XCell ATFの使いどころ:N-1灌流が要る工程、要らない工程

XCell ATF は、Repligen の細胞保持装置灌流培養で使用済みの培地を入れ替えつつ、細胞は培養槽に残すための装置です。中空糸膜などで細胞と液をより分けます。詳しく →で、シードトレインの最後の段(N-1)を灌流で回し、本培養種培養で増やした細胞を大型の培養槽に移し、目的物質を本格的に産生させる最終段階の培養です。栄養を追加しながら育てるフェドバッチが広く使われます。詳しく →を濃い細胞密度で始めるために使われます。装置の役目は、培養液を入れ替えるあいだ、細胞を槽に残すことです。
ただし、灌流を使わず種培養少量の細胞を段階的に大きな容器へ植え継ぎ、本培養に必要な量まで増やしていく一連の種培養です。各段階で健全に増えているかを確認します。詳しく →の培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →を濃くするだけで、本培養を従来より何倍も濃く始められたという報告もあり、ATFが要るかどうかは本培養をどの濃さで始めたいかで決まります。
この記事では、XCell ATF の仕組み、灌流が要るかどうかの見分け方、導入で変わる運転、よくある失敗、導入前に確かめる項目を順に説明します。N-1灌流本培養の一つ前の工程で灌流培養により細胞を高密度まで増やし、高い密度で本培養へ植え継ぐ手法です。詳しく →という方法そのものはN-1灌流とはで先に読めます。
1. XCell ATFの仕組み ― 液の往復で膜の詰まりを防ぐ工夫
ATF(交互接線流ろ過、alternating tangential flow)は、培養槽の外につなぐ細胞保持装置です。
装置の中には、ストロー状の膜を束ねた中空糸フィルターと、ダイアフラム(膜状の仕切り)で動くポンプが入っています。
ダイアフラムを圧縮空気で押し、真空で引くと、培養液が槽と中空糸のあいだを行き来します。そのあいだに、細胞より小さな培地の成分だけが膜の壁を抜けて外へ出ていき、細胞は槽に戻ります。
抜いた分だけ新しい培地を足せば、細胞を槽に残したまま培養液を入れ替えられます。
この方式の要点は、流れの向きが周期的に入れ替わることです。膜の表面に細胞や細かなかけらがたまりにくくなるため、膜の詰まり(ファウリング細胞や破片、製品成分が膜面や細孔に溜まって透過抵抗が上がる現象。回収率低下を招く。)を抑えられます。
灌流の運転でいちばん支障が出るのは、膜が詰まって培養液を抜けなくなることなので、この性質が選ばれる理由の中心です。
XCell ATF は、0.5 Lほどの培養に合わせた小さな機種から、5,000 L規模の培養槽に合わせた機種までそろっていて、使い捨て(シングルユース使い捨ての樹脂製バッグや容器を用いる製造方式です。洗浄・滅菌の手間を減らせる一方、ステンレス設備と比べて特徴が異なり、目的に応じて選び分けます。詳しく →)の機種もあります。
Sartorius は、シングルユースバイオリアクター使い捨ての樹脂製バッグを培養容器に用い、洗浄・滅菌の手間を省いて交叉汚染のリスクを下げる培養装置です。詳しく →の Biostat STR撹拌翼で機械的に混ぜ、スパージャーで通気する最も標準的なバイオリアクターの型式。詳しく → に XCell ATF を組み込んだ構成を用意しています。ATFとTFF(一方向に流すろ過)の違いそのものはATFとTFFの違いで中立に比べています。
XCell ATF が解いているのは、細胞を残すことより、灌流のあいだ膜を詰まらせないことです。
2. 灌流が要るかどうかの見分け方 ― 本培養を始めたい濃さからの逆算
先に決めるのは装置ではなく、本培養を始めたい細胞の濃さ(接種密度)です。
目安になる報告が2つあります。
- 灌流を使わない方法:N-1の培地を濃くして、本培養を従来より何倍も濃く始められ、力価(培養液あたりの抗体の量)と品質は、灌流のN-1から同じ濃さで始めたものと同程度でした。5 Lの小さな槽から1,000 Lの本培養まで確かめています(Yongky ら、2019年)。
- N-1を灌流で回す方法:本培養をさらに濃く始めることで、4種類の細胞で力価が約2倍になりました(Xu ら、2020年)。
中身は論文解説で読めます。
目標が従来の5〜10倍ほどの濃さなら灌流なしでも届く可能性があり、それを大きく超えるなら灌流が要ります。
N-1でどこまで濃くする必要があるかは、N-1と本培養の槽の大きさの比で決まります。N-1の槽を一回り大きくできれば、必要な濃さは下がり、灌流の負担も軽くなります。
N-1灌流の使い方も1つではなく、濃く始めた分を力価の増加に回す使い方と、同じ力価のまま本培養の日数を縮めて1年に回せるバッチを増やす使い方があります。
後者の例として、2019年に韓国の Samsung Biologics は、3,000 Lの種培養の槽にATFをつないで灌流で回し、15,000 Lの本培養へ細胞を送りました。顧客の製品の製造期間は、最大30%縮んだと発表しています。
どちらの使い方も、上流から下流までをつなぐ連続生産のように工程全体を作り直すのではなく、いまある本培養の手前の段(N-1)に手を加える形で収まります。
