Protein A精製とは?樹脂をアルカリ耐性と溶出pHで選ぶのはなぜか

Protein A精製とは、抗体に結合するタンパク質(Protein A)を固定した樹脂に培養液を流し、抗体だけを捕まえて取り出す工程のことです。抗体医薬の精製の最初に置かれ、製造ではどの樹脂を、どの条件で、何回使うかを決める必要があります。
ただし、樹脂はカタログの結合容量担体が結合できる目的物の量。大きな粒子は樹脂ビーズの細孔に入りにくく、結合容量を稼ぎにくい。詳しく →だけでは選べません。毎回の洗浄に使うアルカリにどれだけ耐えるかと、どれだけ穏やかな酸で抗体を外せるかが寿命と品質を左右し、この2つは両立しないことがあります。
この記事では、Protein A精製の仕組み、樹脂を比べる項目、寿命と溶出pHの考え方、つまずきやすい点と確かめる順番を説明します。
- Protein A精製とは:抗体に結合するタンパク質を固定した樹脂に培養液を流し、抗体だけを捕まえて取り出す、抗体医薬の精製の最初の工程です。
- 樹脂は何で比べるのか:洗浄のアルカリへの耐性と、抗体を外す溶出のpHを先に比べ、カタログの結合容量は条件をそろえてから比べます。
- なぜ溶出のpHまで選ぶのか:一般的な樹脂はpH 3〜4ほどの酸で抗体を外すため、酸に弱い分子では、溶出の段階で凝集体が増えるからです。
1. Protein A精製とは何か
Protein A精製とは、抗体に結合するタンパク質を固定した樹脂に培養液を流し、抗体だけを捕まえて取り出す工程のことです。 大きさや電荷の違いで分ける精製と違い、抗体に特有の部分を見分けて結合するため、1回の操作で不純物の大部分を除けます。
Protein Aは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が細胞の表面に持つタンパク質で、抗体(IgG)の根元にあたるFc領域抗体の定常部にあたる「足」の部分。FcγRや補体、FcRnと相互作用し、機能や血中半減期を担う。詳しく →に結合します。これを小さな粒(樹脂、レジンクロマトグラフィーで目的物や不純物を結合させる粒子状の充填材。精製モードごとに使い分ける。詳しく →)に固定し、カラムに詰めて使います。
このように特定の相手に結合する性質で分ける方法を、アフィニティクロマトグラフィーと呼びます。抗体医薬の多くでは、下の図のように、細胞を除いた培養液を最初にこの工程に通して抗体を捕まえます(捕捉、キャプチャー精製の最初に、目的の抗体を担体にまとめて捕まえ一気に純度を上げる工程。Protein Aが代表。詳しく →工程)。
培養液には、抗体を作らせた細胞自身に由来する宿主細胞タンパク質(HCP)抗体を作る宿主細胞に由来し製品に残るタンパク質。代表的な工程由来不純物でELISA等で管理する。詳しく →やDNA、培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →の成分が大量に混ざっています。ここで除ききれなかった不純物と、ウイルスへの対策は、後ろの工程が受け持ちます。
つまり、Protein Aで回収した液が、すぐ後ろのウイルス不活化とポリッシング捕捉工程の後、電荷や疎水性の違いを使って残った副産物を削り純度を上げる磨き上げ精製。詳しく →の出発点です。ここで決める溶出のpHは、後ろの工程の条件も左右します。
2. どうやって培養液から抗体だけを取り出すのか
中性付近のpHで培養液を流して抗体だけを樹脂に結合させ、洗ってから酸性の液で抗体を外して回収します。 最後に樹脂をアルカリで洗い、次の運転に備えます。
まず、樹脂を中性付近の緩衝液でならし(平衡化目的物が結合しやすいpH・塩濃度のバッファーでカラム内を整える、ロード前の準備工程。詳しく →)、培養液を流します(ロード)。抗体は樹脂に結合し、不純物の大部分はそのまま素通りします。
次に、緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →で洗って残った不純物を流したあと、酸性の緩衝液に切り替えます。酸性になると抗体がProtein Aから外れるため、出てきた液を集めれば抗体を回収できます。この操作が溶出です。
最後に、水酸化ナトリウム(NaOH)強アルカリの洗浄剤。タンパク質や核酸を分解する力が強く、Protein A樹脂のCIP・消毒に使われます。詳しく →の液を流し、樹脂に残った不純物や微生物を落とします。カラムに詰めたまま洗うこの操作を、定置洗浄(CIP、cleaning in place)と呼びます。
つまり、樹脂は運転のたびに、溶出の酸と洗浄のアルカリの両方を受けます。この2つの条件が、樹脂の選び方に直接かかわってきます。
