
抗体医薬の生産では、本培養をどれだけ良い状態でスタートできるかが、その後の産生量や培養期間に影響します。その本培養の一段手前(N-1)を強化し、高密度の細胞を準備して本培養に送り込む手法が、N-1パーフュージョンです。この記事では、N-1パーフュージョンの仕組み、なぜ高密度接種が効くのか、本培養にどんな効果をもたらすのかを、工程に沿って整理します。
N-1パーフュージョンとは
N-1パーフュージョンとは、本培養(N)の一つ前の段階(N-1)で、灌流(パーフュージョン)培養を行う手法です。灌流培養とは、新鮮な培地を連続的に供給しながら、使用済みの培養上清を連続的に排出し、細胞を培養容器内に保持したまま高密度まで増やす方式を指します。
通常のシードトレインの最終段では、ある程度の細胞密度まで増やして本培養へ接種します。N-1パーフュージョンでは、このN-1段で灌流を行うことで、はるかに高い細胞密度まで増やし、その高密度の細胞を本培養へ接種します。
なぜ高密度で接種するのか
本培養を高い初期細胞密度でスタートできると、いくつかの利点があります。
ひとつは、培養の立ち上がりが速くなることです。本培養の初期は、細胞が新しい環境に慣れ、増殖の勢いに乗るまでに時間(ラグタイム)がかかります。最初から多くの細胞がいれば、目的の細胞密度に到達するまでの時間が短縮され、早期から安定した生産に入れます。もうひとつは、生産性の向上です。高い初期細胞密度は、本培養全体での産生量(タイター)の向上や、収量の最大化に寄与します。
N-1パーフュージョンの狙いは、本培養の「スタート地点」を引き上げることにあります。シードトレインの最後の一段をどう設計するかが、本培養全体の効率を左右します。
仕組み:N-1段での灌流
N-1パーフュージョンの中心は、N-1段の培養容器に組み込まれた灌流の仕組みです。
灌流培養では、培養容器に新鮮培地を連続的に供給し、同時に培養上清を連続的に排出します。このとき、細胞は容器内に保持され、外には出ていきません。細胞を保持しながら老廃物を含む上清を入れ替えるため、栄養が枯渇せず代謝産物も溜まりにくく、細胞を通常よりはるかに高い密度まで増やせます。こうして調製した高密度の細胞を、本培養へ接種します。
本培養への効果
N-1パーフュージョンで高密度接種した本培養は、より高い初期細胞密度からスタートします。これにより、本培養の立ち上がりが速まり、生産性の高い状態へ早く到達できます。
報告されている例では、N-1パーフュージョンの活用により、本培養の生産性指標が向上したり、培養期間が短縮されたりするケースが示されています。文献では、空間あたりの生産性(STY)が向上した例や、培養期間が一定割合短縮された例が報告されています。N-1段で到達する細胞密度も、灌流を用いない場合と比べて大きく高い水準が報告されています。こうした数値は条件によって幅がありますが、N-1段の強化が本培養の効率に効くという方向性は共通しています。
まとめ
N-1パーフュージョンは、本培養の一段前(N-1)で灌流培養を行い、高密度の細胞を準備して本培養を高い初期細胞密度でスタートさせる手法です。立ち上がりの短縮と生産性の向上を通じて、本培養全体の効率を高めます。シードトレインの最後の一段をどう設計するかが、本培養全体の効率を左右する——その考え方を体現するのが、N-1パーフュージョンです。
参考文献
- Yongky A, et al. mAbs. 2019;11(8):1502–1514.
- Schulze M, et al. Biotechnol Prog. 2022;38(1):e3213.
- Kern S, et al. Cytotechnology. 2016;68:1019–1032.