メーカーに聞くべきは「何 cells/mL まで届きますか」ではありません。「自社の槽の大きさの比で必要な濃さを、灌流の量をどこまで抑えて、何日安定して保てますか」です。この問いに答えるには、自社が本培養をどの濃さで始めたいかを先に伝える必要があります。
灌流が要るかどうかは、本培養を始めたい濃さと、N-1と本培養の槽の大きさの比で、装置を見る前にほぼ決まります。
3. 導入で変わる運転 ― 培地、センサー、設備
ATFを入れると、N-1の運転は従来の種培養と大きく変わります。
いちばん大きく変わるのは培地の量です。灌流では、1日に槽の容量と同じくらいか、それ以上の培地を入れ替えることがあり、Samsung Biologics も1日に槽の3杯分まで入れ替えられる体制だと説明しています。
量を抑える手段として効くのが、細胞の数に合わせて灌流の量を変えるやり方です。培養液に差し込んで生きた細胞の量を測る静電容量プローブ培養液の静電容量から生細胞密度をオンラインで測定するセンサーのこと。詳しく →(Hamilton や Aber Instruments の製品が知られています)で灌流の量を自動で合わせたところ、槽の容量を基準に決めた量で入れ替えるやり方より、培地の使用量がおよそ4分の1減ったという報告があります(Rittershaus ら、2022年)。
必要な培地の量と費用は灌流速度・培地消費量の計算ツールで見積もれます。
目標の濃さに届いたあとも細胞は増え続けるため、濃さを保ちたいなら増えた分の細胞を抜きます(ブリード)。考え方はセルブリード制御の解説にあります。
設備の側にも準備が要ります。ATFのポンプは圧縮空気と真空で動くため、コントローラーにどんな供給が要るかをメーカーに確かめ、培養室での取り回しを決めておきます。
中空糸フィルターという消耗品も加わるため、その調達と在庫の持ち方も決めておきます。
N-1灌流の導入は装置を1台足す話ではなく、培地の量、細胞を測る仕組み、空気と真空の供給までを一段分増やす話です。
4. よくある失敗 ― 到達密度での選定、本培養の据え置き
導入でつまずく形には、決まったパターンが4つあります。
1つ目は、カタログに載った到達密度の高さで装置を選ぶことです。必要な濃さは自社の槽の比で決まり、それより高い到達密度は使いません。高すぎる目標は、培地とフィルターの消費を増やします。
2つ目は、フィルターの大きさを槽の容量だけで決めることです。Repligen の機種の選び方の表は、槽の容量ごとの目安を示しつつ、実際の能力は培養の条件で変わると断っています。
細胞の濃さと灌流の量が大きいほど、膜にかかる負担は増えます。小さな槽で決めた条件は、大きな槽で膜にかかる負担がどう変わるかを確かめてから持ち込みます。
3つ目は、N-1だけを変えて本培養の培地をそのままにすることです。濃く始めた細胞は、栄養を早く使い切ります。
先の力価が約2倍になった報告も、本培養の培地とフィードフェドバッチで追い足す濃縮した栄養液。いつ・どれだけ・どう入れるかが生産性と品質を左右する。詳しく →、温度を下げるタイミングまで組み直した結果でした。栄養の足し方の考え方はフェドバッチのフィード設計で読めます。
4つ目は、変更の手続きを後回しにすることです。承認を受けた製品でN-1や接種密度を変えるなら、製造工程の変更として変更管理に乗せ、変更の前後で製品が同等かを示す比較可能性の評価(ICH Q5E)を計画します。
ATFの導入でつまずく原因の多くは装置の性能ではなく、目標の濃さ、膜の大きさ、本培養の培地という周りの設計にあります。
5. 明日から確かめられること
製造や技術の担当は、いまの工程で本培養を始めている濃さと、N-1と本培養の槽の容量の比を並べます。目標の濃さを決めれば、灌流なしで届く範囲か、ATFが要るかの見当が付きます。
設備の担当は、N-1の槽のまわりでATFのコントローラーに要る空気や真空を確保できるか、静電容量プローブを差し込めるポートがあるかを確かめます。
購買の担当は、中空糸細い管状の膜を束ねたろ過モジュール。接線流ろ過の膜面として細胞保持に使う。詳しく →フィルターと灌流用の培地の調達先、納期、在庫の持ち方を確認しておくと、導入の話が来たときに対応しやすくなります。
XCell ATF 導入前のチェックリスト
- 目標の濃さ:本培養を始めたい濃さが決まっているか、灌流なしの種培養で届く範囲ではないかを確かめます。
- 必要な濃さ:N-1と本培養の槽の容量の比から、N-1でどこまで濃くする必要があるかを出します。
- メーカーへの質問:その濃さを、どの灌流の量で、何日安定して保てるかを聞きます。
- 灌流量の制御:細胞の数に合わせて灌流の量を変える手段(静電容量プローブなど)があるかを確かめます。
- 設備と調達:コントローラーに要る圧縮空気・真空などの供給、フィルターと培地の調達、使い捨てにするかどうかを決めます。
- 本培養の作り直し:本培養の培地・フィード・温度シフト培養後半に温度を下げて増殖を抑え、産生や品質を稼ぐ操作。抗体培養で広く用いられる制御です。詳しく →を、濃さに合わせて作り直す計画を立てます。
