抗体医薬基礎知識・培養

ATFとTFFの違いは? 灌流培養の細胞保持を中立比較

灌流培養では、培養液を連続で入れ替えながら細胞だけをバイオリアクター内に留めます。この「細胞を残し、上清だけを抜く」役目を担うのが細胞保持デバイスで、よく比較されるのがATF(交互接線流:Alternating Tangential Flow)とTFF(接線流:Tangential Flow Filtration)の二つです。

ATFとTFFの違いは? 灌流培養の細胞保持を中立比較

どちらも中空糸などの膜に培養液を接線方向に流し、細胞を通さず溶液を透過させる点は共通します。違いは流し方です。TFFは一方向に流し続け、ATFはダイヤフラムポンプで流れの向きを周期的に反転させます。この一点の差が、目詰まり・せん断・製品の透過性・スケール上限・単回使用のしやすさといった実務指標に効いてきます。

本稿ではATFとTFFの違いを中立に整理し、どちらを選ぶかの判断軸を示します。特定の製品を推すのではなく、灌流を設計するときにどこを見るべきかを条件依存の形で並べます。

原理:一方向に流すか、向きを反転させるか

両者の共通点から押さえます。ATFもTFFも、膜表面に対して培養液を接線方向(膜と平行)に流します。溶液が膜を透過して抜け、細胞は流れに乗って膜面を洗い続けます。この接線流で膜面への細胞の堆積を抑えるのが、接線流ろ過の基本原理です。灌流培養そのものの位置づけは灌流培養とはで扱っています。

違いは駆動のしかたです。TFFはポンプで一方向に循環させ続けます。ATFは同じ接線流ろ過を使いながら、ダイヤフラムポンプで流れの向きを1サイクルごとに反転させ、反転時に膜内側へ逆向きの押し戻し(バックフラッシュに相当)をかけて膜面に溜まりかけた成分を押し返します。

つまり ATFは接線流ろ過に「流れの反転」を加えた方式で、両者は別物ではなく駆動方式の違い です。この反転の有無が、以下で見る目詰まりやせん断の差につながります。

POINT

ATFとTFFはどちらも接線流ろ過。ATFは流れの向きを周期的に反転させる点だけが構造的な違いで、その反転が目詰まりの抑えやすさを左右します。

目詰まり(ファウリング):反転が効く場面

膜を使う以上、避けられないのが目詰まり(ファウリング)です。細胞やその破片、製品由来の成分が膜面や細孔に溜まると透過抵抗が上がり、製品が膜に留められて回収率が下がります。灌流を長期間まわすほど、この累積が効いてきます。

報告されている比較では、TFFはファウリングの緩和が弱く、透過抵抗の上昇と製品の膜側への保持が起こりやすいとされます。一方ATFは、流れの反転による押し戻しで膜面のクリアリングが働き、長期のろ過性能を保ちやすいと報告されています。抗体を例にとると、両方式とも膜に部分的に保持されますが、TFFのほうがより強く保持されやすいという結果が示されています。50日規模の長期灌流で保持性能を維持する用途でATFが選ばれやすい背景がここにあります。

ただし後述するとおり、この差の一部はろ過方式ではなく使うポンプに由来する可能性が指摘されています。 目詰まりの差は「反転の有無」と「せん断源」の両方から見る必要がある という点が実務上の勘どころです。

せん断ストレス:差の主因はポンプという指摘

細胞は物理的なストレスに弱く、強いせん断は細胞の破壊(ライシス)を招きます。細胞が壊れると破片やDNAが膜を詰まらせ、製品の透過性(シービング)も悪化します。

一般に、TFFで多用される蠕動(ぜんどう)ポンプはせん断と細胞ライシスの主要因になりやすいとされます。ATFはダイヤフラムポンプで穏やかに流れを往復させるため、同等の混合・酸素移動条件でも最大せん断が小さいとする物理計測の報告があり、ここまではATF優位に見えます。

