ATFとTFFの違いは? 灌流培養の細胞保持を中立比較
灌流プロセスの立ち上げや製造移行を担当しているなら、ATFとTFFのどちらを細胞保持デバイス灌流培養で細胞をリアクター内に残し、上清だけを抜き出す装置。ATFやTFFが代表。に使うかは一度は突き当たる問いです。相場観もはっきりしていて、目詰まり微粒子や凝集体、タンパク層が膜の孔を塞いでろ過が落ちる現象。プレフィルターでの前段保護が効く。に強く製品も通りやすいのはATF灌流培養で使用済みの培地を入れ替えつつ、細胞は培養槽に残すための装置です。中空糸膜などで細胞と液をより分けます。詳しく →、というのが通り相場でした。
ところが、その前提を揺さぶる報告があります。TFF側のポンプを蠕動から低せん断の遠心ポンプに替えたところ、細胞増殖もライシスも製品シービング目的の製品が膜をどれだけ透過して回収できるかの度合い。膜の目詰まりや細胞破壊で悪化する。も、ATFと同等の水準まで改善した——つまり差をつくっていたのは、ろ過方式ではなくポンプだった可能性がある。

これが正しいとすると、「ATFかTFF膜面に液を平行に流しながらろ過し、目詰まりを抑えつつ濃縮やバッファ交換を行う限外ろ過(クロスフロー)装置一式です。詳しく →か」という問いの立て方そのものが、選定の入口としてずれていることになります。見るべきは方式名ではなく、その方式が何で駆動されているか。この記事は、その視点で両者を並べ直します。
前提だけ先に揃えておきます。ATF(交互接線流:Alternating Tangential Flow)もTFF(接線流:Tangential Flow Filtration)も、中空糸などの膜に培養液を接線方向に流し、細胞を通さず溶液だけを透過させる点は同じです。違うのは流し方だけ。TFFは一方向に流し続け、ATFはダイヤフラムポンプ膜(ダイヤフラム)で流れを往復させるポンプ。ATFで穏やかに流れを反転させ、せん断を抑える。で流れの向きを周期的に反転させます。この一点が、目詰まり・せん断流れの中で分子にかかる物理的な力。強すぎると抗体の凝集や微粒子発生を招く。・製品の透過性・スケール上限・単回使用のしやすさに効いてきます。
- ATFとTFFはどちらも接線流ろ過で、違いは流れを周期的に反転させるかどうかの駆動方式にあります。
- ATFは反転による目詰まり緩和で長期灌流に向きやすく、TFFは構成の自由度が高いのが特徴です。
- せん断や製品透過性の差はポンプ由来の可能性が指摘され、方式名とポンプの両方を見て選ぶのが現実的です。
原理:一方向に流すか、向きを反転させるか
両者の共通点から押さえます。ATFもTFFも、膜表面に対して培養液を接線方向(膜と平行)に流します。溶液が膜を透過して抜け、細胞は流れに乗って膜面を洗い続けます。この接線流で膜面への細胞の堆積を抑えるのが、接線流ろ過の基本原理です。灌流培養培養液を連続的に入れ替えながら細胞を高密度に保ち、長期間生産を続ける培養方式です。細胞を装置で保持し、老廃物を除きつつ栄養を補給します。詳しく →そのものの位置づけは灌流培養とはで扱っています。
違いは駆動のしかたです。TFFはポンプで一方向に循環させ続けます。ATFは同じ接線流ろ過を使いながら、ダイヤフラムポンプで流れの向きを1サイクルごとに反転させ、反転時に膜内側へ逆向きの押し戻し(バックフラッシュに相当)をかけて膜面に溜まりかけた成分を押し返します。
つまり ATFは接線流ろ過に「流れの反転」を加えた方式で、両者は別物ではなく駆動方式の違い です。この反転の有無が、以下で見る目詰まりやせん断の差につながります。
ATFとTFFはどちらも接線流ろ過。ATFは流れの向きを周期的に反転させる点だけが構造的な違いで、その反転が目詰まりの抑えやすさを左右します。
目詰まり(ファウリング):反転が効く場面
膜を使う以上、避けられないのが目詰まり(ファウリング細胞や破片、製品成分が膜面や細孔に溜まって透過抵抗が上がる現象。回収率低下を招く。)です。細胞やその破片、製品由来の成分が膜面や細孔に溜まると透過抵抗が上がり、製品が膜に留められて回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。が下がります。灌流を長期間まわすほど、この累積が効いてきます。
報告されている比較では、TFFはファウリングの緩和が弱く、透過抵抗の上昇と製品の膜側への保持が起こりやすいとされます。一方ATFは、流れの反転による押し戻しで膜面のクリアリングが働き、長期のろ過性能を保ちやすいと報告されています。抗体を例にとると、両方式とも膜に部分的に保持されますが、TFFのほうがより強く保持されやすいという結果が示されています。50日規模の長期灌流で保持性能を維持する用途でATFが選ばれやすい背景がここにあります。
