HCP(宿主細胞タンパク質)とは?総量が合格でも残る問題

HCP(宿主細胞タンパク質医薬品を作る宿主細胞に由来するタンパク質の不純物です。安全性に関わるため、精製後の残存量を測ります。詳しく →)は、抗体などを作らせた細胞自身が持つタンパク質で、製品に混じる不純物です。精製を組み立てる人と、出荷試験で数字を見る人の両方が、どこまで減らせばよいかを決めます。
ただし、総量を基準内に収めるだけでは、管理として足りない場合があります。何千種類もの中に、ごく微量でも製品を傷めるものが混じることがあるためです。
総量の数字が何を保証し、何を保証しないかが分かると、精製のどの段階で何を落とし、出荷で何を測るかを決められます。
- HCPとは:製品を作らせた細胞自身のタンパク質で、数千種類の混合物です。
- 総量が合格なら安心か:1種類のHCPが、総量の基準よりはるかに少ない量で製品を傷めることがあります。
- どう管理するのか:精製の段階ごとに受け持ちを決め、総量を毎ロット測り、高リスクのHCPはリスク評価に基づいて監視するか工程で除くかを決めます。
1. HCPは、どこから入り、どこで減らすのか
HCPは、製品を作らせた細胞(多くはチャイニーズハムスター卵巣(CHO抗体など組換えタンパク質の生産に広く使われる、チャイニーズハムスター卵巣由来の培養細胞です。詳しく →)細胞)が持つ数千種類のタンパク質の混合物で、培養液に出たものが精製で減らしきれずに残ります。 製品の原料から入るのではなく、製品を作る細胞そのものから出る点が、ほかの不純物と違います。
細胞は生きている間もタンパク質を外に出しますが、溶けると中身がまとめて培養液に出ます。CHO細胞の培養液を網羅的に調べた研究では、細胞が溶けるにつれてHCPが溜まり、流加培養培養の途中で栄養(フィード)を追加しながら細胞を高密度まで育てる培養方式。詳しく →では回分培養より多くの種類が見つかりました。生存率細胞集団のうち生きている細胞の割合。凍結・培養の品質を示す基本指標。詳しく →が落ちてから収穫すると、精製に入るHCPが増えやすいのはこのためです(ハーベストと清澄化)。
入ったHCPは、精製の段階ごとに減らしていきます。製品の原料に由来せず、製造の工程で入る不純物なので、工程由来不純物と呼ばれます。

2. 総量が基準内でも、なぜ製品が傷むことがあるのか
製品を傷めるかどうかは、HCPの総量ではなく、中にどのHCPが残っているかで決まることがあるからです。 酵素の働きを持つHCPは、量がわずかでも、保存しているあいだ働き続けます。
2016年に報告された研究では、CHO細胞で作った4つの抗体製剤のうち3つで、製剤に入れる界面活性剤(ポリソルベートタンパク質の凝集や容器壁への吸着を防ぐため製剤へ少量加える添加剤で、細胞培養で細胞を保護する目的でも使われます。詳しく →)を分解する酵素が、どれも1 ppm未満の量で見つかりました。酵素が検出された製剤ではポリソルベートの分解が起き、検出されなかった1つでは起きていません。界面活性剤が減ると、抗体が容器の表面で傷みやすくなります(ポリソルベートの役割と分解)。
患者の体に抗体を作らせるHCPもあります。ある抗体医薬の臨床試験では、PLBL2(ホスホリパーゼB様タンパク質2ポリソルベート分解に関与する候補として報告される脂質分解酵素。詳しく →)というハムスター由来のHCPに対して、被験者の約9割が抗体を作りました。安全性の事象との関連は見られませんでした(総量の測定でPLBL2を見落とした例)。
こうした問題を起こしやすいHCPを、製薬企業など26社の業界団体(BioPhorum)のチームが2021年に「高リスクHCP」として整理しました。免疫原性を持つもの、生理活性を持つもの、製品や添加剤を壊す酵素活性を持つものが、総量とは別に見張る対象です。この報告は、精製で落としにくいものがあることも挙げ、リスク評価に基づいて、監視するか工程から除くかを決める手順を勧めています。
総量の数字が合格でも、高リスクのHCPが残っていないとは言えません。管理は、総量を減らすことと、個別のHCPを知ることの二本立てで組みます。
3. 精製の段階ごとに、どのHCPを受け持たせるのか
捕捉の工程で大半を落とし、残ったものを性質の違うポリッシング捕捉工程の後、電荷や疎水性の違いを使って残った副産物を削り純度を上げる磨き上げ精製。詳しく →の工程で拾う、という分担で組みます。 1つの段階で落としきろうとすると、条件を強めすぎて製品を傷めるためです。
| 段階 | 受け持ち | 変えたときに見る値 |
|---|---|---|
| 培養・収穫 | HCPの入る量を決める | 収穫時の生存率、収穫日を変えたときのHCP |
| 捕捉(Protein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく →) | 大半のHCPを落とす | 洗浄の条件、樹脂を替えたときの出口のHCP |
| ポリッシング | 取りこぼしを拾う | 工程ごとの出口のHCP、問題のHCPの行方 |
捕捉の工程では、抗体の決まった部分だけをつかむProtein Aの樹脂を使い、つかんだまま洗い流すため、一段で多くのHCPが除かれます。それでも残るHCPは、樹脂にくっつくものより、抗体にくっついて一緒に来るものが中心だと報告されています。洗浄の緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →で、抗体とHCPの結びつきをゆるめる塩・pH・添加剤を選ぶのはそのためです。洗浄を強めたときは、抗体の凝集や活性に響かないかも確かめます。
