抗体医薬基礎知識・製造工程

連続・コネクテッド生産とは?プロセス強化が現実解になるまで

上流が高密度化したのに、下流が追いつかない。プロセス開発でよく聞く行き詰まりです。灌流で細胞を高い密度のまま長く走らせられるようになり、フェドバッチでも種培養の最終段を灌流で強化する構成が広がりました。濃く速くなった上流に、バッチ前提の精製ラインをどう合わせるか。ここでプロセス強化と連続・コネクテッド生産培養から精製までを区切らず流れとしてつなぐ生産方式。ICH Q13が承認の道筋を示す。詳しく →が出てきます。

基準工程マップ|抗体医薬/モノクローナル抗体この製造の全体像を、工程マップで見る
連続・コネクテッド生産とは?プロセス強化が現実解になるまで

ただし「連続化すれば効率が上がる」という話ではありません。核心は一点で、連続クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →では生産性と樹脂の利用率が同時には上がらない。どちらを取るかを先に決めないと、装置を入れても何が改善したのか説明できなくなります。カタログの数字が両方を並べて書いているので、ここは特に混ざります。規制の側は先に整いました。ICH Q13原薬・製剤の連続生産に関する品質・規制の考え方を整理した国際調和ガイドライン。詳しく → が2022年に確定し、承認の道筋は見えています。残っているのは、どこをどうつなぐかという設計の判断です。

本稿では、何がつながったのかから始めて、連続化しないまま効く N-1強化、マルチカラムが樹脂を減らす仕組みとその代償、ICH Q1医薬品の安定性試験の実施条件(長期・加速・過酷)および保管条件の設定方法を規定した国際ガイドライン群。詳しく →3 が用意した枠組み、サージとPAT主に低分子製造で、化学反応の進み具合(転化率など)を製造中にその場で追跡する手法です。こうしたリアルタイム測定・制御の技術はPATと呼ばれます。詳しく →という前提、設備が小さくなる理由を整理します。最後に、決める順番を並べます。数値は品目と装置で動くので、効く向きのほうを持ち帰ってください。

この記事の要点
  • 灌流ハーベストをサージタンク経由でマルチカラムへ流す構成が、実プロセスで動いています。
  • マルチカラムは樹脂量を大きく減らせますが、生産性と樹脂利用率はトレードオフの関係にあります。
  • ICH Q13 は2022年11月に確定し、治療用タンパク質の原薬についても Annex III で扱われています。

何がつながったのか ― 灌流とマルチカラム

つながっているのは、上流の出口と下流の入口です。

灌流培養では、培地を入れ続けて老廃物を抜き続けます。細胞保持装置で細胞を槽に留め、製品だけを連続的に取り出す。取り出された液はサージタンクを経由して、マルチカラムクロマトグラフィー大きな1本を小さな複数本に分け、負荷と洗浄・溶出・再生を並行して回すクロマト。連続運転と相性がよい。へ流れ込みます。

マルチカラムは、大きなカラム1本を小さな複数本に置き換える構成です。ある列に試料をロードしているあいだ、別の列では洗浄と溶出と再生が並行して進む。止まらない上流との相性がよく、装置としては Cytiva の ÄKTA pcc、Sartorius の Resolute BioSMB、YMC の Contichrom といった製品があります。細胞保持の側は Repligen の XCell ATF灌流培養で使用済みの培地を入れ替えつつ、細胞は培養槽に残すための装置です。中空糸膜などで細胞と液をより分けます。詳しく → や KrosFlo TFDF が使われます。

後段でも、固定樹脂に頼らないメンブレンクロマトグラフィーや、インラインのTFFシステムを組み合わせて、各ユニットを途切れさせない設計が試みられています。原理はUF・DF/TFFの基礎で扱っています。

連続生産の実体は「止めない装置」ではなく、装置と装置のあいだを埋める設計です。

N-1強化 ― 連続化しないまま効く一手

全部をつながなくても効く手が、一つあります。

種培養の最終段、つまり本培養の一つ手前を灌流で回す構成です。N-1強化流加培養で種培養の最終段を灌流で強化し、本培養の開始細胞密度を高める手法。と呼ばれます。通常の種培養では 1〜3×10⁶ cells/mL あたりで本培養種培養で増やした細胞を大型の培養槽に移し、目的物質を本格的に産生させる最終段階の培養です。栄養を追加しながら育てるフェドバッチが広く使われます。詳しく →へ移しますが、この段を灌流にすると 50×10⁶ cells/mL を超える密度まで持っていけます。高い密度で本培養へ接種すれば、増殖に使う日数が減り、そのぶん産生期間が長く取れる。

本培養そのものはフェドバッチのままです。下流もバッチのまま。それでも培養期間が短縮され、槽あたりの生産量が上がります。つながっていない工程の中に、連続の要素を一つだけ入れる形です。

