バイオプロセスのろ過膜の選び方:清澄・除菌・ウイルス除去・UF/DF
収穫液が詰まった、除ウイルス保証が取れない、高価な抗体が膜に吸われてロスした——バイオプロセスの現場でろ過の失敗が起きるとき、たいてい根本は同じ問題に行き着きます。膜の取り違えです。培養から原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。・製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。まで、工程のほぼすべての境目にろ過が挟まります。細胞を取り除く、微生物を遮断する、ウイルスを物理的に除く、抗体を濃縮してバッファを入れ替える——どれも「膜に液を通す」という同じ動作に見えますが、目的が違えば選ぶべき膜の種類も孔径フィルター膜に存在する細孔の公称上の大きさを示す値で、保持できる粒子・微生物の最小サイズの目安となる指標(ただし実際の保持性能はバクテリアチャレンジ試験で実証される)。も原理も検証方法もまるで異なります。

膜を取り違えると何が起きるか。流量が出ずに工程が詰まる、除菌や除ウイルスの保証が成り立たない、高価な抗体を膜に吸われてロスする——これらが一気に起きます。逆に、目的に対して過剰な膜を選べばコストと工程時間を無駄にするだけです。ろ過膜の選定は孔径表だけを見て決められるものではなく、何を残し何を通すか、どこまで保証するか、何で検証するかをセットで考える設計作業だといえます。
膜選定が問われる場面は、清澄化・除菌ろ過・ウイルス除去・UF/DFの四つに大きく分かれます。それぞれ使う膜も原理も検証の考え方も異なります。プレフィルター本ろ過の手前に置き、粗い粒子をあらかじめ取り除いて後段フィルターの目詰まりを防ぎ、寿命を延ばすためのフィルターです。詳しく →による多段化やシングルユース使い捨ての樹脂製バッグや容器を用いる製造方式です。洗浄・滅菌の手間を減らせる一方、ステンレス設備と比べて特徴が異なり、目的に応じて選び分けます。詳しく →化の判断軸、抗体医薬の工程のどこで何を使うかも、この四分類を軸にすると見通しがよくなります。
- バイオプロセスのろ過は、清澄化・除菌・ウイルス除去・UF/DFという四つの目的で分けると体系的に選べます。
- 孔径はこの順に小さくなり、選定は孔径だけでなく除去対象・原理・検証方法の三点をセットで決めます。
- 除菌はB. diminutaと完全性試験、ウイルス除去はLRV、UF/DFは収率と終点で保証し、プレフィルターによる多段化で寿命と処理量を伸ばします。
ろ過を目的で分ける
ろ過膜を「孔径の大小」で並べると、かえって実務の判断が難しくなります。まず目的で四つに分けるのが整理の近道です。一つ目は清澄化(収穫液から細胞・デブリを除く)、二つ目は除菌ろ過(バイオバーデン工程中に存在する微生物の量。長時間の連続運転では管理の時間軸がバッチより長くなる。を遮断する)、三つ目はウイルス除去(外来性ウイルス原材料・試薬・製造環境などを介して外部から製造工程に持ち込まれる汚染ウイルス。を物理的に除く)、四つ目はUF/DF半透膜で目的物質を濃縮したり(限外ろ過)、緩衝液を目的の組成に置き換えたり(ダイアフィルトレーション)する工程です。膜面に沿って液を流すTFF方式が使われます。詳しく →(目的タンパク質を残して濃縮・バッファ交換する)——この四分類が選定の起点になります。
孔径はこの順におよそ小さくなります。清澄化のマイクロメートル級から、除菌の0.2 µm、ウイルス除去のナノメートル級、UF/DFの分子量カットオフ膜が約90%保持できる溶質の分子量の目安。目的分子の1/3〜1/6程度を選ぶのが定石とされる。(kDa分子の質量を表す単位。水素原子1個ぶんの重さをおおよそ1とし、抗体は約15万ダルトンの大きな分子。)まで段階的に変化します。ただし本当に重要なのは数値そのものではありません。孔径が小さくなるほど「何を捕らえるか」だけでなく「どう検証して保証するか」が厳しくなる——この点を押さえておくことが先決です。
| 目的 | 代表的な孔径・規格 | 主な除去対象 | 原理 | 検証の考え方 |
|---|---|---|---|---|
| 清澄化培養液から細胞や破片を取り除いて目的物質を含む上清を回収し、後工程に渡せる清澄な液にする工程です。詳しく → | 数µm〜0.45 µm相当 | 細胞・デブリ・濁り | 深層捕捉/ふるい | 濁度・回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。・処理量 |
