UF/DFとは?バッファ交換の終わりを、なぜ回数で決めないのか

UF/DF(UFは限外ろ過、DFはダイアフィルトレーション)とは、膜を使って抗体の液から水と小さな成分を抜き、抗体の濃さと、抗体が浸かっているバッファの中身を決める工程です。抗体医薬の精製の最後に置かれ、ここで仕上がった液が原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →として製剤の工程へ渡ります。
ただし、新しいバッファを決めた量だけ流せば入れ替えが終わる、とは限りません。抗体が電荷を帯びているために、流したバッファと仕上がった液とで、pHや添加剤の濃さが食い違うことがあります。
濃縮と入れ替えの仕組みから入り、流れが落ちたときに圧を上げても効かない理由、入れ替えの終わりを実測で決める理由、運転記録で確かめる点へ進みます。
- UF/DFは何をする工程か:同じ膜と装置で、液を減らして濃くする操作(UF)と、液の量を保ったままバッファを入れ替える操作(DF)を行う工程です。
- 膜を通る液が減ったら、圧を上げればよいのか:膜の手前に抗体が濃く溜まる層ができると、圧を上げても膜を通る液はほとんど増えません。先に膜に沿った流れと液の濃さを見直します。
- DFはいつ終えるのか:流したバッファの倍数は作業量の見積もりに使い、終わりは仕上がった液の導電率とpHを測って決めます。
1. UF/DFは、抗体の液の濃さと中身をどう変えるのか
UFは液を減らして濃くする操作、DFは液の量を保ったままバッファを入れ替える操作で、どちらも同じ膜と同じ装置で行います。 違うのは、運転中に液を足すかどうかだけです。
UF(限外ろ過)では、水と塩などの小さな成分を膜から抜き、膜を通れない抗体を手前に残して液を減らします。膜の手前に残る液をリテンテート、膜を通り抜けた液をパーミエートと呼びます。
DF(ダイアフィルトレーション)では、パーミエートとして抜けた分と同じ量の新しいバッファを、リテンテートに足し続けます。液の量は変わらず、古いバッファの成分だけがパーミエートの側へ少しずつ洗い出されます。
| UF(限外ろ過) | DF(ダイアフィルトレーション) | |
|---|---|---|
| 目的 | 濃くする | バッファを入れ替える |
| 液の足し方 | 何も足さない | 抜けた分だけ新しいバッファを足す |
| 進み具合の見方 | 何倍に濃くなったか | リテンテートの何倍分のバッファを流したか |
| 終わりの判断 | 目標のタンパク質濃度 | リテンテートの導電率液のイオン強度の目安となる電気の通りやすさ。バッファ調製やクロマト制御で監視する。詳しく →とpHの実測 |

DFの進み具合は、流したバッファがリテンテートの何倍分かで数えます。この倍数をダイアボリューム(DV)と呼びます。塩のように膜を素通りする成分なら、5倍分を流すと、もとの成分は1%未満まで減ります。手元の液量で何倍分が要るかは、UF/DF 濃縮係数・ダイアボリューム計算ツールで見積もれます。
実際の工程は、先に濃縮し、その濃さでDFを行い、最後に目標の濃さまでもう一度濃縮する三段階で組むのが一般的です。DFで流すバッファの量はリテンテートの量に比例するので、先に液を減らしておけば、同じ倍数でもバッファと時間が少なくて済みます。ただし、濃くしすぎると膜を通る液の量が落ちます。DFはその手前の濃さで行います。
2. なぜ精製の最後に、濃さとバッファを作り直すのか
前のクロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →から出てきた液は、抗体の濃さもバッファの中身も、製剤の工程が受け取る条件とは違うからです。 クロマトグラフィーでは、抗体を担体カラムに充填する多孔質ビーズ。表面のリガンドと成分の相互作用差で目的物と不純物を分離する。詳しく →から外したり不純物と分けたりするために、塩の濃さやpHを変えた液を流します。その液のままでは、製剤の処方を組む出発点になりません。
