凝集体の分析法とは?SECの数字だけではなぜ足りないのか

凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →の分析法とは、抗体医薬の分子どうしがくっついてできた塊(凝集体)の量を測る方法で、ロットを出荷してよいか、処方や工程を変えてよいかを決める数字を出します。成績書を作る人、読んで判断する人、分析を受託先に頼む人に関わります。
ただし、規格試験で使うサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)多孔性樹脂の孔に小分子ほど入り込む時間差を利用し、分子をサイズで分けるクロマトグラフィー。詳しく →の数字が規格内でも、凝集がないとは言い切れません。SEC分子を天然に近い条件でサイズにより分ける液体クロマトグラフィー。凝集体の主要な定量法。詳しく →には、測る途中でほどける塊や、装置の中に残る大きな塊が数字に出ないからです。
この記事では、凝集体をなぜ管理するのか、SECの%が何を数えているのか、そこに出ない凝集体を何で確かめるのか、成績書で何から見るのかを順に説明します。
- 凝集体をなぜ測るのか:凝集体は、体が薬を異物とみなして抗体を作る反応(免疫原性)を強めるおそれがあるため、ロットごとに量を確かめます。
- SECの%は何の数字か:薄めてカラムを通したあとに出てきたピークの中での相対値で、製剤の中の割合そのものではありません。
- SECに出ない凝集体は何で見るのか:見落としを疑う種類ごとに、分析超遠心(AUC)、変性させて分けるキャピラリー電気泳動(CE-SDS)、粒子を数える試験を足します。
1. 抗体の凝集体は、なぜ量を測って管理するのか
凝集体は、体が薬を異物とみなして抗体を作る反応を強めるおそれがあるため、ロットごとに量を測って管理します。 この反応を免疫原性と呼び、薬に対する抗体(抗薬物抗体投与した抗体医薬を異物とみなして患者の免疫系が作る抗体。薬の効果低下や安全性の問題を招く。詳しく →)ができると、薬の効き目が落ちたり、副作用につながったりすることがあります。
米国食品医薬品局(FDA)は、2014年の免疫原性薬そのものが患者の免疫応答を誘発しやすい性質。凝集体や不純物、投与経路、患者背景などが要因になる。詳しく →のガイダンスで、凝集体を免疫原性を高めうる製品側の要因の一つに挙げ、できるだけ減らし、複数の方法で調べるよう勧めています。
凝集体の数字は、見た目の品質ではありません。患者に投与したときの安全性と効き目にかかわる数字として扱います。
凝集体とは、抗体1分子(モノマー)が2つ以上集まったものです。ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく →は、二量体とそれより大きな多量体を凝集体として扱っています。大きさは、二量体から目に見える手前のµmの粒子まで桁違いに広がり、1つの方法では全体を測れません。

凝集体の管理は、「どの大きさの塊を、どの方法で見ているか」を分けて考えるところから始まります。では、規格試験でいちばん使われるSECは、そのうちどこを見ているのか。
2. 重要:SECの「凝集体○%」は、製剤の中の割合を表しているのか
SECの「凝集体○%」は、カラムから出てきたピーク全体の面積のうち、凝集体のピークが占める割合です。 製剤の中にある凝集体の割合そのものではありません。決まった条件で測ったときの相対値です。
SECでは、細孔をもつ充填剤を詰めたカラムに、薄めた試料を流します。小さな分子は細孔に入り込んで遠回りし、大きな分子は細孔に入れずに先に出てきます。この性質を使い、モノマーより先に出るピークを高分子量体(HMW)モノマーより大きい分子種の総称。二量体・多量体など凝集体がこれにあたる。詳しく →として数えます。
大きさで分ける点はふるいに似ていますが、大きいものほど先に通り抜ける点が逆です。
数字に出ない凝集体は、どこで消えるのか
SECの数字と製剤の中の実際がずれるのは、試料を薄めてカラムを通す操作そのものが、凝集体を壊したり残したりするからです。 ずれる場所は次の3つです。
- 薄めるとほどける:高濃度の製剤の中でだけ成り立つ弱い結びつき(会合)は、カラムに流す液(移動相クロマトグラフィーにおいて試料を運ぶ液体(または気体)で、組成や流量が分離性能に大きく影響する。詳しく →)で薄めた時点でほどけることがあります。
- カラムに残る:大きな凝集体はカラムの入口で引っかかったり、詰めた粒に吸着したりして、検出器まで届かないことがあります。
- 分析中にできる:移動相の塩やpHが、もとの溶液にはなかった会合を作る場合もあります。
Philoは2006年の総説で、凝集体は大きさも壊れるまでの時間も多様なため、すべてに最適な測定法は一つもないと述べています。放射性標識したトラスツズマブを調べた研究では、SECで見えなかった凝集を、溶液を薄めずにそのまま測る動的光散乱(DLS)粒子による散乱光のゆらぎから粒径分布を求める測定法。集団平均を見るため大粒子に感度が偏る。詳しく →が捉えたと報告されています。
SECの数字が低いことが示すのは、「この条件で通した試料には凝集体のピークが少なかった」ところまでです。製剤の中に凝集体がないことの証明には使えません。
回収率があれば、SECの数字を比べられる
