細胞治療基礎知識・品質管理

マイコプラズマ試験:培養法・指標細胞法・NATの割り当て

培地の色も濁りも変わらないのに増殖が鈍り、産生量が落ち、データが再現しない。マイコプラズマ細胞培養に混入しうる微小な細菌。セルバンクなどで否定試験が求められる。詳しく →の汚染は、こういう形で現れます。細胞壁を持たない直径 0.2〜0.3 µm の細菌で、多形性があるため、除菌に使う 0.2 µm の無菌フィルターを通り抜けることがあります。無菌ろ過微細な孔のフィルターに液を通し、菌などの微生物を取り除く工程です。加熱できない製品を無菌にする手段で、0.22µm前後の膜が広く使われます。詳しく →をしたから大丈夫、とは言えない相手です。だから薬局方は、無菌試験製品や細胞に細菌・真菌の汚染がないかを確認する試験。薬局方に準拠して行う。詳しく →とは別に専用の試験を定めています。

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マイコプラズマ試験:培養法・指標細胞法・NATの割り当て

核心は一点です。この試験の枠組みが、2026年4月1日に発効した欧州薬局方 2.6.7 の改訂で組み替わりました。核酸増幅法標的の核酸を増幅して検出する手法。マイコプラズマなどの迅速な検出に使われる。詳しく →(NAT)が指標細胞法指標細胞に検体を接種し、増えた菌のDNAを蛍光染色で検出する方法。培地で育ちにくい株を捕まえます。詳しく →と同等の位置に正式に置かれ、要求される検出限界検出できる最小量。分析法の性能を示すバリデーション項目の一つ。詳しく →は 10 CFU/mL 以下、または 100 GC/mL 未満と数字で示されています。あわせて外部陽性対照を検体と並べて流すことが求められ、11の各条からは方法と容量の指定が外れました。迅速法従来より短時間で結果が出る試験法。有効期間の短い細胞製品の出荷判定に使い、従来法との同等性検証が前提。詳しく →を「代替」として正当化する時代から、選択肢として並ぶ時代へ移ったということです。

この記事では、マイコプラズマがなぜ厄介なのかを押さえたうえで、28日かかる培養法の中身、改訂で何が変わったか、CFU培養した際に1つのコロニー(集落)を形成する微生物の単位で、生菌数を表す際に用いられる。詳しく → と GC という二つの単位の違い、NATが答えないこと、そして検体ごとの割り当てを順に整理します。細胞原料の管理そのものはセルバンクに置いてあります。最後に、試験を設計する順番を並べます。

この記事の要点
  • 直径 0.2〜0.3 µm で細胞壁がないため、0.2 µm の無菌フィルターを通りうる相手です。
  • 改訂 Ph. Eur. 2.6.7(2026年4月1日 発効)で、NATの検出限界は 10 CFU/mL 以下または 100 GC/mL 未満と定められました。
  • CFU と GC は同じものを数えていないので、参照材料の GC/CFU 比は 10 以下と縛られています。

0.2 µm を通る ― 無菌ろ過では止まらない

厄介さの根は、構造の単純さにあります。

マイコプラズマには細胞壁がありません。細菌の形を保っているのは細胞壁なので、それが無いということは形が定まらないということです。直径はおよそ 0.2〜0.3 µm で、変形しながら 0.2 µm のフィルターの孔を通り抜けることがあります。無菌ろ過は微生物を止める工程ですが、この相手に対しては保証になりません。

ゲノムも小さく、Mycoplasma genitalium の 580 kb は自立して増殖する生物として最小の部類です。持っている遺伝子が少ないぶん、自前で作れない栄養素を宿主の細胞から奪います。結果として宿主の代謝が乱れ、増殖が鈍り、遺伝子発現目的タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞内で転写・翻訳させ、機能的なタンパク質として産生させる工程。詳しく →のパターンまで変わります。

しかも、見た目では分かりません。多くの株は培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →を濁らせず、pH指示薬の色も動かさない。数週間にわたって気づかれないまま培養系に居座り、その間のデータをすべて汚します。⁠目で見て異常がないことは、この汚染については何の情報も与えません。

