除菌ろ過と無菌ろ過は同じ?バイオバーデン低減ろ過との違い

除菌ろ過と無菌ろ過細菌を止めることを実証したフィルターに液を通し、無菌のろ液を得る工程です。除菌ろ過・ろ過滅菌とも呼び、菌の数を下げるだけのバイオバーデン低減ろ過とは区別します。0.22µm前後の膜が広く使われます。詳しく →は、ろ過滅菌も含めて同じろ過を指す呼び名です。細菌を1個も通さないことを試験で示したフィルターで、無菌のろ液を得るろ過をいいます。
ただし、菌の数を減らすだけで、ろ液を無菌とは呼ばないろ過もあり、これはバイオバーデン低減ろ過と呼んで区別します。どちらに当たるかは孔径フィルター膜に存在する細孔の公称上の大きさを示す値で、保持できる粒子・微生物の最小サイズの目安となる指標(ただし実際の保持性能はバクテリアチャレンジ試験で実証される)。詳しく →やフィルターの格ではなく、何を試験で示したかで決まります。
この記事では、3つの呼び名とバイオバーデン低減ろ過の違い、0.2 µmの表示では決まらない理由、除菌ろ過に要る3つの証拠、当局の指摘事例と2本目のフィルター、メーカーに確かめることを順に説明します。
1. 3つの呼び名と、もう1つのろ過
除菌ろ過、無菌ろ過、ろ過滅菌は、言葉が違うだけで同じろ過を指し、英語では sterilizing filtration です。「除菌」という字面から「菌を少し減らすこと」と受け取られがちですが、医薬品の製造では、加熱できない液を無菌にするための滅菌の方法として扱われています。
これと別にあるのが、バイオバーデン低減ろ過(bioburden reduction filtration)です。バイオバーデンは液の中にいる生きた菌の数を指し、このろ過は菌の数を下げるのが目的で、ろ過したあとの液を無菌とは呼びません。
同じ0.2 µmのフィルターでも、工程のどこに置き、ろ液を無菌として扱うかで役割が変わります。下の図に、原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →と製剤の工程での置かれ方を示します。

抗体医薬の工場では、0.2 µmのろ過が何か所にも出てきます。精製に使うバッファの調製、クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →に載せる前、原薬を凍らせる前のろ過は、たいていバイオバーデン低減ろ過です。
菌が増えて精製の樹脂を汚したり、菌が残す発熱物質(エンドトキシン)が増えたりするのを防ぐのが、その狙いです。これに対して、バイオリアクター細胞や微生物を、温度・pH・溶存酸素などを制御しながら培養する槽です。数リットルの開発用から数千リットルの商業生産用まであり、ステンレス製と使い捨て(シングルユース)があります。詳しく →へ培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →を送るろ過や、製剤を充填する直前のろ過は、ろ液を無菌として扱う除菌ろ過に当たります。
呼び名が3つあっても、指しているのは「ろ液を無菌と言える」ろ過1つです。それ以外の0.2 µmろ過は、菌を減らすためのろ過として扱います。
2. 0.2 µmの表示では決まらない理由
除菌グレード(sterilizing grade)を名乗るフィルターは、厳しい試験を通っています。ブレバンディモナス・ディミヌタ(Brevundimonas diminuta除菌ろ過の指標菌。規定量を負荷して完全に除去できることで除菌グレードが定義される。詳しく →)という特に小さな細菌を、膜の面積1 cm²あたり1,000万個以上流し、ろ液に1個も出てこないことが条件です。
試験法は ASTM F838 にまとまっていて、米国 FDA の無菌製造ガイダンスもこの負荷を求めています。
これに対してバイオバーデン低減用のフィルターが示すのは、菌をどれだけ減らせるかという数字(対数減少値、LRV)です。Merck の Milligard PES除菌フィルターなどに広く使われる膜素材。親水化処理で濡れ性や低吸着を高めた製品もある。詳しく → は、1.2/0.2 µmのグレードで B. diminuta を典型値で6桁、つまり100万分の1以下に減らせるとしています。
100万分の1に減らすことと、1個も通さないことは別です。流れてくる菌が多ければ、100万分の1でもろ液に菌は残ります。
逆向きの取り違えもあります。除菌グレードの製品を原薬工程に置いても、そのろ液を無菌として扱わないなら、そのろ過の役割はバイオバーデン低減です。どちらのろ過かは製品の格では決まらず、ろ過のあとで何を主張するかで決まります。
3. 除菌ろ過に要る3つの証拠