| 除菌ろ過 | 0.2(0.22)µm | 細菌・バイオバーデン | 絶対ろ過(ふるい) | B. diminuta除菌ろ過の指標菌。規定量を負荷して完全に除去できることで除菌グレードが定義される。 チャレンジ+完全性試験除菌フィルターに欠陥がなく所定の孔径を保っているかを確認する試験。無菌ろ過の信頼性を裏づける。 |
| ウイルス除去 | ナノ(約20〜50 nm) | エンベロープ/ノンエンベロープウイルス脂質二重膜(エンベロープ)を持たないウイルスで、溶媒・界面活性剤や低pHなどの化学的処理に対して高い耐性を示す。 | サイズ排除分子の大きさの差で分けるクロマトグラフィー。 | LRV製造工程がウイルスをどれだけ除去・不活化できるかを評価し、製品の安全性を確保する取り組みです。各工程の低減能力を対数の値で示します。詳しく →+完全性試験 |
| UF/DF | MWCO限外ろ過膜が保持できる分子の大きさの目安。これより小さい成分は膜を透過させる。(数〜数十 kDa) | 溶媒・塩・低分子(目的物は保持) | 限外ろ過(TFF膜面に液を平行に流しながらろ過し、目詰まりを抑えつつ濃縮やバッファ交換を行う限外ろ過(クロスフロー)装置一式です。詳しく →) | ふるい係数溶質が膜をどれだけ通り抜けるかを表す値。1なら自由に透過し、バッファ交換や濃縮の挙動を左右する。・収率・終点 |
ろ過の選定は孔径だけでは決まりません。「除去対象・原理・検証方法」の三点をセットで考える必要があります。清澄化は処理量、除菌はB. diminuta、ウイルス除去はLRV、UF/DFは収率と終点——目的ごとに保証の物差しが違います。この違いを最初に押さえておくだけで、膜の選び分けが一気に明確になります。
清澄化:デプスとメンブレンの使い分け
収穫液から細胞や細胞デブリを除く清澄化は、ダウンストリーム培養液から抗体を分離・精製する下流工程。清澄化からProtein A、ポリッシュ、UF/DFまでを指す。の入口です。ここで使う代表がデプスフィルターで、セルロースや珪藻土などの繊維・粒子を厚く積層した構造を持ちます。液が層の内部を通る間に粒子を深層で捕捉するため、表面の単一孔径でふるうメンブレンとは原理が異なります。厚み方向に分布した空隙で大小さまざまな粒子を保持できるので、固形分の多い収穫液でも目詰まり微粒子や凝集体、タンパク層が膜の孔を塞いでろ過が落ちる現象。プレフィルターでの前段保護が効く。しにくく、大きな処理量を稼げます。
デプスフィルターは荷電を持たせた製品も多く、サイズ排除に加えてデブリやDNA、一部のHCPを静電的に吸着除去できます。これが後段のProtein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく →の負荷を下げ、清澄化を単なる固液分離以上の役割にしています。一方、目的の閾値で確実に切りたい仕上げには、孔径が明確なメンブレンフィルター(典型的には0.45 µmや0.2 µm)を使います。
実務での定石は「荷電デプスで大量の固形分を受け、メンブレンで最終清澄して微粒子を切る」二段構成です。デプスを単独で使うと微小デブリ破砕で生じる細胞の破片。過度な破砕で微細化すると後段の遠心・ろ過を妨げる。が下流に抜け、メンブレンを単独で使うと固形分ですぐ閉塞します。役割の異なる二種の膜を直列にして負荷を分担させるのが清澄化設計の基本です。装置面では、再利用ステンレスのフィルターホルダーにカートリッジペン型インジェクターなどに装填する円筒容器。複数回投与や特定デバイスとの組合せで選ばれる。を装填する構成と、配管・膜・ハウジングが一体化したカプセルフィルターを使い捨てる構成があり、規模と洗浄バリデーション設備を洗浄した後、前の製品の残留がないことを検証し交叉汚染を管理する活動。負荷で選びます。
除菌ろ過:0.2 µmとB. diminuta
除菌ろ過は、液中の細菌(バイオバーデン)を遮断する工程で、ろ過滅菌の中核を担います。標準は0.2 µm(製品表記では0.22 µm)の除菌フィルターです。清澄化が処理量を稼ぐための「目安」で選ぶのとは根本的に違い、規定の条件で細菌を完全に通さない「絶対ろ過」として保証される点が決定的な差異です。