製剤の工程は、決めた濃さの抗体が、決めた緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →と添加剤に浸かった原薬を受け取る前提で処方を組みます。その状態をつくるのがUF/DFです。
一方で、UF/DFでは抗体の純度はほとんど上がりません。膜が分けるのは抗体と、水や塩のような小さな成分だけ。抗体より大きい凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →や、膜を通れない大きさの不純物タンパク質は、抗体と一緒にリテンテートに残ります。
UF/DFの出来は、濃さ・pH・導電率が狙いどおりか、抗体をどれだけ失わずに回収できたかで評価します。純度を上げる役目は、手前のポリッシングの工程が受け持ちます。
3. TFFは、膜に押し付けるろ過と何が違うのか
TFF(タンジェンシャルフローろ過)は、液を膜の表面に沿って流し、その一部だけを膜に通す方式で、止めた抗体が膜の上に積もりにくい点が違います。 膜に沿った流れをクロスフロー膜面に沿って平行に液を流す流れ。せん断力で膜面の堆積を掃き流し、濃度分極を抑える。詳しく →と呼び、表面に溜まろうとする抗体を掃き流します。
液を膜へまっすぐ押し付ける方式は、デッドエンドろ過液の全量を膜にまっすぐ押し当てて通す方式のろ過。最終除菌ろ過で用いられ、流れは粘度に反比例する。詳しく →と呼ばれます。止められた成分は膜の上に積もり続けます。抗体のように止める量が多い液では、すぐに流れなくなります。
UF/DFでは、止める抗体が液の主役で、量も多くなります。TFFなら抗体を液の中に保ったまま、大量の液を長い時間ろ過できます。
ただし、クロスフローがあっても、膜の表面に抗体がまったく溜まらないわけではありません。次の節の問題は、そこから起きます。
4. 膜を通る液が減ったとき、圧を上げても戻らないのはなぜか
膜のすぐ手前に抗体が濃く溜まった層ができ、圧を上げるとその層が厚く締まるだけで、水が通りにくいまま変わらないからです。
膜を通れない抗体は、水に運ばれて膜の表面へ寄ってきます。クロスフローで掃き流される量より寄ってくる量が多いと、膜の手前に抗体の濃い薄い層ができます。この層を濃度分極ろ過で膜面に目的物が局所的に溜まる現象。クロスフローのせん断で掃き流して抑える。詳しく →と呼びます。
層が濃くなるほど水は膜を通りにくくなり、膜1 m²から1時間に出てくる液の量(フラックス膜を単位時間・単位面積あたり透過していく流れの量。粘度に反比例し、高濃度で大きく低下する。詳しく →)が伸びません。層が膜の上で固まりかけた状態は、ゲル層とも呼ばれます。
膜の両側の圧力差を膜間差圧(TMP膜をはさんだ供給側と透過側の圧力差。UF/DF(TFF)の運転を左右する主要パラメータ。)と呼びます。TMPを上げると、初めのうちはフラックスも伸びます。ところがある点を越えると、圧を上げても層が厚く締まるだけで、フラックスはほとんど増えません。
予定の時間に終わらせようとTMPを上げても、濃度分極が強い領域では、抗体を膜に押し付けて凝集や目詰まり(ファウリング)の原因をつくるだけです。圧の代わりに、何を動かせばよいのか
層を薄くするには、圧を上げるより、クロスフローを強めます。ただし流れを強めると、ポンプや流路で液をこする力(せん断)も増えるので、抗体の壊れやすさと見比べて決めます。
リテンテートの濃さも見直します。濃くなるほど層はできやすくなるので、DFを行う濃さを少し下げると、フラックスが戻ることがあります。
運転中の圧とフラックスを手元で計算するならTFF運転条件の計算ツール、フラックスから膜の面積が決まる仕組みは膜フラックス(LMH)とTMPとは?で解説しています。圧の推移は、入口・出口・透過側の圧力モニタリングで追います。
