抗体医薬基礎知識・培養

セルバンクとは?抗体医薬の製造に使う細胞を保存・管理する工程

セルバンクとは?抗体医薬の製造に使う細胞を保存・管理する工程

抗体医薬の製造では、毎回ゼロから細胞株を作るわけではありません。

もし製造のたびに細胞株を作り直していたら、産生量も、増殖性も、抗体品質もぶれてしまいます。同じ製品を安定して作るには、製造の出発点になる細胞をそろえておく必要があります。

そこで使われるのがセルバンクです。

セルバンクは、細胞株開発で選ばれた細胞を凍結保存し、必要なときに同じ由来の細胞から製造を始められるようにする仕組みです。

セルバンクは、抗体医薬製造の出発点をそろえるための工程です。

選ばれた細胞株はセルバンクとして保存され、その後のシードトレイン、本培養へつながります。

なぜセルバンクが必要なのか

抗体医薬は、CHO細胞などの産生細胞株を使って作られます。

細胞株開発では、目的抗体をよく作り、増殖性や品質の面でも製造に向いた細胞株を選びます。

しかし、その細胞株を毎回新しく作り直すと、製造の出発点が変わってしまいます。出発点が変われば、培養の立ち上がり、産生量、品質特性にも影響する可能性があります。

そのため、製造に使う細胞株は、一定条件で増やし、複数のバイアルに分けて凍結保存します。

こうすることで、必要なときに同じ由来の細胞を起こし、製造を始めることができます。

セルバンクは、細胞を保存するだけでなく、製造の一貫性を支えるための仕組みです。

セルバンクとは

セルバンクとは、製造に使う細胞株を凍結保存し、将来の製造に繰り返し使えるように管理する仕組みです。

抗体医薬では、細胞株開発で選ばれた産生細胞株をもとにセルバンクを作ります。

セルバンクに保存された細胞は、製造時に融解され、シードトレインで段階的に増やされます。その後、本培養へ進み、目的抗体を産生させます。

セルバンクの位置づけ。細胞株開発、セルバンク、シードトレイン、本培養へつながる流れ

セルバンクは、単なる冷凍保存ではありません。

製造に使う細胞が、目的の細胞株であること、安全に使えること、融解後に回復して増殖できることを確認しながら管理されます。

セルバンクは、製造に使う細胞の基準点を作る工程です。

MCBとWCBの違い

セルバンクには、主に**マスターセルバンク(MCB)ワーキングセルバンク(WCB)**があります。

MCBは、選定した細胞株をもとに作られる基準となるセルバンクです。WCBは、MCBから作られ、実際の製造で使われるセルバンクです。

MCBとWCBの違い。MCBは基準となる親バンク、WCBは製造で使う作業用バンクとして示す図

種類役割
MCB細胞株の基準となる親バンク
WCB実際の製造で使うための作業用バンク

MCBは、細胞株の大元として管理されます。WCBは、製造のたびに融解して使うための作業用バンクです。

MCBとWCBを分けて管理することで、細胞株の一貫性を保ちながら、製造に必要な細胞を安定して供給できます。

セルバンク作製の主な流れ

セルバンク作製の流れは、細胞株、製品、施設、製造スケールによって異なります。

抗体医薬では、おおまかに次のような流れで整理できます。

セルバンク作製で何をするか。製造用細胞株の決定、バンキング用培養、細胞回収、凍結保存液への懸濁、バイアル充填、段階的凍結、液体窒素保管、主な確認項目を示す図

まず、細胞株開発で得られた候補の中から、製造に使う細胞株を決定します。

次に、その細胞株をセルバンク作製に必要な量まで増やします。これは本培養のためのシードトレインではなく、凍結保存する細胞を準備するためのバンキング用培養です。

培養した細胞は、状態を確認したうえで回収します。細胞密度、生存率、増殖状態などを見ながら、凍結に適したタイミングで回収することが重要です。

回収した細胞は凍結保存液に懸濁し、クライオバイアルなどに分注します。その後、管理された条件で凍結し、液体窒素タンクなどで長期保管します。

セルバンク作製後には、細胞が製造に使える状態で保存されているかを確認します。

セルバンク作製では、保存する前の細胞状態と、保存後に使えるかどうかの両方が重要になります。

セルバンクで確認すること

セルバンクでは、細胞が製造に使える状態で保存されているかを確認します。

確認する内容は、細胞の性能だけではありません。同一性、安全性、保存後の回復性、記録管理まで含めて確認されます。

項目内容
同一性目的の細胞株であること
細胞数必要な細胞数が確保されていること
生存率融解後に細胞が生きていること
回復性融解後に増殖できること
産生性目的抗体を産生できること
安定性保存後も性質が維持されること
無菌性細菌・真菌汚染がないこと
マイコプラズママイコプラズマ汚染がないこと
