抗体医薬応用・選び方

N-1灌流の細胞保持はATFかTFFか?選び方と失敗例

細胞をどこまで濃くできるかで、ATFとTFFを比べた実験があります。2013年に発表された比較では、ロッキング型のバッグでCHO細胞抗体など組換えタンパク質の生産に広く使われる、チャイニーズハムスター卵巣由来の培養細胞です。詳しく →を灌流し、TFF膜面に液を平行に流しながらろ過し、目詰まりを抑えつつ濃縮やバッファ交換を行う限外ろ過(クロスフロー)装置一式です。詳しく →が214×10⁶ cells/mL、ATF灌流培養で使用済みの培地を入れ替えつつ、細胞は培養槽に残すための装置です。中空糸膜などで細胞と液をより分けます。詳しく →が132×10⁶ cells/mLまで届きました。ATFは高密度の灌流の定番として知られていますが、この条件ではTFFが上回っています。

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N-1灌流の細胞保持はATFかTFFか?選び方と失敗例

理由は方式の優劣ではなく、それぞれの限界の出方にありました。TFFは、培養液が粘ってくると膜の処理能力が追いつかなくなり、二酸化炭素も溜まって頭打ちになりました。ATFは、粘った培養液を真空で引ききれなくなって止まりました。どちらが向くかは、方式の名前ではなく、使う条件で決まります。

N-1灌流では、その条件が本培養種培養で増やした細胞を大型の培養槽に移し、目的物質を本格的に産生させる最終段階の培養です。栄養を追加しながら育てるフェドバッチが広く使われます。詳しく →の灌流と大きく違います。細胞保持装置(細胞を槽に残して培養液だけを抜く装置)を選ぶときも、本培養の灌流とは別の物差しで比べ、メーカーへの質問も変える必要があります。

N-1で比べる点が変わる理由 ― 短い運転と、捨てる透過液

N-1灌流本培養の一つ前の工程で灌流培養により細胞を高密度まで増やし、高い密度で本培養へ植え継ぐ手法です。詳しく →の目的は、抗体を集めることではありません。本培養を濃く始めるための、濃くて元気な種をつくることです。

この違いが、比べる点を2つ変えます。一つは運転の長さです。本培養の灌流は数週間続くことがありますが、N-1は種ができたら本培養へ移して終わります。何週間も詰まらずに回るかより、狙った濃さまで決めた日数で確実に届くかが大事です。

もう一つは、膜を抜けた液(透過液)の扱いです。本培養の灌流では、抗体を透過液から回収するので、抗体が膜に引っかかって槽に残る現象(ふるい分け、sieving)が大きな問題です。撹拌槽撹拌翼で機械的に混ぜ、スパージャーで通気する最も標準的なバイオリアクターの型式。詳しく →で比べた2016年の研究では、TFFで作られた抗体の最大半分が槽側に残り、ATFでは残りませんでした。ところがN-1では、透過液TFFで膜を通り抜けた側の液。溶媒や小分子を含み、これを抜くことで保持液を濃縮する。詳しく →は回収せずに捨てます。抗体が膜を通りにくくても、本培養の成績にはほとんど響きません。

本培養の灌流で集めたATFとTFFの評判を、そのままN-1に持ち込むと、比べる点を取り違えます。

細胞保持の種類と違い ― ATF・TFF・音響式・バッグ内蔵フィルター

選択肢は大きく4つあります。

ATF(交互接線流ろ過)は、圧縮空気と真空で動くダイアフラムのポンプで、培養液を中空糸フィルターの中で行ったり来たりさせます。流れの向きが周期的に変わるので、膜が詰まりにくいのが強みです。代表は Repligen の XCell ATF で、使い捨て使い捨ての樹脂製バッグや容器を用いる製造方式です。洗浄・滅菌の手間を減らせる一方、ステンレス設備と比べて特徴が異なり、目的に応じて選び分けます。詳しく →の機種もあります。2016年の研究では、細胞にかかる力(せん断流れの中で分子にかかる物理的な力。強すぎると抗体の凝集や微粒子発生を招く。詳しく →)の最大値もTFFより小さく出ています。仕組みと使いどころはXCell ATFの使いどころで読めます。

TFF(接線流ろ過)膜表面に培養液を接線方向へ一方向で流し続け、細胞を通さず溶液を透過させるろ過方式。詳しく →は、外に置いたポンプで培養液を中空糸へ一方向に流し、槽へ戻します。汎用のポンプと中空糸で組めるので、手持ちの設備や運用の経験を生かしやすい方式です。ただ、細胞が通るポンプの選び方でせん断が変わります。先の2016年の研究では、磁気で羽根を浮かせて回す軸受のない遠心ポンプ羽根車で送液する低せん断のポンプ。TFFで蠕動ポンプの代わりに使い細胞への負荷を下げられる。詳しく →でTFFを組んでいました。ポンプの方式による違いは送液ポンプの選び方で比べられます。

音響式は、膜を使いません。Getinge の Applikon BioSep は、超音波の定在波で細胞を集めて沈め、上澄みだけを抜きます。膜が無いので、目詰まり微粒子や凝集体、タンパク層が膜の孔を塞いでろ過が落ちる現象。プレフィルターでの前段保護が効く。詳しく →という問題そのものが起きません。その代わり、1日に処理できる液量に上限があり、最も大きな機種でも1日1,000 Lです。

