抗体の凝集体は工程のどこで増えるのか?除くだけでは足りない理由

抗体の凝集とは、抗体の分子どうしがくっついて大きな塊(凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →)になることです。抗体医薬の精製や製剤の条件を決める人と、品質を測る人に関わり、凝集体は工程の決まった場面で少しずつ増えます。
ただし、増えた凝集体を精製で取り除けば済むとは限りません。取り除く工程がどこにあるかで、残る量が変わります。
この記事では、凝集体ができる仕組み、工程のどこで増えるのか、除くだけでは足りない理由、場面ごとに何を変えると増え方が変わるのかを順に説明します。
- 抗体の凝集体とは:1分子ずつ溶けているはずの抗体が、2分子以上くっついた塊です。
- 工程のどこで増えるのか:酸に置く、濃くする、凍らせる、表面に触れる、の4つの場面です。
- なぜ除くだけでは足りないのか:仕上げの精製より後の工程で増えた分は、除く手段が残っていないためです。
1. 抗体の分子は、どうやってくっついて凝集体になるのか
抗体医薬は、1分子ずつばらばらに溶けた状態(単量体)で働くように作られています。単量体どうしがくっつく道は、形が緩んで内側の面が表に出る道と、形を保ったまま濃い液の中で寄り合う道の2つです。
- 形が緩む道:抗体の立体の形が緩むと、内側に隠れていた水をはじく面が表に出て、その面どうしがくっつきます。酸、氷、空気や容器の表面が主な引き金です。
- 形を保ったまま寄り合う道:形は崩れていなくても、濃い液の中では分子どうしの距離が縮み、寄り合って塊ができます。濃さが引き金です。
形が緩む道でできた塊は、条件を元に戻しても単量体に戻らないことがあります。酸性の液に置いたあとで中和しても、凝集体が残ることがあるのはこのためです。
凝集体の量は、多くの場合、分子の大きさで分けるサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)多孔性樹脂の孔に小分子ほど入り込む時間差を利用し、分子をサイズで分けるクロマトグラフィー。詳しく →で測ります。単量体より大きいので先に出てくるピークの面積から、全体に対する割合(%)を出します。
つまり、凝集体を減らすには、酸・濃さ・氷・表面という引き金に、抗体がいつ出会うのかを知る必要があります。2つの道を製剤の側から整理した記事は抗体製剤の凝集を防ぐ設計は何で決まるかです。
2. 凝集体は、精製から充填までのどの場面で増えるのか
凝集体が増えやすいのは、酸に置く、濃くする、凍らせる、表面に触れる、の4つの場面です。 工程の順に並べると、次のとおりです。
- 酸:Protein Aの精製で抗体を酸性の液で外し、そのまま酸性に置いてウイルスを壊すまで。
- 濃さ:膜で水を抜いて濃くし、緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →を最終製剤のものに入れ替える工程。
- 氷:製剤にする前の抗体の溶液(原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →)を凍らせて保管し、融かすまで。
- 表面:ポンプでの送液、容器への充填処方済みの溶液をバイアルやシリンジなどの容器へ無菌的に充填し、封止する製造工程。詳しく →、シリンジの中での保管と輸送。

一般的な抗体の工程では、酸の場面のあとに、凝集体などの不純物を除く仕上げの精製があります。濃縮、凍結、充填は、その仕上げの精製より後ろにあります。
4つの場面は、図の左から右へ1度ずつ通るだけではありません。原薬を凍らせて融かすたび、液をポンプで送るたびに、同じ場面を繰り返し通ります。このように、凝集体の量は1つの工程の成績ではなく、通ってきた場面の履歴で決まります。
3. 仕上げの精製で除くだけでは足りないのは、なぜか
濃縮・凍結・充填のように、仕上げの精製より後の工程で増えた凝集体は、もう除く工程が無く、そのまま製剤に残るからです。
除ける場面でも、代償があります。凝集体は単量体より水をはじく面を多く出しているので、水をはじく強さで分ける疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)では担体カラムに充填する多孔質ビーズ。表面のリガンドと成分の相互作用差で目的物と不純物を分離する。詳しく →に強く付き、単量体と分けられます。ただ、単量体との境目で一部を捨てるため、除く量を増やすほど収率は下がります。
除けなかった凝集体は、患者に関わります。凝集体は、薬に対する抗体ができる反応(免疫原性薬そのものが患者の免疫応答を誘発しやすい性質。凝集体や不純物、投与経路、患者背景などが要因になる。詳しく →)の危険因子として指摘されています(Roberts、2014年)。
精製より後の段階でできた凝集体が、問題になった例もあります。ガラスのシリンジを成形するときに残ったタングステンが、貧血の治療に使うタンパク質製剤(エポエチンアルファ)を凝集させました。著者らは、この凝集が免疫原性の原因でありうると報告しています(Seidlら、2012年)。
つまり、除去の工程は酸の場面の凝集体に効いても、後ろの場面の代わりにはなりません。凝集体は、除く前提で考えるのではなく、場面ごとに増やさない条件を決めておく品質の項目です。
4. 場面ごとに、何を変えると凝集体の増え方が変わるのか
酸ではpHと置く時間と混ぜ方、濃縮では膜にかける圧と流れ、凍結では緩衝剤と容器の大きさ、表面ではポンプと気泡と容器が、増え方を変えます。
酸:実際の溶出液で、pHと置く時間を振る
Protein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく →は抗体の根元の部分(Fc領域抗体の定常部にあたる「足」の部分。FcγRや補体、FcRnと相互作用し、機能や血中半減期を担う。詳しく →)をつかむ精製用の樹脂で、pH 3〜4ほどの酸性の液で抗体を外します。その液をそのまま低pHウイルス不活化に回し、pH 3.5前後で30分から1時間ほど置くのが典型です。ウイルスを壊せる条件と抗体が耐えられる条件の幅は狭く、置く時間が長いほど凝集が進みます。
