ミックスモードクロマトとは?塩が濃くても付く樹脂の使いどころ

ミックスモードクロマトグラフィー(マルチモーダルクロマトグラフィー)は、塩に対して逆に働く電荷と疎水性の2つの力を、1つの樹脂の粒に同居させて分ける方法です。2つ目の力があるため、塩の濃い液をそのまま載せたり、電荷がほとんど同じ凝集体を単量体から分けたりできます。
ただし、よく分けられるpHと電気伝導度溶液のイオン濃度を反映する指標。フロースルーでは負荷液の伝導度を下げる脱塩が必要になることがある。詳しく →の組み合わせは樹脂と抗体ごとに違うため、他の抗体で決めた条件をそのまま持ち込めません。
この記事では、樹脂の仕組み、使われる3つの場面、条件出しと洗浄の注意点、ミックスモードイオン交換基と疎水性基を同じリガンドに併せ持ち、複数の相互作用で分ける樹脂。詳しく →に替える前の確認を順に説明します。
1. ミックスモード樹脂の仕組み ― 電荷と疎水性
イオン交換は、タンパク質の電荷と樹脂の電荷の引き合いで付きます。液に塩が多いと、塩のイオンが電荷を覆い隠して引き合いが弱まるため、塩を増やしていけば外れます。
HIC分子表面の疎水性の違いを利用して分けるクロマト担体で、高い塩濃度で吸着させ塩を下げて溶出させます。抗体の凝集体除去などに使われます。詳しく →は、タンパク質の表面にある油になじむ部分(疎水性の部分)が、樹脂の疎水的な基に付く力を使います。こちらは塩が多いほど疎水性の引き合いが強まるため、硫酸アンモニウムのような塩を濃く入れて載せ、塩を減らして外します。
ミックスモードの樹脂は、荷電した基と疎水的な基を、同じリガンド担体ビーズ表面に結合させた官能基やタンパク質で、目的物や不純物と相互作用して分離を担う部分。詳しく →(樹脂の表面でタンパク質をつかまえる部品)に持っており、樹脂によっては水素結合なども加わります。
塩が増えれば電気の引き合いは弱まりますが、疎水性の引き合いは残るため、電荷による保持が効きにくい条件でも、疎水性の側で保持されます。
Cytiva の Capto MMC(弱い陽イオン交換に疎水性などを加えた樹脂)は、ウシ血清アルブミン血漿中に最も多く存在するタンパク質で、脂肪酸などの疎水性分子を可逆的に結合・運搬する機能をもつ。詳しく →を使った試験の結果を公表しています。電気伝導度溶液の電気の通しやすさで塩濃度の目安になる指標。クロマトの溶出やプール判定の管理に使う。詳しく →(液の塩の濃さの目安)が30 mS/cmの液でも、樹脂1 mLあたり45 mgを超える容量を示したとされます。
これは、ふつうのイオン交換樹脂では付きにくい塩の濃さです。ただしモデルタンパク質の値なので、自社の抗体で同じ数字が出るとは限りません。
条件出しで動かすのは、次の2つです。
- pH:タンパク質と樹脂それぞれの電荷を変えます。
- 電気伝導度:電気の引き合いと疎水性の引き合いの釣り合いを変えます。
2つを動かすと、付く条件と外れる条件の範囲が、pHと電気伝導度の平面の上で動きます。イオン交換の樹脂そのものの選び方はイオン交換レジンの選び方で解説しています。
ミックスモード樹脂は、塩で保持が弱まる電荷の力と、塩で保持が強まる疎水性の力を1つの粒に持たせた樹脂です。
| イオン交換 | HIC | ミックスモード | |
|---|---|---|---|
| 主に使う力 | 電荷 | 疎水性 | 電荷と疎水性(樹脂によっては水素結合なども) |
| 塩を増やすと | 付きが弱まる | 付きが強まる | 力の釣り合いが変わる。樹脂と条件による |
| 載せる液の塩 | 薄くする | 濃くする | 濃いままでも載せられる樹脂がある |
2. 使われる3つの場面
1つ目は、塩の濃い液をそのまま載せたいときです。前の工程の出口の液は塩が濃くてイオン交換に載らないことがあり、薄めても脱塩しても、液の量とタンクと時間が増えます。
塩に強い樹脂なら、中和などの最低限の調整で載せられる場面があります。Capto MMC のほか、Merck の Eshmuno HCX、Bio-Rad の Nuvia cPrime、東ソーの TOYOPEARL MX-Trp-650M などがこの用途の樹脂です。
