電荷異性体とは?酸性・塩基性ピークが動いたときの読み方

電荷異性体(チャージバリアント抗体などで電荷が異なる分子種のことです。脱アミド化などの修飾で生じ、酸性側・塩基性側の割合を分離して測る品質指標です。詳しく →)は、抗体の表面の電荷が少しだけ違う分子の集まりで、大きさが変わる凝集体や断片とは別の軸です。CEX-HPLC陽イオン交換カラムでタンパク質を表面電荷の違いにより分離し、脱アミド化などで生じる電荷バリアントの割合を調べる手法です。詳しく →では、主ピークの前に出るものを酸性バリアント、後ろに出るものを塩基性バリアントと呼び、多くは分解物ではありません。
ただし、ピークの割合は工程の条件で動くため、規格に載せて毎ロット測ります。割合が動いたときは、増えたのは何で、工程のどこが原因かを確かめます。
この記事では、酸性側・塩基性側に寄る原因、活性と体内動態への影響、CEX-HPLCとicIEFキャピラリー内にpH勾配をつくり、タンパク質を等電点の違いで分離して全長を撮像し、電荷の不均一性を評価する手法です。詳しく →の違い、ピークが動いたときに工程のどこを疑うかを順に説明します。
1. 主ピークの前後に出るもの ― 酸性・塩基性バリアント
抗体は1種類の分子ではなく、少しずつ違う分子の集団です。
培養、精製、保存の各段階で、抗体は小さな化学変化を受けます。アミノ酸が別の形に変わる、糖鎖タンパク質に付加される糖の鎖状構造で、抗体の有効性・免疫原性などに影響する重要な品質特性。詳しく →の端が違う、重鎖抗体を構成する2種類のポリペプチド鎖のうち分子量が大きい方で、抗体の基本骨格と主要な機能領域を担う。詳しく →の末端にリジンが残る、といった変化です。多くは分子の大きさをほとんど変えませんが、表面の電荷は少し変えます。
IgG1の等電点(pI、分子の正味の電荷がゼロになるpH)は8から9あたりで、そこから酸性側に寄ったものと塩基性側に寄ったものが、電荷で分けると別のピークとして見えます。SEC(サイズ排除クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →)では1本に見える抗体が、電荷で分けると3本以上に分かれるのはこのためです。
どちらへ寄るかは、起きた変化で決まります。
| 寄る側 | 原因 | 何が起きているか |
|---|---|---|
| 酸性側 | 脱アミド化アスパラギンなどが変化して電荷が変わる化学的分解。特定の隣接配列で起きやすい。詳しく → | アスパラギンがアスパラギン酸などに変わり、負電荷が1つ増える。Asn-Glyの並びで特に速い |
| 酸性側 | シアル酸糖鎖の末端に付く酸性の糖。負電荷を加えるため酸性バリアントに寄与し、薬物動態にも関わる。詳しく → | 糖鎖の末端のシアル酸1つにつき、負電荷が1つ加わる |
| 酸性側 | 糖化 | グルコースがリジンと反応し、そのリジンの正電荷が失われる |
| 塩基性側 | C末端リジン抗体重鎖のC末端に残るリジン残基。正電荷を持ち塩基性バリアントとして現れ、切断されると相対的に酸性化する。詳しく →の残存 | 重鎖の末端のリジンが切れずに残り、正電荷が1つ残る |
メチオニンの酸化は、寄る向きが一定しません。Fc領域抗体の定常部にあたる「足」の部分。FcγRや補体、FcRnと相互作用し、機能や血中半減期を担う。詳しく →のMet252やMet428の酸化は、抗体を血中に長く残す受容体FcRnへの結合に関わるので、電荷のピークとは別に気にかけます。
塩基性側の代表であるC末端リジンは、遺伝子にはコードされていますが、CHO細胞抗体など組換えタンパク質の生産に広く使われる、チャイニーズハムスター卵巣由来の培養細胞です。詳しく →の中で酵素に切り落とされます。重鎖2本とも残ればK2、1本ならK1、2本とも切れていればK0です。
切っている酵素は長くカルボキシペプチダーゼBと書かれてきましたが、2016年の報告は、CHO細胞で抗体のC末端リジンを切る内在性の酵素はカルボキシペプチダーゼDだけだと結論しています。
切れ具合は培養の条件で動き、そのまま塩基性ピークの割合に出ます。ヒトの体内でもこのリジンは切られやすく、有無の臨床的な意味は小さいと考えられています。
分析では逆にカルボキシペプチダーゼBを試験管内で使います。試料をこの酵素で処理してから電荷プロファイルを取ると、リジン由来のピークだけが消えるので、処理の前後を並べれば、塩基性ピークのうちどこまでがリジンかが分かります。
塩基性ピークが動いたとき、最初に疑うのはC末端リジンの切れ具合です。それは工程の話であって、劣化ではありません。
2. 電荷異性体の活性と体内動態への影響
