AAVアフィニティー樹脂の選び方:結合容量の桁より見るべきこと

AAV用アフィニティー樹脂のカタログを見比べると、Thermo FisherのAAVXは結合容量担体が結合できる目的物の量。大きな粒子は樹脂ビーズの細孔に入りにくく、結合容量を稼ぎにくい。詳しく →を10の13乗超(ゲノムコピー)、RepligenのHiPerは10の15乗(ウイルス粒子)としています。後者が100倍優れているのかというと、そうとは限りません。前者はゲノムの入った粒子の数、後者は空の殻も含めた粒子の数で数えていて、物差しがそろっていないからです。
AAV用の樹脂は高価で、何回使い回せるかが製造原価製品を作るのにかかった総原価。原材料・設備償却・人件費・歩留まりなどを1グラム単価などで捉える指標。詳しく →に響きます。選ぶときに効くのは結合容量の桁より、自社の血清型AAVのカプシドの種類による分類。組織指向性が異なり、狙う臓器や細胞に応じて選び分けられる。詳しく →を捕まえられるか、強い洗浄液に何回耐えるか、溶出で粒子を傷めないか、の三点です。ここを外すと、血清型を変えるたびに精製工程を組み直す羽目に陥ります。
工程を組む開発の人にも、メーカーの資料を読む購買や営業の人にも、捕捉工程で何が落ちて何が残るのかを知りたい品質保証の人にも、樹脂の資料を読む物差しとして使えます。
捕捉工程の役目 ― 入口で絞り、空と実は分けない
アフィニティー捕捉は、清澄化培養液から細胞や破片を取り除いて目的物質を含む上清を回収し、後工程に渡せる清澄な液にする工程です。詳しく →した培養液から、AAV遺伝子治療で遺伝子を運ぶウイルスベクター。血清型によって集まりやすい組織が異なる。詳しく →の粒子だけを釣り上げる工程です。濃縮と不純物除去を一度にこなすので、精製の入口に置かれます。
清澄化を終えた培養液の中身は、大半が宿主細胞のタンパク質やDNA、培地の成分で、目的の粒子はごく一部です。ここへ、カプシドウイルスの遺伝物質を包むタンパク質の殻。AAVでは直径数十ナノメートルの正二十面体の構造をとる。詳しく →(AAVの殻)に結合するリガンド担体ビーズ表面に結合させた官能基やタンパク質で、目的物や不純物と相互作用して分離を担う部分。詳しく →を固定した樹脂を通すと、粒子だけが樹脂にくっつき、不純物は素通りして流れ出ます。その後に酸性の液で粒子を引き剥がして集めます。リガンドには、ラクダ科の抗体から取り出した小さな断片(VHHラクダ科の重鎖抗体に由来し、単一ドメインで抗原を認識する小さなフラグメント。対合ミスが起きず安定。詳しく →)を使う樹脂が多く見られます。
リガンドが見ているのは殻の表面の形だけで、中にゲノムが入っているかどうかは見えません。空の殻も、中身の入った殻も、同じように樹脂に結合して同じ画分に出てきます。AAVXという広域型の樹脂の論文では、イオジキサノール密度勾配遠心に用いる媒体の一つ。層状の密度差を作り、ウイルス粒子を密度で分けて精製する。の密度勾配で精製した製品に比べて、空カプシドゲノムを内包しないAAVの殻。治療効果に寄与せず、必要な量を届けるための総投与カプシド量を押し上げる不純物として扱われる。詳しく →の割合が高かったと報告されています。効き目(ポテンシー製品が示す生物学的な効力。細胞治療などで規格として測る品質指標。詳しく →)は同程度でした。
空と実の仕分けは、後段の陰イオン交換の仕事です。なぜ空カプシドが問題になるかはAAVの空カプシドと実カプシドで、全体の流れはAAVの製造工程で解説しています。

捕捉工程の仕事は、体積を絞って不純物を落とすところまでで、空と実の仕分けは後段に任せます。
樹脂のタイプ ― 広く捕まえるもの、血清型専用、洗って使い回せるもの
AAV用の樹脂は、強みの違いで三つのタイプに分けると整理しやすくなります。
| タイプ | 代表例 | 強み | 確かめる点 |
|---|---|---|---|
| 広域型 | POROS CaptureSelect AAVX(Thermo Fisher) | AAV1〜8、rh10など幅広い血清型を一本の樹脂で扱える | 自社の殻で結合するか、溶出の条件 |
