DLS(動的光散乱)とは?凝集の兆候を検出する使い方と測定値の読み方

バッファの条件を変えたら、DLS(動的光散乱)溶液中の粒子のブラウン運動による散乱光のゆらぎから、粒子径や分布を求める手法。凝集の早期検出に使う。で測った粒子径が倍近くになった。タンパク質が凝集したのか、ほこりが入っただけなのか、測定値を見ただけでは分かりません。
DLS溶液中の粒子がブラウン運動で散乱させる光の揺らぎから、タンパク質や凝集体の粒径分布を測る手法です。凝集の有無を素早く確認できます。詳しく → は、溶液にレーザーを照射し、粒子のブラウン運動の速さから粒子径を求める測定法です。数十マイクロリットルの試料で数分、しかも非破壊で測れます。その一方で、ごく少数の大きな粒子に極端に敏感です。そのため凝集の兆候を早く検出する手法としては有用ですが、凝集体が何%あるかを定量する手法には向きません。
製剤の処方を決める担当者、受託先の成績書を読む品質保証の担当者、装置を提案する営業担当者。誰にとっても、DLS の測定値は結論ではなく、疑うきっかけとして読むと使いやすくなります。
DLS の Z 平均径と PDI は、ブラウン運動の速さから求めた値なのか?
そうです。DLS は粒子径を直接見るのではなく、拡散の速さから推定します。
溶液中の粒子は、周囲の溶媒分子との衝突で、絶えずブラウン運動をしています。この運動は、小さい粒子ほど速く、大きい粒子ほど遅い。レーザーを照射すると、散乱光の強度が時間とともにゆらぎます。ゆらぎが速ければ小さい粒子、遅ければ大きい粒子です。装置は、このゆらぎの速さから拡散係数を求め、粒子径に換算して表示します。
こうして得られる粒子径を、流体力学的径(hydrodynamic diameter)と呼びます。粒子そのものの寸法ではなく、周りの水和層まで含めて、同じ速さで拡散する球に置き換えた直径です。実際の形が球でなければ、幾何学的な寸法とは一致しません。同じ分子量でも、細長く伸びた分子は球状の分子より大きく出ます。
結果として最初に見るのは、2つの値です。
- Z 平均径(Z-average):散乱光強度で重みづけした平均粒子径。条件を比べるときの基準。
- PDI粒子径分布の広がりを表す指標。DLSで会合や凝集の傾向を早期に捉えるのに使う。詳しく →(多分散指数):粒子径分布の広がりを表す無次元の値。0に近いほど均一。単分散に近いタンパク質溶液では小さい値(0.1前後が目安)が出て、凝集や夾雑物が増えると上がる。
絶対値で合否を決めるより、処方を変える前後や、ストレスをかけた前後での変化を見るほうが役に立ちます。PDI の上昇は、平均径の変化より先に現れることがあります。
DLS の値は、実際の寸法ではなく「その速さで拡散する球に換算した直径」です。絶対値より、条件を並べたときの変化で読みます。
重要:DLS で、大きな粒子が1個混ざるだけで測定値が大きく変わるのはなぜか?
大きな粒子ほど、桁違いに強く光を散乱するからです。
散乱光強度は、粒子径のおよそ6乗に比例します。直径が10倍になると、1個あたりの散乱光は100万倍ほど強くなる計算です。大量の単量体の中に凝集体がわずかに混じっているだけで、シグナルの大半は凝集体から来ます。

この性質は、長所にも短所にもなります。短所は3つあります。
| 内容 | |
|---|---|
| 長所 | 微量の凝集体でも検出できる。分離せずに溶液をそのまま測るので、カラム通過中に弱い会合体が解離したり、充填剤に吸着して失われたりする心配がない |
| 短所:割合 | 凝集体が何%あるかという割合は、DLS からは読めない |
| 短所:異物 | ほこりや気泡が1個入っただけで、結果が大きく変わる |
| 短所:分解能 | 近いサイズのピークを分ける分解能が低い。装置が描く分布は「ピークが2つあるかどうか」くらいの情報として扱うのが妥当 |
放射性標識したトラスツズマブを調べた近年の研究では、SEC-HPLC(サイズ排除クロマトグラフィー多孔質の担体を通る時間差で分子をサイズ順に分離し、抗体の凝集体や断片がどれくらい含まれるかを測る手法です。詳しく →)では見えなかった凝集を、DLS が捉えたと報告されています。
DLS の強みと弱みは、同じ一つの性質から来ています。
DLS・SEC・SEC-MALS は、凝集のどの問いに答えるのか?
DLS は「凝集の兆候があるか」、SEC は「何%あるか」、SEC-MALSSECに多角度光散乱検出を組み合わせ、溶出した成分の絶対分子量を測る手法。凝集体などの評価に使う。詳しく → は「何量体か」に答えます。
実務では、DLS は「早く、多検体を、少ない試料で」の場面で使われます。
- 処方のスクリーニング:pH、緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →、塩濃度、添加剤の組み合わせを何十と並べ、凝集しにくい条件を残す。
- 凝集開始温度(Tagg加熱で凝集が始まる温度。DLSなどで測り、会合の起こりやすさの指標にする。詳しく →):昇温しながら測ると、粒子径が急に増加し始める温度が分かる。DSC で測る変性温度が構造のアンフォールディングの始まりを見るのに対し、Tagg は凝集という結果が現れる温度なので、両者の順位が一致しないこともある。
- kD(拡散相互作用パラメータ):高濃度の抗体製剤で、濃度を変えながら拡散係数の変化を見て、分子間に引力と斥力のどちらが働くかを求める。分子間の弱い相互作用が高濃度での粘度液体の流れにくさを表す物理的性質で、タンパク質濃度の上昇に伴い非線形に増大する。詳しく →を左右するという報告があり(Connolly ら、2012年)、kD は候補の早い段階でのスクリーニングに使われる。粘度の下げ方は高濃度抗体製剤の粘度で解説しています。
疑わしい測定値が出たあとは、SEC や SEC-MALS で量と中身を確かめる流れが基本です。全体の使い分けは凝集体をどの分析で見るかに整理しています。
DLS の測定値を読み違えるのは、ほこり・濃度・粘度の設定のどこか?