2010年の報告は、ヒト化IgG1の酸性バリアント、塩基性バリアント、主ピークを、陽イオン交換負に帯電した担体に正電荷のタンパク質を静電的に吸着させて分離する手法。抗体のポリッシングに広く使う。詳しく →の置換クロマトグラフィーで分けて取り出し、比べています。出発材料のpIは8.7から9.1で、組成は酸性が約20%、塩基性が12%、主ピークが68%でした。
取り出した各画分は、試験管内の活性も、ラットのFcRnへの結合も、出発材料と同等でした。さらに10 mg/kgをラットに静脈内と皮下に投与して血中濃度の推移を比べても、差は見られませんでした。
この報告は、この抗体では、pIと修飾の違いは体内動態を変えるほどではなかったと結論しています。
ただし、この結果は、電荷異性体が品質に関係しないことを示すものではありません。修飾の種類と場所によっては効き、たとえば抗原に結合する部分で起きた脱アミド化は、結合を弱めることがあります。
一方で、割合が動いたという事実だけでは、品質が落ちたとは言えません。確かめるのは、動いたものの正体と、それが結合や活性に関わる場所で起きていないかです。
市販されている製品でも、電荷の割合は動きます。Sandozの研究者らが2011年に報告したところでは、エタネルセプト(エンブレル)は有効期限が2009年末までのロットがよくそろっていましたが、2010年以降は、糖鎖の割合と塩基性側の割合がそれ以前と違うロットが加わりました。
C末端リジンを持つ分子が約15%から約30%に増えていたのに、製品の表示は変わらないまま流通していました。
3. CEX-HPLCとicIEF
CEX-HPLC(陽イオン交換クロマトグラフィー負電荷の樹脂に正電荷の分子を結合させて分ける分離法。凝集体除去に向く。詳しく →)は、負に帯電した充填剤に抗体を吸着させ、塩の濃度かpHを上げながら順に溶出させます。正電荷が強い分子ほど強く吸着して遅く出るので、主ピークより早く出るものが酸性、遅いものが塩基性です。
溶出のさせ方には塩勾配とpH勾配があり、pH勾配は製品ごとに条件を大きく変えずに済むため、プラットフォーム化複数の製品や品目に対して共通の製造工程・分析法・管理戦略を適用することで、開発効率と再現性を高める手法。しやすく、近年は選ばれることが増えました。カラムはThermo Fisher ScientificのMAbPac SCX-10やWatersのBioResolve SCXなどがあります。
ただし、CEXが見ているのは保持時間で、pIそのものではありません。表面の電荷の分布や疎水性にも左右されるので、pIが同じでも分かれることがあります。
icIEF(イメージングキャピラリー等電点電気泳動等電点の違いで成分を分離する電気泳動。抗体の電荷不均一性の評価に用いる。詳しく →)は、キャピラリーの中にpHの勾配を作って電圧をかけ、各分子が自分のpIの位置で止まるところを画像で読みます。ピークの位置が、そのままpIの値を示します。装置はBio-TechneのMauriceが広く使われています。
2つは原理が違うので、CEXで分かれなかったものがicIEFで分かれることも、その逆もあります。開発段階では両方を走らせ、製品ごとによく分かれる方法を規格に置く構成がよく取られます。組換え抗体の分析法の枠組みは、USP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく →〈129〉がicIEFを含めて示しています。
どちらの方法でも、分かれたピークが何かは分かりません。分取してLC-MSにかけ、ペプチドマッピングでどの残基にどの修飾が入っているかを特定します。分けた直後に質量分析分子をイオンにして、質量と電荷の比で分け、分子の質量を精密に測る手法です。タンパク質の同定、修飾の位置の特定、不純物の確認などに使い、液体クロマトグラフと組み合わせることが多くあります。詳しく →へ直結する試みもあり、pH勾配のCEXをネイティブのトップダウン質量分析につないだ研究はこの論文の解説で扱っています。
4. ピークが動く原因とよくある失敗
ピークの割合を動かす条件は、工程の段階ごとに違います。
- 培養:pH、温度、培養期間、アンモニアグルタミンの代謝と化学分解で生じる代謝副産物。蓄積すると増殖・生存を落とし、糖鎖の質にも影響する。詳しく →、培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →の金属イオンが効き、乳酸の代謝シフトやアンモニアの管理の条件は、糖鎖と一緒に電荷プロファイルにも響きます。フェドバッチ培養は12〜14日が一般的で、延びれば脱アミド化も糖化も進み、酸性側が増えます。
- 精製:陽イオン交換や陰イオン交換の工程そのものが電荷で分けているため、溶出画分をどこで切るかでプロファイルが変わります。
- 保存:温度と時間が効き、5 ℃でゆっくり進むものが、25 ℃や40 ℃の加速条件では数週間で現れます。安定性試験で酸性ピークが増えていくのは、脱アミド化が進んでいるときの典型的な形です。