3. Protein A樹脂は何で比べて選ぶのか
樹脂は、洗浄のアルカリにどれだけ耐えるか(アルカリ耐性樹脂やリガンドが、CIPで使う水酸化ナトリウムなどの強アルカリ条件に繰り返し耐えられる性質。詳しく →)と、どれだけ穏やかな酸で抗体を外せるか(溶出pH)を先に比べ、カタログの結合容量は測った条件をそろえてから比べます。 3つの項目は、それぞれ次のことを左右します。
- アルカリ耐性:洗浄のたびに樹脂がどれだけ傷むかを決め、樹脂を何回使えるかを左右します。
- 溶出pH:抗体を外すときの酸の強さを決め、酸に弱い分子では凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →(抗体どうしが寄り集まったもの)の量を左右します。
- 結合容量:1回の運転で載せられる抗体の量を決めます。
どれも、樹脂の価格だけでは見えない、精製の費用と品質にかかわる項目です。
カタログでまず目に入る結合容量は、液を流しながら樹脂1 Lが捕まえられる抗体の量で、動的結合容量(DBC)実際の流速で溶液を流したときに樹脂が現実に捕まえられる目的物の量。負荷量設計の基準になります。と呼びます。出口に漏れ出す抗体が入口の濃度の10%に達した時点で測るのが一般的です。
ただし、DBC実際に液を流しながら測る、担体が破過するまでに結合できるタンパク質量。樹脂の使い切りの指標。詳しく →は液を流す速さで変わり、液が樹脂の層を通り抜ける時間(滞留時間)が長いほど大きく出ます。
そのため、測った滞留時間が違う値どうしは、順位が入れ替わることもあり、比べられません。 自社の滞留時間は滞留時間の計算ツールで出せ、測り直す手順はDBCの測り方で扱っています。
つまり、カタログを開いたら、DBCの値より先に、それを測った滞留時間と、洗浄と溶出の条件を探します。
4. Protein A樹脂は何回使えるのか
Protein A樹脂抗体のFc領域に結合して選択的に捕まえる親和性クロマト樹脂。抗体精製の初段(キャプチャー)を担います。詳しく →は洗浄して数十回から数百回使い回すのが前提で、何回もつかは、毎回の洗浄に使う水酸化ナトリウムの濃さと時間で大きく変わります。
使い回すのは、抗体に結合する部分(リガンド)が、遺伝子組換えで作った高価なタンパク質だからです。洗浄に水酸化ナトリウムを使うのは、残ったタンパク質や脂質を溶かし、微生物まで落とせるためです。
ところが、リガンド担体ビーズ表面に結合させた官能基やタンパク質で、目的物や不純物と相互作用して分離を担う部分。詳しく →もタンパク質なので、アルカリで少しずつ分解されます。天然のProtein Aは強いアルカリに弱いため、いまの多くの樹脂は、アミノ酸を置き換えてアルカリに強くした改変型のリガンドを使っています(リガンドの改変と耐アルカリ性)。置き換え方はメーカーごとに違い、同じ濃さで洗っても、もつ回数は製品によって変わります。
メーカーの寿命データは、どう読むのか
メーカーの寿命データは、洗浄液の濃さ、1回の接触時間、サイクル数樹脂を負荷から洗浄・溶出・再生まで1回使うごとに数える回数。寿命管理の基本単位になる。詳しく →の3つの組で読みます。例えば Cytiva がアルカリに強くした樹脂で、培養液を流さずに洗浄だけを繰り返した試験では、0.5 M(mol/L)の水酸化ナトリウムで毎回15分洗っても、300サイクル後に結合容量の95%超が残りました。1.0 Mで洗うと、150サイクル後に約90%でした。
一方、培養液を流しながら0.5 Mで100サイクル使った同社の試験では、残った容量は91%でした。寿命の数字は、洗浄だけの試験か、培養液を流した試験かも確かめて読みます。
同社の別の技術資料は、洗浄が足りずに汚れがたまると、容量と寿命への影響がアルカリによる分解より大きくなる場合があるとしています。薄い洗浄液ほど長持ちするとは限りません。
このように、メーカーの数字は、自社の洗浄条件と培養液に置き換えて読みます。洗浄の組み立ては再生・CIPの設計、交換の線の引き方はProtein Aレジンの寿命とコストで扱っています。
5. なぜ溶出のpHまで選ぶ必要があるのか
一般的な樹脂はpH 3〜4ほどの酸で抗体を外すため、酸に弱い分子では、溶出の段階で凝集体が増えるからです。
多くの抗体はこの条件に耐えますが、分子によっては立体の構造の一部がほどけ、中和したあとに抗体どうしが寄り集まります。こうしてできる凝集体は、投与したときに免疫反応を起こすリスクがあるとされ、最終製品では量を管理します。
