薬物動態などに影響する場合があるため、品質特性として評価されます。

ただし、SEC-HPLCやCE-SDSで見る純度とは、軸が違います。

分析対象主な分析法見ている違い
凝集体・断片SEC-HPLCサイズの違い
重鎖・軽鎖・断片CE-SDS分子量の違い
酸性・塩基性バリアントCEX-HPLC、icIEF電荷の違い

SEC-HPLCは、主にサイズバリアントを見ます。CE-SDSは、主に分子量バリアントを見ます。CEX-HPLCやicIEFは、主に電荷バリアントを見ます。

つまり、電荷異性体分析は純度評価と近い領域にありますが、 同じものではありません⁠。

抗体医薬の品質評価では、SEC-HPLC、CE-SDS、CEX-HPLC、icIEFなどを組み合わせて、抗体の状態を多面的に確認します。ある分析法で「問題なし」に見えても、別の分析法ではバリアントが見えることがあります。

このような直交的な分析の組み合わせが、抗体医薬の特性解析では重要になります。電荷の軸での評価については、関連記事もあわせて参照してください。

純度評価はどの工程で使われるのか

純度評価は、最終製品の規格試験だけで使われるものではありません。

抗体医薬の製造では、上流工程、精製工程、製剤工程、安定性試験のそれぞれで、純度評価の意味が変わります。製造工程の流れは 抗体医薬の工程フロー を参照すると、各段階の位置づけがつかみやすくなります。

工程純度評価で見ること
Protein A精製後抗体主成分の回収、粗い不純物除去後の状態
低pHウイルス不活化後凝集体増加の有無
IEX / HIC / MMC後凝集体、断片、バリアントの低減
UF / DF後濃縮やバッファ交換による凝集リスク
製剤化後処方条件による安定性
安定性試験保存中の凝集体・断片の増加

Protein A精製後では、目的抗体がどれだけ主成分として回収されているかを確認します。この段階では、HCPや残存DNAなどの工程由来不純物も多く残る可能性がありますが、SEC-HPLCでは主に抗体のサイズバリアントを確認します。

低pHウイルス不活化後では、酸性条件によって凝集体が増加していないかを見ることがあります。抗体によっては低pHストレスに対する感受性が異なるため、工程条件の検討では重要な確認項目になります。

IEX、HIC、MMCなどのポリッシング工程では、凝集体や断片、電荷バリアントなどの低減が目的になる場合があります。どの工程で何を除去するかは、抗体の性質や工程設計によって異なります。

UF / DFでは、抗体を濃縮し、バッファを交換します。この工程では、濃度上昇や膜・界面との接触によって凝集リスクが出ることがあります。

製剤化後や安定性試験では、処方、pH、添加剤、容器、保存温度、撹拌、凍結融解などが抗体の状態に与える影響を確認します。

このように、純度評価は「最後に合格か不合格かを見る試験」ではなく、 工程ごとの判断に使う分析 です。

DSとDPで純度評価の意味は変わる

抗体医薬では、 DSとDP で純度評価の意味が変わります。

DSはDrug Substance、つまり原薬です。DPはDrug Product、つまり製剤です。

DSでの純度評価は、主に精製工程の結果を確認する意味を持ちます。細胞培養で得られた抗体を、Protein A、ウイルス不活化、ポリッシング、UF / DFなどを経て、目的抗体モノマーを主成分として整えられているかを見ます。

一方、DPでの純度評価は、製剤としての安定性を確認する意味が強くなります。処方、濃度、pH、添加剤、容器、保存条件、輸送条件によって、凝集体や断片が増えないかを確認します。

区分純度評価の主な意味
DS精製工程で目的抗体をどこまで整えられたか
DP製剤として保管・使用時に抗体が崩れないか

DSでは、純度はプロセス開発や精製条件の結果として読みます。DPでは、純度は処方設計や安定性の結果として読みます。

同じ SEC-HPLC の結果でも、DSとDPでは読み方が変わります。

DSで凝集体が増えていれば、低pH条件、ポリッシング工程、濃縮工程などを見直す必要があるかもしれません。DPで凝集体が増えていれば、処方、保存温度、容器、界面ストレス、凍結融解条件などを確認する必要があります。

抗体医薬の純度評価では、数値だけでなく、どの段階のサンプルを、どの目的で測っているのかを合わせて読むことが重要です。

まとめ

抗体医薬の純度評価は、目的抗体が単に存在することを確認する分析ではありません。

目的抗体が、完全長モノマーとしてどれだけ存在しているか。凝集体、二量体、多量体、断片、分解物がどれだけ含まれているか。それらが、どの工程や保存条件で増減しているか。こうした情報を、SEC-HPLC、CE-SDS、CEX-HPLC、icIEF、必要に応じてDLSやAUCなどの分析法を組み合わせて評価します。

SEC-HPLCは、抗体医薬の純度評価で中心となる分析法のひとつです。モノマー、高分子量体、低分子量体を分けて読み、凝集体や断片の増加を確認します。CE-SDSは分子量レベルの断片やサブユニット情報を補い、DLSやAUCは溶液中の凝集状態を直交的に確認します。CEX-HPLCやicIEFは、酸性・塩基性バリアントなどの電荷異性体を評価します。

抗体医薬の純度は、 ひとつの数字ではなく、どの分析法で、どの品質属性を見ているか によって意味が変わります。そして純度評価は、最終試験だけでなく、精製工程、ウイルス不活化、濃縮、製剤化、保存安定性をつなぐ品質指標でもあります。抗体医薬の純度を理解することは、分析法を理解するだけでなく、製造工程と製剤安定性をつなげて読むことでもあります。

参考文献

  • ICH Q6B: Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological / Biological Products. (link)
  • ICH Q5C: Quality of Biotechnological Products: Stability Testing of Biotechnological / Biological Products. (link)
  • EMA: Guideline on development, production, characterisation and specification for monoclonal antibodies and related products. (link)
  • USP <129>: Analytical Procedures for Recombinant Therapeutic Monoclonal Antibodies. (link)
  • Hong P, Koza S, Bouvier ESP. Size-Exclusion Chromatography for the Analysis of Protein Biotherapeutics and their Aggregates. Journal of Liquid Chromatography & Related Technologies. 2012. (link)
  • Kayser V, et al. Conformational stability and aggregation of therapeutic monoclonal antibodies studied with ANS and Thioflavin T binding. mAbs. 2011. (link)

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。