ウイルス安全性外来性ウイルスなどのリスクを確認すること
記録管理バイアル、ロット、保管場所、使用履歴を追跡できること

セルバンクは、製造の最初に位置する工程です。ここで問題が起きると、後のシードトレインや本培養にも影響する可能性があります。

そのため、セルバンクでは「細胞が保存できているか」だけでなく、「将来の製造に使える状態で管理できているか」を見ます。

セルバンクで使われる主な装置・資材

セルバンク作製では、培養、凍結、保管、確認試験に関わる装置や資材が使われます。

カテゴリ
培養容器フラスコ、バッグ、小型バイオリアクター
培地・試薬CHO用培地、サプリメント、凍結保存液
分注・充填自動分注装置、クライオバイアル、ラベル管理
凍結プログラムフリーザー、凍結コンテナ
保管液体窒素タンク、超低温フリーザー
細胞評価細胞カウンター、生存率測定装置、顕微鏡
汚染確認無菌試験、マイコプラズマ試験、微生物迅速試験
記録管理在庫管理システム、LIMS、電子記録

セルバンクでは、細胞そのものを扱うため、無菌操作、温度管理、ラベル管理、記録管理が重要になります。

特に、凍結保存や液体窒素保管では、温度逸脱や取り違えを防ぐための管理が欠かせません。

シードトレインとの違い

セルバンクとシードトレインは、どちらも細胞を扱う工程です。

ただし、目的は異なります。

セルバンクは、細胞を保存・管理する工程です。シードトレインは、セルバンクから起こした細胞を段階的に増やし、本培養へ渡す工程です。

項目セルバンクシードトレイン
主な目的細胞を保存・管理する本培養用に細胞を増やす
状態凍結保存された細胞培養中の細胞
役割製造の出発点をそろえる本培養へ橋渡しする
主な確認同一性、安全性、保存性細胞密度、生存率、増殖状態
次工程シードトレイン本培養

セルバンクは、細胞を長期的に安定して保管するための工程です。シードトレインは、その細胞を起こして本培養へつなぐための工程です。

セルバンクは保存の工程、シードトレインは増やす工程です。

まとめ

セルバンクは、抗体医薬の製造に使う細胞株を凍結保存し、将来の製造に使えるように管理する工程です。

製造のたびに細胞株を作り直すと、製造の出発点がぶれてしまいます。そのため、選定した細胞株をセルバンクとして保存し、必要なときに同じ由来の細胞から製造を始められるようにします。

セルバンクには、主にマスターセルバンク(MCB)とワーキングセルバンク(WCB)があります。MCBは基準となる親バンク、WCBは実際の製造で使う作業用バンクです。

セルバンク作製では、バンキング用培養、細胞回収、凍結保存液への懸濁、バイアル充填、段階的凍結、液体窒素保管、品質確認を行います。

セルバンクは、抗体医薬製造の出発点をそろえる工程です。

ここで管理された細胞は、シードトレインで段階的に増やされ、本培養へ進みます。

参考文献

  1. ICH. Q5D: Derivation and Characterisation of Cell Substrates Used for Production of Biotechnological/Biological Products. International Council for Harmonisation.

  2. ICH. Q5B: Analysis of the Expression Construct in Cells Used for Production of r-DNA Derived Protein Products. International Council for Harmonisation.

  3. WHO. Recommendations for the evaluation of animal cell cultures as substrates for the manufacture of biological medicinal products and for the characterization of cell banks, Annex 3, WHO Technical Report Series No. 978, 2013.

  4. FDA. Points to Consider in the Characterization of Cell Lines Used to Produce Biologicals. U.S. Food and Drug Administration.

この記事は、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法や品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。