バイオバーデンとエンドトキシンの違い ― 数字が動いたとき何を疑うか

2025年11月、Fresenius Kabi は、米国でファモチジン(胃酸を抑える薬)の注射剤3ロットを自主回収しました。出荷したロットから取り置いた保存サンプルで、エンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →が規格を外れたことがきっかけです。同社は、悪寒や発熱などの有害事象の報告が、1つのロットで寄せられたことも公表しています。注射剤は無菌で作るのに、エンドトキシンの規格外試験結果が規格の範囲を外れること。原因調査の対象になる。詳しく →で回収になることがあります。菌がいなければ安全、と言い切れないのはなぜでしょうか。
答えは、菌の数と、菌が残した成分の量が、別の数字だからです。バイオバーデンは、いま生きている菌の数を数えます。エンドトキシンは、グラム陰性菌外膜をもつ細菌の分類。大腸菌が代表で、比較的壊しやすく外膜にエンドトキシンをもつ。詳しく →の外膜にあるリポ多糖(LPS)の量を測ります。菌が死んでも、LPS は消えません。火にたとえるなら、バイオバーデンは燃えている火で、エンドトキシンは火が消えても残る煤です。
だから、工程で一方の数字が動いたときは、疑う場所が違います。エンドトキシン試験微生物そのものでなく、グラム陰性菌由来の発熱性物質エンドトキシンの量を測る試験。詳しく →そのものの詳しい説明はエンドトキシンとはに、バイオバーデンの測り方はバイオバーデンとはにあります。
測っているものの違い ― いまの菌と、残された成分
2つの数字は、見ている時間が違います。バイオバーデンは「いま」、エンドトキシンは「これまでの履歴」を映します。
| バイオバーデン | エンドトキシン | |
|---|---|---|
| 測るもの | 培地で育つ生きた菌の数(CFU培養した際に1つのコロニー(集落)を形成する微生物の単位で、生菌数を表す際に用いられる。詳しく →) | グラム陰性菌のLPSの量(EU) |
| 方法 | 培養してコロニーを数える | LAL試薬または組換え試薬で反応を読む |
| 結果までの時間 | 日単位(培養を待つ) | 時間単位 |
| 滅菌・除菌ろ過細菌を止めることを実証したフィルターに液を通し、無菌のろ液を得る工程です。除菌ろ過・ろ過滅菌とも呼び、菌の数を下げるだけのバイオバーデン低減ろ過とは区別します。0.22µm前後の膜が広く使われます。詳しく →で | 下がる | ほとんど下がらない |
| 映しているもの | いまの汚染の量 | 過去の汚染も含めた履歴 |
菌は、殺せば数に入りません。LPS は、菌が増えるときにも、死んで壊れるときにも外へ出て、しかも熱に強く、蒸気滅菌では十分に壊れません。0.2 µm の除菌フィルター0.2µm前後の細かい孔で液を通し、細菌などの微生物を捕らえて無菌のろ液を得るための除菌用フィルターです。詳しく →は菌を止めますが、ばらけた LPS は基本的に通り抜けます。生菌が0個の液でも、エンドトキシンが高い液は作れてしまいます。
一方、エンドトキシンの数字がきれいでも、バイオバーデンの代わりにはなりません。LPS を持たないグラム陽性菌やカビは、エンドトキシン試験に映らないからです。バイオバーデンの値は、滅菌や無菌ろ過にかける負荷を示す数字としても使われます。
バイオバーデンは、いま工程に生きた菌がどれだけいるかを示し、エンドトキシンは、菌が通った跡を示します。どちらかで、もう一方の代わりはできません。
数字の動き方 ― 疑う場所の絞り方
どちらが、どう動いたかで、最初に疑う場所が変わります。同じ試料で、もう一方も必ず測ります。
バイオバーデンだけが上がったときは、菌がいま増えています。まだ初期か、グラム陽性菌やカビのように LPS を持たない菌かもしれません。疑うのは、保持時間が延びたこと、洗浄や消毒が甘かったこと、試料を採るときの混入です。菌を同定して、グラム陰性菌かどうかを見ます。グラム陰性菌なら、次の測定でエンドトキシンも上がる可能性が高いので、先回りして同じ試料のエンドトキシンも測ります。
エンドトキシンだけが上がったときは、生菌は増えていないのに LPS だけが来ています。過去に菌が増えた跡か、LPS を持ち込む経路があります。経路は上流から順に疑います。製造用水では、配管にできたバイオフィルム微生物が配管や装置の表面に付着して形成する薄い膜状の集合体で、除去が困難で製薬用水の汚染源となりうる。詳しく →から LPS が流れ出ます(バイオフィルムとデッドレグ)。原料では、培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →成分や糖、界面活性剤のロットが疑わしい。容器や部材では、バイアルの乾熱による処理(乾熱脱パイロジェン)の不足があります。設備では、洗浄後に残った汚れです。試験の側の可能性も忘れてはいけません。セルロース系の素材から出る β-グルカンに試薬が反応して、見かけだけ上がる場合があります(エンドトキシン試験の実務)。