5. DFの終わりは、なぜ倍数ではなくリテンテートの実測で決めるのか
膜を通れない抗体の電荷に引かれて、膜の両側でイオンの濃さに差ができ、流したバッファとリテンテートのpHや添加剤の濃さが食い違うからです。 5倍分で1%未満という見込みは、塩が膜を素通りし、液がよく混ざっているという理想の前提で出したものです。
抗体はpHによってプラスかマイナスの電荷を帯びています。膜の手前に残る抗体の電荷とつり合うように、反対の電荷のイオンはリテンテートの側に多く残り、同じ電荷のイオンは押し出されます。これをドナン効果(Gibbs-Donnan効果電荷を持つ抗体が膜越しの電気的中性を保とうとし、イオンを両側で偏らせる現象。終点のpHや塩濃度をずらす。)と呼びます。
抗体とFc融合タンパク目的タンパク質に抗体Fcを融合し、半減期などを付与した分子。詳しく →質で調べたBoltonらの研究(2011年)は、この食い違いの大きさが、タンパク質の電荷と溶液の条件で変わることを示しました。抗体の濃度が上がるほど、食い違いは大きくなります。
抗体そのものが液の体積を占める効果(体積排除高濃度でタンパク質が大きな体積を占め、小分子が使える水の体積が減る効果。バッファ交換の終点をずらす。)も重なります。そのため皮下注皮膚の下に注射する投与経路。一度に入れられる液量が小さく、抗体の高濃度化が求められる。詳しく →射向けのような高濃度の原薬では、DFバッファのpHや濃さをあらかじめずらしておく対策がとられます。高濃度で起きることは高濃度UF/DFの膜選びで解説しています。
DFの倍数は作業量の見積もりに使い、終わりはリテンテートの導電率とpHを測り、値が落ち着いて狙いの範囲に入ったことで決めます。塩の抜け具合は導電率に、緩衝成分の入れ替わりはpHに表れ、浸透圧計溶液に溶けた成分の総量に相当する浸透圧を測る計器です。培地や製剤の濃さが適切かを確認し、細胞環境や品質の管理に使います。詳しく →があれば溶けている成分の合計も確かめられます。
導電率がそろっていても、緩衝成分が入れ替わりきっていなければpHはずれるので、片方だけでは決めません。インラインの導電率計で連続して記録しておくと、終わりの根拠を後から示せます。
6. 運転記録と膜の資料で、最初に確かめること
最初に見るのは、圧とフラックスの推移、DFの終わりの根拠、運転後に装置に残った液の回収の3つです。 どれも、時間と収率をどこで失っているかが記録に表れる所です。
収率を落としやすい2つの所
- 装置に残る液:膜カセットや配管、ポンプ、タンクには、運転後も濃い抗体溶液が残ります。この残る液をホールドアップろ過後もフィルターや配管に残る液量。高濃度では残液がそのまま高価な原薬の損失になる。詳しく →と呼びます。終わったらバッファで押し出して回収しますが、押し出す量が多すぎると原薬が薄まります。
- 膜を繰り返し使うときの確認:膜を水酸化ナトリウムなどで洗ったあと、水の通りやすさを表す正規化透水量(NWP)が使う前の値まで戻ったかで、洗浄の効果を確かめます。膜に傷や漏れがないかは、空気の拡散流量などを測る完全性試験除菌フィルターに欠陥がなく所定の孔径を保っているかを確認する試験。無菌ろ過の信頼性を裏づける。詳しく →で確かめます。
液量の少ない小スケールや高濃度の工程ほど、装置に残る液の割合が大きくなり、収率に響きます。NWP一定条件で膜を通る水の量を正規化した指標。洗浄後の回復度で膜の洗浄度や健全性を判定する。が戻らないまま次のロットに使えば、フラックスが出ず、運転時間が延びるだけです。洗浄の手間を減らしたい工程では、膜と流路を使い捨てにするシングルユース流路の構成も選ばれています。
膜を選ぶときに比べること