28日という壁

薬局方国または地域の公的機関が定める医薬品の規格・試験法・品質基準を収載した公定書。詳しく →が定める古典的な方法は、二本立てになっています。

一つが培養法で、検体を寒天培地と液体培地に接種し、コロニーの形成や培地の変化を見ます。ただしマイコプラズマは増殖が遅く、株によっては条件を選ぶため、判定までに長く置く必要があります。液体培地で一定期間培養してから寒天へ継代増殖した細胞を定期的に希釈・移植して培養を維持する操作で、回数が増えると細胞の性質が変化するリスクがある。詳しく →し、さらに観察する。合計で 28日 かかる設計です。

もう一つが指標細胞法で、検体をVero細胞マイコプラズマ検査の指標細胞などに使われる培養細胞株。菌の増殖を支える宿主として用いられます。のような指標細胞と一緒に培養し、Hoechst 33258 のようなDNA結合性の蛍光色素で染めて、核の外に点在する蛍光を探します。マイコプラズマは細胞の表面に付着するので、核とは別の場所に小さな点として見える。こちらは 3〜6日 で結果が出ます。

二本立てにしてある理由は、守備範囲が違うからです。培地でよく育つ株は培養法が確実に拾い、培地では育ちにくく細胞に付着してはじめて捕まる株は指標細胞法が拾います。⁠28日 は無駄に長いのではなく、培地で育つ相手を取りこぼさないための時間です。

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2026年4月に枠組みが変わった ― NATが並んだ

その 28日 が、短寿命の製品では致命的でした。

自家の細胞治療のように、採取から投与までが日単位で動く製品では、28日 待つ選択肢がありません。これまでもNATは代替法として使われてきましたが、位置づけは「培養法と同等以上であることを示したうえでの代替」でした。改訂された欧州薬局方欧州医薬品品質局(EDQM)が発行する、医薬品の品質基準を定めた公定書で、署名国・加盟国の規制に法的効力を持つ。詳しく → 2.6.7 は、この関係を組み替えています。

2026年4月1日 に発効した改訂版では、NATが指標細胞法と同等の方法として正式に認められました。要求される検出限界は 10 CFU/mL 以下、または 100 GC/mL 未満。参照に使う材料については、ゲノムコピー数と生菌数の比、すなわち GC/CFU が 10 を超えないことが求められます。検証に用いる種の一覧にも Mycoplasma salivarium が加わりました。

運用の側でも変更があります。検体と並べて外部陽性対照を流すことが求められ、培養できる株とできない株の両方を検出できること、そして細胞と上清の両方を試験することが明示されました。マイコプラズマは細胞に付着したり内部に入ったりするので、上清だけを見ても足りないという整理です。⁠11の各条から方法と容量の指定が外れたのは、方法の選択を一般試験法の側に集約したということです。

二つの単位 ― CFU と GC は同じものを数えていない

新しい規定に二つの単位が並んでいるのには、理由があります。

CFU は、培地に播いてコロニーを作った数です。生きていて、かつその培地で増えられる菌しか数えません。一方の GC は、ゲノムのコピー数です。死んだ菌のDNAも、培地で育たない株のDNAも、断片化主鎖が切れて分子が分かれる劣化。低分子量体(LMW)として現れ、酸性側などで進みやすい。詳しく →していなければ数に入ります。

この二つは、同じ検体を測っても一致しません。一つの菌体が複数のゲノムを持っていれば GC は CFU より大きくなり、培養条件に合わない株なら CFU は極端に小さく出ます。だから標準品力価の基準に定めた品。検体と同じアッセイで並べて測り、相対力価の基準にする。詳しく →の値付けには、両方の数字と、その比が要ります。⁠GC/CFU を 10 以下に縛るという規定は、標準品そのものの素性を揃えるための条件です。

POINT

NATの検出限界を「10 CFU/mL 以下」と示すとき、その CFU をどの標準品で決めたかが結果を左右します。同じ 10 CFU/mL でも、GC/CFU が 2 の標準品と 10 の標準品では、装置が実際に見ているゲノムの量が 5倍 違います。NATによる生成物の検出を比べるなら、標準品の素性まで揃っていないと意味がありません。NAT向けのマイコプラズマDNAについて、はじめてWHOの国際標準品が置かれたのは、この揃えにくさが背景にあります。

