原薬(DS)と製剤(DP)の違いとは?切れ目がどこで決まるか
2025年9月、米国 FDA は、Scholar Rock の抗体医薬 apitegromab(脊髄性筋萎縮症の治療薬候補)の承認申請に、承認を出さない通知(CRL)を返しました。理由は、薬の有効性や安全性ではありません。薬を容器に詰める第三者の工場、Catalent Indiana の査察で見つかった所見でした。同社によれば、CRL は原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →の製造所を問題にしていません。

同じ薬でも、原薬(DS:Drug Substance培養・精製を経て得られる抗体そのもの。製剤にする前の有効成分で、製剤と区別して管理される。詳しく →)と製剤(DP:Drug Product原薬を投与できる薬の形に整えたもの。無菌充填や凍結乾燥などを経て完成する最終製品。詳しく →)は、別の工場で、別の GMP医薬品を一定の品質で安全に造るために守るべき製造・品質管理の基準(適正製造規範)です。詳しく → の考え方で、別の試験で扱われることが珍しくありません。DS は精製を終えた有効成分で、DP はそれを患者に投与できる形にしたものです。切れ目がどこにあるかが分かると、資料の数字が何を保証しているか、問題が起きたとき誰が動くか、運ぶのは何かが読めます。
品質保証や薬事の人はもちろん、委託先を選ぶ購買、冷蔵・冷凍の輸送を組む物流、充填機や凍結容器細胞などを凍結保存するために使う、極低温に耐える小型の容器(チューブ)です。詳しく →を売る営業にも、この切れ目は見えている必要があります。
DSとDPの境界 ― 決めるのは薬の性質ではなく申請書
抗体医薬のDSは、培養し、Protein A などで精製し、最後にUF/DFで濃縮とバッファー交換を済ませた抗体溶液です。DPは、これを希釈・処方し、除菌ろ過細菌を止めることを実証したフィルターに液を通し、無菌のろ液を得る工程です。除菌ろ過・ろ過滅菌とも呼び、菌の数を下げるだけのバイオバーデン低減ろ過とは区別します。0.22µm前後の膜が広く使われます。詳しく →をして、バイアルやシリンジに充填し、(凍結乾燥製剤から水分を抜いて乾燥させ、長期安定性を高めた剤形。使用時に溶かして戻す。詳しく →品なら乾燥まで行って)栓とキャップで閉じたものです。
境界は精製が終わった地点にある、と説明されることが多いのですが、実際にはそこから前後にずれます。賦形剤有効成分以外の添加剤。鉱物由来のものは元素不純物の由来として注目される。詳しく →(安定化のための添加物)をどの段で加えるか、原薬の最後にろ過を入れるか、凍結して保管するのはどこか。これは製品ごとに違います。切れ目を決めるのは、CTD医薬品の承認申請書の国際共通様式。製造や規格などの品質情報はModule 3に集約される。詳しく →(国際共通の申請書式)で、その工程を原薬の章と製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。詳しく →の章のどちらに書くかです。原薬の最後にろ過を入れても、除菌ろ過は製剤側の工程に置き、原薬は「無菌」ではなく「微生物数が低い」と扱う会社もあります。
| 観点 | 原薬(DS) | 製剤(DP) |
|---|---|---|
| 中身 | 精製し終えた抗体溶液 | 投与できる形にした充填処方済みの溶液をバイアルやシリンジなどの容器へ無菌的に充填し、封止する製造工程。詳しく →済み製品 |
| 主な工程 | 培養・精製・UF/DF半透膜で目的物質を濃縮したり(限外ろ過)、緩衝液を目的の組成に置き換えたり(ダイアフィルトレーション)する工程です。膜面に沿って液を流すTFF方式が使われます。詳しく → | 処方・除菌ろ過・充填・閉栓 |
| 代表的な試験 | 純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →、力価、電荷、工程由来の不純物 | 無菌、エンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →、微粒子、容器施栓の完全性、外観 |
| 保管 | 凍結または冷蔵で、期限を決めて保持 | 最終製品としての有効期間医薬品が規定の品質を保てると保証される期間。安定性データの経時変化から設定する。詳しく →と保管条件 |
