抗体の二量体とは?SECの数字だけでは中身が分からないのはなぜか

抗体の二量体(ダイマー)とは、抗体が2分子つながったものです。抗体医薬の成績書で「凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →」として数える成分の中心にあり、品質の担当者がその数字を読むとき、開発の担当者が工程を直すときに関わります。
ただし、成績書の数字が同じでも、二量体の中身が同じとは限りません。弱い力で寄り添うものと化学結合で固定されたものでは、減らすために変える条件が違います。
この記事では、二量体とは何か、つなぎ方で打つ手が変わる理由、成績書の数字だけでは中身が分からない理由と確かめ方、危険性と規格の扱いを順に説明します。
- 抗体の二量体とは:抗体が2分子つながったもので、成績書では凝集体(HMW)に含めて数えます。
- なぜつなぎ方を見分けるのか:弱い力の会合と化学結合で固定されたものでは、できる原因と、減らすために変える条件が違うためです。
- サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の数字だけで足りるのか:足りません。試料を薄めて測るため、ほどける会合が見えないことがあります。
1. 抗体の二量体は、成績書の凝集体の数字とどう関係するのか
抗体の二量体は、抗体が2分子つながったもので、成績書では凝集体の割合の中に含めて数えます。 抗体医薬では、本来の1分子の抗体を単量体(モノマー)と呼び、それより大きなものをまとめて凝集体として扱います。
成績書では、凝集体は高分子量体(HMW)モノマーより大きい分子種の総称。二量体・多量体など凝集体がこれにあたる。詳しく →の割合として書かれます。二量体はその中でいちばん小さく、市販の抗体医薬の凝集体のなかでも比較的多い成分だと報告されています。
2分子のつながり方には、2つの種類があります。
- 可逆的な会合:静電気や水をはじく性質による弱い力(非共有結合)で寄り添った状態です。濃度や液の条件に左右され、薄めると単量体に戻ることがあります。
- 共有結合性の二量体:分子の間に硫黄どうしの結合(ジスルフィド結合)などができて固定されたものです。薄めても、タンパク質をほどく薬剤で処理しても、離れません。
形もさまざまです。2016年の研究は、複数の治療用抗体の二量体を調べ、腕の先どうしが1か所で結びついた細長い型と、腕の根元の近くで複数の場所が組み合わさったコンパクトな型が、抗体に共通して見つかると報告しました。
つまり、同じ「二量体2%」という数字でも、その中身は抗体や工程ごとに違います。
2. つなぎ方が違うと、なぜ打つ手が変わるのか
可逆的な会合と共有結合性の二量体では、できる原因が違い、減らすために変える条件も違うからです。
- 可逆的な会合:分子どうしが近づくほど進むため、濃縮や高濃度の製剤で増えやすくなります。効くのは、濃度、pH、塩といった処方の条件です。
- 共有結合性の二量体:余ったシステイン(遊離チオール)が酸化され、分子の間をつないでできる場合があります。疑うのは、培養でできる遊離チオール、酸化、金属の混入といった化学の側です(遊離チオールとジスルフィド結合の分析)。
どちらの二量体も、精製で抗体に負荷がかかる場面で増えることがあります。Protein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく →のレジンクロマトグラフィーで目的物や不純物を結合させる粒子状の充填材。精製モードごとに使い分ける。詳しく →から抗体を外すときと、続く低pHウイルス不活化では、酸性の液の中で構造が緩み、中和までの時間が長いほど凝集が始まりやすくなります。
工程のどこで増えるかの全体は抗体の凝集体は工程のどこで増えるのかで説明しています。このように、二量体が増えたときは、増えた場面とつなぎ方の両方が分かって初めて、変える条件を決められます。
3. SECの数字だけでは、なぜ二量体の中身が分からないのか
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)多孔性樹脂の孔に小分子ほど入り込む時間差を利用し、分子をサイズで分けるクロマトグラフィー。詳しく →は試料を薄めてから大きさで分けるため、薄めるとほどける会合が見えないことがあり、つなぎ方も区別できないからです。
SEC分子を天然に近い条件でサイズにより分ける液体クロマトグラフィー。凝集体の主要な定量法。詳しく →は、分子を大きさの順に分ける分析で、単量体の手前に出るピークとして二量体を分け、その割合を出します。日常の監視と規格の試験に使うのは、この方法です。
ただ、SECの数字は、試料をカラムに流す液(移動相クロマトグラフィーにおいて試料を運ぶ液体(または気体)で、組成や流量が分離性能に大きく影響する。詳しく →)で薄めたあとの状態です。高濃度の製剤の中で会合していても、薄めた時点でほどけ、測定値に表れないことがあります。移動相の塩やpHでも値が動きます。

SECで見えないことは、無いことの証明になりません。中身は、知りたいことに合わせて別の方法で確かめます。
- ピークが本当に二量体か:SECに光散乱の検出器をつなぎ、実測の分子量を出す方法(SEC-MALSSECに多角度光散乱検出を組み合わせ、溶出した成分の絶対分子量を測る手法。凝集体などの評価に使う。詳しく →)で確かめます(SEC-MALSの解説)。
- 共有結合か非共有結合か:界面活性剤のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)でタンパク質をほどき、細い管の中の電気泳動で大きさを見る方法(CE-SDSSDSで処理したタンパク質をキャピラリー電気泳動で分離し、抗体などの純度や分子サイズ分布(断片・凝集)を評価する手法です。詳しく →)を、ジスルフィド結合を切らない条件(非還元)で行って切り分けます。ここで残る二量体は、共有結合で固定されたものと読めます。
- 薄めるとほどける会合があるか:カラムを使わず、溶液のまま沈む速さを見る分析超遠心遠心中の試料の沈み方を光で測り、分子の大きさや会合状態を調べる分析装置です。純度や凝集の評価に使います。詳しく →(AUC)で確かめます。
SECの数字は増減を追うのに向いていますが、二量体がどんな性質のものかは、ほかの方法と組み合わせて初めて分かります。 凝集体の分析法全体の使い分けは凝集体をどの分析で見るかにあります。