Protein Aを通した液は、同じpHへ下げただけの液より凝集が速く進むことが報告されています。 IgG4抗体での比較で、試したpHの範囲を通してこの差が見られ、著者らはクロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →の工程そのものが凝集を速めていると結論しました(Mazzerら、2015年)。
つまり、精製した抗体を酸性の液に置くだけの試験では、実際の工程より甘く見積もるおそれがあります。条件を決める試験は、実際の溶出液で行います。酸を足した直後に混ざりきらない場所ではpHが目標より下がりすぎるため、酸を加える速さと混ぜ方も記録しておきます。
濃さ:圧を上げる前に、膜に沿った流れを見る
膜で水を抜いて濃くし、緩衝液を入れ替える工程を、限外ろ過(UF)・ダイアフィルトレーション(DF)と呼びます。濃くしていくと、膜のすぐ手前に抗体が濃く溜まった層ができ、この現象を濃度分極ろ過で膜面に目的物が局所的に溜まる現象。クロスフローのせん断で掃き流して抑える。詳しく →と呼びます。ろ過の速さが落ちたときに圧を上げると、層が締まって抗体が膜に押し付けられ、凝集や目詰まり微粒子や凝集体、タンパク層が膜の孔を塞いでろ過が落ちる現象。プレフィルターでの前段保護が効く。詳しく →を招きます。
層を薄くしたいなら、圧を上げる前に膜に沿った流れを強めます。ただし流れを強めると、ポンプと流路で液をこする力も増えます。この工程では緩衝液も入れ替わり、pHと塩が変わるため、濃縮の後に凝集体が増えたら、濃くしたことの影響か、緩衝液の影響かを分けて見ます。
氷:最後に凍る場所に、抗体と塩が集まる
原薬を凍らせると、水だけが先に凍り、抗体も塩も凍っていない液の側へ追い出されます。容器が大きいほど、最後に凍る中心は長く濃い状態に置かれます。 リン酸ナトリウム緩衝液は、冷やすと片方の成分が先に析出し、残った液のpHが酸性側へ大きく動くことが知られています。数字と図は原薬の凍結・融解とはにまとめています。
表面:ポンプの方式を替えても止まるとは限らない
抗体は、空気や油や金属の表面に貼りつくとほどけやすくなります。チューブをしごいて送るペリスタルティックポンプでは、粒子の出方がチューブの硬さと表面の性質で変わりました(Deiringerら、2022年)。チューブの内壁に貼りついた抗体の薄い膜が、チューブが潰れて戻るたびに破れ、粒子のもとになると考えられています。
充填ポンプの運転中にできたIgGの粒子では、ステンレス鋼のナノ粒子が核になっていたことが報告されています(Tyagiら、2009年)。プレフィルドシリンジあらかじめ薬液を充填した注射器そのものを製品にする容器形式。自己注射やオートインジェクターに用いる。詳しく →では、シリコーン油を塗った内壁、残った気泡、輸送を想定した揺れが重なった条件で、粒子がいちばん多くできました(Gerhardtら、2014年)。
このように、液をこする力を小さくしても、表面に触れる回数と相手の材質が変わらなければ、凝集が止まるとは限りません。ポンプは送液ポンプの選び方、容器はプレフィルドシリンジで凝集する理由で詳しく説明しています。
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- 5. まず工程の前後で凝集体を測り、増えた場面を1枚の表にする
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ほかの会員向けの記事を見る →参考文献
- Roberts CJ. Therapeutic protein aggregation: mechanisms, design, and control. Trends Biotechnol. 2014;32(7):372-380.(凝集体が免疫反応の危険因子であること)
- Mazzer AR, Perraud X, Halley J, O'Hara J, Bracewell DG. Protein A chromatography increases monoclonal antibody aggregation rate during subsequent low pH virus inactivation hold. J Chromatogr A. 2015;1415:83-90.(IgG4抗体で、Protein A通過後の低pH保持は凝集が速い)
- Tyagi AK, Randolph TW, Dong A, Maloney KM, Hitscherich C, Carpenter JF. IgG particle formation during filling pump operation: a case study of heterogeneous nucleation on stainless steel nanoparticles. J Pharm Sci. 2009;98(1):94-104.
- Deiringer N, Friess W. Reaching the breaking point: Effect of tubing characteristics on protein particle formation during peristaltic pumping. Int J Pharm. 2022;627:122216.
- Gerhardt A, et al. Protein aggregation and particle formation in prefilled glass syringes. J Pharm Sci. 2014.(シリコーン油、気泡、揺れの組み合わせ)
- Seidl A, et al. Tungsten-induced denaturation and aggregation of epoetin alfa during primary packaging as a cause of immunogenicity. Pharm Res. 2012;29(6):1454-1467.
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/antibody-aggregation-control