| 血清型専用型 | 同じ製品群のAAV8用、AAV9用 | 特定の血清型に合わせて最適化してある | ほかの血清型は対象外 |
| 洗浄に強い型 | AVIPure(Repligen) | 強いアルカリ洗浄に何度も耐える設計で、繰り返し製造に向く | 対応する血清型、洗浄条件 |
複数の血清型を並行して開発している組織は、広域型が便利です。論文では、AAVXがAAV2、AAV8、AAV9のほか、PHP.BやAnc80といった改変・再構成されたカプシドを含む15の血清型を捕まえたと報告されています。最適化した条件で、工程全体の効率は65〜80%でした。一つの血清型を長期間つくり続ける組織では、樹脂の寿命が原価を左右するので、洗浄に強い型が候補に上がります。
RepligenはAVIPure AAV8について、強いアルカリ(水酸化ナトリウム)での洗浄を20回繰り返す試験で回収率が保たれ、累計10時間以上さらしても初期の結合容量の約8割が残るとしています。同じ会社のHiPerは、樹脂の内部まで液が流れ込む構造で、短い接触時間でも高い結合容量を保つとされています。Cytivaには、AVB Sepharose HPと、剛性の高い基材で高い流速に耐えるCapto AVBがあります。
もう一つ、カタログの読み方で見落としやすいのが、完成品の樹脂と母材の区別です。TOYOPEARL AF-Epoxy-650Mは、リガンドの結合に使う反応基を付けただけの活性化担体カラムに充填する多孔質ビーズ。表面のリガンドと成分の相互作用差で目的物と不純物を分離する。詳しく →で、AAV用のリガンドは使う側が自分で結合させる前提です。AAVXやAVIPureのような完成品と並べて比べる対象ではありません。
樹脂の優劣は一列には並ばず、血清型の数と、同じ樹脂を何回使うかで、合う型が変わります。
結合容量の数字 ― 読み違える三つの原因
結合容量は、カタログでいちばん目立つ数字です。ただし、そのまま並べると読み違えます。
一つ目は単位です。ゲノムコピー数は中身の入った粒子だけを数え、ウイルス粒子数は空の殻も数えます。同じ樹脂でも、粒子数で書けば大きな桁で表せます。二つ目は血清型です。同じ樹脂でも、血清型が変われば結合の強さが変わり、メーカーの資料にも血清型ごとの値が並びます。三つ目は測定の条件です。原料液をどれだけの速さで流したか、原料液の濃度はいくつだったかで、値は動きます。Repligenの資料には、30秒という短い接触時間で10の15乗の結合容量を確認したという記載があり、この値を別の条件の値と並べると、樹脂の差ではなく条件の差を見ているだけです。
カタログの値は、メーカーの標準条件で測ったものです。自社の原料液で同じ値が出るとは限りません。聞くのは「結合容量はいくつか」ではなく、「自社の血清型、自社に近い原料液で、結合した割合と回収率はいくつか」です。小さなパック(AAVXには10 mLや25 mLがあります)で、まず自社の液で試せます。
結合容量は、単位、血清型、流す速さがそろって初めて比べられる数字で、最後に頼れるのは自社の液での実測です。
つまずきやすい三つ ― 低pH溶出、改変カプシド、洗浄の回数
現場で止まりやすい場面は、溶出、新しい殻、洗浄の三つです。
強く結合するリガンドは、外すのにも強い条件が要ります。メーカーの資料には、pH 2〜3付近の強い酸性で溶出する例があります。溶出液をそのまま置いておくと、酸にさらされた粒子が凝集したり、力価が下がったりします。集める容器にあらかじめ中和用の緩衝液(Thermo FisherはTris緩衝液を用意しています)を入れておき、溶出してすぐに中和します。AAV8やAAV9のように溶出しにくい血清型では、アルギニン分子どうしの会合による凝集を抑え、高濃度処方では粘度を下げる働きも知られるアミノ酸。詳しく →などの添加剤で回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。詳しく →を上げる方法が示されています。酸性側の条件は、粒子へのストレスとの引き換えです。