バッグ内蔵のフィルターは、ロッキング袋を揺らして波で混ぜる培養方式。撹拌翼がなくせん断が小さく、細胞にやさしい。詳しく →型の培養バッグの中に浮かぶ膜で培養液を抜く方式です。Cytiva の ReadyToProcess WAVE 25 では、灌流用のバッグを使ってN-1を灌流で回し、本培養を従来の10倍の濃さで始めた検証例をメーカーが公表しています。外付けの装置が要らない分、小さめのN-1では構成を簡単にできます。

ATFTFF音響式音響定在波で細胞を凝集・分離する、フィルタレスの細胞保持方式のこと。詳しく →バッグ内蔵フィルター
細胞を残す方法中空糸細い管状の膜を束ねたろ過モジュール。接線流ろ過の膜面として細胞保持に使う。詳しく →、往復流中空糸、一方向の流れ超音波で沈めるバッグ内の膜
強み膜が詰まりにくい汎用の部品で組める目詰まりが無い外付け装置が不要
確かめること空気・真空の供給ポンプのせん断1日の処理量の上限使える規模

4つの方式は優劣ではなく、得意な規模と、手間がかかる場所が違います。

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選ぶときの判断軸 ― 濃さ、規模、そろえたい工程

方式の名前から入るより、自社のN-1の条件から逆算すると迷いません。

最初に決めるのは、本培養を始めたい濃さです。そこから、N-1と本培養の槽の大きさの比で、N-1で届けるべき濃さが決まります。灌流を使わなくても届く範囲なら、そもそも細胞保持装置は要りません(見分け方はXCell ATFの使いどころ)。

次に、規模と1日に入れ替える液量を見ます。N-1の槽が数百リットルで、1日に槽の容量以上の培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →を入れ替えるなら、音響式の処理量の上限やバッグの規模を先に当てはめると、候補はすぐ絞れます。入れ替える液量は灌流速度・培地消費量の計算ツールで見積もれます。

そのうえで、そろえたい工程を考えます。本培養も灌流で回す計画があるなら、N-1と同じ方式にそろえると、消耗品も手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。詳しく →も教育も共通にできます。N-1だけで完結するなら、手持ちの設備や経験を生かせる方式を優先してかまいません。最後に、細胞株がせん断に弱いかどうかと、使い捨てで組むかどうかを確かめます。

POINT

メーカーには「何 cells/mL まで届きますか」ではなく、「この槽の大きさで、この濃さを、この培地の入れ替え量で、何日保てたデータがありますか」と聞きます。自社の条件に近いデータがあるかどうかで、候補の確からしさが変わります。

判断の順番は、濃さ、規模と液量、そろえたい工程の順で、方式の名前は最後に出てきます。

よくある失敗 ― 評判の持ち込み、ポンプの見落とし、小さな槽での決定

一つ目は、本培養の灌流での評判で選ぶことです。先に見たとおり、N-1では抗体のふるい分けはほとんど問題になりません。長期運転での詰まりにくさも、数週間回す本培養ほどは効きません。

二つ目は、TFFを選んだのにポンプを見ないことです。TFFでは、細胞を含む培養液がポンプの中を何度も通ります。せん断の小さいポンプを選ばないと、TFFという方式の良し悪しではなく、ポンプの影響で細胞が傷みます。

三つ目は、小さな槽の結果だけで機種の大きさを決めることです。Repligen も、機種ごとの培養容量の目安は示しつつ、実際の能力は培養の条件で変わると断っています。目標の濃さと液量で、使う規模に近い条件の確認を挟みます。

四つ目は、乾いた状態で届く使い捨てのフィルターを、十分に濡らさずに使うことです。メーカーは、使う前に膜をきちんと濡らすことが安定した運転に大事だと案内しています。この準備を、手順書の中に1工程として書いておきます。

選定でつまずく原因の多くは方式の選び間違いより、評判の持ち込み、ポンプ、規模の確認、準備の手順といった周りにあります。

選定・確認チェックリスト

メーカーへの仕様確認や見積依頼に、そのまま使えます。

  • 本培養を始めたい濃さと、N-1で届けるべき濃さ。灌流なしで届く範囲ではないか
  • N-1の槽の大きさと、1日に入れ替える培地の量
  • その濃さを何日保てたか、自社に近い条件のデータがあるか
  • ATFなら、コントローラーに要る圧縮空気・真空などの供給
  • TFFなら、組み合わせるポンプの方式とせん断の小ささ
  • 音響式なら1日の処理量の上限、バッグ内蔵フィルターなら使える規模
  • 本培養も灌流で回す計画があり、方式をそろえる必要があるか
  • 使い捨ての可否、フィルターの納期と供給の安定性、使う前の準備(膜を濡らす手順など)

候補の製品は灌流用細胞保持装置で比べられます。TFFのポンプは送液ポンプ、N-1の槽はシングルユースバイオリアクター、グルコース微生物発酵でエネルギー源となる糖類などの炭素源と、目的遺伝子の発現を促す誘導物質のことです。詳しく →や乳酸を追う分析計はバイオプロセスアナライザから探せます。方式を問わない一般的な比較はATFとTFFの違いに、灌流の基礎は灌流培養とはにあります。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。