- 変更の手続き:承認済みの製品なら、変更管理工程・設備・手順などの変更を評価・承認し、品質への影響とともに記録する仕組み。詳しく →と比較可能性の評価の計画を立てます。
ATFにするかTFFにするか、膜を使わない方式も含めて機器を比べる段になったら、N-1灌流のATF・TFFの選び方へ進みます。
候補の製品は灌流用細胞保持装置とシングルユースバイオリアクターで探せます。灌流培養培養液を連続的に入れ替えながら細胞を高密度に保ち、長期間生産を続ける培養方式です。細胞を装置で保持し、老廃物を除きつつ栄養を補給します。詳しく →そのものの基礎は灌流培養とはにあります。
参考文献
- Xu J, Rehmann MS, Xu M, Zheng S, Hill C, He Q, Borys MC, Li ZJ. Development of an intensified fed-batch production platform with doubled titers using N-1 perfusion seed for cell culture manufacturing. Bioresources and Bioprocessing. 2020;7:17.
- Yongky A, Xu J, Tian J, Oliveira C, Zhao J, McFarland K, Borys MC, Li ZJ. Process intensification in fed-batch production bioreactors using non-perfusion seed cultures. mAbs. 2019;11(8):1502–1514.
- Rittershaus ESC, Rehmann MS, Xu J, He Q, Hill C, Swanberg J, Borys MC, Li ZJ, Khetan A. N-1 Perfusion Platform Development Using a Capacitance Probe for Biomanufacturing. Bioengineering. 2022;9(4):128.
- Samsung Biologics, Samsung BioLogics Implements Large Scale N-1 Perfusion for Commercial Application(2019年8月の発表。3,000 LのN-1、15,000 Lの本培養、製造期間を最大30%短縮)
- Repligen, XCell ATF Devices and Controllers(機種ごとの培養容量の目安)
- 1灌流培養(パーフュージョン)とは?流加培養と比べて何がよく、どこでつまずくのか
- 2なぜ今「灌流」が選ばれるのか?追い風と、進まない理由
- 3ATFとTFFの違いは? 灌流培養の細胞保持装置の選び方
- 4CSPRとは?灌流培養で培地がどれだけ要るかを決める数字
- 5灌流培養のセルブリードとは?細胞を毎日捨てる理由と制御の勘どころ
- 6N-1灌流とは?本培養の一段手前で細胞を濃くすると、なぜ抗体が増えるのか
- 7灌流のVVDはどこから決めればいい?答えは細胞1個あたりの量
- 8N-1灌流の細胞保持はATFかTFFか?選び方と失敗例
- 9XCell ATFの使いどころ:N-1灌流が要る工程、要らない工程いま読んだ記事
- 10流加培養の力価が2倍に:N-1灌流の論文を読む
- 11灌流培養の比生産性がNISTCHOで2倍に?発表の読み方
次に読む
抗体医薬/モノクローナル抗体この製造の全体像を、工程マップで見るこの記事に関連する工程
この分野の新着を、メールで受け取る
こうした製造・分析・品質の解説記事と、装置・試薬の新製品ニュースを毎週水曜の朝にお届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。
登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。閲覧の記録(どのページから、どの会社のサイトへ移ったか)を、ご案内のために使います。
目次・関連閉じる
- 1灌流培養(パーフュージョン)とは?流加培養と比べて何がよく、どこでつまずくのか
- 2なぜ今「灌流」が選ばれるのか?追い風と、進まない理由
- 3ATFとTFFの違いは? 灌流培養の細胞保持装置の選び方
- 4CSPRとは?灌流培養で培地がどれだけ要るかを決める数字
- 5灌流培養のセルブリードとは?細胞を毎日捨てる理由と制御の勘どころ
- 6N-1灌流とは?本培養の一段手前で細胞を濃くすると、なぜ抗体が増えるのか
- 7灌流のVVDはどこから決めればいい?答えは細胞1個あたりの量
- 8N-1灌流の細胞保持はATFかTFFか?選び方と失敗例
- 9XCell ATFの使いどころ:N-1灌流が要る工程、要らない工程
- 10流加培養の力価が2倍に:N-1灌流の論文を読む
- 11灌流培養の比生産性がNISTCHOで2倍に?発表の読み方
Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/xcell-atf-n1-perfusion-seed-train-application