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ホーム/解説記事/バイオ医薬品の工程由来不純物
基礎知識・精製シリーズバイオ医薬品の工程由来不純物2/11基本

HCP(宿主細胞タンパク質)とは?総量が合格でも残る問題

Proglenth 編集部公開 2026-07-28更新 2026-10-24約5分で読めます
HCP(宿主細胞タンパク質)とは?総量が合格でも残る問題

HCP(宿主細胞タンパク質医薬品を作る宿主細胞に由来するタンパク質の不純物です。安全性に関わるため、精製後の残存量を測ります。詳しく →)は、抗体などを作らせた細胞自身が持つタンパク質で、製品に混じる不純物です。精製を組み立てる人と、出荷試験で数字を見る人の両方が、どこまで減らせばよいかを決めます。

ただし、総量を基準内に収めるだけでは、管理として足りない場合があります。何千種類もの中に、ごく微量でも製品を傷めるものが混じることがあるためです。

総量の数字が何を保証し、何を保証しないかが分かると、精製のどの段階で何を落とし、出荷で何を測るかを決められます。

この記事の要点
  • HCPとは⁠:製品を作らせた細胞自身のタンパク質で、数千種類の混合物です。
  • 総量が合格なら安心か⁠:1種類のHCPが、総量の基準よりはるかに少ない量で製品を傷めることがあります。
  • どう管理するのか⁠:精製の段階ごとに受け持ちを決め、総量を毎ロット測り、高リスクのHCPはリスク評価に基づいて監視するか工程で除くかを決めます。

この記事の前提

初めての方は、先にこちらを読むと、この記事に出てくる言葉の意味が分かります。

  • ELISAとは?抗体で捕まえて、色の濃さで量を測れるのはなぜかELISA・サンドイッチ法・検量線・定量範囲約6分
この記事は、「品質試験を整えたい」ときの確認項目「不純物を確かめる」の1つです。この項目で確かめること(6項目)の一覧へ

1. HCPは、どこから入り、どこで減らすのか

HCPは、製品を作らせた細胞(多くはチャイニーズハムスター卵巣(CHO抗体など組換えタンパク質の生産に広く使われる、チャイニーズハムスター卵巣由来の培養細胞です。詳しく →)細胞)が持つ数千種類のタンパク質の混合物で、培養液に出たものが精製で減らしきれずに残ります。 製品の原料から入るのではなく、製品を作る細胞そのものから出る点が、ほかの不純物と違います。

細胞は生きている間もタンパク質を外に出しますが、溶けると中身がまとめて培養液に出ます。CHO細胞の培養液を網羅的に調べた研究では、細胞が溶けるにつれてHCPが溜まり、流加培養培養の途中で栄養(フィード)を追加しながら細胞を高密度まで育てる培養方式。詳しく →では回分培養より多くの種類が見つかりました。生存率細胞集団のうち生きている細胞の割合。凍結・培養の品質を示す基本指標。詳しく →が落ちてから収穫すると、精製に入るHCPが増えやすいのはこのためです(ハーベストと清澄化)。

入ったHCPは、精製の段階ごとに減らしていきます。製品の原料に由来せず、製造の工程で入る不純物なので、工程由来不純物と呼ばれます。

左から、培養・収穫(入る量が決まる。細胞が溶けると中身が培養液に出る)、捕捉(大半を落とす。Protein Aで抗体だけをつかむ)、ポリッシング(取りこぼしを拾う。電荷と疎水性で分ける工程を重ねる)、出荷(残りを確かめる。総量を酵素免疫測定法(ELISA)で。高リスクのHCPはリスク評価で管理する)の4つの箱が矢印でつながる。箱の下の灰色の帯は右へ行くほど短くなり、残るHCPが減ることを表す。下の赤い枠には、残ったわずかなHCPの中に製品や添加剤を壊す酵素や患者の体に抗体を作らせるものが1種類混じることがあり、総量の数字だけでは見分けられないと書かれている
HCPは培養で入り、精製の段階ごとに減らしていく(概念図)
図をダウンロード(会員・無料)

2. 総量が基準内でも、なぜ製品が傷むことがあるのか

製品を傷めるかどうかは、HCPの総量ではなく、中にどのHCPが残っているかで決まることがあるからです。 酵素の働きを持つHCPは、量がわずかでも、保存しているあいだ働き続けます。