これらをまとめて見る場面が製法変更で、変更の前後で電荷プロファイルを比べ、同等性変更前後が完全に同一でなくても、品質・安全性・有効性で高い類似性を保ち差異が悪影響しないと言える状態。詳しく →を示します(比較可能性、ICH Q5E)。電荷異性体を規格に載せて毎ロット測るのは、それ自体が危険だからではなく、工程の再現性が最もよく現れる場所で、割合から工程がいつもどおり動いたかが分かるからです。
現場でよく見る失敗は、次の3つです。
1つ目は、正体を調べずに「規格内だから問題なし」で通すことです。酸性ピークの増えた分が脱アミド化と分かれば、配列由来の性質として説明でき、糖化なら培養中のグルコースの管理に手がかりがあります。正体が分からないままでは、規格を外れたときに戻す操作を選べません。
2つ目は、規格の幅の決め方です。実績ロットの分布を見ずに狭く置くと、品質と無関係な変動で不適合が出ます。幅は、実績の分布と、活性への影響の有無から決めます(規格設定、ICH Q6B)。
3つ目は、方法やカラムを変えたあとに、前のデータとそのまま並べることです。ピークの位置も割合も、カラムの種類、勾配、装置が変われば動きます。変えたときは、同じ試料を新旧の方法で測って対応を取ってから比べます(分析法の技術移転)。
5. 明日から確かめられること
受託先の報告書や自社の試験法の資料では、次の点を確かめます。
- ピークの正体:酸性・塩基性の主なピークに、LC-MS液体クロマトグラフで成分を分離したうえで質量分析計にかけ、分子量を測って物質の同定や定量を行う手法です。詳しく →やカルボキシペプチダーゼB処理で正体が付いているかを見ます。
- 規格の幅の根拠:規格の幅に、実績ロットの分布と、活性や結合への影響の確認が付いているかを見ます。
- 2つの方法の役割:CEXとicIEFのどちらを規格に置き、もう一方を何のために走らせているかを確かめます。
- 割合を動かすパラメータ:培養期間や保存温度など、割合を動かすパラメータが分かっているかを確かめます。
- 変更の前後の対応:方法、カラム、装置を変えたあとに、新旧の対応を取った記録があるかを見ます。製法変更の前後では、動いた割合が結合や活性に関わる場所の変化ではないと確かめたかも見ます。
CEXのカラムやicIEFの装置は、CEX-HPLCとicIEFの製品ページで比べられます。修飾を網羅的に追うMAMや、糖鎖そのものを見る糖鎖解析にも読み進められます。電荷バリアント電荷が異なる抗体の分子種。脱アミド化などの化学的分解で生じ、品質特性として管理される。詳しく →の比較が実際の承認申請でどう使われたかは、バイオシミラー承認を分析法から追った論文の解説にあります。
参考文献
- ICH Q6B, Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products
- ICH Q5E, Comparability of Biotechnological/Biological Products Subject to Changes in Their Manufacturing Process
- USP General Chapter 〈129〉 Analytical Procedures for Recombinant Therapeutic Monoclonal Antibodies, United States Pharmacopeia
- Khawli LA et al., Charge variants in IgG1: Isolation, characterization, in vitro binding properties and pharmacokinetics in rats. mAbs. 2010;2(6):613-624.
- Hu Z et al., Carboxypeptidase D is the only enzyme responsible for antibody C-terminal lysine cleavage in Chinese hamster ovary (CHO) cells. Biotechnol Bioeng. 2016;113(10):2100-2106.
- Schiestl M et al., Acceptable changes in quality attributes of glycosylated biopharmaceuticals. Nat Biotechnol. 2011;29(4):310-312.(GaBIによる解説。エタネルセプトのロット間の変化)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/charge-variant