SECの数字を信じてよいかを判断する手がかりは、回収率です。 回収率とは、注入した量のうち検出器にピークとして出てきた割合のことで、質量収支とも呼びます。
回収率が示されていないと、HMWの数字が下がったときに、凝集が減ったのか、大きな塊がカラムに残って見かけが減っただけなのかを区別できません。回収率がそろった条件で測り続けた数字なら、ロットどうしの比較に使えます。
SECの%は、同じ条件で追いかける変化の物差しとしては安定しています。ただし、絶対量としては読めません。では、見落としを疑ったときには何を足すのか。
3. SECに出ない凝集体は、どの方法で確かめるのか
足す方法は、SECが何を見落としていると疑うかで選びます。 方法ごとに答えられる問いと、見えないものは次のとおりです。
| 方法 | 答えられる問い | 見えないもの |
|---|---|---|
| SEC | 溶けている凝集体が何%か | 薄めるとほどける会合。カラムに残る大きな凝集体 |
| SECに多角度光散乱を足す方法(SEC-MALSSECに多角度光散乱検出を組み合わせ、溶出した成分の絶対分子量を測る手法。凝集体などの評価に使う。詳しく →) | 出たピークが何量体か(実測の分子量) | 分離の限界はSECと同じ |
| 分析超遠心遠心中の試料の沈み方を光で測り、分子の大きさや会合状態を調べる分析装置です。純度や凝集の評価に使います。詳しく →(AUC) | カラムを使わずに、溶液中の会合を沈む速さで見分ける | 時間がかかり、毎ロットの試験には使いにくい |
| CE-SDS(非還元) | 変性しても残る共有結合の多量体と断片 | 変性でほどける会合 |
| DLS | 凝集の兆しがあるか(少量・数分) | 割合の定量。近い大きさどうしの区別 |
| 光遮蔽法光をさえぎる粒子を検出して注射剤の不溶性微粒子を数える方法。詳しく →・フローイメージング | µmの大きさの粒子の個数 | 溶けている凝集体 |
薄めると消える会合を疑うとき
薄めるとほどける会合を疑うなら、分析超遠心高速回転で粒子を沈めて濃縮する方法。濃縮力と純度に優れるが、扱える体積が限られスケールに壁がある。詳しく →(AUC)で確かめます。 試料を高速で回し、粒子が沈む速さの違いから、モノマー、二量体、それより大きなものを分ける方法です。
カラムを使わないので吸着で取りこぼさず、SECとは別の原理で同じ試料を測れます。だから、SECの数字を裏づける方法(直交法異なる原理の手法で同じ対象を測り、結果を突き合わせて検証し合う分析の組み方。詳しく →)の代表とされます。引き換えに1検体で半日から1日かかり、解析にも慣れが要る方法です。
そこで使い所は絞ります。SECの値が疑わしいとき、処方や工程を変えたとき、凝集が起きやすい工程の前後です。低pHでのウイルス不活化ウイルスの感染性を失わせること。低pH保持や溶媒/界面活性剤処理で、エンベロープウイルスに効きやすい。詳しく →や、膜で濃縮して液を入れ替える工程(限外ろ過・透析ろ過)の前後がその例です。
変性しても残る結合を疑うとき
変性しても離れない結合を見たいなら、非還元のCE-SDSSDSで処理したタンパク質をキャピラリー電気泳動で分離し、抗体などの純度や分子サイズ分布(断片・凝集)を評価する手法です。詳しく →を使います。 CE-SDSは、界面活性剤(SDS)でタンパク質をほどいてから、細い管の中で電圧をかけて大きさごとに分ける方法です。
界面活性剤で弱い会合はほどけ、ジスルフィド結合などの共有結合でつながった多量体だけが残ります。だからCE-SDSのHMWは、SECのHMWより小さく出ることがあります。
µmの粒子は別の試験で数える
SECの数字が良好でも、µmの粒子は別の試験で数えます。 2〜100 µmほどの目に見えない粒子(サブビジブル粒子おおむね2〜100μmの目に見えない微粒子。SECなどの守備範囲を外れ、光遮蔽や画像式で計数する。詳しく →)は、SECのカラムでは測れないからです。
薬局方に上限があるのは10 µm以上と25 µm以上で、2〜10 µmには上限がありません。それでもFDAの2014年のガイダンスは、2〜10 µmの粒子も出荷から有効期間医薬品が規定の品質を保てると保証される期間。安定性データの経時変化から設定する。詳しく →の終わりまで評価するよう勧めています。タンパク質医薬品向けのUSP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく →〈787〉は、少ない試料量でも同じ判定ができるようにした章で、基準を緩めたものではありません。
上限のない2〜10 µmの粒子も、規格の判定とは別に、開発の段階から光遮蔽法やフローイメージング流路を通る粒子を一粒ずつ撮影し、大きさ・個数に加え形状まで得る測定法。粒子の由来を仕分けられる。詳しく →で数えて記録しておきます。2つの数え方の違いはサブビジブル粒子の記事で説明しています。
分担はこうなります。開発初期は少量で数分のDLS溶液中の粒子がブラウン運動で散乱させる光の揺らぎから、タンパク質や凝集体の粒径分布を測る手法です。凝集の有無を素早く確認できます。詳しく →で凝集しにくい条件を絞り、候補が決まったらSECを日常の監視に据える。そして数字が動いたときに、AUCやCE-SDSで中身を確かめます。
