抗体医薬基礎知識・分析

SEC-MALSとは?サイズ排除クロマトと多角度光散乱で絶対分子量・凝集を測る

抗体医薬でモノマーと凝集体を分けるとき、まず名前が挙がるのがSEC(サイズ排除クロマトグラフィー、Size Exclusion Chromatography)です。分子をサイズで分けてピーク面積比を出す、日常的で扱いやすい手法です。ただしSEC単独で得られる分子量は、あくまで標準品(分子量既知のタンパク質)と溶出位置を比べた「相対的な推定値」にとどまります。標準品と形が違えば、この推定はずれます。

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SEC-MALSとは?サイズ排除クロマトと多角度光散乱で絶対分子量・凝集を測る

ここにMALS(多角度光散乱、Multi-Angle Light Scattering)を組み合わせたのがSEC-MALSです。MALSは溶出してくる各成分がどれだけ光を散乱するかを複数の角度で測り、そこから絶対分子量(標準品に頼らずに求める真の分子量)と慣性半径(分子の広がりの指標)を直接算出します。カラムの溶出時間に較正曲線を当てはめる必要がないため、「このピークはモノマーか、二量体か、それより大きいのか」を分子量そのもので判定できます。

本記事では、SEC-MALSがどんな原理で絶対分子量を出すのか、屈折率検出とdn/dc(濃度あたりの屈折率変化)がなぜ必要なのか、そしてSEC単独では見えにくい部分をどこまで補えるのかを整理します。凝集体評価の手法選定は 凝集体をどの分析で見るか、立体構造の評価は 高次構造解析とは? もあわせて参照してください。

SEC単独の分子量は「相対値」である

SECで表示される分子量は標準品との比較にもとづく推定であり、対象分子の形が標準品と違えば実際とずれます。

SECは、細孔をもつ充填剤のカラムに分子を通し、大きい分子ほど細孔に入り込めず早く溶出する、という原理でサイズ分離します。ここで「サイズ」として効いているのは、分子量そのものではなく、溶液中で分子が占める見かけの大きさ——流体力学的サイズ(hydrodynamic size、溶媒をまとった状態での分子の広がり)です。

分子量を求めるには、あらかじめ分子量が分かった標準タンパク質を流し、溶出時間と分子量の関係(較正曲線)を作っておきます。未知試料の溶出時間をこの曲線に当てはめて分子量を読む、という手順です。

問題は、この換算が「対象分子と標準品が同じ形をしている」という前提に立っている点です。抗体はY字型で、球状タンパク質の標準品より同じ分子量でも広がっています。伸びた分子や糖鎖の多い分子も同様です。形が違えば同じ分子量でも溶出時間がずれ、較正から読んだ分子量は真の値から外れます。

項目SEC単独(相対法)SEC-MALS(絶対法)
分子量の求め方標準品との溶出時間比較光散乱強度から直接算出
標準品較正必要分子量較正は不要
分子形状の影響受ける(形が違うとずれる)原理上ほぼ受けない
得られる主な量相対分子量、ピーク面積比絶対分子量、慣性半径

つまりSEC単独は「モノマーに対してHMW(高分子量体)が何%あるか」を面積で追う用途には十分ですが、「そのピークが正確に何量体か」を分子量で言い切るには向きません。そこを埋めるのがMALSです。

MALSはなぜ較正なしで絶対分子量を出せるのか

光散乱の強度は分子量と濃度の積に比例するため、濃度が分かれば散乱強度から分子量を直接計算できます。

溶液中の分子に光を当てると、分子は光を散乱します。この散乱光の強さは、大まかに言えば「分子量 × 濃度」に比例します。ここが要点で、同じ濃度なら大きい分子ほど強く散乱するため、散乱強度は分子量を映す物理量になります。標準品の溶出時間に頼らず、光と分子の相互作用という物理から分子量が出るので「絶対」分子量と呼ばれます。