リガンドは殻の表面の形を見ているので、表面を人工的に作り替えた殻とは相性が分かれます。AAVXのように改変カプシドを捕まえた例がある一方で、新しい殻に通用する保証はありません。カプシドエンジニアリングで設計した殻を扱うなら、樹脂を選ぶ前に小スケールで結合を確かめます。Thermo Fisherには、AAV8とAAV9に最適化した専用樹脂もあります。
洗浄の回数は、カタログに載る「20回」といった数字を、そのまま自社に持ち込めません。保証の回数は、特定の薬液の濃度と接触時間で測った値だからです。自社が決める洗浄の条件が違えば、同じ回数は保証されません。洗浄と樹脂寿命の考え方は、抗体のProtein A樹脂抗体のFc領域に結合して選択的に捕まえる親和性クロマト樹脂。抗体精製の初段(キャプチャー)を担います。詳しく →の例ですがProtein A樹脂の寿命とCIPが役に立ちます。
樹脂のリガンドが少しずつはがれて、製品に混ざることがあります。これをリガンド漏出といい、AAVX用などに、漏出を測るELISAキットが市販されています。樹脂を決める段階で、漏出を測る方法が用意されているかも確かめます。
明日から確かめられること
資料請求や見積もりの前に、メーカーへ次の点を聞くと抜けが出にくくなります。
- カタログの結合容量は、ゲノムコピー数かウイルス粒子数か。血清型と、流す速さ(接触時間)は何か
- 自社の血清型、とくに改変した殻で、小スケールの結合データがあるか
- 溶出の条件(酸の強さ)、中和の緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →、血清型ごとの添加剤はどうなっているか
- 保証サイクル数は、どの薬液の濃度と接触時間で測った値か。自社の洗浄の条件と同じか
- リガンド漏出を測る方法があるか
- 完成品の樹脂か、自分でリガンドを付ける母材担体ビーズ本体の素材。アガロースや合成ポリマーなどで、機械的強度と細孔構造を受け持つ。か
- 捕捉のあとの空・実の分離を、どの工程で行うか
樹脂の製品は、製品データベースのAAVアフィニティー樹脂で比べられます。血清型の違いはAAVの血清型と組織指向性に、密度勾配で精製する方法はAAV精製の自動化と密度勾配に、受託先を選ぶときの確認点はウイルスベクターCDMOの選び方にまとめています。
参考文献
- Thermo Fisher Scientific, POROS CaptureSelect AAV8, AAV9, AAVX Resins User Guide(Pub. No. 100038399)(結合する血清型、溶出と中和の条件)
- Cytiva, AVB Sepharose High Performance Data File(血清型ごとの結合容量の表記)
- Repligen, AVIPure AAV8 Affinity Resin Process Development Guide(アルカリ洗浄の回数と条件)
- Florea M, et al. High-efficiency purification of divergent AAV serotypes using AAVX affinity chromatography. Mol Ther Methods Clin Dev. 2023;28:146-159.(15の血清型の捕捉、工程全体の効率、イオジキサノール精製との空カプシド割合の比較)
- Thermo Fisher Scientific, CaptureSelect AAVX Ligand Leakage ELISA Kit(リガンド漏出を測る市販のELISAキット抗原と抗体の結合を酵素反応による発色などで検出し、目的の物質の有無や量を測る手法です。不純物や力価の測定に広く使われます。詳しく →)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/aav-affinity-capture-chromatography