ポリッシングの工程は、電荷や疎水性のように、Protein Aとは別の性質で分けます。電荷で分ければ電荷の近いHCPが残り、疎水性で分ければ疎水性の近いHCPが残るため、性質の違う分け方を重ねて互いの取りこぼしを補います(ポリッシング)。
段階ごとの入口と出口でHCPを測っておくと、どこでどれだけ落ちたかが分かります。運転条件を振っても落ち方が変わらないかは、プロセス特性解析で確かめます。
4. 総量はELISAで、個別のHCPはLC-MSで確かめる
総量は毎ロット酵素免疫測定法(ELISA)で測り、高リスクのHCPは特性解析や工程の評価で液体クロマトグラフ質量分析液体クロマトグラフで成分を分離したうえで質量分析計にかけ、分子量を測って物質の同定や定量を行う手法です。詳しく →(LC-MS)を使って名指しし、リスク評価に基づいて監視するか工程で除くかを決めます。 2つの方法は、答える問いが違います。
- 総量(ELISA抗原と抗体の結合を酵素反応による発色などで検出し、目的の物質の有無や量を測る手法です。不純物や力価の測定に広く使われます。詳しく →):HCPの混合物に対する抗体で、まとめて量を測ります。速く毎ロット回せますが、抗体がつかまないHCPは数えられません(HCP ELISA)。
- 個別(LC-MS):タンパク質を切って量り、どのHCPがいるかを名指しします。ELISAが見落とすものを補いますが、量の少ないものは検出しきれないことがあります(LC-MSによるHCP分析)。
総量の上限はどう決めるのか。生物薬品の規格の決め方を示したICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく →は、HCPのような工程由来不純物をできるだけ減らしてよく管理するよう求めていますが、上限の数字は決めていません。総説によれば、業界では抗体1 mgあたり100 ng(100 ppm抗体1mgあたりの不純物量(ng)のように、100万分の1の比で微量成分の割合を表す単位。詳しく →)未満が広く目安にされ、商用の工程ではさらに低い値が好まれます。
この目安は規制の要求ではなく、製品の投与量やリスクに合わせて自社で決める値です。総量の基準とは別に、高リスクのHCPが分かっている製品では、そのHCPの行方を個別に追う計画を立てます。
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ほかの会員向けの記事を見る →参考文献
- Jones M, Palackal N, Wang F, et al. "High-risk" host cell proteins (HCPs): A multi-company collaborative view. Biotechnol Bioeng. 2021;118(8):2870-2885.(BioPhorum 26社による高リスクHCPの整理とリスクに基づく管理戦略工程を管理された状態に保つための管理の束。工程条件や試験、規格などを組み合わせて設計する。詳しく →)
- Fischer SK, et al. Specific Immune Response to Phospholipase B-Like 2 Protein, a Host Cell Impurity in Lebrikizumab Clinical Material. AAPS J. 2017;19(1):254-263.(レブリキズマブの臨床試験で約9割の被験者がPLBL2に応答。安全性の事象との関連は見られなかった)
- Hall T, et al. Polysorbates 20 and 80 degradation by group XV lysosomal phospholipase A2 isomer X1 in monoclonal antibody formulations. J Pharm Sci. 2016;105:1633(4つの抗体製剤のうち3つで1 ppm未満の酵素を検出)
- Shukla AA, Hinckley P. Host cell protein clearance during protein A chromatography: development of an improved column wash step. Biotechnol Prog. 2008;24(5):1115-1121(Protein A の後に残るHCPは、樹脂より抗体との結びつきで残る)
- Park JH, et al. Proteomic Analysis of Host Cell Protein Dynamics in the Culture Supernatants of Antibody-Producing CHO Cells. Sci Rep. 2017;7:44246.(溶けた細胞から培養液にHCPが溜まること。流加は回分より多くのHCPが見つかった)
- Valente KN, Levy NE, Lee KH, Lenhoff AM. Applications of proteomic methods for CHO host cell protein characterization in biopharmaceutical manufacturing. Curr Opin Biotechnol. 2018;53:144-150(ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q6B は上限の数字を決めておらず、100 ppm 未満が業界で広く使われる目安)
- ICH, Q6B Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/hcp-host-cell-protein-management