ただし散乱強度は分子量と濃度の「積」に比例するので、分子量を切り出すには濃度が別途必要です。そこで後述の屈折率検出などで各溶出点の濃度を測り、散乱強度を濃度で割ることで分子量を取り出します。

「多角度」である理由は、分子の広がりを見るためです。分子が光の波長に対して十分小さければ、どの角度でも散乱強度は同じです。しかし分子が大きくなると、分子内の各部分から出た散乱光が干渉し、角度によって強度が変わります。この角度依存性の傾きから慣性半径(Rg、分子の質量分布の広がり)が求まります。複数角度で測り、角度ゼロへ外挿した強度が真の分子量に対応し、傾きが慣性半径に対応する、という関係です。

POINT

MALSは「散乱強度 ∝ 分子量 × 濃度」という物理関係を使います。だからこそ分子量較正は不要ですが、そのぶん濃度を正確に測る検出器(屈折率計またはUV)が必ず対になります。片方だけでは分子量は出せません。

角度ゼロへ外挿した強度から分子量を、角度依存性の傾きから慣性半径を得る——この二つが同時に取れるのがMALSの強みです。慣性半径は、抗体モノマーのように光の波長に対して十分小さい分子では小さすぎて精度が出にくいこともありますが、大きな凝集体では形状情報として有用になります。

屈折率検出とdn/dcが要になる

濃度を測る検出器と、その較正定数であるdn/dcの正確さが、絶対分子量の確からしさを左右します。

前章のとおり、分子量を出すには各溶出点の濃度が要ります。この濃度測定に多く使われるのが示差屈折率検出器(RI、Refractive Index detector)です。タンパク質が溶けると溶液の屈折率がわずかに上がり、その変化量が濃度に比例します。この比例定数がdn/dc(濃度あたりの屈折率変化、単位はmL/g)です。

dn/dcは分子ごとに決まる値で、多くの標準的なタンパク質ではおよそ0.185 mL/g前後が一つの目安として使われます。ただし糖鎖の多い糖タンパク質や、界面活性剤・脂質と複合体を作る膜タンパク質などでは、この値が変わります。dn/dcがずれると濃度がずれ、その分だけ分子量もずれます。分子量はdn/dcにほぼ反比例する形で効くため、この値の妥当性は結果の信頼性に直結します。

濃度検出にはUV吸光(280 nm)を使う構成もあります。この場合は吸光係数(extinction coefficient、濃度と吸光度を結ぶ係数)が濃度換算の定数になります。抗体のように吸光係数がよく分かっている分子ではUVも実用的ですが、発色団を持たない糖鎖部分は280 nmでほとんど吸収しないため、糖鎖の寄与を含めて質量を見たい場合はRIのほうが素直なことがあります。

濃度検出換算に必要な定数向く場面注意点
示差屈折率(RI)dn/dc糖タンパク質、複合体、汎用dn/dcの妥当性確認が必要
UV吸光(280 nm)吸光係数吸光係数既知の抗体など糖鎖など非吸収成分は過小評価

複合体(たとえばタンパク質と糖鎖、あるいは膜タンパク質と界面活性剤)では、RIとUVの両方を使って各成分の寄与を分けて解析する手法もあります。いずれにせよ、MALSの分子量は「散乱・濃度・dn/dc(または吸光係数)」の三点セットで初めて確定する、という理解が実務では大切です。

モノマー・二量体・オリゴマーをどう同定するか

SEC-MALSは各ピークに絶対分子量を紐づけられるので、面積だけでなく「何量体か」を分子量で確認できます。

抗体モノマーの分子量はおおむね150 kDa前後です。SEC-MALSでは、メインピークの分子量がこの値に合致するかをまず確認し、続いてHMW側のピークがモノマーの整数倍(約300 kDaなら二量体、それ以上ならより高次のオリゴマー)に対応するかを見ます。標準品較正では「二量体らしい位置に出ている」までしか言えませんが、絶対分子量が取れれば「実測でおよそ二量体分の質量がある」と一歩踏み込めます。