読み違える場面は、だいたい決まっています。
| 場面 | 何が起きるか | 確かめ方 |
|---|---|---|
| 1つめ:再現しない値 | 繰り返し測定で1回だけ大きく外れる。ほこりや気泡を疑う | 測定前のろ過や遠心、セルの清浄さ |
| 2つめ:濃度 | 濃度が高すぎると、散乱光が別の粒子で再び散乱され(多重散乱)、実際より小さい値が出ることがある。低すぎると散乱光が弱く、統計が安定しない | 希釈して値が変わるなら、濃度の影響 |
| 3つめ:溶媒の粘度と屈折率の設定 | 装置は粒子径の算出に溶媒の粘度を使う。糖やアミノ酸などの添加剤で粘度が変わる処方を、水の粘度のまま計算すると、粒子径がずれる | 設定値が処方の粘度と合っているか |
| 4つめ:「割合」の読み違い | 装置が描く分布は散乱光強度が基準。体積や個数の基準に換算した分布も出せるが、換算には粒子の形などの仮定が入るので、強度基準のピークの大きさを、そのまま量の比率とは読めない | 成績書で、Z 平均なのか、どの基準の分布なのか |
なお、粒子径が大きくなる原因は凝集だけではありません。粘度が高い、温度が違う、希釈液が違うといった測定条件の差でも、測定値は変わります。同じ条件で測った前後の比較が基本です。
DLS の装置を選ぶとき、明日から確かめられること
DLS の装置は、使いどころで選びます。 比べる軸は、必要な試料量、キュベット型かプレート型か、昇温しながら測れるか、静的光散乱(分子量や分子間相互作用が分かる)を併用できるか、測定できる濃度範囲です。
条件を何十も並べるスクリーニングなら、96・384ウェルのプレート型が向きます。各社の資料では、次のように説明されています。
| 装置 | メーカーの資料に書かれていること |
|---|---|
| Wyatt DynaPro Plate Reader III | 96・384・1536ウェルに対応するプレート型の DLS/SLS |
| Unchained Labs Stunner | 同じ2 µLの試料から UV 濃度と DLS などを測定する |
| Malvern Panalytical Zetasizer | Lab・Pro・Ultra の順に機能を広げるシリーズ |
| Unchained Labs Aunty | 蛍光と光散乱を組み合わせた安定性評価装置(ニュース) |
最近は、DLS、静的光散乱、示差走査蛍光昇温による疎水部の露出を蛍光変化で捉える簡便な熱安定性評価法。多検体を並行測定できる。詳しく →を1枚のプレートで同時に測る装置が増えていて、Malvern Panalytical は2027年1月から出荷するとしています(ニュース)。
測る項目が増えるほど、同じ試料の同じ状態で結果を突き合わせられます。
導入の前、または成績書を受け取ったときに、次の点を確かめてみてください。
- 測定値の使い道:DLS の値を何の判断に使うか。スクリーニングの判定なのか、規格なのか。規格に使うなら、割合を定量できる SEC などが別にあるか
- 成績書の指標:Z 平均か、どの基準の分布か。PDI も併記されているか
- 測定条件の記載:希釈液の粘度と屈折率の設定、測定温度、ろ過や遠心の有無が書かれているか
- 繰り返しと外れ値:同じ試料を何回測り、再現しない値をどう扱うと決めているか
- 原因を切り分ける体制:測定値が悪化したとき、SEC など別の原理で確かめられるか
- 自社の試料での再現:自社の濃度(高濃度抗体など)で測れるか。実際の試料で、別の日に繰り返して再現するか
装置の一覧はDLSと製剤スクリーニングのページにあります。次の疑問に答える記事も用意しています。DLSをLNPmRNAなどを包んで細胞へ届ける脂質の微粒子。全身投与では肝細胞に取り込まれやすい。に使うときの読み方はLNPの粒子径とPDI、凝集がどの工程で生まれるかは凝集の発生ポイントと抑制、候補分子を早い段階で見極める考え方は開発可能性評価で読めます。
参考文献
- ISO, ISO 22412:2017 Particle size analysis, Dynamic light scattering (DLS)(DLSによる粒子径測定の国際規格)
- Connolly BD, et al. Weak interactions govern the viscosity of concentrated antibody solutions: high-throughput analysis using the diffusion interaction parameter. Biophys J. 2012;103(1):69-78.(kDと高濃度抗体の粘度)
- Evaluation of Dynamic Light Scattering as an Effective Quality Control Method for Aggregates in Radiolabeled Antibodies(放射性標識トラスツズマブで、SEC-HPLCで見えなかった凝集をDLSが検出)
- Malvern Panalytical, Zetasizer Core 発表(SelectScience)(DLS・SLS・示差走査蛍光を1枚のプレートで測る装置。メーカー発表)
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