シングルユースとステンレス設備の選び方:容量では決まらない分かれ目

シングルユース(SU、使い捨て)設備とステンレス設備のどちらを選ぶかは、もう槽の大きさでは決まりません。分かれ目は、何品目を同じ建屋で回すのか、需要がどれだけ確かなのか、使い捨ての部材を止めずに買い続けられるのかに移りました。
ただし、この選択は初期投資、運転費、建屋の設計、人員の配置までを一度に決めるため、あとから引き返すのは簡単ではありません。
この記事では、費用の形の違い、容量が分かれ目でなくなった経緯、洗浄が要らない代わりに増える仕事、二社目を用意できない部材、決める順番を順に説明します。
1. 先に払うか、毎回払うか:ステンレスとSUは、費用の形がどう違うのか?
違いは、製品に触れる部分を誰の持ち物にするかです。
ステンレス設備は、耐食ステンレスの固定タンクと配管を、洗浄(CIP)と蒸気滅菌(SIP)をはさみながら繰り返し使います。設備は長持ちし、1バッチあたりの消耗品費はほとんどかかりません。そのかわり、純水・注射用水(WFI)・蒸気のユーティリティと、洗浄が十分だったことを示す洗浄バリデーション設備を洗浄した後、前の製品の残留がないことを検証し交叉汚染を管理する活動。詳しく →を抱えます(CIP・SIPの解説)。
SU(シングルユース)は、製品に触れるバッグ、チューブ、フィルター、コネクターを、ガンマ線照射済みの新品に毎バッチ替えます。洗浄も洗浄バリデーションも、原理的には要りません。代わりに部材を毎バッチ買い、使い終われば捨てる。
| ステンレス | シングルユース | |
|---|---|---|
| 製品に触れる部分 | 自社の固定設備。洗って繰り返し使う | 毎バッチ新品を買い、使い終われば捨てる |
| 費用の形 | 初期投資が大きく、1バッチの費用は小さい | 初期投資は抑えられるが、消耗品費が毎バッチかかる |
| 建設と立ち上げ | 長い。ユーティリティ水・空調・ガスなど、製造を直接支える設備の総称。適格性評価や汚染管理の対象になる。詳しく →も重い | 短い |
| 品目の切り替え | 洗浄とその確認を待つ | 部材を付け替える |
| 向く場面 | 需要が確定した単一品目の大量生産 | 需要が読めない段階、多品目、封じ込めが重い品目 |
損益の分かれ目を動かすのは、年間のバッチ数と、1バッチの消耗品費です。バッチ数が少ないうちはSUが有利になりやすい。同じ製品を高い頻度で長年作るなら、消耗品費のかからないステンレスが有利です。原価への乗り方は製造コスト(COGS)の内訳にまとめています。
では、どちらか一方に決めるのか。現実の工場は、二者択一ではありません。工程ごとに置き分ける併用(ハイブリッド)が注目されています。
たとえば培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →やバッファの調製、中間の保管は、使い捨てのミキサーやホールドバッグで行い、大容量が要る本培養種培養で増やした細胞を大型の培養槽に移し、目的物質を本格的に産生させる最終段階の培養です。栄養を追加しながら育てるフェドバッチが広く使われます。詳しく →や大規模なバッファ調製はステンレスタンクで受けます。
SUかステンレスかは「安いか高いか」ではなく、先に払うか毎回払うかの選択です。最適点は工程ごとに違うため、併用が現実的な解として選ばれています。
2. 容量はもう分かれ目ではない:5,000 Lの使い捨てが出て、何で選ぶようになったのか?
使い捨ての培養槽は、長く「2,000 Lまで」と言われてきました。「使い捨ては小規模向け、大規模はステンレス」という線引きです。この線引きは、いまの製品に合わなくなりました。
2025年4月、AGC Biologics は横浜に建てている拠点に、5,000 Lの使い捨て培養槽を2基入れると発表しました。同社はその発表で、動物細胞の培養槽のうち使い捨てがすでに世界で51%を占めるという調査会社(BDO bioTRAK)の2024年のデータも引いています。
この横浜拠点には、Thermo Fisher Scientific の5,000 L槽2基と Cytiva の2,000 L槽4基が入り、使い捨てだけで18,000 Lを足します。GMP医薬品を一定の品質で安全に造るために守るべき製造・品質管理の基準(適正製造規範)です。詳しく →製造の開始は2027年の予定です(AGC Biologics 横浜のニュース)。
富士フイルムが英国ビリンガムに開いた受託製造製造をCDMOやCMOなど外部の製造所へ委託すること。委託しても品質への最終的な責任は委託者に残る。詳しく →の施設も、2,000 L槽4基と500 L槽2基の使い捨てです(ビリンガムのニュース)。
その一方で、同じ富士フイルムが2025年に米ノースカロライナ州ホリースプリングスに開いた拠点の第一期は、20,000 Lの培養槽8基で始まりました。AGC横浜の使い捨て槽の4倍の大きさで、使い捨ての上限が伸びても、その先の規模はなくなりません。
容量で決まるのは、「使い捨てで足りるか」ではありません。必要な量を何Lの槽で何基並べて作るのかという、工場全体の組み立てです。プロセスの強化(N-1灌流など)で、同じ量をより小さな槽で作れる場合もあります。
カタログの最大容量では選べなくなりました。聞くべきは「何Lまで作れるか」より、「その規模を何基で、どの部材で回すのか」です。
3. 洗浄は消えても、仕事は移る:SUで代わりに増えるのは何か?