2016年に報告された研究では、CHO細胞で作った4つの抗体製剤のうち3つで、製剤に入れる界面活性剤(ポリソルベートタンパク質の凝集や容器壁への吸着を防ぐため製剤へ少量加える添加剤で、細胞培養で細胞を保護する目的でも使われます。詳しく →)を分解する酵素が、どれも1 ppm未満の量で見つかりました。酵素が検出された製剤ではポリソルベートの分解が起き、検出されなかった1つでは起きていません。界面活性剤が減ると、抗体が容器の表面で傷みやすくなります(ポリソルベートの役割と分解)。

患者の体に抗体を作らせるHCPもあります。ある抗体医薬の臨床試験では、PLBL2(ホスホリパーゼB様タンパク質2ポリソルベート分解に関与する候補として報告される脂質分解酵素。詳しく →)というハムスター由来のHCPに対して、被験者の約9割が抗体を作りました。安全性の事象との関連は見られませんでした(総量の測定でPLBL2を見落とした例)。

こうした問題を起こしやすいHCPを、製薬企業など26社の業界団体(BioPhorum)のチームが2021年に「高リスクHCP」として整理しました。免疫原性を持つもの、生理活性を持つもの、製品や添加剤を壊す酵素活性を持つものが、総量とは別に見張る対象です。⁠この報告は、精製で落としにくいものがあることも挙げ、リスク評価に基づいて、監視するか工程から除くかを決める手順を勧めています。

総量の数字が合格でも、高リスクのHCPが残っていないとは言えません。管理は、総量を減らすことと、個別のHCPを知ることの二本立てで組みます。

3. 精製の段階ごとに、どのHCPを受け持たせるのか

捕捉の工程で大半を落とし、残ったものを性質の違うポリッシング捕捉工程の後、電荷や疎水性の違いを使って残った副産物を削り純度を上げる磨き上げ精製。詳しく →の工程で拾う、という分担で組みます。 1つの段階で落としきろうとすると、条件を強めすぎて製品を傷めるためです。

段階受け持ち変えたときに見る値
培養・収穫HCPの入る量を決める収穫時の生存率、収穫日を変えたときのHCP
捕捉(Protein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく →)大半のHCPを落とす洗浄の条件、樹脂を替えたときの出口のHCP
ポリッシング取りこぼしを拾う工程ごとの出口のHCP、問題のHCPの行方

捕捉の工程では、抗体の決まった部分だけをつかむProtein Aの樹脂を使い、つかんだまま洗い流すため、一段で多くのHCPが除かれます。それでも残るHCPは、樹脂にくっつくものより、抗体にくっついて一緒に来るものが中心だと報告されています。洗浄の緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →で、抗体とHCPの結びつきをゆるめる塩・pH・添加剤を選ぶのはそのためです。洗浄を強めたときは、抗体の凝集や活性に響かないかも確かめます。

ポリッシングの工程は、電荷や疎水性のように、Protein Aとは別の性質で分けます。電荷で分ければ電荷の近いHCPが残り、疎水性で分ければ疎水性の近いHCPが残るため、性質の違う分け方を重ねて互いの取りこぼしを補います(ポリッシング)。

段階ごとの入口と出口でHCPを測っておくと、どこでどれだけ落ちたかが分かります。運転条件を振っても落ち方が変わらないかは、プロセス特性解析で確かめます。

4. 総量はELISAで、個別のHCPはLC-MSで確かめる

総量は毎ロット酵素免疫測定法(ELISA)で測り、高リスクのHCPは特性解析や工程の評価で液体クロマトグラフ質量分析液体クロマトグラフで成分を分離したうえで質量分析計にかけ、分子量を測って物質の同定や定量を行う手法です。詳しく →(LC-MS)を使って名指しし、リスク評価に基づいて監視するか工程で除くかを決めます。 2つの方法は、答える問いが違います。

