抗体医薬基礎知識・分析

二量体とは?抗体医薬で最も身近な凝集体の正体と、どこで生まれるか

二量体(dimer同種の分子が2つ結合した会合体で、インスリンが六量体から解離する際に経る中間的な状態。/ダイマー)とは、同じ分子が2つ結合してできた集合体を指します。抗体医薬の文脈では、抗体モノマー製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →が2分子会合したものを意味し、⁠凝集体(HMW:高分子量体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →)のうち最も分子数の少ない形にあたります。

多量体や大きな粒子と比べて目立ちにくい存在ですが、実務での重要度は高い。SEC分子を天然に近い条件でサイズにより分ける液体クロマトグラフィー。凝集体の主要な定量法。のクロマトグラムでモノマーの直前に現れるこのピークが、工程の状態を映す指標として日常的に監視されているためです。

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二量体とは?抗体医薬で最も身近な凝集体の正体と、どこで生まれるか
この記事の要点
  • 二量体は凝集体の最小単位で、可逆的な会合と共有結合で固定されたものがあります。
  • 両者は性質が違うため、SECだけでなく非還元CE-SDSなどで結合様式を切り分けます。
  • 低pHウイルス不活化やUF/DFなど、二量体が生じやすい工程は前後で比較すると原因を追えます。

二量体には二つの性格がある

二量体同種の分子が2つ結合した会合体で、インスリンが六量体から解離する際に経る中間的な状態。」とひとことで呼んでも、結合のされ方によって性質はまったく異なります。

種類結合様式希釈すると変性条件で
可逆的二量体静電・疎水などの非共有結合解離薬分子が水溶液中で電荷を帯びたイオン型と電荷を持たない非イオン型に分かれる現象で、体内のpH環境によって割合が変化する。しうる解ける
共有結合性二量体ジスルフィド結合システイン残基どうしが作るS-S結合。タンパク質の立体構造を留める橋になる。など解離しない解けない

可逆的な会合は、分子どうしが弱い力で寄り添っている状態です。濃度や溶液条件に依存し、希釈すればモノマーに戻ることがあります。高濃度製剤抗体を150〜250mg/mL級まで濃くした製剤。皮下注の自己注射に向くが、粘度や凝集の課題が生じる。の中では相当量が会合していても、SEC移動相クロマトグラフィーにおいて試料を運ぶ液体(または気体)で、組成や流量が分離性能に大きく影響する。に希釈された時点で解離し、測定値には現れない——という現象が起こりえます。

共有結合性の二量体は、分子間にジスルフィド結合などが形成され、固定されたものです。希釈しても、変性剤で処理しても解けません。遊離チオールが残っている分子は、酸化的な条件で分子間ジスルフィドを作りやすくなります。

この二つを区別しないと、「凝集体が増えた」という観察から次の一手が導けません。

どう見分けるか

SEC(サイズ排除クロマトグラフィー多孔質の担体を通る時間差で分子をサイズ順に分離し、抗体の凝集体や断片がどれくらい含まれるかを測る手法です。詳しく →)⁠はサイズで分けるため、モノマーと二量体を分離して相対%で定量できます。日常のモニタリングと規格試験の主力です。ただし、結合様式までは分かりません。

非還元CE-SDSSDSで処理したタンパク質をキャピラリー電気泳動で分離し、抗体などの純度や分子サイズ分布(断片・凝集)を評価する手法です。詳しく →は、変性条件でサイズを見ます。非共有結合の会合は解けるため、ここで残る高分子量体は共有結合で固定されたものと解釈できます。SECとCE-SDSの値を突き合わせることで、二量体の性格を切り分けられます。

分析超遠心遠心中の試料の沈み方を光で測り、分子の大きさや会合状態を調べる分析装置です。純度や凝集の評価に使います。詳しく →(AUC)⁠は希釈の影響を受けにくい条件で沈降を見るため、SECで見えなくなる可逆的会合分子どうしが弱く寄り集まった凝集で、希釈や温度・pHの変化で解離しうる状態。を捉える直交法異なる原理の手法で同じ対象を測り、結果を突き合わせて検証し合う分析の組み方。として使われます。

これらの使い分けは凝集体分析の記事で詳しく整理しています。

POINT

SECで二量体が「見えない」ことと「存在しない」ことは別です。可逆的な会合は移動相での希釈により解離しうるため、高濃度製剤では希釈の影響を受けにくい手法での確認が意味を持ちます。