ただし後述するとおり、この差の一部はろ過方式ではなく使うポンプに由来する可能性が指摘されています。 目詰まりの差は「反転の有無」と「せん断源」の両方から見る必要がある という点が実務上の勘どころです。
せん断ストレス:差の主因はポンプという指摘
冒頭の話に戻ります。ここがこの記事の核心です。
出発点は単純な物理です。細胞は物理的なストレスに弱く、強いせん断は細胞の破壊(ライシス界面活性剤や物理的破砕で細胞膜を壊し、細胞内に蓄積したカプシドを液中へ放出させる工程。)を招きます。壊れた細胞から出た破片やDNAは膜を詰まらせ、製品の透過性(シービング)まで巻き添えにします。
そしてTFFで多用される蠕動(ぜんどう)ポンプは、そのせん断と細胞ライシス細胞が物理的ストレスなどで破壊されること。破片やDNAが膜を詰まらせ製品回収を妨げる。の主要因になりやすいとされてきました。対するATFはダイヤフラムポンプで穏やかに流れを往復させます。同等の混合・酸素移動条件でも最大せん断が小さいという物理計測もあり、ここまではたしかにATF優位に見えます。
ところが、TFFの蠕動ポンプチューブをしごいて送液する充填ポンプ。製品接触が使い捨てチューブに限られ金属微粒子やせん断を抑えやすい。を低せん断の遠心ポンプ羽根車で送液する低せん断のポンプ。TFFで蠕動ポンプの代わりに使い細胞への負荷を下げられる。に置き換えるとどうなるか。細胞増殖・ライシス・粒子濃度・製品シービングが、ATFと同等の水準まで改善したという報告があります。細胞死の速度をそろえると両者の差が見えなくなった、という報告も。従来ATF優位とされてきたシービングの差は、交互流という仕組みそのものではなく、ポンプ由来のせん断と細胞ライシスの差に大きく起因していた可能性があります。
だとすれば、選定の順番が変わります。 ATFとTFFを比べるときは、方式名だけでなく「どのポンプで駆動するか」を同時に見る必要があります 。方式を決めてからポンプを選ぶのではなく、許容できるせん断を決めてから駆動を選ぶ、という順番のほうが実態に合っているかもしれません。
スケール・単回使用・コスト:どこまで大きくできるか
灌流を製造規模へ広げるとき、細胞保持デバイスがどこまでスケールするかは制約になります。ATFは市販のデバイス系列があり、公開情報では系列の大型機がおよそ50L規模から数千L規模に対応するとされ、50L単回使用リアクターでの長期灌流の検討例も報告されています。単回使用(シングルユース)でも、ATFはガンマ線滅菌済みデバイスが用意され各種の単回使用バイオリアクター細胞やウイルスの培養を制御された環境下で大規模に行うための培養槽で、商業規模の製造に用いられる。に接続された実績があり、TFFも中空糸カートリッジペン型インジェクターなどに装填する円筒容器。複数回投与や特定デバイスとの組合せで選ばれる。を使い捨て使い捨ての樹脂製バッグや容器を用いる製造方式です。洗浄・滅菌の手間を減らせる一方、ステンレス設備と比べて特徴が異なり、目的に応じて選び分けます。詳しく →にする構成が組めます。TFFは膜モジュールとポンプの組み合わせなので、遠心ポンプなど低せん断の駆動を選べる余地があります。
コスト面でも、装置価格だけでなく消耗品(膜モジュール)の交換頻度・付帯設備・運転日数を含めた総額で比べる必要があります。膜の目詰まりが早ければ交換頻度が上がり、消耗品コストと手間が積み上がります。どちらが安いかは規模・運転日数・既存設備・単回使用の方針で変わり、一概には言えません。運転設計の考え方は、播種時から高密度で立ち上げるN-1灌流のような使い方でも共通します。
なお、灌流で回収した上清は下流で濃縮・緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。交換に進みます。細胞保持で使うろ過膜(微多孔膜)と、精製で使う限外ろ過(UF/DF)の膜は目的も孔径も別物です。細胞保持の目詰まりを下流の限外ろ過半透膜で目的物質を濃縮したり(限外ろ過)、緩衝液を目的の組成に置き換えたり(ダイアフィルトレーション)する工程です。膜面に沿って液を流すTFF方式が使われます。詳しく →と混同しないことが、運用設計では大切です。
上限そのものよりも、目標規模・運転日数・接続する単回使用リアクターとの相性・総コストで選ぶのが現実的 です。
| 観点 | ATF(交互接線流)中空糸膜に培養液を接線方向に流しつつ、ダイヤフラムポンプで流れの向きを周期的に反転させる細胞保持方式。 | TFF(接線流) |
|---|---|---|
| 流し方 | ダイヤフラムポンプで往復(反転あり) | ポンプで一方向に循環 |