除菌ろ過として認められるには、3つの証拠をそろえます。
- 実際の液での細菌保持の確認:液のとろみ(粘度)や界面活性剤タンパク質の凝集や容器壁への吸着を防ぐため製剤へ少量加える添加剤で、細胞培養で細胞を保護する目的でも使われます。詳しく →、pH、ろ過にかける時間と圧力が変わると、膜の振る舞いも変わります。メーカーの成績表は標準の液での結果なので、自社の製剤と工程条件で同じ種類の試験を行います。主なフィルターメーカーは、この試験を受託するサービスを用意しており、考え方は PDA の Technical Report No. 26 にまとまっています。
- 完全性試験(integrity testろ過フィルターに欠陥や損傷がなく、設計どおりの細菌保持性を保っているかを確認する試験。詳しく →):膜に破れや大きすぎる穴がないかを、膜を壊さずに空気の圧力などで確かめる試験です。EU GMP Annex 1無菌医薬品の製造に関するEU GMPの付属書。汚染管理戦略などを求める無菌製造の基準。詳しく →(2022年改訂)は、使ったあと、ハウジングから外す前の試験を求めています。
- ろ過前のバイオバーデン:Annex 1 は、ロットごとに最後の除菌フィルター0.2µm前後の細かい孔で液を通し、細菌などの微生物を捕らえて無菌のろ液を得るための除菌用フィルターです。詳しく →の手前で菌数を測り、限度を決めるよう求めています。
完全性試験には、もう1つの要求があります。Annex 1 は、滅菌したあと使う前の試験(PUPSIT除菌フィルターを使用する前、滅菌後にろ過膜の完全性を確認する試験。無菌性を担保する管理。詳しく →)も原則として求め、ごく少量のろ過のように難しい場合に限って、リスク評価と管理策を条件に別のやり方を認めています。
FDA の2004年のガイダンスは、使用前の試験は「行うことができる」、使用後は日常的に行う、という書き方です。欧州へ出す製品かどうかで、設備に作り込む配管と手順が変わります。
ろ過前のバイオバーデンの限度は、欧州医薬品庁(EMA)の滅菌ガイドラインが、たいていの場合、100 mLあたり10個以下なら受け入れられるとしています。ここで、前の節のバイオバーデン低減ろ過が効いてきます。最後の除菌フィルターに届く菌の数を低く抑えておくのが、その役目です。測り方はバイオバーデンの測定と限度で解説しています。
実液での保持試験、使用前後の完全性試験除菌フィルターに欠陥がなく所定の孔径を保っているかを確認する試験。無菌ろ過の信頼性を裏づける。詳しく →、ろ過前の菌数の3つがそろって、はじめてろ液を「無菌」と言えます。
4. 当局が指摘した事例と、2本目のフィルター
英国の医薬品規制当局 MHRA は2023年6月、インドの Cipla の工場を査察し、ろ過滅菌の管理について主要な不備(major)を指摘しました。
理由の1つは、滅菌したフィルターの完全性を使う前に確かめていなかったことです。その原液は、フィルターを詰まらせるおそれがありました。ろ過の最初から膜に欠陥があっても、詰まりがその穴をふさいでしまい、使用後の試験では見つからないおそれがある、というのが当局の見方です。
同じ書面では、フィルターを2本直列に置く設計にも指摘がありました。汚染管理戦略(CCS)人・設備・環境・工程の汚染経路を一望し、管理策全体でリスクを許容水準まで下げていることを示す枠組み。に2本のろ過を書いていながら、2本のあいだに置いた液だめのタンクのリスクを十分に検討していなかったためです。
2本目のフィルターは、増やせば安心というものではありません。Annex 1 は、充填の直前のできるだけ近い場所に除菌フィルターをもう1本置くことを、CCS人・設備・環境・工程の汚染経路を一望し、管理策全体でリスクを許容水準まで下げていることを示す枠組み。 の中で検討するよう求めています。FDA のガイダンスも、予備のフィルターを置く構成を多くの場合に検討すべきとしています。
2本にするなら、どちらを主とみなすか、片方が完全性試験に落ちたらどう判定するかを、承認済みの手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。詳しく →に前もって書いておきます。試験の結果を見てから都合のよい側を選ぶ運用では、説明がつきません。
PUPSIT は配管と手順を設備に作り込む必要があり、後から足すのが難しい要求です。英国の CDMO医薬品の開発・製造を他社から受託する企業。設備投資を負わずに専門能力を使える。詳しく → の Upperton のように、PUPSIT を最初から組み込んだ無菌施設を新設した例もあります。試験の方式と判定はフィルター完全性試験で詳しく扱っています。