SUの強みは、前の製品を洗い流さなくてよいことです。ただ、その仕事は消えるのではなく、別の場所に移ります。
ステンレスでは、バッチごとにCIPで洗い、必要に応じてSIPで滅菌し、残留タンパク、洗剤、微生物、エンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →が基準を下回ったことを確かめます。この一連の作業が、次のバッチに入れるまでの日数を決めます。
SUなら、使い終えた部材を外して新品に替えるだけで次に移れます。複数の品目を同じ施設で回すCDMO(製造受託会社)や、封じ込めが厳しいウイルスベクター治療用の遺伝子を細胞へ運ぶために改変したウイルス。AAVやレンチウイルスが代表で、遺伝子・細胞治療に使う。詳しく →でSUが好まれるのは、このためです。製品に触れる面が毎回新品になり、設備に残った前の製品が次に混ざる経路が構造的に生じません(切り替えの管理は交差汚染と段取り替えで扱っています)。
ただし、消えるのは製品に触れる面の交差汚染だけです。建屋の空調、人と物の動線、共用の計測器を経由する経路は残ります。
そのかわりに増える仕事は三つあります。
一つ目は、部材の受け入れです。入荷した袋の外観とロットを確かめ、無菌の接続を毎回正しく組めたことを記録に残します。
2022年に改訂されたEU GMP Annex 1無菌医薬品の製造に関するEU GMPの付属書。汚染管理戦略などを求める無菌製造の基準。詳しく →にはシングルユースシステムの小節が加わり、使う側に、供給元の管理により多くを求める内容になりました。滅菌の保証は供給元の認定の一部として確かめ、入荷時には滅菌の証拠を確認します(供給者管理と受入試験)。
二つ目は、E&L(抽出物・浸出物使い捨て樹脂バッグなどの材料から培養液や製品へ溶け出す成分。安全性評価が必要。詳しく →)の評価です。バッグやチューブから、可塑剤、酸化防止剤、分解物が液に移りうるので、製品や患者に影響しないことを示します。
E&L製造材料から製品側へ移りうる微量成分を扱う評価。抽出物と溶出物の把握と安全性判断を行う。詳しく →は、バッグを採用したあとに足せる試験ではありません。どのバッグを採用するかと同時に決まる評価です(E&Lの解説、浸出物の安全性評価)。ステンレスにはE&Lの心配がほとんどないかわりに、洗剤の残留を管理します。
三つ目は、廃棄物と環境です。使い捨ては環境に優しいという見方にも、疑問が出ています。
GENが報じた Roche の Jan Reiners らの研究は、電力の排出が下がって、ステンレスの洗浄や滅菌のエネルギーを避けられるという使い捨ての利点が薄れたことを挙げています。2,000 L規模の使い捨ての運転1回で、プラスチックと包装の廃棄だけで最大6.5トンのCO2換算になるとして、両方を併用する工場が最も持続可能だと結論しています(GENの報道の紹介)。
ただし、電力の排出の数え方に左右される試算なので、自社の工場へそのまま当てはめられるとは限りません。
洗浄バリデーションが消えるかわりに、部材の品質を供給元と一緒に保証する仕事が加わります。
4. 重要:培養バッグに、二社目は用意できるのか?
SUは毎バッチ部材を買うので、供給の停止、値上げ、仕様の変更が、そのまま生産を止めます。2021年には新型コロナのワクチン需要などが重なり、使い捨て部材の納期が延びて、10〜12か月待ちを示す供給元もあったと業界紙が報じました。
対策として挙がるのが、複数の供給元を認定しておく二社目(セカンドソース)です。ただし、SUの部材には二社目を用意できるものとできないものがあります。一括りにすると、替えの利かない部材の対策が抜け落ちます。
替えが利かないのは、培養バッグです。バッグは槽の内側の形を決める部品で、各社が自社の槽専用に作っています。
ポートの位置、センサーの差し込み口、ガスラインの取り回し、サンプリングの構成。どれも槽に合わせて設計されているので、他社のバッグは差せません。たとえば Cytiva の Xcellerex XDR 用のバッグは XDR に、Sartorius の Flexsafe STR 用のバッグは Biostat STR に付きます。槽を選ぶことは、バッグの供給元を選ぶことです。
替えが利くのは、液を運ぶだけのアセンブリ(バッグ、チューブ、コネクター、フィルターを指定どおりに組んだもの)です。コネクターの規格さえ合えば、作り手を替えられます(シングルユース・アッセンブリーの部品)。
2社に同じアセンブリーを頼むときは、構成を図にして渡すと、仕様の食い違いが減ります。図と部品表はアッセンブリー依頼図ツールで作れます。
pHや溶存酸素培養液に溶けている酸素の濃度。細胞の呼吸を支えるため一定に保つ制御対象。詳しく →のセンサーも複数の会社が出していますが、差し込み口はバッグ側で決まるので、替えられる範囲は槽の設計に縛られます。

供給を厚くする投資が、計画どおりに進まないこともあります。米ABECがノースカロライナ州に開いた使い捨て容器の製造拠点は、2022年の発表では2023年の稼働を見込んでいましたが、開所は2026年9月で、見通しから3年ほど遅れました(ABECのニュース)。
メーカーに聞くのは「在庫はどれくらいありますか」ではありません。「このバッグのフィルムや部材の仕様が変わったとき、同等性の評価にどこまで資料を出してもらえますか」と聞くと、止まったときに自社が何をできるかが見えます。
培養バッグを選んだ時点で、その槽のメーカーと長く付き合うことが決まります。替えの利かない部材について、供給が止まったら何日で生産が止まるかを先に出しておきます。
5. 品目数から決める:よくある失敗を避けるには、何を確かめるのか?