  • 総量(ELISA抗原と抗体の結合を酵素反応による発色などで検出し、目的の物質の有無や量を測る手法です。不純物や力価の測定に広く使われます。詳しく →):HCPの混合物に対する抗体で、まとめて量を測ります。速く毎ロット回せますが、抗体がつかまないHCPは数えられません(HCP ELISA)。
  • 個別(LC-MS):タンパク質を切って量り、どのHCPがいるかを名指しします。ELISAが見落とすものを補いますが、量の少ないものは検出しきれないことがあります(LC-MSによるHCP分析)。

総量の上限はどう決めるのか。生物薬品の規格の決め方を示したICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく →は、HCPのような工程由来不純物をできるだけ減らしてよく管理するよう求めていますが、上限の数字は決めていません。総説によれば、業界では抗体1 mgあたり100 ng(100 ppm抗体1mgあたりの不純物量(ng)のように、100万分の1の比で微量成分の割合を表す単位。詳しく →)未満が広く目安にされ、商用の工程ではさらに低い値が好まれます。

この目安は規制の要求ではなく、製品の投与量やリスクに合わせて自社で決める値です。総量の基準とは別に、高リスクのHCPが分かっている製品では、そのHCPの行方を個別に追う計画を立てます。

5. 樹脂・培地・キットを替えたら、段階ごとの値を前後で比べる

樹脂・培地・スケール・収穫日を替えたときは、変更の前後で同じ試料を同じ方法で測り、どの段階の宿主細胞タンパク質(HCP)抗体を作る宿主細胞に由来し製品に残るタンパク質。代表的な工程由来不純物でELISA等で管理する。詳しく →が動いたかを比べます。 出荷の総量が基準内のままでも、中身の組み合わせが変わっていることがあるためです。

変更で動きやすいのは次の所です。

  • 培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →・スケール・収穫日⁠:細胞の溶け方が変わり、精製に入るHCPの量と種類が変わります。
  • Protein Aの樹脂⁠:樹脂の種類やロットが変わると、捕捉の出口に残るHCPが変わることがあります。
  • 酵素免疫測定法(ELISA)のキット⁠:キットの抗体が変わると、つかめるHCPの範囲が変わり、それまでの数字と地続きで比べられなくなります。

そのため、段階ごとの出口の値を平時から残しておき、変更のときに比べる試料と方法を先に決めておきます。精製の担当なら、直近のロットで捕捉の出口とポリッシング後のHCPを並べると、どこで落ちていないかが見えます。品質保証や購買の担当なら、樹脂・キット・培地のロットを替えた時期と、HCPの値の動きが重なっていないかを見ます。

確かめる順番は次のとおりです。

  1. 高リスクHCPの有無⁠:総量のほかに、高リスクのHCPを液体クロマトグラフ質量分析(LC-MS)分子の質量を精密に測る分析。液体クロマトと組み合わせ、ポリAテール長などを詳しく解析します。で名指しし、監視するか工程で除くかをリスク評価で決めたか。
  2. 入口の量⁠:収穫時の生存率と、精製に入るHCPの量を並べて見たか。
  3. 段階ごとの記録⁠:捕捉とポリッシングの各工程の出口で、HCPの値を残しているか。
  4. 変更時の比較⁠:樹脂・培地・スケールを替えたとき、前後を同じ方法で測り比べる取り決めがあるか。
  5. キットの切り替え⁠:ELISAのキットを替えたとき、新旧のキットで同じ試料を測り、数字のつながりを確かめたか。

測定のキットや装置、樹脂は、HCPを測るELISAキット・液体クロマトグラフ質量分析計・Protein A樹脂の製品ガイドで比べられます。ELISAのキットの選び方はHCP ELISAの選び方にあります。

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  • 5. 樹脂・培地・キットを替えたら、段階ごとの値を前後で比べる