2つ目は、Protein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく → の後の仕上げに、抗体を素通りさせて不純物だけを樹脂に付けるときです。Cytiva の Capto adhere ImpRes(陰イオン交換に疎水性などを加えた樹脂)は、Protein A 捕捉の後の2段目か3段目の仕上げ用とされています。
同社は、この樹脂が結合溶出でもフロースルークロマトグラフィーで担体に結合せずに流れ出る液(画分)、またはそれを使う運転方式です。目的物を素通りさせ、不純物だけを担体に結合させて除くときに使います。詳しく →でも使え、DNA、HCP医薬品を作る宿主細胞に由来するタンパク質の不純物です。安全性に関わるため、精製後の残存量を測ります。詳しく →、漏出した Protein A、凝集体、ウイルスを除くと説明しています。素通りさせる運転は載せる量を稼ぎやすく、大量の処理に向きます。
除く相手ごとの考え方は、HCP、残存DNA、漏出リガンドの各記事にあります。
3つ目は、電荷が近くて、イオン交換では分けにくい凝集体です。凝集体は単量体と電荷が近くても、疎水性の表面の出方が違うことが多いため、2つの力の両方で差を拾えます。
2025年には WuXi Biologics の研究者が、Protein A の後の最初の仕上げとして、東ソーの MX-Trp-650M と Capto MMC ImpRes を比べた研究を発表しました。MX-Trp-650M は、塩だけ、またはpHだけの勾配で外す条件でも凝集体をよく落とし、Capto MMC ImpRes をわずかに上回っています。
著者らは同時に、うまく分けられる溶出条件は抗体ごとに違いうると述べています(ニュース)。
ハイドロキシアパタイトリン酸カルシウム系のクロマト担体で、正負両方の相互作用を併せ持ち、抗体の凝集体除去や性質の近い分子の分離に使われます。詳しく →(カルシウムとリン酸の結晶を担体にした樹脂)は、電荷と金属への親和という複数の力で凝集体やHCPを分ける、別系統のミックスモードです。製品はミックスモードレジンとセラミックハイドロキシアパタイトで比べられます。
3. 条件出しと洗浄の注意点
条件出しでつまずきやすいのは、次の5つです。
- 別の抗体の条件を持ち込む:前節の研究のとおり、最適な溶出条件は抗体ごとに違いうるため、他の抗体の結果は出発点にしかなりません。
- pHと電気伝導度を同時に動かす:何が効いたのかが分からなくなります。最初は片方ずつ振って効く向きを確かめ、そのあとで実験計画法(DoE)で組み合わせます。
- 条件の範囲が狭い:条件が最適点から少し外れただけで挙動が急に変わり、凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →の落ち方も抗体の回収率も動きます。
- 洗浄で落ちにくい:複数の力で保持された成分は、洗浄で落ちにくいことがあります。
- 別のメーカーの樹脂への置き換え:同じ「ミックスモード」でも、リガンドの化学が違えば結合の仕方も別物です。
自社の運転で許せる条件の幅は、小さなカラムでpHと電気伝導度を振って、事前に測っておきます。
洗浄は、使い終わったあとの定置洗浄(CIP)で、水酸化ナトリウムに添加剤を組み合わせるなど、再生の条件を作り込みます。ここを詰めないと、繰り返して使ううちに容量と分離が落ち、樹脂の寿命に響きます。耐えられる洗浄液の濃さは樹脂ごとに違うため、資料で確かめます。
置き換えでは、Bio-Rad が発表した Nuvia wPrime 2A のように、弱い陰イオン交換と疎水性を組み合わせ、pHで結合の強さを調整できると説明される樹脂もあります(ニュース)。名前が似ていても、置き換えたら条件を取り直します。
カラムの構造や、大きな規模に上げるときの注意は、クロマトカラムの選び方とクロマトのスケールアップで解説しています。
条件の範囲の広さは樹脂と抗体の組み合わせごとに測るもので、他の抗体や他の樹脂の結果は、出発点にとどまります。
4. ミックスモードに替える前の確認