4. 二量体の危険性は、規格でどう扱われているのか
二量体が免疫反応を強めるかについて言えることは限られ、規格は多くの場合、二量体だけでなく高分子量体(HMW)の合計で決めます。 凝集体を管理する主な理由は、薬に対する抗体が体の中でできるリスク(免疫原性薬そのものが患者の免疫応答を誘発しやすい性質。凝集体や不純物、投与経路、患者背景などが要因になる。詳しく →)です。
2019年の動物実験では、マウスの抗体に低pH、高温、紫外線のストレスを与えて二量体を作り、取り分けてマウスの皮下に注射しました。どの二量体も、ストレスをかけていない抗体より免疫反応を強めることはありませんでした。
一方で総説は、凝集体の免疫原性は大きさだけでは決まらず、構造や化学的な変化など複数の要因が絡むとまとめています。
つまり、マウスの1つの実験から、ヒトでも二量体は安全だとは言えず、反対に凝集体をすべて同じ重さで扱う根拠もありません。
規格の側では、ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく →(バイオ医薬品抗体や組換えタンパク質など、生きた細胞や微生物に作らせる医薬品の総称です。細胞治療・遺伝子治療の製品を含めて呼ぶこともあります。化学合成で作る核酸医薬やペプチドは、ふつう含めません。詳しく →の規格の決め方を示す国際的なガイドライン)が、凝集体を製品に由来する不純物として位置づけています。規格値は多くの場合HMWの合計で設定され、二量体だけを切り出すとは限りません。
規格に合っていても、開発の途中ではHMWの内訳が二量体中心か、大きな多量体を含むかを見ておくと、増え方の性格がつかめます。保存中の推移を追う安定性試験でも、凝集体は主な観察項目です。
5. 成績書の二量体の数字は、測定の条件と内訳から読む
成績書や受託先の報告書を開いたら、最初に、サイズ排除クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →(SEC)の数字に、薄めた倍率と移動相の条件が書かれているかを確かめます。 倍率や移動相が違う値どうしは、同じ試料でも比べられません。
そのあと、次の順に見ます。
- 高分子量体(HMW)の内訳:二量体と、それより大きな多量体が分けて示されているか。
- ピークの正体:二量体のピークであることを、実測の分子量(SEC-MALS)で確かめているか。
- つなぎ方:非還元CE-SDS(界面活性剤でほどいて大きさを見る電気泳動)や分析超遠心高速回転で粒子を沈めて濃縮する方法。濃縮力と純度に優れるが、扱える体積が限られスケールに壁がある。詳しく →(AUC)で、共有結合か非共有結合かを切り分けているか。
- 工程の途中の測定:低pHの保持、濃縮(限外ろ過半透膜で目的物質を濃縮したり(限外ろ過)、緩衝液を目的の組成に置き換えたり(ダイアフィルトレーション)する工程です。膜面に沿って液を流すTFF方式が使われます。詳しく →・ダイアフィルトレーション)の前後など、工程の途中で二量体を測っているか。最終製品だけでは、規格を外れても原因に届きません。
- 変更の前後の比較:製剤や工程を変えたあとに、二量体の増え方を比べたか。
よくある読み違い
1つ目は、SECの二量体の割合を、製剤の中にある二量体の量と同じものと読むことです。高濃度の製剤の中だけで会合している分は、薄めて測るSECには表れないことがあります。
2つ目は、つなぎ方を確かめずに、一括りの凝集として対処することです。可逆的な会合に化学の側の対策を打ったり、共有結合性の二量体に処方の条件だけで対応したりすると、効きにくく、対策の方向を誤ることがあります。
3つ目は、二量体が少ないことに安心して、µm単位の大きな粒子を見ないことです。こうした粒子はSECには表れないため、別の試験で測ります(サブビジブル粒子)。処方での抑え方はタンパク質凝集の経路と製剤での対策にあります。
参考文献
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく →, Q6B: Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products(凝集体を製品由来の不純物として扱う位置づけ)
- Plath F, et al. Characterization of mAb dimers reveals predominant dimer forms common in therapeutic mAbs. mAbs. 2016;8(5):928-940.(細長い型とコンパクトな型の二量体)
- Kijanka G, et al. Monoclonal antibody dimers induced by low pH, heat, or light exposure are not immunogenic upon subcutaneous administration in a mouse model. J Pharm Sci. 2019.(大学リポジトリ。低pH・高温・紫外線のストレスで作った二量体が、ストレスをかけていない抗体より免疫原性が高くなかった)
- Moussa EM, et al. Immunogenicity of Therapeutic Protein Aggregates. J Pharm Sci. 2016;105(2):417-430.(PubMed 26869409。凝集体の免疫原性に関わる要因の総説)
- Hong P, Koza S, Bouvier ESP, Size-Exclusion Chromatography for the Analysis of Protein Biotherapeutics and their Aggregates(J Liq Chromatogr Relat Technol. 2012)
- Berkowitz SA, Role of analytical ultracentrifugation in assessing the aggregation of protein biopharmaceuticals(AAPS J. 2006)
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