溶出後の凝集体は、分子を大きさで分けるサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)多孔性樹脂の孔に小分子ほど入り込む時間差を利用し、分子をサイズで分けるクロマトグラフィー。詳しく →で測り(純度分析)、増えた分は後ろのポリッシングで除きます。二重特異性抗体やFc融合タンパク目的タンパク質に抗体Fcを融合し、半減期などを付与した分子。詳しく →質には酸に弱いものがあり、ここで失う量が無視できません。
そこで使われるのが、より穏やかな酸性で抗体を外せるマイルド溶出型の樹脂です。一例として Purolite は、抗体を外すpHを5まで上げられる樹脂について、洗浄に使える水酸化ナトリウムを0.1 Mまでとしています(メーカーの公表値、溶出pHとリガンド設計)。
| 一般的な樹脂 | マイルド溶出型(メーカー公表値の一例) | |
|---|---|---|
| 抗体を外すpH | pH 3〜4ほど | pH 5まで上げられる |
| 洗浄に使える水酸化ナトリウム | アルカリに強くした製品では0.5〜1.0 Mの試験データがある | 0.1 Mまで |
| 確かめること | 溶出後の凝集体の量 | 0.1 Mの洗浄で汚れと微生物を抑えられるか |
表の例のように、溶出のpHを上げられる樹脂では、洗浄に使えるアルカリの上限が下がることがあります。つまり、溶出pHは抗体がどれだけ酸に弱いかで選び、そのとき洗浄の条件も一緒に確かめ直します。
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- 6. Protein A樹脂の選定は、どこでつまずくのか
- 7. 自分の工程では、何から確かめるのか
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ほかの会員向けの記事を見る →参考文献
- Cytiva, Lifetime performance study of MabSelect PrismA during repeated cleaning-in-place cycles(培養液を流さず洗浄だけを繰り返した試験で、0.5 M NaOH・15分/サイクルで300サイクル後にQB10が95%超、1.0 Mで150サイクル後に約90%。培養液を流して0.5 M NaOH・15分/サイクルで100サイクル使った試験では91%)
- Cytiva, Efficient cleaning-in-place methods for protein-based antibody affinity chromatography resins(洗浄が不十分な場合の汚れの蓄積が、アルカリによるリガンドの加水分解より容量と寿命に影響しうるとの記述)
- Purolite(Ecolab), Praesto Jetted A50 HipH 製品情報(pH 3〜5の範囲で溶出でき、pH 5まで上げられる。NaOHへの耐性は0.1 Mまで。メーカー公表値)
- Bracewell DG, Pathak M, Ma G, Rathore AS. Re-use of Protein A Resin: Fouling and Economics. BioPharm International. 2015;28(3):28-33.(再使用と汚れ、経済性の解説)
- ICH Q5A(R2)細胞株由来のバイオ医薬品について、ウイルス安全性評価の枠組みを示すICHガイドライン。詳しく →, Viral Safety Evaluation of Biotechnology Products Derived from Cell Lines of Human or Animal Origin(Step 4、2023年11月1日。ウイルス不活化・除去工程の評価)
- EMA, Guideline on process validation for the manufacture of biotechnology-derived active substances and data to be provided in the regulatory submission(EMA/CHMP/BWP/187338/2014。6.2.1:カラムは想定する寿命の間、不純物を除く力とリガンドの漏出で評価する。上限のサイクル数は小スケールの試験で決めて申請時に示し、商用スケールで継続して確かめる)
- MilliporeSigma、JSRのクロマトグラフィー事業の買収を完了(2026年4月1日、Amsphere Protein A樹脂の統合)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/protein-a