4. SEC・CE-SDS・DLSの数字を取り違えやすいところ
読み違えは、別の原理で測った数字を同じ物差しとして扱うところで起きます。 よくあるのは次の4つです。
- SECとCE-SDSを足し引きする:変性でほどける分とほどけない分を別々に見ているため、2つの差は誤差ではなく、会合の性質を示す情報です。
- DLSの山の高さを割合として読む:DLSは大きな粒ほど強い信号を返すため、わずかな大きな凝集体が信号の大半を占めることがあります。分かるのは兆しがあるかどうかで、どれだけあるかではありません。
- 原因を切り分けずに処方や工程を変える:SECの値が動いたら、先に回収率、薄めた倍率、カラムの状態を確かめ、AUCやSEC-MALSで裏を取ってから判断します。
- AUCを全ロットに回すか、一度も回さない:SECだけで見落としたときの損失と、全ロットを測る費用と時間を比べて、使う場面を決めます。
どれも避けられる読み違えです。数字を比べる前に、どの大きさの帯をどの原理で見た数字かを報告書で確かめるだけです。
DLSの結果は、全体の平均の大きさ(Z平均)なのか、信号の強さで重みをつけた分布なのかで読み方が変わります。報告書でどちらかを確かめてから比べてください。
5. 成績書では、SECの回収率とµmの粒子の試験から確かめる
成績書で最初に見るのは、SECの回収率が示されているかと、µmの粒子の試験がSECとは別に入っているかです。 この2つが欠けていると、残りの数字を正しく読めないため、次の順に確かめます。
- サイズ排除クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →(SEC)の条件:回収率(質量収支)、試料を薄めた倍率、移動相の条件が書かれているかを見ます。
- 微粒子の試験:2〜10 µmを含むサブビジブル粒子の試験が、光遮蔽粒子が光を遮る量から微粒子を計数する方法。注射剤の不溶性微粒子試験に用いる。詳しく →法かフローイメージングで、SECとは別に入っているかを見ます。
- 別の原理での裏づけ:凝集体の数字を、分析超遠心(AUC)などで、開発初期や処方・工程の変更時に確かめているかを見ます。値が動いたときに確かめる体制が、社内か受託先にあるかも見ます。
- キャピラリー電気泳動細い管(キャピラリー)に電圧をかけ、分子の電荷やサイズの違いによる移動速度の差で成分を分離する分析法です。詳しく →(CE-SDS)の位置づけ:CE-SDSの数字を、SECとは別の物差しとして説明しているかを確かめます。
- 動的光散乱(DLS)の使い方:Z平均か強度基準の分布かが書かれ、割合として使っていないかを見ます。
SECの条件と微粒子の試験が欠けていれば、まずそこを受託先に問い合わせます。装置はサイズ排除クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動、動的光散乱、分析超遠心の各ページで探せます。
参考文献
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q6B: Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological / Biological Products(1999年。二量体以上の多量体を凝集体として扱う位置づけ)
- FDA, Guidance for Industry: Immunogenicity Assessment for Therapeutic Protein Products(2014年8月)(2〜10 µmのサブビジブル粒子の評価、凝集体を複数の方法で調べること)
- Philo JS. Is any measurement method optimal for all aggregate sizes and types? AAPS J. 2006;8(3):E564-E571. doi:10.1208/aapsj080365(凝集体の大きさと寿命の多様性、測定が凝集体を壊したり作ったりすること)
- Evaluation of Dynamic Light Scattering as an Effective Quality Control Method for Aggregates in Radiolabeled Antibodies(放射性標識トラスツズマブで、SEC-HPLC多孔質の担体を通る時間差で分子をサイズ順に分離し、抗体の凝集体や断片がどれくらい含まれるかを測る手法です。詳しく →で見えなかった凝集をDLSが検出)
- USP 〈787〉: Subvisible Particulate Matter in Therapeutic Protein Injections
- USP 〈788〉: Particulate Matter in Injections
- 1抗体の二量体とは?SECの数字だけでは中身が分からないのはなぜか
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- 3SEC-MALSとは?絶対分子量で凝集体が何量体かを確かめる
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