もう一つの利点が、ピーク内の分子量の均一性を見られる点です。溶出ピークの各時点で分子量を算出できるので、ピーク全体でほぼ一定なら単一種、頭からお尻へ分子量が連続的に変化するなら分子量分布をもった集団や部分的な会合・解離を疑う、といった読み方ができます。SEC単独のクロマトグラム(吸光の山だけ)では、この内部の均一性は見えません。

ただし前提として、そもそもSECのカラムでピークが分離できていることが必要です。分離が不十分でモノマーと二量体が重なっていれば、MALSはその重なった領域の平均的な分子量を返します。MALSは分離を良くする道具ではなく、分離できた成分の質量を正しく測る道具だと押さえておくとよいです。慣性半径は前述のとおり抗体モノマー単体では小さくて精度が出にくいことが多く、オリゴマーや大きな凝集体で形状情報として活きます。

SEC-MALSでも避けきれないSEC由来の限界

MALSは分子量測定の精度を上げますが、SEC本体に起因する希釈解離・カラム相互作用・非特異吸着といった問題はそのまま残ります。

SEC-MALSはあくまでSECの後段にMALSを付けた構成です。したがって、分子量の求め方は改善されても、サンプルがカラムを通る過程で起きる次のような現象は避けられません。

  • 希釈解離:SECは移動相でサンプルを希釈しながらカラムに通します。高濃度製剤中で成立している可逆的な会合は、希釈で解離して見えなくなることがあります。これはMALSを付けても解消しません。溶液中そのままの状態を見たいなら、希釈を伴わない DLS(動的光散乱) やAUC(分析超遠心)などの直交法(原理の異なる別法)が要ります。
  • カラム相互作用・非特異吸着:固定相とサンプルの非特異的な相互作用で、HMWが吸着して回収率が下がる、ピークが歪む、といったことが起きます。吸着で失われた成分はそもそも検出されないため、真の凝集量を過小評価する恐れがあります。移動相の塩濃度やpHで挙動が動く点も同じです。
  • 移動相条件への感度:分離も、非特異相互作用も、移動相のイオン強度やpHに影響されます。条件を変えると同じ試料でも見え方が変わるため、比較する際は条件をそろえる必要があります。

これらはSECという分離手法そのものの性質であり、検出器を変えても消えません。だからこそ凝集体評価は、SEC(-MALS)を主力にしつつ、希釈を伴わない手法や共有結合性HMWを見る手法を組み合わせる直交アプローチが基本になります。手法ごとの守備範囲は 凝集体をどの分析で見るか に整理しています。分子量ではなく折りたたみ状態(高次構造)が知りたい場面では 高次構造解析 が対象になります。品質特性としての凝集体の扱いは、ICH Q6BやICH Q5Eなどのガイドラインが背景にあります。

まとめ

SEC単独で得られる分子量は、標準品との溶出時間比較にもとづく相対値です。抗体のように標準品と形が違う分子では、この推定は外れることがあります。SEC-MALSは、溶出してくる各成分の散乱光を多角度で測り、「散乱強度 ∝ 分子量 × 濃度」という物理から絶対分子量を、角度依存性から慣性半径を、較正なしで直接求めます。これにより、HMWピークがモノマーの何倍の質量か、ピーク内の分子量が均一かまで踏み込んで評価できます。

一方で、分子量測定には濃度が不可欠で、屈折率検出とdn/dc(またはUVと吸光係数)の妥当性が結果の信頼性を左右します。そしてMALSを付けても、希釈解離・カラム相互作用・非特異吸着といったSEC本体の限界は残ります。SEC-MALSは「分離できた成分を正しく測る」道具であり、分離や溶液そのままの状態を保証する道具ではありません。凝集体を確からしく捉えるには、希釈を伴わない手法などと組み合わせる直交評価が前提になります。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。
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