HCP ELISAとは?値が低ければ、宿主細胞由来タンパク質は少ないと言えるのか

HCP ELISAとは、抗体医薬を作らせた細胞のタンパク質(HCP、宿主細胞由来タンパク質医薬品を作る宿主細胞に由来するタンパク質の不純物です。安全性に関わるため、精製後の残存量を測ります。詳しく →)が、精製したあとの製品にどれだけ残っているかを確かめるための試験です。品質管理原料・資材・中間体・製品を規格に照らして試験し、使ってよいか、出荷してよいかの合否を決める仕事です。GMPでは製造部門から独立させます。詳しく →ではロットの判定に、工程開発では精製の各段階で HCP がどれだけ減ったかの確認に使います。
ただし、ELISA抗原と抗体の結合を酵素反応による発色などで検出し、目的の物質の有無や量を測る手法です。不純物や力価の測定に広く使われます。詳しく → の値に入るのは、試験に使う抗体が認識できた HCP だけです。値が低くても、認識されにくい1種類が製品に残っていることがあります。
この記事では、HCP を測る理由、ELISA の値が数えているもの、値が低くても見落とす場合、カバレッジ抗HCP抗体がどれだけ幅広い種類のHCPを認識できるか。ELISAが目的に適うかを示す中心的な指標。詳しく →の読み方を順に説明します。
- HCP ELISAとは:製品に残った宿主細胞のタンパク質を、それを認識する抗体の混合物で捕まえ、合計の量として測る試験です。
- 値が低ければ少ないと言えるのか:言えません。抗体が認識しにくい HCP は、少なく見積もられるか、値に入らないためです。
- カバレッジは何%あればよいのか:規制や公定書が定めた数値はありません。数字は評価法で変わるため、どの評価法で、どの工程の HCP に対して求めたかで読みます。
1. HCP ELISAは、何を確かめるために測るのか
HCP ELISA製品に残る宿主細胞由来タンパク質(HCP)の量を抗体で測るELISAです。不純物の除去具合を確認する品質試験に使います。詳しく → は、抗体を作らせた細胞のタンパク質が精製で十分に減り、製品に許容できる量しか残っていないかを確かめるために測ります。 品質管理では多くの場合ロットを出してよいかの判定に、工程開発では精製の各段階の除去の確認に、この値を使います。
抗体医薬の多くは、CHO細胞抗体など組換えタンパク質の生産に広く使われる、チャイニーズハムスター卵巣由来の培養細胞です。詳しく →(チャイニーズハムスターの卵巣に由来する細胞)に抗体を作らせて製造します。細胞は抗体のほかに自身のタンパク質も培養液に出し、壊れた細胞からは中のタンパク質も出てきます。これらをまとめて HCP と呼びます。
その種類は、CHO細胞の培養上清で2,000種類を超えると報告されています(Park ら, 2017年)。精製で抗体だけを分け取っても、性質が抗体に近いものや、抗体に結合したまま動くものは、微量ながら製品まで残ります。どの工程でどう減らすかは、HCPの管理で扱っています。
生物薬品の規格の決め方を示す国際ガイドライン ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく → は、HCP を残存DNAなどとともに工程由来不純物(製造工程から持ち込まれる不純物)に挙げ、管理された製造工程で最小限にするよう求めています(4.1.3)。測り方には、幅広いタンパク質を検出できる免疫測定法(抗体を使う測定法)が一般に使われるとしています(6.2.1)。
下の図の上段が、HCP が製品に残るまでの流れです。下段の、ELISA が何を数えるかは、3節と4節で説明します。

このように、HCP ELISA が測るのは、何千種類のタンパク質のうち精製をすり抜けて残った分です。では、その微量の HCP が、なぜ問題になるのか。
2. 製品に残ったHCPは、なぜ問題になるのか
微量でも問題になるのは、HCP が体に異物として認識されることと、HCP の中に製品の成分を分解する酵素が含まれることの2つのためです。
- 免疫原性薬そのものが患者の免疫応答を誘発しやすい性質。凝集体や不純物、投与経路、患者背景などが要因になる。詳しく →:CHO細胞の HCP は、ヒトから見ればハムスターのタンパク質です。繰り返し投与するうちに、体がそれに対する抗体をつくることがあります。
- 製品の品質への影響:酵素は反応で消費されないので、活性が残っていれば、微量でも保存期間を通して分解を進めます。
たとえば Hall らの2016年の報告では、4つの抗体製剤のうち3つで、ポリソルベートタンパク質の凝集や容器壁への吸着を防ぐため製剤へ少量加える添加剤で、細胞培養で細胞を保護する目的でも使われます。詳しく →を分解する酵素が1 ppm抗体1mgあたりの不純物量(ng)のように、100万分の1の比で微量成分の割合を表す単位。詳しく →(抗体1 g あたり1 µg)未満の量で見つかりました。ポリソルベートは抗体を守るために加える界面活性剤で、それらの製剤では加水分解が起きていました(ポリソルベートの分解)。
一方で、ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q6B は不純物の判定基準を必要に応じて設けるとしていますが、HCP の上限の数値は示していません。業界では、抗体1 mg あたり100 ng(100 ppm)未満がよく目安にされます。
