ホールドタイム試験とは?金曜に終えた工程を月曜まで置ける根拠

FDAは2017年11月6日付で、インドの Lupin の Goa と Indore の工場に警告書を出しました。会社は基準を外れた試験結果を、外れ値や試験室の誤りとして片づけていましたが、FDAは Indore の工場について、工程の途中で長く置いた時間が結果の一因かもしれないと述べました。置いておくだけの時間が、品質を動かすことがあるのです。
ホールドタイム試験(hold time study)は、工程の途中で液や機器が待つ時間に上限を引き、その上限までなら品質が保たれることを、データで示す試験です。金曜の夕方に終わったバルクを月曜まで置く、洗浄した機器を次の使用まで棚に置く。現場では日常の判断ですが、査察で「何時間までなら大丈夫か」と問われると、慣習で回っているだけで答えに詰まることがあります。
製造は指図書に時間を書き、品質保証は試験の計画と逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →を見ます。保持用の容器を選ぶ購買や、それを提案する営業も、容器を替えれば試験をやり直す場面があることを知っておく必要があります。
待ち時間に根拠がないとき ― 警告書に出る指摘
待ち時間の管理は、査察官の思いつきではなく条文にあります。
米国のGMP(21 CFR 211.111)は、必要な場合に製造の各段階の完了までの時間制限を設けること、その時間を外れたときは品質を損なわないことを正当化して記録することを求めています。欧州では、EU GMP Annex 1無菌医薬品の製造に関するEU GMPの付属書。汚染管理戦略などを求める無菌製造の基準。詳しく → に、無菌製品と、曝露した機器の最大保持時間を検討する記述があります。WHOのTRS 992 Annex 4は、ホールドタイム試験の一般的な指針です。
実際の指摘を見ます。FDAは2020年10月15日付で、米国の Cosmax USA の製造所に警告書を出しました。製造の各段階の時間制限を定めていない、バルクの保持時間の試験がない、承認された試験なしに最大保持時間を決めている、その時間を超えても適切に調査していない、という内容です。会社は、日常の品質試験をしているのでリスクはないと答えましたが、FDAはこの説明を受け入れませんでした。
冒頭の Lupin の件も同じ構図です。FDAは、各段階の時間制限が適切に定められておらず、バルクを長く置いているのに保持時間の試験が十分でないことを指摘し、その保持時間が基準外の結果の一因になっているかもしれないと述べました。
出荷前の試験に合格していることは、待ち時間の根拠になりません。待った時間の間に何が起きるかは、別に試験して示します。
3つのホールドと、戻らないもの ― 菌とエンドトキシン
待ち時間は、止まっているものと守る対象によって、性格の違う3つに分かれます。
3つは守る対象が違うので、試験も許容時間も別々に置きます。クリーンとダーティは洗浄バリデーションの中で扱われます。

バルクのホールドで、もっとも注意したいのが微生物です。条件がそろえば、30分前後で倍に増える菌がいます。30分ごとに倍になる場合、8時間置くと、最初の1個が約6万個に増えます。栄養のあるバルク液を2〜8℃で保持するのは、この増える速さを遅らせるためです。
増えた菌は、あとの工程で取り除けます。取り除けないのは、増えたときに出たものです。グラム陰性菌の外膜にあるエンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →(発熱物質)は、菌が死んでも残ります。ろ過で菌を除いても、すでに出たエンドトキシンは取り切れずに製品へ残ります(エンドトキシン)。ですから、バイオバーデン(その時点の菌数)とエンドトキシンは別々に見ます(バイオバーデンとエンドトキシン)。
菌数はあとで下げられても、エンドトキシンは下げられません。ホールドの安全性は、その両方で示します。
試験の設計 ― 製造容器、最悪の条件、測る時点
試験の設計で外れやすいのは、容器、条件、時点の3つです。
保持するのは、実際の製造容器です。実験室のガラス瓶に小分けして棚に置くと、材質も表面積の比も温度の伝わり方も、本番と違います。ステンレスのタンクとシングルユース使い捨ての樹脂製バッグや容器を用いる製造方式です。洗浄・滅菌の手間を減らせる一方、ステンレス設備と比べて特徴が異なり、目的に応じて選び分けます。詳しく →の保持バッグでは、溶出も吸着も微生物の付き方も変わります。容器を変えた試験は、本番のホールドを代表しません。保持バッグへ切り替えるときも、試験の見直しが要ります(保持バッグ、ステンレスタンク)。
