抗体医薬基礎知識・分析

DLS(動的光散乱)とは?少量で早く、凝集の兆しを掴む

DLS#DLS#動的光散乱#流体力学的径#PDI
DLS(動的光散乱)とは?少量で早く、凝集の兆しを掴む
この記事の要点
  • DLSはブラウン運動による散乱光のゆらぎから、粒子の流体力学的径を求める手法です。
  • 少量・短時間・非破壊で測れるため、条件を多数並べる製剤スクリーニングに向きます。
  • 散乱強度は粒径の6乗に比例するため、ごく少数の大きな凝集体でも信号を支配します。長所でもあり弱点でもあります。

動きの速さから、大きさを逆算する

溶液中の粒子は、周囲の分子にぶつかられて絶えず不規則に動いています。ブラウン運動です。⁠小さい粒子ほど速く、大きい粒子ほどゆっくり動きます。

DLS(Dynamic Light Scattering溶液中の粒子がブラウン運動で散乱させる光の揺らぎから、タンパク質や凝集体の粒径分布を測る手法です。凝集の有無を素早く確認できます。詳しく →、動的光散乱)は、この関係を使います。溶液にレーザーを当てて散乱光を観測すると、粒子が動くぶんだけ散乱光の強度が時間とともにゆらぎます。⁠ゆらぎが速ければ小さい粒子、遅ければ大きい粒子です。ゆらぎの速さから拡散係数を求め、そこから粒子の大きさを逆算します。

得られる大きさを流体力学的径(hydrodynamic diameter)⁠と呼びます。粒子そのものの寸法ではなく、⁠周囲にまとった水の層まで含めて、その速さで動く球に相当する直径です。同じ分子量でも、伸びた形の分子は球状の分子より大きい値を示します。

POINT

DLSが返すのは「その速さで動く球に換算した直径」です。実際の形が球でなければ、幾何学的な寸法とは一致しません。値そのものより、条件間の比較に使うのが実務的です。

Z平均径とPDIの読み方

DLSの結果として最初に見る数字は2つです。

Z平均径(Z-average)⁠は、強度で重みづけした平均の粒子径mRNAなどを包む脂質ナノ粒子(LNP)の大きさと、有効成分を内包できた割合です。品質や効果に関わる指標です。詳しく →です。装置が最も安定して出せる値で、条件間の比較に使います。ただし後述のとおり強度重みなので、大きい粒子に引っ張られます。

PDI粒子径分布の広がりを表す指標。DLSで会合や凝集の傾向を早期に捉えるのに使う。(多分散指数、polydispersity index)⁠は、粒子径分布の広がりを表す無次元の値です。0に近いほど揃っており、大きいほどばらついています。実務では次のように読むのが一般的です。

  • 0.1未満⁠:単分散に近い。よく揃った状態。
  • 0.1〜0.3⁠:やや分布がある。多くのタンパク質溶液はこの範囲。
  • 0.3超⁠:分布が広い、あるいは複数の集団が混在。凝集や夾雑を疑う。

PDIが上がったことは、Z平均径が上がったことより早い警告になる場合があります。 少量の凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →が生じ始めた段階では平均値の変化は小さくても、分布の広がりとしては先に現れるためです。

なお、分布が広い試料では、装置が示す「分布のグラフ」を細かく読み込むことにはあまり意味がありません。DLSの分布は、ゆらぎのデータから逆問題を解いて得たもので、近接したピークを分離する能力は高くありません。⁠山が2つあるかどうか程度の情報として扱うのが適切です。

大きい粒子に極端に敏感

DLSの性質を理解するうえで最も重要なのが、⁠散乱強度が粒径のおよそ6乗に比例するという点です。

粒径が10倍になれば、1個あたりの散乱強度は100万倍になります。つまり、⁠単量体が100万個ある中に大きな凝集体が1個混じっているだけで、散乱信号は同程度になりえます。

これは長所と弱点の両方になります。

長所⁠:ごく微量の凝集体でも検出できます。凝集の兆しを早く掴みたい場面では、この感度が価値になります。

弱点⁠:定量には向きません。信号の大部分が少数の大粒子から来ているため、「凝集体が何パーセントあるか」をDLSから読むことはできません。また、ほこりや気泡が1個入っただけで結果が大きく変わります。測定前のろ過や遠心、セルの清浄さが結果を左右するのはこのためです。