よくある失敗は、次の三つです。
- 容量だけで比べる:容量だけで槽を比べ、どの部材が替えられないかを数えないまま決めてしまいます。
- E&Lの資料集めが遅れる:バッグを決めたあとでE&Lの資料集めを始めると、バッグを替えられないまま評価をやり直すことがあります。
- 洗浄の仕事が消えると見込む:SUにすれば洗浄の仕事が消えると見込み、受け入れ検査と供給元の管理に人を割り当てないまま始めてしまいます。
決める順番は、品目数、必要な規模、替えの利かない部材、E&Lの対象です。品目数が決まらないと、洗浄の負担も切り替えの日数も見積もれません。逆から決めると、前の判断に縛られたまま後ろを選ぶしかなくなります。
選定・確認チェックリスト
メーカーへの仕様確認や、社内の稟議の前に、次の順で確かめます。
- 品目数と需要:年に何品目、何バッチ回すか。需要はどこまで確かか。
- 規模:必要な規模は何Lか。プロセスの強化で槽を小さくできるか。併用するなら、どの工程を使い捨てに、どの工程を固定設備にするか。
- 替えの利かない部材:培養バッグなど替えの利かない部材はどれか。供給が止まると何日で生産が止まるか。バッグのフィルムや部材の仕様が変わるとき、事前の通知と同等性の資料が出るかもメーカーに聞く。
- E&Lの資料:E&Lの資料が、自社の工程の条件に近い形で評価されているか。
- 受け入れと廃棄:入荷時に確かめる項目(外観、ロット、滅菌の証拠)と、その人員が足りるか。使い終えた部材の廃棄まで含めて、費用を見積もったか。
候補の製品はシングルユースバイオリアクター、シングルユース・アッセンブリー、シングルユース流路、移送ポンプ、ステンレスタンクのページで比べられます。
次の疑問に応える記事も用意しています。槽そのものの種類と比べる順番はバイオリアクターの選び方、使い捨ての培養槽がどう広がってきたかは使い捨てバイオリアクター、20年でここまで来た、液を混ぜる部分はシングルユースミキサーの選び方、部材に含まれる物質の規制はPFAS規制は製造部材にどう効いてくるかで読めます。
参考文献
- AGC Biologics, AGC Biologics Strengthens Single-Use Technology At New Yokohama, Japan Facility(2025年4月7日。5,000 Lの DynaDrive 2基、GMP製造は2027年開始、使い捨てが動物細胞の培養槽の51%を占めるという BDO bioTRAK のデータ)
- AGC Biologics, AGC Biologics Lands Commercial Manufacturing Agreement for Yokohama Site Worth Hundreds of Millions of Dollars(Cytiva の2,000 L 4基と DynaDrive 5,000 L 2基、合わせて18,000 L)
- Pharma Manufacturing, Fujifilm Biotechnologies opens $3.2B cell culture manufacturing site in North Carolina(ホリースプリングスの第一期、20,000 Lの培養槽8基)
- GEN, Hybrid Single-Use and Stainless Steel Plants: The Greener Option(Roche の Jan Reiners らの研究の報道)
- BioProcess International, Single-use lead times up to 12 months as COVID takes its toll(2021年5月。使い捨て部材の納期が10〜12か月に延びた供給元があるという ABEC の説明)
- North Carolina Office of the Governor, Governor Cooper Announces Biotech Manufacturing Equipment Company ABEC Will Create 251 Jobs in Wilson(2022年8月23日の発表。当初は2023年第2四半期の稼働見込み)
- Pharma Manufacturing, ABEC opens biomanufacturing facility in North Carolina(2026年9月の開所)
- European Commission, EU GMP Annex 1: Manufacture of Sterile Medicinal Products(2022年改訂版。シングルユースシステムの小節を含む)
- NSF, Annex 1 revised overview(改訂でシングルユースシステムの小節が加わり、供給元の管理により多くが求められるという概要)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/single-use-vs-stainless