条件は、本番のいちばん厳しいところに合わせます。温度は実際に起こりうる最高の温度で、空調が止まる休日や、夏場の非管理区域を想定します。設定温度ではなく、実測の最高値を使います。初期の菌数も高い側を取ります。通常のバッチは菌数が低く、置いても増えたかどうかが見えにくいので、意図的に高めの菌数を設定するか、菌数の高かったロットを選びます。液面と気相の比が変わると酸素の供給も蒸発も変わるため、満量と少量の両方を見る設計もあります。
測る時点は、想定する最大の時間だけでは足りません。0時間、想定時間の半分、想定時間、その先と置いておくと、途中で何が起きたかが分かり、上限をどこに引いたかの説明が立ちます。ロットの数は、WHOの指針ではリスク評価で決めるとされています。「3ロット」という数字は、ほかのバリデーションから持ち込まれた慣習です。
ワーストケース溶けにくく毒性が高い製品や洗いにくい箇所など、最も厳しい条件を選んで代表評価する考え方。詳しく →を甘く作った試験は、通ったという事実だけが残って、根拠になりません。
上限を決めたあと ― 指図・逸脱・延長
上限が決まったら、製造指図に落とします。
書き方は具体的にします。「速やかに次工程へ」ではなく、「この工程の終了から24時間以内に次工程を開始する」と書き、時間を記録する欄を指図に置きます。記録がなければ、超えたかどうかも分かりません。
超えたときの扱いも先に決めておきます。211.111は、時間制限からの逸脱が品質を損なわないなら許容されうるとしつつ、その正当化と記録を求めています。超えた瞬間に廃棄するのではなく、逸脱として調査し、品質への影響を評価する道が条文にあります。ただし、評価できるデータがあるときの話です。
延長したくなったら、試験をやり直します。24時間の根拠で48時間を運用することはできません。ホールドタイムは汚染管理戦略(CCS)の中で時間の管理に位置づけられるので、延長は戦略全体への変更として扱います。
試験をやり直さずに時間だけ延ばすと、指図の数字から根拠が抜け落ちます。
明日から確かめられること
自分の工程について、次の点を見てみてください。
- 工程図で、液や機器が止まる箇所をすべて洗い出した一覧があるか
- 洗い出した箇所ごとに、バルク、クリーン、ダーティのどれかが分かり、上限と試験の記録が結びついているか
- 試験は実際の製造容器で、最悪の温度と高めの初期菌数で行ったか
- 菌数だけでなく、エンドトキシンも見ているか
- 製造指図製造ロットごとに手順・使用資材・実施者・確認結果を定められた様式で記録した原本。そのとおりに作ったことを証明する文書です。詳しく →に、時間の記録欄と、超えたときに逸脱へ入る手順があるか
- 保持の容器を替えたり、時間を延ばしたりするとき、試験のやり直しを判断する決まりがあるか
洗浄とバルク保持の考え方は洗浄バリデーションに、ステンレスとシングルユースの違いはシングルユースとステンレスの比較にあります。
参考文献
- WHO, General guidance on hold-time studies(WHO Technical Report Series No. 992, Annex 4)
- FDA / eCFR, 21 CFR 211.111: Time limitations on production
- European Commission, EudraLex Volume 4, Annex 1: Manufacture of Sterile Medicinal Products(2022年8月22日)
- FDA, Warning Letter, Cosmax USA, Inc.(2020年10月15日)
- Pink Sheet, FDA Warns Lupin To Stop Blaming Lab And Fix Manufacturing Processes(2017年11月)
- RAPS, Lupin Warned by FDA for Deficiencies at Two Facilities(2017年11月15日)
- FDA, Guide to Inspections of Validation of Cleaning Processes
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