DSとDPの切れ目は、精製の終わりの近くで、製品ごとに申請書が決めます。資料を読むときは、その工程がどちらの章に書かれているかを先に見ます。
責任分担 ― 拠点・GMP・査察
切れ目の両側は、別の拠点であることが多くなります。原薬は原薬の工場や CDMO医薬品の開発・製造を他社から受託する企業。設備投資を負わずに専門能力を使える。詳しく →(開発製造受託会社)で作り、充填だけを別の受託先に頼む組み合わせは珍しくありません。拠点が違えば、GMP の考え方も査察の履歴も別です。原薬には原薬GMP(ICH Q7)の考え方が、製剤には製剤のGMPが、無菌の充填には無菌操作の要件が掛かります。
冒頭の実例が、この分け方の重さを示しています。apitegromab のCRLは、承認申請のうち、充填施設の査察所見だけを理由にしていました。有効性・安全性のデータも、第三者の原薬製造所も、問題にされていません。同じ Catalent Indiana で充填していた Regeneron の二重特異性抗体2つの異なる標的に同時に結合する抗体。T細胞と標的細胞を橋渡しする用途などがある。詳しく → odronextamab(濾胞性リンパ腫)も、2025年7月に、同じ施設の査察を理由に承認を得られませんでした。薬そのものに問題がなくても、詰める工場が止まれば製品が止まります。査察の判定の意味はNAI・VAI・OAIで、施設を差し替える判断の重さはScholar Rock のニュースで扱っています。
だから、申請を持つ会社は、原薬の工場と充填の工場の、どちらの状態にも責任を負います。境界での受け渡しは、品質取り決め書で決めておきます。原薬を受け入れる側がどの試験をするか、ロット番号をどう引き継ぐか、片方で逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →が起きたらもう片方へ誰がいつ連絡するか。これが決まっていないと、問題が起きた日に責任の所在から議論が始まります。
原薬と製剤の拠点は別々に査察され、承認はその両方に左右されます。境界の受け渡しを取り決めてあるかが、問題が起きた日の動きを分けます。
ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べる試験の読み方 ― 同じ数字の意味の違い
同じ品質特性でも、原薬で測るか製剤で測るかで、保証する範囲が違います。
純度(凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →や断片の少なさ)は、原薬では「精製がうまくいったか」を示します。製剤では「処方、充填、保管を経ても保たれているか」を語ります。残存DNAや宿主細胞タンパク質医薬品を作る宿主細胞に由来するタンパク質の不純物です。安全性に関わるため、精製後の残存量を測ります。詳しく →のような、工程に由来する不純物は、原薬までにどれだけ落とせたかが問われ、製剤で繰り返さないのが一般的です。逆に、無菌とエンドトキシンは、投与される形で最後に保証する製剤側で重くなります。原薬にも微生物の管理値は置きますが、それは汚染の兆候を早く見つけるためのものです。生菌数とエンドトキシンの違いは、バイオバーデンとエンドトキシンで解説しています。容器や栓に関わる容器施栓系の完全性は、製剤でしか評価できません。
安定性も二つに分かれます。原薬には、凍結や冷蔵で持つ期間(保持期間)の根拠が要り、製剤には、ラベルに書く有効期間の根拠が要ります。原薬の保持期間を過ぎたら、新たな根拠がない限り、その原薬は使えません。有効期間の決まり方は安定性試験(ICH Q1)にまとめてあります。
よくある失敗は、数字の読み違えです。原薬の試験に合格していても、充填、凍結乾燥、保管を経た製剤の品質は別の問いです。製剤の試験に合格していても、原薬の工程で何が起きたかは見えません。
ある数字を見たら、それが原薬で測ったものか、製剤で測ったものかを確かめます。同じ「純度」でも、保証している範囲が違います。
輸送の単位 ― 原薬か製剤か
拠点が分かれていると、原薬を運びます。多くは凍結(−20℃や−70℃など)して容器に入れ、充填工場で融かして使います。凍結と融解は、凝集の引き金になりうる操作で、容器の大きさや凍らせ方で結果が変わります。くわしくは原薬の凍結・融解で解説しています。