ところが、TFFの蠕動ポンプを低せん断の遠心ポンプに置き換えると、細胞増殖・ライシス・粒子濃度・製品シービングがATFと同等の水準まで改善したという報告があります。つまり従来ATF優位とされたシービングの差は、交互流そのものではなくポンプ由来のせん断と細胞ライシスの差に大きく起因する可能性があり、細胞死の速度をそろえると両者の差が見えなくなったという報告もあります。

この整理は選定に直結します。 ATFとTFFを比べるときは、方式名だけでなく「どのポンプで駆動するか」を同時に見る必要があります

スケール・単回使用・コスト:どこまで大きくできるか

灌流を製造規模へ広げるとき、細胞保持デバイスがどこまでスケールするかは制約になります。ATFは市販のデバイス系列があり、公開情報では系列の大型機がおよそ50L規模から数千L規模に対応するとされ、50L単回使用リアクターでの長期灌流の検討例も報告されています。単回使用(シングルユース)でも、ATFはガンマ線滅菌済みデバイスが用意され各種の単回使用バイオリアクターに接続された実績があり、TFFも中空糸カートリッジを使い捨てにする構成が組めます。TFFは膜モジュールとポンプの組み合わせなので、遠心ポンプなど低せん断の駆動を選べる余地があります。

コスト面でも、装置価格だけでなく消耗品(膜モジュール)の交換頻度・付帯設備・運転日数を含めた総額で比べる必要があります。膜の目詰まりが早ければ交換頻度が上がり、消耗品コストと手間が積み上がります。どちらが安いかは規模・運転日数・既存設備・単回使用の方針で変わり、一概には言えません。運転設計の考え方は、播種時から高密度で立ち上げるN-1灌流のような使い方でも共通します。

なお、灌流で回収した上清は下流で濃縮・緩衝液交換に進みます。細胞保持で使うろ過膜(微多孔膜)と、精製で使う限外ろ過(UF/DF)の膜は目的も孔径も別物です。細胞保持の目詰まりを下流の限外ろ過と混同しないことが、運用設計では大切です。

上限そのものよりも、目標規模・運転日数・接続する単回使用リアクターとの相性・総コストで選ぶのが現実的 です。

観点ATF(交互接線流)TFF(接線流)
流し方ダイヤフラムポンプで往復(反転あり)ポンプで一方向に循環
目詰まり緩和反転による押し戻しで有利とされる反転がなく累積しやすいとの報告
せん断最大せん断が小さいとの計測あり蠕動ポンプが主要因。低せん断ポンプで改善余地
単回使用・設計ガンマ線滅菌済みデバイスで確実に構成中空糸カートリッジ等で自由度が高い
POINT

コスト比較は装置価格ではなく、膜モジュールの交換頻度・付帯設備・運転日数を含めた総額で見ます。目詰まりの早さが消耗品と手間の両方に効きます。

どちらを選ぶか:判断軸の整理

方式名で決めるのではなく、条件から逆算するのが実務的です。

  • 運転日数:数十日規模の長期灌流で保持性能を維持したい場合、反転による目詰まり緩和が効くATFが選ばれやすい傾向があります。
  • せん断への配慮:細胞株がせん断に敏感なら、ATFのダイヤフラム駆動、あるいはTFF+低せん断ポンプが候補です。方式名だけでなくポンプまで見ます。
  • スケール・単回使用・コスト:目標規模と単回使用リアクターとの相性、総コストで絞ります。確実に組むならATF、構成を自前で最適化したいならTFFに自由度があります。

いずれの場合も、小スケールで得た性能が製造規模でそのまま再現するとは限りません。膜面積・流量・細胞密度のバランスは規模で変わるため、目標規模での検証が前提になります。

まとめ

ATFとTFFはどちらも接線流ろ過で、違いは流れを反転させるかどうかの駆動方式にあります。ATFは反転による目詰まり緩和で長期灌流に向きやすく、TFFは構成の自由度が高いのが特徴です。せん断や製品透過性の差は交互流そのものよりポンプ由来である可能性が指摘されており、方式名とポンプの両方を見て選ぶのが現実的です。運転日数・せん断感受性・目標規模・単回使用の方針・総コストを軸に、自分の工程から逆算して選んでください。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。
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