ここが実務的に効きます。ラインを全部つなぐ判断は投資も規制対応も重いのに対し、N-1強化は既存設備の延長で試せる。 連続化は全部か無かの選択ではなく、どの区間から始めるかの選択です。

POINT

プロセス強化と連続生産は同じ意味ではありません。強化は単位体積あたりの生産量を上げること、連続は工程を途切れさせないこと。N-1強化は「強化だが連続ではない」例で、灌流から連続精製までつないだ構成は両方を満たします。どちらの目的で入れるのかを先に決めておくと、評価の軸がぶれません。

マルチカラムの数字 ― 樹脂を9割減らす

効き幅には、報告された数字があります。

Protein A捕捉黄色ブドウ球菌由来のProtein Aをリガンドとして用い、抗体医薬の製造で抗体を選択的に捕捉・精製するアフィニティークロマトグラフィー法。詳しく →をマルチカラムに置き換えた検討では、比生産性細胞1個あたりが単位時間に産生する製品量。細胞数によらず産生能を比べるための指標。詳しく →が最大で 81% 向上し、必要な樹脂量は最大 92% 減ったとされています。4本構成の系で、クロマトグラフィーで清澄化培養液から細胞や破片を取り除いて目的物質を含む上清を回収し、後工程に渡せる清澄な液にする工程です。詳しく →した原料を使った場合の生産性向上は 49%。捕捉カラムのサイズは、バッチと比べて 1〜2桁 小さくできると報告されています。

仕組みは単純です。バッチのクロマトグラフィーでは、製品が漏れ始める手前でロードを止めます。樹脂の結合容量担体が結合できる目的物の量。大きな粒子は樹脂ビーズの細孔に入りにくく、結合容量を稼ぎにくい。詳しく →の上のほうは、漏れを避けるために使い残される。マルチカラムでは、漏れた製品を次の列が受け止めるので、一本目を限界まで使い切れます。

同じ理屈から、緩衝液の消費も減ります。カラムが小さければ、洗浄も溶出も再生も少ない液量で済む。Protein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく → 樹脂が精製コストの中で占める重さを考えると、ここは効きます。

マルチカラムが稼いでいるのは速度ではなく、これまで捨てていた結合容量です。

ただし生産性と樹脂利用率は両立しない

ここに、装置のカタログには出てこない制約があります。

最適化を検討した報告では、収率 99% を保った条件で、生産性を最大にすると樹脂利用率は 60% にとどまりました。逆に樹脂利用率を最大の 95% まで引き上げると、生産性は 0.38 mg/mL/min から 0.10 mg/mL/min へ、3分の1近くまで落ちます。

理由は、樹脂を使い切るには長くロードする必要があるからです。長くロードすれば時間あたりの処理量は下がる。速く回せば使い残しが出る。同じ装置で、どちらの端に寄せるかを選ぶ話です。

判断は品目の事情で変わります。樹脂が高く、生産量がそれほど要らないなら利用率側へ。設備の稼働時間が逼迫しているなら生産性側へ。 「連続にしたら効率が上がった」という言い方は、二つの効率のどちらを指しているかを言わない限り成立しません。

ICH Q13 が用意したもの ― Annex III とバッチの定義

規制の側は、先に形が整いました。

ICH Q13 は2022年11月16日に Step 4 に達し、FDA は2023年3月にこれを採用しています。ICH Q8、ICH Q9、ICH Q10医薬品品質システムを定めた国際ガイドライン。ライフサイクルを通じた品質マネジメントの考え方を示す。詳しく →、ICH Q11原薬の開発・製造を扱い、原薬側の管理戦略の作り込みを示すICHのガイドライン。詳しく → の上に立つ位置づけで、原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →と製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。詳しく →の両方を対象にしています。化学合成品だけでなく治療用タンパク質も範囲に入っていて、Annex III が治療用タンパク質の原薬を扱います。

適用範囲も広く取られています。新規の品目だけでなく、既存製品をバッチから連続へ転換する場合も対象です。出口が見えたことで、移行の判断がしやすくなりました。

実務で効くのは、バッチの定義です。連続生産では、バッチを時間で切ることも、製造量で切ることも、投入した原材料の量で切ることもできるとされています。加えて、滞留時間分布各工程に物質が留まる時間のばらつきで、連続生産では最終品質を左右する。詳しく →を把握して原材料製造の起点となる原料で、その品質や持ち込む不純物が最終製品の品質に影響しうるため、規格管理が重視される物質。詳しく →と製品の対応を追跡すること、規格を外れた部分を分流させる戦略を持つことが求められます。