詰まりやすい液ほど、使用後の試験だけでは膜の欠陥を見逃すおそれがあります。
5. 明日から確かめられること
まず、工程フロー図に0.2 µmのろ過をすべて書き出し、1本ずつ「ろ過のあと液を無菌として扱うか」を承認書の記載と照らして仕分けます。扱うなら除菌ろ過、扱わないならバイオバーデン低減ろ過です。
原薬工程のろ過を手順書で「除菌ろ過」と書いていれば、監査では除菌ろ過としての証拠を問われます。呼び名がずれていたら、変更管理工程・設備・手順などの変更を評価・承認し、品質への影響とともに記録する仕組み。詳しく →を通してそろえます。
メーカーへの確認や監査の準備には、次の項目が使えます。
- ろ液の扱い:そのろ過のあと、液を無菌として扱うか、下流に最終滅菌容器に充填・密封した後に製品ごと滅菌する方法。熱に弱い抗体では行えず無菌操作が必要になる。詳しく →やもう1本の除菌ろ過があるかを確かめます。
- 呼び名の一致:手順書、バッチ記録製造ロットごとに手順・使用資材・実施者・確認結果を定められた様式で記録した原本。そのとおりに作ったことを証明する文書です。詳しく →、CCS で呼び名がそろっているかを見ます。
- メーカーの成績の中身:「除菌グレード」の主張か「減少値(LRV)」の主張か、どの菌をどれだけ流した試験かを確かめます。
- 実液での保持試験:自社の製剤と工程条件での細菌保持の確認を、いつ、誰が行ったかを確かめます。
- 完全性試験の方法と基準:使用後の完全性試験と PUPSIT の方法と基準を確かめます。PUPSIT を行わないなら、その根拠を確かめます。
- 液の性質:液がフィルターを詰まらせやすい性質かを確かめます。
- ろ過前のバイオバーデン:採取点と限度を確かめます。
- 2本直列の運用:主と予備の決め方と、2本のあいだの液だめの扱いを確かめます。
製品は滅菌フィルター(除菌ろ過 0.2µm)、プレフィルター、フィルター完全性試験装置で横断できます。膜の材質と構成の選び方は除菌フィルターの選び方:0.22 µmの次に見る膜材質と試験、抗体の濃い製剤でフィルターが詰まりやすい問題は高濃度製剤の最終ろ過で解説しています。
参考文献
- European Commission, EudraLex Volume 4, EU GMP Annex 1: Manufacture of Sterile Medicinal Products(2022)(8.79項:除菌グレードのフィルターによるろ過、8.80項:バイオバーデン低減用プレフィルター本ろ過の手前に置き、粗い粒子をあらかじめ取り除いて後段フィルターの目詰まりを防ぎ、寿命を延ばすためのフィルターです。詳しく →と充填点近くの2本目、8.87項:使用前後の完全性試験とPUPSIT、10.3項:最終の除菌フィルター直前のバイオバーデン)
- FDA, Guidance for Industry: Sterile Drug Products Produced by Aseptic Processing, Current Good Manufacturing Practice(2004)(除菌グレードの定義、1 cm²あたり10⁷個の負荷、冗長なフィルター、使用前後の完全性試験)
- EMA, Guideline on the sterilisation of the medicinal product, active substance, excipient and primary container(EMA/CHMP/CVMP/QWP/850374/2015、2019年)(除菌ろ過前 10 CFU培養した際に1つのコロニー(集落)を形成する微生物の単位で、生菌数を表す際に用いられる。詳しく →/100 mL)
- PDA, Technical Report No. 26 (Revised 2025): Sterilizing Filtration of Liquids(有償)
- ASTM, F838-20 Standard Test Method for Determining Bacterial Retention of Membrane Filters Utilized for Liquid Filtration(有償規格。告知ページ)
- Merck, Milligard PES フィルターによるバイオバーデン低減と粒子保持(Tech Note)
- MHRA, Post-inspection letter to Cipla Limited, Unit V(2023年7月10日付、FOI2024/00081)
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