| 目詰まり緩和 | 反転による押し戻しで有利とされる | 反転がなく累積しやすいとの報告 |
| せん断 | 最大せん断が小さいとの計測あり | 蠕動ポンプが主要因。低せん断ポンプで改善余地 |
| 単回使用・設計 | ガンマ線滅菌ガンマ線を照射して器材を滅菌する方法。単回使用デバイスの滅菌に使われる。済みデバイスで確実に構成 | 中空糸細い管状の膜を束ねたろ過モジュール。接線流ろ過の膜面として細胞保持に使う。カートリッジ等で自由度が高い |
コスト比較は装置価格ではなく、膜モジュールの交換頻度・付帯設備・運転日数を含めた総額で見ます。目詰まりの早さが消耗品と手間の両方に効きます。
どちらを選ぶか:判断軸の整理
方式名で決めるのではなく、条件から逆算するのが実務的です。
- 運転日数:数十日規模の長期灌流で保持性能を維持したい場合、反転による目詰まり緩和が効くATFが選ばれやすい傾向があります。
- せん断への配慮:細胞株がせん断に敏感なら、ATFのダイヤフラム駆動、あるいはTFF+低せん断ポンプが候補です。方式名だけでなくポンプまで見ます。
- スケール・単回使用・コスト:目標規模と単回使用リアクターとの相性、総コストで絞ります。確実に組むならATF、構成を自前で最適化したいならTFFに自由度があります。
いずれの場合も、小スケールで得た性能が製造規模でそのまま再現するとは限りません。膜面積・流量・細胞密度のバランスは規模で変わるため、目標規模での検証が前提になります。
まとめ
ATFとTFFはどちらも接線流ろ過で、違いは流れを反転させるかどうかの駆動方式にあります。ATFは反転による目詰まり緩和で長期灌流に向きやすく、TFFは構成の自由度が高いのが特徴です。せん断や製品透過性の差は交互流そのものよりポンプ由来である可能性が指摘されており、方式名とポンプの両方を見て選ぶのが現実的です。運転日数・せん断感受性・目標規模・単回使用の方針・総コストを軸に、自分の工程から逆算して選んでください。
参考文献
- Karst, D. J. et al., Characterization and comparison of ATF and TFF in stirred bioreactors for continuous mammalian cell culture processes(Biochemical Engineering Journal)
- Kelly, W. et al., Shear contributions to cell culture performance and product recovery in ATF and TFF perfusion systems(Journal of Biotechnology)
- Clincke, M. F. et al., Very High Density of CHO Cells in Perfusion by ATF or TFF in WAVE Bioreactor. Part I(Biotechnology Progress / PMC)
- ICH Q5A(R2)細胞株由来のバイオ医薬品について、ウイルス安全性評価の枠組みを示すICHガイドライン。, Viral Safety Evaluation of Biotechnology Products Derived from Cell Lines of Human or Animal Origin
- FDA, Continuous Manufacturing (CDER / drug quality)
- Cytiva/GE Healthcare, Perfusion culture using TFF or ATF as cell retention method(同一装置比較で「両者の性能は同等(comparable)」・ファウリングはTFFがやや速い/メーカー資料)
- Repligen, XCell ATF Devices and Controllers(製品仕様:ATF6=50–200 L/ATF10=200–5000 L)
- Repligen, Regulatory Support File: XCell ATF 6 and 10 Single-use Devices(ガンマ線滅菌 25–40 kGy・単回使用)
- BioProcess International, Single-Use Devices for ATF Filtration: Perfusion Processes over 50 Days(2 L→50 L単回使用リアクターでの50日灌流の検討例)
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