SEC・MALSとの使い分け

凝集を評価する手法は複数あり、それぞれ答えられる問いが違います。

SEC(サイズ排除クロマトグラフィー多孔質の担体を通る時間差で分子をサイズ順に分離し、抗体の凝集体や断片がどれくらい含まれるかを測る手法です。詳しく →)⁠は、単量体・二量体同種の分子が2つ結合した会合体で、インスリンが六量体から解離する際に経る中間的な状態。・多量体を分離してからそれぞれの量を測ります。⁠割合を定量できるのが最大の強みで、規格試験の主役です。一方で、カラムを通す過程で弱い会合体が解離したり、逆に担体カラムに充填する多孔質ビーズ。表面のリガンドと成分の相互作用差で目的物と不純物を分離する。に吸着して回収されなかったりする可能性があります。

SEC-MALSは、SEC分子を天然に近い条件でサイズにより分ける液体クロマトグラフィー。凝集体の主要な定量法。で分離した後に多角度光散乱で絶対分子量を求めます。溶出時間からの推定ではなく、実測の分子量が得られるため、会合状態の確定に強みがあります。

DLSは分離しません。溶液をそのまま測ります。したがって定量はできませんが、⁠分離操作を経ないので、その溶液の状態をそのまま見ているという利点があります。加えて、必要量が数十マイクロリットル、測定時間が数分と軽く、非破壊なので測った試料を回収できます。

この違いから、実務では役割が分かれます。

  • DLS⁠:条件を多数並べて絞り込むスクリーニング、開発初期の状態確認、熱をかけながらの凝集開始温度の把握
  • SEC / SEC-MALSSECに多角度光散乱検出を組み合わせ、溶出した成分の絶対分子量を測る手法。凝集体などの評価に使う。⁠:割合の定量、規格試験、凝集体の管理

どこで使うか

DLSが最も効くのは、⁠条件の数が多く、試料が少なく、早さが要る場面です。

製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。スクリーニングでは、pH・緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。・塩濃度・添加剤の組み合わせを多数並べ、どの条件で凝集しにくいかを比較します。少量で測れるので、貴重な原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。を大量に消費せずに条件を絞れます。

熱安定性抗体が熱に対して立体構造を保つ性質。融解温度(Tm)などで評価する。の評価では、温度を上げながら測定を繰り返し、粒子径が急に立ち上がる温度を凝集開始温度として捉えます。DSCで測る融解温度が構造の崩れ始めを示すのに対し、こちらは凝集という結果が現れる温度を示します。両者は別の物差しであり、順位が一致しないこともあります。

高濃度製剤抗体を150〜250mg/mL級まで濃くした製剤。皮下注の自己注射に向くが、粘度や凝集の課題が生じる。の検討では、DLSの派生的な使い方として拡散相互作用パラメータ(kD)濃度に応じた拡散係数の変化から分子間の相互作用を表す指標。コロイド安定性の評価に使う。を求めることがあります。濃度を変えて拡散係数の変化を見る方法で、分子どうしが引き合うか反発するかの傾向を掴め、高濃度での粘度上昇の予測材料になります。

測定を歪める要因

結果を疑うべき状況を挙げておきます。

  • ほこり・気泡⁠:単発の大きな散乱体として入り込み、粒子径を跳ね上げます。測定を繰り返して再現しない値は、これを疑います。
  • 濃度が高すぎる⁠:粒子が密になると多重散乱が起き、実際より小さい値が出ることがあります。希釈して値が変わるなら濃度の影響です。
  • 濃度が低すぎる⁠:散乱光が弱く、統計が安定しません。
  • 溶液の粘度液体の流れにくさを表す物理的性質で、タンパク質濃度の上昇に伴い非線形に増大する。・屈折率の設定⁠:径の計算に溶媒の粘度を使うため、添加剤で粘度が変わる溶液では、既定値のままだと誤差になります。

まとめ

  • DLS=ブラウン運動による散乱光のゆらぎから流体力学的径を求める手法。得られるのは球換算の直径。
  • Z平均径とPDIを見る。PDIの上昇は平均径の変化より早い警告になることがある。
  • 散乱強度は粒径の6乗に比例するので微量の凝集体を検出できる。裏返しに定量はできず、ほこり1個で結果が変わる。
  • 割合の定量はSEC・SEC-MALS、多数条件の絞り込みと早期検知はDLS、と役割を分ける。

参考文献

Newsletter

この分野の新着を、メールで受け取る

こうした製造・分析・品質の解説記事と、装置・試薬の新製品ニュースを月数回お届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。

登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。

次に読む

目次・関連閉じる
編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。