その保証の根拠が菌チャレンジ試験です。指標菌として Brevundimonas diminuta除菌ろ過の指標菌。規定量を負荷して完全に除去できることで除菌グレードが定義される。(旧 Pseudomonas diminuta、約0.3 µm)を用い、膜1 cm²あたり10⁷ CFU以上を負荷して、透過側に1個も漏れない(完全除去)ことを確認します。この試験で除菌グレードが定義されており、「0.2 µm」という数字そのものより、「B. diminuta を規定負荷で完全に除去できる膜」であることが除菌フィルター0.2µm前後の細かい孔で液を通し、細菌などの微生物を捕らえて無菌のろ液を得るための除菌用フィルターです。詳しく →の定義だと理解するのが正確です。
実液はチャレンジ条件と粘度・界面活性剤・吸着挙動が異なるため、実プロセスの液で除去性能と適合性(吸着・抽出物)を確認する製品適合性試験(バクテリアチャレンジを含む)が求められます。さらに、設置した膜が損傷なく規格通りに機能していることを、使用前後の完全性試験(バブルポイント試験、拡散流試験、プレッシャーホールド試験フィルターの上流側に加えた圧力の時間的な低下量を測定することで、フィルターを通過する気体の透過速度(または流量)を間接的に評価する完全性試験法。)で確認します。完全性試験の合格値は B. diminuta チャレンジと相関づけられており、完全性試験は「無傷であること」を物理的に裏づける除菌保証の要です。微生物試験との関係は無菌試験の考え方ともつながります。
除菌ろ過は「0.2 µmを通せば滅菌」ではありません。B. diminuta の完全除去で除菌グレードが定義され、実液での製品適合性試験で性能を確認し、使用前後の完全性試験で無傷であることを物理的に保証する——この三段がそろって初めてろ過滅菌が成立します。
ウイルス除去:ナノろ過とLRV
抗体のような哺乳類細胞由来の医薬品では、万一混入しうる外来性ウイルスへの安全対策が必須です。その物理的な砦がウイルス除去フィルター(ウイルスろ過目の細かい膜で物理的にウイルスを除く精製工程。ウイルス安全性を担保する工程の一つ。、ナノろ過)で、孔径は約20〜50 nmと除菌膜よりさらに小さく、ウイルスをサイズ排除で物理的に取り除きます。化学処理ではなくサイズで除くため、製品の品質を変えずにウイルスを減らせるのが利点です。
性能はLRV(Log Reduction Value、対数除去率)で表します。負荷側と透過側のウイルス力価の比の常用対数であり、LRV 4は1万分の1、LRV 6は100万分の1への低減を意味します。ウイルス除去フィルターには約50 nmのレトロウイルス除去グレードと、約20 nmのパルボウイルス(小型ノンエンベロープ)まで除去するグレードがあり、後者ほど孔径が小さく流量は出にくくなります。
ウイルスろ過は単独の工程ではありません。低pHウイルス不活化やクロマトグラフィーによる除去と組み合わせ、工程全体で十分なLRVを積み上げる総合的なウイルスクリアランス戦略の一部として位置づけられます。各工程のLRVはモデルウイルスを用いたスケールダウンスタディで取得し、ICH Q5A(R2)の枠組みで評価します。ナノろ過でも、膜の健全性を保証する完全性試験(金結合粒子やバイナリーガス試験など、メーカー指定の方法)が前提になります。設計と評価の全体像は次の記事で詳しく扱っています。
UF/DF:膜で残して濃縮・交換する
ここまでの三つが「不要物を除く」ろ過だったのに対し、UF/DF(限外ろ過・ダイアフィルトレーション)は「目的物を膜上に残す」ろ過です。限外ろ過膜は分子量カットオフ(MWCO、kDa)で性能を表し、目的タンパク質は保持しつつ水・塩・低分子だけを透過させます。UFで濃縮し、DFでバッファを処方組成へ入れ替える——この二つを組み合わせた工程です。
UF/DFは膜面に液を平行に流すタンジェンシャルフローろ過(TFF)で実行します。デッドエンドろ過と違い、クロスフローのせん断で膜面の堆積(濃度分極)を掃き流すため、大量の高濃度液を連続処理できます。これを担うのがTFFシステムで、MWCO・膜間差圧(TMP)・クロスフロー流速のバランスで運転します。膜面で目的物が局所的に濃縮されるため、収率を守るにはホールドアップとリンス回収まで含めた物質収支の設計が欠かせません。
UF/DFは抗体を扱う最終工程に位置し、ここでの濃縮度合いやストレスが凝集体の生成にも関わります。濃縮後の品質は凝集体分析で確認します。設計パラメータの詳細は次の記事にまとめています。
プレフィルターと多段化、シングルユース