どの工程で生まれるのか

二量体が増える場面は、工程ごとにおおよそ決まっています。

培養⁠:細胞が生産する段階で、フォールディングの不完全な分子や、遊離チオールを持つ分子が一定割合生じます。培養の後半、細胞が弱ってくる時期には、放出されたプロテアーゼタンパク質を分解する酵素。破砕で放出され目的物を分解するため低温や阻害剤で抑える。や還元的な環境の影響も加わります。

回収・精製⁠:Protein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく →アフィニティー精製の溶出は低いpHで行われます。この酸性条件は抗体にとって負荷であり、中和までの滞留時間抗体が標的に結合し続ける時間。解離の遅さ(小さいkd)で長くなり、効き続けやすさに関わる。が長いと構造が乱れ、凝集の起点になります。

低pHウイルス不活化精製の途中で液を一定時間低いpHにさらし、混入しうるエンベロープウイルスを不活化するウイルス安全対策です。詳しく →⁠:ウイルスを不活化ウイルスの感染性を失わせること。低pH保持や溶媒/界面活性剤処理で、エンベロープウイルスに効きやすい。するために、あえて低pHに一定時間保持します。ウイルス除去の観点では必要な工程ですが、抗体にとっては最も凝集しやすい局面のひとつです。保持時間・温度・pHの組み合わせが、不活化の確実性と凝集のトレードオフになります。

UF/DF半透膜で目的物質を濃縮したり(限外ろ過)、緩衝液を目的の組成に置き換えたり(ダイアフィルトレーション)する工程です。膜面に沿って液を流すTFF方式が使われます。詳しく →(限外ろ過・透析ろ過膜ろ過で液のバッファを目的の処方液に置き換える操作。限外ろ過(UF)と組み合わせて使う。:濃縮によってタンパク質濃度が上がると、分子どうしが接近する頻度が増えます。膜面近傍では局所的にさらに高濃度になり(濃度分極ろ過で膜面に目的物が局所的に溜まる現象。クロスフローのせん断で掃き流して抑える。)、会合が進みやすくなります。

製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。・保存⁠:製剤のバッファーとpH界面活性剤タンパク質の凝集や容器壁への吸着を防ぐため製剤へ少量加える添加剤で、細胞培養で細胞を保護する目的でも使われます。詳しく →の有無、凍結融解凍結と融解の繰り返し。濃縮・局所pH変化・氷界面への吸着が重なり凝集の引き金になる。の回数、輸送時の振動——いずれも二量体の増加要因になりえます。プレフィルドシリンジでの凝集のように、容器や界面が関わる要因もあります。

工程の前後で二量体の値を比較すれば、どこで増えたかを絞り込めます。「最終製品で規格を外れた」という結果だけでは原因に届きません。⁠工程内のどの点で測るかを設計しておくことが、後の原因究明を可能にします。

規格と、なぜ管理するのか

凝集体が品質上問題視される主な理由は、免疫原性のリスクにあります。すべての凝集体が同じリスクを持つわけではありませんが、ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。 では凝集体を含む不純物・関連物質主に低分子医薬で、目的物質に構造が似た不純物や分解物を分離・定量する分析です。純度や安定性を確認します。詳しく →が品質特性として位置づけられ、規格設定と工程管理の対象になります。

規格の立て方は、多くの場合「HMW合計」として設定されます。二量体だけを切り出して管理するとは限らず、モノマーより大きい成分の合計として扱われることが一般的です。ただし開発の過程では、HMWの内訳が二量体主体なのか、より大きな多量体を含むのかを把握しておく価値があります。増え方の性格が違うためです。

安定性試験では、保存期間にわたる凝集体の推移が主要な観察項目のひとつになります。熱安定性の評価(DSC)で得られる転移温度は、処方の選択段階で凝集しにくい条件を絞り込む手がかりになります。

まとめ

二量体は、抗体モノマーが2分子会合した凝集体の最小単位です。凝集体の中では最も身近で、SECのクロマトグラム上で日常的に監視される対象です。

性格は二つに分かれます。非共有結合による可逆的な会合は希釈で解離しうるため、SECの値には現れないことがあります。ジスルフィド結合などで固定された共有結合性の二量体は、希釈でも変性条件でも解けません。SECと非還元CE-SDS、必要に応じてAUCを組み合わせることで、この切り分けができます。

生成しやすい工程は、低pHでのProtein A溶出とウイルス不活化、UF/DFでの濃縮、そして製剤・保存です。工程の前後で測る設計にしておけば、増加の起点を絞り込めます。

規格はHMW合計として設定されることが多いものの、開発段階ではその内訳を把握しておくと、工程改善の当たりを付けやすくなります。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。