連続生産で難しいのは止めないことではなく、止まらない流れのどこからどこまでを一つのロットと呼ぶかを決めることです。

POINT

ロットの定義を時間で切ると、運転時間が変動したときにロットの大きさが揺れます。製造量で切ると、揺れるのは運転時間のほう。どちらを選んでも何かが揺れるので、揺れた側を安定性試験や出荷判定がどう受け止めるかまで含めて決めます。装置の導入検討より先に置くべき論点です。

サージとPAT ― 止まらないことの代償

つなぐと、新しい管理項目品質に影響しうる要素を、規格や手順で規定し・実行し・記録し・検証する対象として管理するもの。GMPでは原材料から出荷判定まで多岐にわたります。詳しく →が生まれます。

一つがサージ管理です。上流の産出量と下流の処理量は、常には一致しません。ずれを吸収するのがサージタンク連続工程で流量や液量の変動を吸収する緩衝用のバッグやタンクです。前後の工程の流れの差を一時的にためて調整し、流れを安定させます。詳しく →ですが、ここで液が滞留する時間そのものが、ホールドタイムの管理対象です。無限に大きくすれば連続の意味が薄れ、小さすぎれば上流か下流のどちらかを止めることになる。

もう一つがPATです。バッチなら工程の終わりに試験して判定できますが、流れ続けている工程ではそれができません。ラマン分光のようなインラインの計測で、状態を走りながら把握する必要があります。逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →が起きたときにどこを切り出すかも、この計測の解像度に依存します。

そして装置の信頼性です。バッチなら一つの装置が止まってもその工程だけが遅れますが、つながった系では上流も下流も巻き込みます。 つなぐという判断は、止まったときの影響範囲を広げる判断でもあります。

設備の大きさ ― 浮くぶんと、出ていくぶん

経済性の側で効いているのは、装置の大きさです。

灌流では、同じ生産量をより小さい槽で出せます。捕捉カラムは 1〜2桁 小さくなり、緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →のタンクも小さくなる。建屋そのものが縮むので、初期投資と用役の負担が下がります。

シングルユースとの相性もいい。装置が小さければシングルユース化しやすく、洗浄バリデーション設備を洗浄した後、前の製品の残留がないことを検証し交叉汚染を管理する活動。詳しく →の負担も減ります。多品種を切り替えて作る施設では、ここが直接効いてきます。

一方で、培地の消費量は増えます。灌流では CSPR細胞1個が1日に必要とする培地体積を表す指標(pL/cell/day)。灌流速度や培地消費量の設計の土台になる。詳しく → がおおむね 20〜50 pL/cell/day、VVD灌流速度を作業体積で正規化した槽体積回転数/日。1日に作業体積の何杯分を入れ替えるかを表す。詳しく → で 1〜5 の範囲を回すので、フェドバッチより多くの培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →が要る。CSPRと灌流速度で扱っているとおり、灌流の経済性は培地量が律速します。

設備で浮いたぶんと培地で出ていくぶんを足し引きしないと、連続化の損得は出ません。

決める順番

最後に、順番を並べます。

先に決まるのは、何を改善したいのかです。槽あたりの生産量か、設備の大きさか、樹脂の消費か、切り替えの速さか。 目的を一つに絞らないと、トレードオフのどちら側へ寄せるかが決まりません。

次に、どの区間から始めるかを決めます。全部つなぐ前に、N-1強化だけ、あるいは捕捉工程培養液から目的の抗体だけを大きく濃縮・精製する工程。抗体医薬ではプロテインAが担う。詳しく →のマルチカラム化だけ。既存設備の延長で試せる範囲から入れば、投資の判断を段階に分けられます。

そのうえで、生産性と樹脂利用率のどちらへ寄せるかを決めます。 同じマルチカラム装置でも、寄せる先が違えば運転条件も評価指標も別物です。

最後に、ロットの定義とPATを設計します。時間で切るか量で切るか、滞留時間分布をどう押さえるか、逸脱時にどこを分流するか。ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q13 が並べているのはこの部分で、装置を入れてから考えると申請で詰まります。

参考文献

この記事に関連する工程

モノクローナル抗体全23工程全工程を見る →
  1. 細胞株・シード1工程
  2. 培養・産生3工程
  3. 回収・清澄化1工程
  4. 精製8工程
  5. 製剤・充填2工程
  6. 品質特性・分析8工程
より詳しい工程情報を見る
  • 23工程の基準法と、その選び方の根拠
  • 各工程の装置・試薬とメーカー
  • 代替・補完の選択肢 67件

次に読む

抗体医薬/モノクローナル抗体この製造の全体像を、工程マップで見る
Newsletter

この分野の新着を、メールで受け取る

こうした製造・分析・品質の解説記事と、装置・試薬の新製品ニュースを月数回お届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。

登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。

目次・関連閉じる
編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。