両方が上がったときは、汚染がいま進行しています。水系、設備、保持中の液、無菌操作外部から微生物を入れずに工程を進める操作。最終滅菌できない細胞治療では全工程で無菌性を維持する。詳しく →の逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →のどれかが現在も続いているので、傾向と菌種から発生源を絞り、止めます。個々の汚染管理を1つの戦略に束ねる考え方は、汚染管理戦略で扱っています。
どちらも低いのに問題が出たときは、試験の盲点を疑います。エンドトキシン試験は LPS 以外の発熱物質を測れません。そうした物質は、単球活性化試験(MATヒト単球系を用い、エンドトキシン以外も含む広い発熱性物質を評価する試験法。詳しく →)のような別の試験で調べます。製剤の成分によっては、加えたエンドトキシンが時間とともに測れなくなる現象も知られています(低エンドトキシン回収)。バイオバーデンの側にも盲点があり、その培地と温度で育たない菌は数えられません。
規格の範囲内でも、数か月かけて少しずつ上がる数字は、汚染の前触れのことがあります。規格内の傾向を見張る考え方はOOT(傾向外れ)で解説しています。
数字が動いたら、一方だけを見ず、同じ試料でもう一方も測ります。動き方の組み合わせが、疑う場所を絞ります。
下げ方が違う ― 滅菌・ろ過・脱パイロジェン
2つの数字は、下げる手段も別です。
バイオバーデンは、蒸気や放射線による滅菌、消毒、除菌ろ過で下がります。ただし、バイオバーデンを下げるためのろ過と、無菌にするための除菌ろ過は同じものではありません(除菌ろ過とバイオバーデン低減ろ過の違い)。
エンドトキシンは、菌を殺しても下がりません。下げる主な手段は、250℃以上の乾熱で壊す、洗い流す、陰イオン交換クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →で落とす、の3つです。製造用水は、蒸留や膜で作る段階で LPS を除きます。クロマトグラフィーで落とせるのは原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →の精製の段階までで、除菌ろ過や充填まで進んでから確実に取り除く手立ては乏しい。だから管理の中心は、入れないことに置きます(エンドトキシンの除去)。
この違いは、資材を買う場面にも出ます。「滅菌済み」と書かれたバッグやフィルターでも、エンドトキシンが低いとは限りません。滅菌は生きた菌を殺す処理で、LPS には届かないからです。購買が資材を比べるときは、滅菌の方法と、エンドトキシンの規格値と試験法を、別の行として見ます。
滅菌済みであることと、エンドトキシンが低いことは、別の保証です。資材も工程も、2つの数字を別々に確かめます。
明日から確かめられること
工程の管理表や資材の規格書を、次の5点で見てみてください。
- 「無菌」「滅菌済み」と書かれた資材に、エンドトキシンの規格値と試験法が別に書かれているか
- 工程の測定点ごとに、バイオバーデンだけか、エンドトキシンだけか、両方を測っているか
- 一方が動いたとき、同じ試料でもう一方も測る手順が、調査の手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。詳しく →に入っているか
- バイオバーデンが上がったときに、菌種を同定する取り決めがあるか
- 規格の範囲内でも、数か月の推移で傾向を見ているか
試験の装置や試薬は、バイオバーデン試験とエンドトキシン試験の製品ガイドにまとめています。乾熱で処理する装置は乾熱滅菌・脱パイロジェン装置をご覧ください。
参考文献
- Fresenius Kabi, Fresenius Kabi Issues Voluntary Nationwide Recall of Three Lots of Famotidine Injection, USP, 20 mg/2 mL(2025年11月6日)
- FDA, Guidance for Industry: Pyrogen and Endotoxins Testing: Questions and Answers(2012年6月)
- FDA, Sterile Drug Products Produced by Aseptic Processing: Current Good Manufacturing Practice(2004年9月)
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