NATが答えないこと

速さの代償も、はっきりしています。

いちばん大きいのは、生死を区別しないことです。核酸を見る方法なので、殺菌のあとに残ったDNAも拾います。陽性が出たとき、それが生きた菌なのか、すでに不活化ウイルスの感染性を失わせること。低pH保持や溶媒/界面活性剤処理で、エンベロープウイルスに効きやすい。詳しく →された菌の残骸なのかを、この測定だけでは切り分けられません。培養法なら、育たなければ陰性です。

次が阻害です。細胞治療の検体は、細胞、血清成分、凍害保護剤、残存するサイトカイン細胞が放出する免疫の情報伝達物質。細胞治療では効果と安全性のリードアウトになる。詳しく →など、反応を妨げうる成分を多く含みます。増幅が阻害されれば偽陰性になるので、内部標準検体に加える既知の対照。PCRが阻害されていないかを確認し、偽陰性を防ぐために用います。詳しく →を置いて増幅が成立したことを毎回確かめる必要があります。外部陽性対照を並べる規定は、この確認を運用として固定するためのものです。

三つ目が、検出する種の範囲です。プライマーの設計に含まれない種は拾えません。改訂で検証に用いる種の一覧が整理されたのは、ここを揃えるためです。⁠NATが答えるのは「その配列があるか」であって、「生きた菌がいるか」ではありません。

何を、いつ、どの方法で

検体によって、求められるものが変わります。

セルバンク目的物質を作る細胞をあらかじめ大量に凍結保存し、製造のたびに同じ素性の細胞を使えるようにした細胞の在庫(MCB/WCB)のことです。詳しく →は、いちばん手厚く試験する対象です。一度作れば何年も使い続ける原料なので、時間をかけても網羅性を優先します。培養法と指標細胞法を組み合わせ、必要ならNATを重ねる。ここで見落とすと、以後のすべてのロットが汚染されます。

製造の途中と最終製品は、製品の寿命で決まります。自家の細胞治療のように投与までが数日なら、NATしか選択肢がありません。試薬は Thermo Fisher Scientific の MycoSEQ や MycoSEQ Plus、Sartorius の Microsart ATMP Mycoplasma が使われ、実行機は Roche Diagnostics の LightCycler 480、Bio-Rad の CFX Opus、QIAGEN の Rotor-Gene Q、Takara Bio や Agilent、Analytik Jena の装置が使われます。培養系の日常的な監視なら、Lonza の MycoAlert のような酵素反応を使う簡便法も回せます。

もう一つ忘れてはいけないのが、入れないための管理です。環境モニタリングとメディアフィル、原材料の受け入れ試験、作業者の動線。出荷試験製品を患者に投与する前に安全性・品質・有効性を確認するために実施する一連の規格試験。詳しく →は最後の関門であって、防御の本体ではありません。

試験を設計する順番

マイコプラズマ試験見た目に異常がなくても細胞に影響する微生物マイコプラズマの汚染を確認する試験。詳しく →を組むとき、次の順で決めます。

一番目は、製品の寿命を確かめることです。 採取から投与までが数日なら、28日 の培養法は出荷判定製造したロットを規格に照らして出荷の可否を決める判断。有効期間の短い製品では時間との戦いになる。詳しく →に使えません。この一点でNATが必須になるかどうかが決まり、必要な設備も人も変わります。寿命に余裕があるなら、古典的な方法で組んだほうが説明は簡単です。

二番目に、検体ごとに方法を割り当てます。セルバンクは網羅性を、製造中と最終製品は速さを優先する。同じ製品でも段階によって求めるものが違うので、一律に決めないほうが実態に合います。三番目が標準品です。NATを使うなら、検出限界を示すための標準品を確保し、その GC/CFU 比まで含めて記録します。ここが揃っていないと、あとで検出限界の根拠を問われたときに答えられません。

四番目に、阻害の確認を手順へ組み込みます。内部標準と外部陽性対照をどう流すか、増幅が不成立だったときにどう扱うか。⁠最後に、陽性が出たときの手順を先に書いておきます。 NATの陽性は生死を区別しないので、培養法で追いかけるのか、再検査するのか、ロットをどう扱うのか。この決めごとが無いまま陽性を引くと、判断に時間を取られて製品の寿命が尽きます。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、細胞治療に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。