膜でまず見るのは、分画分子量膜がふるい分ける境目となる分子サイズ。約150kDaの抗体では30kDaが定番で、目的物を留め小分子を通す。詳しく →(MWCO限外ろ過膜が保持できる分子の大きさの目安。これより小さい成分は膜を透過させる。)です。MWCOは、その分子量の球状タンパク質を約9割止められる目安で、境目がくっきり決まっているわけではありません。そのため、残したい分子の3分の1から6分の1の値を選ぶのが一般的で、約150 kDaのIgGでは30 kDaの膜がよく使われます。MWCOの数字と、実際に膜をすり抜ける割合の違いは、ふるい係数とは?で解説しています。
ほかに比べるのは、膜の材質(再生セルロース系か、ポリエーテルスルホン除菌フィルターなどに広く使われる膜素材。親水化処理で濡れ性や低吸着を高めた製品もある。詳しく →(PES)系か)、形式(平膜カセット平らな膜を積層したカセット型のろ過ユニットで、TFF装置に取り付けて濃縮やバッファ交換に使う消耗部材です。詳しく →か中空糸か)、使い捨てか繰り返し使うか、装置に残る液の量と最小の処理量です。小さな装置で決めた条件を製造の装置に移すなら、膜の中を液が流れる距離(流路長)が同じカセットが用意されているかも確かめます。
確かめる順番
- 圧とフラックスの推移:膜間差圧(TMP)を上げてもフラックスが伸びていない区間が、運転記録にないかを見ます。
- DFの終わりの根拠:ダイアボリューム(DV)の倍数だけでなく、導電率とpHの実測で終わりを判断しているかを確かめます。
- バッファとの食い違い:最終のリテンテートのpHと添加剤の濃さが、ダイアフィルトレーション(DF)で流したバッファの値とどれだけ食い違っているかを見ます。
- 押し出し回収:運転後の押し出し回収の量と回収率が、ロットごとに記録されているかを確かめます。
- 洗浄後の確認:膜を繰り返し使うなら、洗浄後の正規化透水量一定条件で膜を通る水の量を正規化した指標。洗浄後の回復度で膜の洗浄度や健全性を判定する。(NWP)と完全性試験の結果が、ロットごとにどう動いているかを追います。
- 膜メーカーへの確認:推奨の分画分子量(MWCO)、クロスフローとTMPの範囲、装置に残る液の量、洗浄の条件、流路長をそろえたスケールアップ用カセットの有無を聞きます。
タンジェンシャルフローろ過(TFF)の装置はTFFシステムで、大量のDFバッファをその場で薄めて送る装置はバッファ調製で横断して比べられます。濃くしたあとの原薬が製剤の出発点になる話は、抗体医薬の製剤設計とは?で解説しています。
参考文献
- van Reis R, Zydney A. Bioprocess membrane technology. J Membr Sci. 2007;297(1-2):16-50. doi:10.1016/j.memsci.2007.02.045(TFFの仕組み、濃度分極、UF/DFの工程構成)
- Bolton GR, Boesch AW, Basha J, LaCasse DP, Kelley BD, Acharya H. Effect of protein and solution properties on the Donnan effect during the ultrafiltration of proteins. Biotechnol Prog. 2011;27(1):140-152. doi:10.1002/btpr.523(ドナン効果荷電した膜や成分の影響でイオンの分布が偏る現象。バッファ交換が計算より遅れる一因になる。詳しく →によるpH・添加剤の食い違い)
- Pall, What is the general rule for choosing an ultrafiltration MWCO?(MWCOを分子量の3分の1から6分の1で選ぶ目安)
- GEN, Optimizing Tangential Flow Filtration(DFを始める濃さとバッファ量・時間の関係、TMPと目詰まりの兼ね合い)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/uf-df-tff