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参考文献

  • Jones M, Palackal N, Wang F, et al. "High-risk" host cell proteins (HCPs): A multi-company collaborative view. Biotechnol Bioeng. 2021;118(8):2870-2885.(BioPhorum 26社による高リスクHCPの整理とリスクに基づく管理戦略工程を管理された状態に保つための管理の束。工程条件や試験、規格などを組み合わせて設計する。詳しく →)
  • Fischer SK, et al. Specific Immune Response to Phospholipase B-Like 2 Protein, a Host Cell Impurity in Lebrikizumab Clinical Material. AAPS J. 2017;19(1):254-263.(レブリキズマブの臨床試験で約9割の被験者がPLBL2に応答。安全性の事象との関連は見られなかった)
  • Hall T, et al. Polysorbates 20 and 80 degradation by group XV lysosomal phospholipase A2 isomer X1 in monoclonal antibody formulations. J Pharm Sci. 2016;105:1633(4つの抗体製剤のうち3つで1 ppm未満の酵素を検出)
  • Shukla AA, Hinckley P. Host cell protein clearance during protein A chromatography: development of an improved column wash step. Biotechnol Prog. 2008;24(5):1115-1121(Protein A の後に残るHCPは、樹脂より抗体との結びつきで残る)
  • Park JH, et al. Proteomic Analysis of Host Cell Protein Dynamics in the Culture Supernatants of Antibody-Producing CHO Cells. Sci Rep. 2017;7:44246.(溶けた細胞から培養液にHCPが溜まること。流加は回分より多くのHCPが見つかった)
  • Valente KN, Levy NE, Lee KH, Lenhoff AM. Applications of proteomic methods for CHO host cell protein characterization in biopharmaceutical manufacturing. Curr Opin Biotechnol. 2018;53:144-150(ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q6B は上限の数字を決めておらず、100 ppm 未満が業界で広く使われる目安)
  • ICH, Q6B Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products
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品質試験を整えたい(9項目のうち4番目)不純物を確かめる工程から入る不純物と、製品から生じる不純物を、それぞれどう測るのか?この項目で確かめること(6項目)を見る
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シリーズバイオ医薬品の工程由来不純物2 / 11 本目
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この記事の目次
  1. 1. HCPは、どこから入り、どこで減らすのか→
  2. 2. 総量が基準内でも、なぜ製品が傷むことがあるのか→
  3. 3. 精製の段階ごとに、どのHCPを受け持たせるのか→
  4. 4. 総量はELISAで、個別のHCPはLC-MSで確かめる→
  5. 5. 樹脂・培地・キットを替えたら、段階ごとの値を前後で比べる→
  6. 参考文献→
シリーズ2 / 11
バイオ医薬品の工程由来不純物
  1. 1製品由来・工程由来の不純物とは?数字が小さければ安心か
  2. 2HCP(宿主細胞タンパク質)とは?総量が合格でも残る問題
  3. 3ELISAとは?抗体で捕まえて、色の濃さで量を測れるのはなぜか
  4. 4ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体は何が違うのか?試薬のロットで結果が変わるのはなぜか
  5. 5HCP ELISAとは?値が低ければHCPは少ないと言えるのか
  6. 6宿主細胞DNAの規格は何で決まる?10 ngの意味と工程での下げ方
  7. 7残存DNAとは?qPCRの数字は、なぜ前処理で桁が変わるのか
  8. 8HCP ELISAは市販キットのままでよいか?替える時期と確かめ方
  9. 9LC-MSでHCPを測るとは?ELISAの値だけでは分からないことを確かめる
  10. 10LC-MSの「HCP検出なし」は、いないという意味なのか
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この記事の目次
  1. 1. HCPは、どこから入り、どこで減らすのか→
  2. 2. 総量が基準内でも、なぜ製品が傷むことがあるのか→
  3. 3. 精製の段階ごとに、どのHCPを受け持たせるのか→
  4. 4. 総量はELISAで、個別のHCPはLC-MSで確かめる→
  5. 5. 樹脂・培地・キットを替えたら、段階ごとの値を前後で比べる→
  6. 参考文献→
シリーズ2 / 11
バイオ医薬品の工程由来不純物
  1. 1製品由来・工程由来の不純物とは?数字が小さければ安心か
  2. 2HCP(宿主細胞タンパク質)とは?総量が合格でも残る問題
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  4. 4ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体は何が違うのか?試薬のロットで結果が変わるのはなぜか
  5. 5HCP ELISAとは?値が低ければHCPは少ないと言えるのか
  6. 6宿主細胞DNAの規格は何で決まる?10 ngの意味と工程での下げ方
  7. 7残存DNAとは?qPCRの数字は、なぜ前処理で桁が変わるのか
  8. 8HCP ELISAは市販キットのままでよいか?替える時期と確かめ方
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