どの目的のろ過でも、本命の膜(除菌膜やナノ膜)の手前にプレフィルターを置く多段化が実務の基本です。プレフィルターは本命より少し粗い孔径で、目詰まりの原因になる大きめの粒子やコロイドを先に捕捉し、高価な本命膜の寿命と処理量を延ばします。たとえば0.2 µm除菌膜の前に0.45 µmや0.65 µmのプレフィルターを直列に置くと、同じ膜面積で何倍もの液を処理できることがあります。
膜面積(ハウジングやフィルターホルダーの本数)は、Vmaxやフラックスディケイなどの目詰まり試験から、目標処理量と許容圧上昇に収まるように決めます。プレフィルターと本命膜の孔径比・面積比の最適化が、ろ過工程のコストと安定性を同時に左右する設計判断です。膜が安価でも、詰まって工程が止まれば損失は桁違いに大きくなります。
近年は、ハウジング一体型のカプセルフィルターに代表されるシングルユース(単回使用)化が進んでいます。使い切りにすれば洗浄バリデーションや交差汚染の管理が不要になり、切替も速くなります。一方、ランニングコストと抽出物・溶出物(E&L)の評価が論点になります。再利用ステンレスのフィルターホルダーと使い捨てカプセルの選択は、規模・製品数・施設戦略で決まります。この判断軸は次の比較記事で詳述しています。
工程での早見表
抗体医薬の工程フロー(モノクローナル抗体)に沿ってろ過を整理すると、四つの目的が工程上に自然に並びます。培養の入口(培地・ガス)から原薬の手前まで、孔径は段階的に小さくなり、保証の厳しさも上がっていきます。
| 工程局面 | 使うろ過 | 代表的な膜 | 主目的 |
|---|---|---|---|
| 培地・バッファ調製 | 除菌ろ過 | 除菌フィルター 0.2 µm | 微生物の持ち込み防止 |
| 収穫・清澄化 | 清澄化+メンブレン | デプスフィルター+メンブレン | 細胞・デブリ除去 |
| ローディング前 | プレ+除菌 | プレフィルター+0.2 µm | バイオバーデン制御 |
| ポリッシュ後 | ウイルス除去 | ウイルス除去フィルター | 外来性ウイルス低減 |
| 原薬仕上げ | UF/DF | TFFシステム | 濃縮・バッファ交換 |
| 製剤・充填前 | 除菌ろ過 | 除菌フィルター 0.2 µm | 最終バイオバーデン制御 |
同じ0.2 µm除菌膜でも、培地調製と最終充填前では求められる適合性データやバリデーション水準が異なります。各局面で「何を除き、何で検証するか」を都度確認することが、膜の取り違えを防ぐ実務上の要点です。
まとめ
バイオプロセスのろ過は、清澄化・除菌・ウイルス除去・UF/DFという目的で分けると体系的に選べます。清澄化は処理量で測り(デプス+メンブレン)、除菌は B. diminuta と完全性試験で保証し、ウイルス除去はLRVと完全性試験で評価し、UF/DFは収率と終点で運用します。どの膜もプレフィルターによる多段化で寿命と処理量を伸ばし、シングルユース化の可否は規模と施設戦略で判断します。孔径表だけで選ばず、除去対象・原理・検証方法の三点をセットで設計すること——詰まらせず、保証を成り立たせ、ロスを抑えるための鍵はそこにあります。
参考文献
- ICH Q5A(R2): Viral Safety Evaluation of Biotechnology Products Derived from Cell Lines of Human or Animal Origin(国際調和ガイドライン)
- ICH Q6B: Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products
- 日本薬局方 一般試験法(無菌試験法・ろ過滅菌に関する記載)/PMDA
- USP <1207> Sterile Product Packaging—Integrity Evaluation および <1229.4> Sterilizing Filtration of Liquids(USP)
- FDA Guidance for Industry: Sterile Drug Products Produced by Aseptic Processing—Current Good Manufacturing Practice
- EMA Guideline on the Sterilisation of the Medicinal Product, Active Substance, Excipient and Primary Container
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