抗体医薬基礎知識・培養

灌流培養とは?連続生産を支える高密度培養の方式

灌流培養(パーフュージョン)は、培養槽の中で細胞を増やしながら、培地を連続的に入れ替えていく培養方式です。新鮮な培地を流し込み、その分だけ使用済みの培地を抜き出す。このとき、産生された抗体は槽外へ取り出す一方で、細胞は槽内に留めておきます。この「細胞は残し、培地と産物は流す」を成り立たせているのが細胞保持装置です。

灌流は「細胞を保持して培地を流し続ける」培養

灌流培養の骨格はシンプルです。新鮮培地を一定の速さで供給し、同じ速さで培養液を抜き出す。ただし抜き出すとき、細胞をそのまま流してしまっては密度が保てません。そこで培養液を細胞保持装置に通し、細胞は槽内へ戻し、細胞を除いた清澄な液(産物を含む)を槽外へ取り出します。

この運転を続けると、栄養の供給と老廃物の排出が常に行われるため、細胞が置かれる環境は流加よりも一定に保たれます。結果として、流加よりも高い生細胞密度を長期間維持しやすくなります。槽の体積に対して多くの細胞を抱えられるため、同じ生産量なら槽を小さくできるのが特徴です。

項目流加(フェドバッチ)灌流(パーフュージョン)
培地の扱い栄養を逐次添加、抜かない連続的に供給・排出
細胞密度中程度でピークを迎える高密度を長期維持
運転期間数日〜2週間程度数週間〜長期
産物の取り出し培養終了後にまとめて回収連続的に槽外へ
後段との関係バッチ精製へ連続精製へ供給しやすい

灌流は産物を作り溜めるのではなく流し続けるため、後段の精製を連続で回す前提と相性がよいのが利点です。上流を連続化したぶん、清澄液を受け取る下流側も連続で処理できる設計が活きてきます。 灌流は上流の連続化を担い、下流の連続精製と組み合わせて初めて強みが出る 方式 です。

細胞保持装置が灌流の成否を握る

灌流を成立させる中心部品が細胞保持装置です。培養液から細胞だけを選り分けて槽に戻し、産物を含む清澄液を通す役割を担います。広く使われるのが中空糸膜(ホローファイバー)を用いるろ過方式で、駆動の仕方からATFとTFFに分かれます。

ATF(Alternating Tangential Flow)は、ダイヤフラムポンプで培養液を膜に対して往復させる方式です。流れの向きが入れ替わることで膜面に細胞が堆積しにくく、目詰まりを抑えやすいとされます。TFF(Tangential Flow Filtration)は、ポンプで一方向に接線流を作り、膜面に沿って液を流す方式です。いずれも膜の孔径を細胞より小さく、産物(抗体)より大きく設計することで、細胞は通さず産物は通します。

方式駆動の特徴一般的な利点留意点
ATF(中空糸)培養液を往復流膜面に細胞が堆積しにくい専用ポンプ・制御が必要
TFF(中空糸)一方向の接線流構成が比較的単純膜面の負荷管理
その他の保持沈降・遠心など膜を使わない選択肢も装置や運転条件に依存

孔径の選び方も設計の分かれ目です。産物を槽外へ通す設定(プロダクト・パーフュージョン)にするか、産物も槽内に留めて細胞をさらに高密度化する設定にするかで、運転の狙いが変わります。 細胞保持装置の方式と膜仕様の選択は、灌流プロセス全体の設計と切り離せない 要素 です。

POINT

細胞保持装置は「細胞を残し、産物を通す」ためのフィルタです。膜の孔径を細胞より小さく産物より大きく設計することで、高密度を保ちながら産物だけを連続的に取り出せます。

灌流速度(VVD)で培地交換量を管理する

灌流培養では、どれだけの培地を交換するかを灌流速度で管理します。よく使われる指標がVVD(Vessel Volumes per Day)で、1日あたり槽の体積の何倍の培地を流すかを表します。VVDが1なら、1日で槽1杯分の培地を入れ替える計算です。

VVDを上げれば老廃物の排出と栄養供給が手厚くなり、より高い細胞密度を支えられます。一方で培地の消費量が増え、運転コストにそのまま効いてきます。逆にVVDを下げると培地は節約できますが、栄養が細胞数に追いつかなければ密度や産生が頭打ちになります。細胞密度あたりの培地供給(CSPR:細胞比灌流速度の考え方)を意識し、細胞数の増加に合わせてVVDを調整するのが基本です。

操作起きることトレードオフ
VVDを上げる老廃物排出・栄養供給が増す培地消費・コスト増
VVDを下げる培地を節約栄養不足・密度頭打ちの恐れ
細胞数に追従密度と供給のバランス維持制御と測定の整備が必要