ここで効くのが、保持期間と回数の上限です。充填の枠が取れず、保持期間内に原薬を使い切れないことがあります。輸送の途中で温度が上がって融けかけたり、凍結融解凍結と融解の繰り返し。濃縮・局所pH変化・氷界面への吸着が重なり凝集の引き金になる。詳しく →の回数が増えたりしたときは、その原薬を使えるかどうかを判断する場面が来ます。判断の根拠は、原薬で取った安定性と凍結融解のデータです。輸送中の温度の記録は温度モニタリングで取り、受け入れの合否の判断に使います。
製剤を運ぶときは、最終製品として冷蔵(2〜8℃)で流通します。冷蔵庫の外に出た時間の許容は、製剤の安定性データのうち、短期の温度逸脱輸送・保管中に規定の温度範囲を外れること。出荷判定の扱いを事前に手順化しておく。詳しく →を見た部分から決まります。運ぶものが原薬か製剤かで、根拠にするデータの出どころが変わります。
原薬を運ぶなら、保持期間と凍結融解の回数を数えます。製剤を運ぶなら、冷蔵庫の外に出てよい時間の根拠を確かめます。
明日から確かめられること
担当の資料や契約を、次の5点で見てみてください。
- 手元の試験結果や報告書は、原薬のものか、製剤のものか。ラベルのロット番号は、どちらのロットか
- 申請書で、賦形剤の添加、ろ過、凍結保管が、原薬と製剤のどちらの章に書かれているか
- 原薬と製剤の拠点は別か。別なら、どちらの拠点の査察履歴も把握しているか
- 品質取り決め書に、受け入れ試験、ロット番号の引き継ぎ、逸脱の連絡の責任者が書かれているか
- 原薬を運ぶなら、保持期間と凍結融解の回数の上限があり、輸送中の温度が記録されているか
委託先を探す人は、「原薬だけ」「充填だけ」「両方」のどれを頼むのかを先に決めると、見積もりと受け入れ試験の範囲が定まります。充填の設備はバイアル充填機、除菌ろ過の資材は除菌フィルターの製品ガイドにまとめています。
参考文献
- Scholar Rock, FDA Issues Complete Response Letter (CRL) for Apitegromab as a Treatment for Patients with Spinal Muscular Atrophy (SMA) Solely Related to Observations Identified at Catalent Indiana, LLC Fill-Finish Facility(2025年9月23日)
- Pharmaceutical Manufacturing, Regeneron hit with CRL following FDA inspection of Catalent site acquired by Novo Nordisk(odronextamab の CRL は2025年7月30日付)
- ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく →, Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products ICH Quality Guidelines
- ICH Q7, Good Manufacturing Practice Guide for Active Pharmaceutical Ingredient化学合成などで得られる分子量が比較的小さい医薬品の有効成分。構造が明確で再現性よく合成できる。詳しく →s ICH Quality Guidelines
- ICH Q5Cバイオテクノロジー応用医薬品の安定性試験の考え方を示す国際調和ガイドライン。詳しく →, Stability Testing of Biotechnological/Biological Products ICH Quality Guidelines
この記事に関連する工程
次に読む
抗体医薬/モノクローナル抗体この製造の全体像を、工程マップで見るこの分野の新着を、メールで受け取る
こうした製造・分析・品質の解説記事と、装置・試薬の新製品ニュースを月数回お届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。
登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。