
シードトレインは、凍結保存しておいた細胞を融解し、小さなフラスコから大きな培養容器へと、段階的に細胞を増やしていく工程です。抗体医薬の製造は大きなバイオリアクターでの本培養が中心になりますが、その本培養にいきなり入ることはできません。本培養を始めるのに十分な数の、元気な細胞を準備するのがシードトレインです。この記事では、シードトレインが製造のどこに位置し、どのような流れで進み、各段階で何を見て、本培養とどうつながるのかを、工程に沿って整理します。
シードトレインとは
シードトレインとは、ワーキングセルバンクから取り出した少量の細胞を出発点に、培養のスケールを少しずつ大きくしながら細胞数を増やしていく一連の工程を指します。「シード(種)」となる細胞を「トレイン(列車)」のように、容器から次の容器へと順送りで拡大していくイメージです。
凍結バイアル1本に含まれる細胞は、本培養に必要な量からするとごくわずかです。そのため、フラスコ、小型培養容器、シード培養と、段階を踏んで細胞を増やし、本培養バイオリアクターへ接種できる規模まで引き上げます。
抗体医薬製造のどこに位置するか
シードトレインは、培養(アップストリーム)の中で、クローニングで選んだ細胞株を実際に動かしはじめる工程にあたります。クローニングが「どの細胞株を使うか」を決める段階なら、シードトレインは「その細胞株を本培養に向けて育てる」段階です。
本培養の出来は、接種する細胞の量と状態に左右されます。シードトレインで増やした細胞が、十分な数と勢いを持っていなければ、本培養はうまく立ち上がりません。シードトレインは、本培養という主役の前の、欠かせない準備工程です。
シードトレインの流れ
典型的なシードトレインは、凍結バイアルの融解から始まり、容器を順に大きくしながら進みます。
- 凍結バイアル:ワーキングセルバンクから取り出し、融解する出発点
- 小型培養:融解した細胞を最初の容器で立ち上げる
- シェイクフラスコ:振とう培養で細胞を増やす
- シード培養:小型のバイオリアクターでさらに拡大する
- 本培養へ接種:十分な細胞数・状態に達したら、本培養バイオリアクターへ
各段階で細胞は分裂して増え、次の容器へ植え継がれます。容器が大きくなるにつれて培養液の量も増え、扱う細胞数も段階的に上がっていきます。
各段階で見る指標
シードトレインの間、細胞が順調に育っているかを確認するため、いくつかの指標がモニタリングされます。代表的なものが、細胞密度・生存率・増殖状態です。
細胞密度は単位体積あたりの細胞数で、どれだけ増えたかを示します。生存率は生きている細胞の割合で、培養が健全かどうかの目安になります。増殖状態は、細胞がどれだけ勢いよく分裂しているかを表します。これらを各段階で確認し、次のスケールへ植え継ぐタイミングや、本培養へ接種する準備が整ったかを判断します。
継代を重ねるシードトレインでは、各段階で細胞の状態を一定に保つことが、本培養の再現性につながります。同じ手順でも、植え継ぐタイミングや細胞の勢いがずれると、本培養の立ち上がりに影響することがあります。
文献にみる数値の例
シードトレインの具体的な条件は、細胞株や培地、製造プロセスによって異なります。参考として、文献で報告されている数値の例を挙げると、植え継ぎ時の接種密度はおおよそ 0.3〜0.5 × 10⁶ cells/mL、植え継ぎ比は 1:5〜1:10、シードトレイン全体の期間は 20〜30 日程度といった範囲が報告されています。これらはあくまで一例で、実際の設定は製品ごとに最適化されます。
本培養とのつながり
シードトレインのゴールは、本培養を良い状態でスタートさせることです。本培養に接種する細胞の数(接種密度)と状態が、その後の産生量や培養期間に影響します。
近年は、シードトレインの最終段を強化することで、本培養をより高い細胞密度でスタートさせる手法も用いられています。シードトレインの最後の一段をどう設計するかが、本培養全体の効率を左右する一例です。この発展的な手法は、別の記事で詳しく扱います。
まとめ
シードトレインは、凍結保存した少量の細胞を、本培養に必要な規模まで段階的に増やす準備工程です。フラスコからシード培養へと容器を大きくしながら、細胞密度・生存率・増殖状態を見て、本培養へ接種できる状態を整えます。本培養という主役を支える土台として、抗体医薬の培養の再現性を左右する工程です。
参考文献
- Kern S, et al. Cytotechnology. 2016;68:1019–1032.
- Yongky A, et al. mAbs. 2019;11(8):1502–1514.
- Schulze M, et al. Biotechnol Prog. 2022;38(1):e3213.