VVDは固定値で回すこともできますが、細胞密度の立ち上がりに合わせて段階的に上げていく運用も一般的です。 灌流速度の設計は、到達したい細胞密度と培地コストのバランスをとる 作業 になります。

中空糸膜の目詰まりを監視する

灌流の運転で避けられないのが、中空糸膜の経時的な目詰まりです。運転日数を重ねるほど、膜の孔に細胞由来の成分やデブリが蓄積し、膜の通りが悪くなっていきます。これは差圧(TMP:膜間差圧)の上昇として現れます。同じ流量を保とうとすると、より大きな圧がかかるようになります。

もう一つ注意したいのが、産物の保持率(シービング)の変化です。本来は通り抜けるはずの抗体が、膜の目詰まりとともに通りにくくなり、清澄液側の産物濃度が下がる、あるいは産物が槽内に溜まり始めることがあります。差圧と保持率は、灌流が健全に回っているかを判断する基本指標です。これらが崩れ始めたら、膜の交換や運転条件の見直しを検討する局面に入ります。

監視項目見ていること異常の現れ方
差圧(TMP)膜の通りやすさ経時的な上昇
産物保持率産物が膜を通る度合い清澄液側の濃度低下
灌流流量設定どおりの交換量か流量低下・制御の乱れ
細胞密度・viability槽内の細胞状態密度の頭打ち、活性低下

長期運転を前提とする以上、膜は消耗品として扱い、いつ性能が落ちるかを見越して監視と交換の計画を組んでおきます。崩れてから止めるのではなく、傾きの段階で気づける運転を狙います。 差圧上昇と保持率低下は、膜の状態を読むための二つの基本 サイン です。

流加との使い分けと連続生産での位置づけ

灌流が常に流加より優れるわけではありません。どちらを選ぶかは、製品、生産量、設備、運転期間の前提で変わります。流加は運転がシンプルで、バッチごとの区切りが明確なため、品質管理や工程管理の組み立てがしやすいという利点があります。灌流は装置構成と監視項目が増えるぶん、運転の複雑さは上がります。

それでも灌流が選ばれるのは、小型の槽で長期にわたり一定の産生を続けられるからです。連続生産やプロセス強化の文脈では、上流を灌流で連続化し、清澄液を連続精製へ流す構成が中核に据えられます。また、本培養そのものではなく、シードトレインの最終段を灌流で高密度化してから本培養へ接種する使い方(N-1灌流)もあります。これは本培養の立ち上がりを速め、生産性を底上げする狙いです。製造の管理面では、培養方式によらず、ICH Q5A(R2)が示すウイルス安全性の枠組みなど、品質・安全性の要件を満たす前提になります。

観点流加が向く場面灌流が向く場面
運転のシンプルさ重視する複雑さを許容できる
生産量と槽サイズ大型槽でまとめて小型槽で連続的に
後段の構成バッチ精製連続精製と組み合わせ
不安定な産物滞留時間が長い連続回収で滞留を短く

灌流は流加の置き換えというより、連続生産という設計思想の一部として捉えると位置づけが掴みやすくなります。 灌流は、上流を連続化して下流の連続精製へつなぐプロセス強化の 中核 です。

POINT

灌流とN-1灌流は別の使い方です。前者は本培養そのものを連続化し、後者は本培養の前段(シード)を高密度化して立ち上がりを速めます。どちらも高密度培養という共通の発想に立っています。

まとめ

灌流培養は、細胞保持装置で細胞を槽内に留めながら培地を連続交換し、高い生細胞密度を保ったまま産物を連続的に取り出す方式です。中空糸膜を用いるATFやTFFが広く使われ、灌流速度(VVD)で培地の交換量を管理します。長期運転では膜の目詰まりが避けられないため、差圧の上昇と産物保持率の低下を監視し、膜の状態を傾きの段階で読むことが運転の要点になります。

流加との優劣は前提次第ですが、灌流は小型槽での長期・一定の産生を可能にし、後段の連続精製へ清澄液を供給します。連続生産やプロセス強化を考えるとき、その中核に位置する方式として押さえておきたいところです。シードトレインや連続精製と並べて読むと、上流を連続化する意味がより立体的に見えてきます。

参考文献

  • ICH Q5A(R2), Viral Safety Evaluation of Biotechnology Products Derived from Cell Lines of Human or Animal Origin.
  • ICH Q6B, Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products.
  • ICH Q5C, Quality of Biotechnological Products: Stability Testing of Biotechnological/Biological Products.
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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。
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