ミックスモードは、最初に選ぶ樹脂ではありません。
先に書き出すのは、落としたいものの一覧です。凝集体、HCP、DNA、漏出リガンドのうち、いまの工程で何が残っているかを確かめます。
イオン交換とHICの組み合わせで規格まで届くなら、そのほうが条件の範囲が読みやすく、実績も多くあります。工程全体の組み方は、抗体精製ポリッシングとは?にあります。
ミックスモードに替える理由があるのは、次のような場面です。
- 載せる液の塩が濃い:薄める手間や脱塩の負担が重い場合です。
- 電荷が近い凝集体が落ちない:イオン交換では分けられない場合です。
- 塩の使用量を減らしたい:HICでは硫酸アンモニウムのような塩を大量に使うため、廃液と脱塩の負担を減らしたい場合です。
工程を1つ減らせる可能性もありますが、工程数の削減はメーカーの説明であり、実際に減らせるかは自社の抗体で確かめます。
HICと比べると、ミックスモードは塩を少なくできる場面が多い反面、条件出しと溶出の設計が複雑になりがちです。凝集体を落とすという目的が同じでも、塩の負担、処理量、分離のよさのどれを優先するかで、使い分けが決まります。
5. 明日から確かめられること
カタログに並ぶ「ミックスモード」「マルチモーダルイオン交換と疎水性など複数の相互作用を一つの担体に併せ持たせ、単一モードでは分けにくい成分を分離できるクロマト担体です。詳しく →」の樹脂を候補に入れる前に、次の順に確かめます。
- 残っている不純物:工程の出口に残っている不純物が何か、イオン交換とHICだけで足りない部分はどこかを確かめます。
- 前の工程の出口の条件:前の工程の出口のpHと電気伝導度が、載せたい樹脂の条件にどれだけ近いかを確かめます。
- 容量の値の測定条件:メーカーの容量の値が、何のタンパク質を、どの塩の濃さで測ったものかを確かめます。
- 自社の抗体での実測:自社の抗体で、pHと電気伝導度を振った小さなカラムの実測があるかを確かめます。
- 洗浄と置き換えの手間:洗浄の条件と、繰り返して使ったときの容量の維持が資料で示されているかを確かめます。別のメーカーの樹脂に替えるときは、条件を取り直す手間も見込みます。
メーカーの値は候補を絞る材料で、決めるのは自社の抗体で取ったデータです。
製品はミックスモードレジンで比べられます。樹脂の容量や洗浄に耐える回数の見方は精製クロマトの担体(レジン)の選び方にあります。
参考文献
- Rupčíková V, Molnár T, Kurák T, Polakovič M. Antibody Aggregate Removal by Multimodal Chromatography. Molecules. 2025;30(11):2363.(PMC12156806)
- Zhang J, Zhang P, Li Y. Efficient removal of antibody aggregates using TOYOPEARL MX-Trp-650M mixed-mode resin under salt or pH gradient elution. Journal of Biological Methods. 2025(DOI 10.14440/jbm.0029)
- Gagnon P. Recent advances in application of hydrophobic interaction chromatography固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく → for aggregate removal in industrial purification process. J Chromatogr A. 2009.
- Cytiva, Capto MMC および Capto adhere ImpRes の製品資料(塩耐性と30 mS/cmでの容量、Protein A 後の仕上げ用途)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/mixed-mode-chromatography