つまり、総量が目安を下回っていても、1種類の酵素が製品の品質に影響することはありえます。そこで問題になるのが、ELISA の1つの値が、何千種類の HCP のうち何を数えているかです。
3. HCP ELISAは、何千種類のHCPをどうやって1つの値にするのか
HCP ELISA は、何千種類の HCP をそれぞれ認識する抗体の混合物で HCP を捕まえ、捕まえた分の合計を、標準品と比べて1つの値に換算します。 ふつうの ELISA が1種類の物質を測るのに対し、HCP ELISA は多数のタンパク質をまとめて測ります。
ELISA(酵素結合免疫吸着法)は、抗体で目的の物質を捕まえ、抗体に付けた酵素が起こす発色の強さで量を読む測定法です。HCP では、プレートに固定した抗体で捕まえ、酵素を付けた抗体でもう一度挟んで検出するサンドイッチ法捕捉抗体と検出抗体で目的物を挟んで検出するELISAの方式。HCPの総量測定で標準的に使われる。詳しく →がよく使われます。
使う抗体は、抗HCP抗体と呼ばれるポリクローナル抗体多様なエピトープを認識する抗体の混合物。多種類のHCPをまとめて捕まえるため抗HCP抗体に用いる。詳しく →(多数の異なる抗体の混合物)です。目的の抗体を作らない宿主細胞から得た HCP を動物に免疫してつくるので、HCP をそれぞれ認識する抗体が混ざっています。
値は、キットに付いた HCP の標準品と発色を比べて求め、抗体の濃度で割って、抗体1 mg あたりの量(ng/mg)で表します。米国薬局方米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく →(USP)の〈1132〉は、ppm がほかの試験では質量と体積の比の意味でも使われるため、ng/mg と書くよう勧めています。
この仕組みから、値について2つのことが言えます。
- 認識されない HCP は数えない:抗HCP抗体が認識しない HCP は、どれだけ含まれていても値に入りません。どの HCP が何種類あったかも分かりません。
- キットが違えば値も違う:値は、そのキットの抗HCP抗体と標準品に依存する相対的な値です。2つのキットで値が食い違っても、どちらかが誤っているとは限りません。
つまり、工程の途中でキットを替えると、それまでのデータとは直接比べられなくなります。では、値が低く出たときは、HCP が少ないと考えてよいのか。
4. ELISAの値が低ければ、HCPは少ないと言えるのか
言えません。抗HCP抗体が認識しにくい HCP は、少なく見積もられるか、値に入らないためです。
この見落としは、IL-13(炎症に関わる情報伝達のタンパク質)を標的にする抗体レブリキズマブの治験薬臨床試験(治験)において被験者に投与するために製造された、未承認または既承認の医薬品のこと。詳しく →で起きました。開発元の Vanderlaan らは2015年に、精製の後半の試料が、希釈するほど値が上がる挙動を示したと報告しています。
本来は、試料を希釈して測り、希釈倍率を掛けて戻せば、どの希釈でも同じ値にそろいます(希釈直線性)。値が上がる原因の1つは、ある HCP の量がそれを認識する抗体より多すぎる状態で、これを抗原過剰と呼びます。このとき ELISA はその HCP を捕まえきれず、少なく見積もります。
質量分析で調べると、主な不純物は PLBL2(ホスホリパーゼB様タンパク質2ポリソルベート分解に関与する候補として報告される脂質分解酵素。詳しく →)というハムスターのタンパク質でした。総量の ELISA で抗体1 mg あたり2 ng 未満と出た製品でも、PLBL2 専用の ELISA では同じ程度の PLBL2 が測られた例が報告されています。
臨床試験では、投与を受けた人の約90%が PLBL2 に対する抗体をつくりました(Fischer ら, 2017年)。安全性の事象との相関は見いだされませんでしたが、開発元は精製工程を改め、PLBL2 を減らした治験薬では抗体ができる頻度が下がりました。
見落としたHCPは、何で見つけるのか
ELISA が見落とした HCP を1種類ずつ特定するのは、LC-MS(液体クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →質量分析分子をイオンにして、質量と電荷の比で分け、分子の質量を精密に測る手法です。タンパク質の同定、修飾の位置の特定、不純物の確認などに使い、液体クロマトグラフと組み合わせることが多くあります。詳しく →)です。 タンパク質をペプチドに切って分け、測った質量をデータベースと照合して、HCP を同定・定量します。
| ELISA | LC-MS液体クロマトグラフで成分を分離したうえで質量分析計にかけ、分子量を測って物質の同定や定量を行う手法です。詳しく → | |
|---|---|---|
| 分かること | 抗HCP抗体が認識する HCP の総量 | どの HCP が、どれだけあるか |
| 依存するもの | 抗HCP抗体と標準品 | 質量の測定とデータベース |
| 向いている場面 | ロットの試験、工程内の管理 | ELISA の確認、問題になる HCP の特定 |
| 限界 | 抗体が認識しない HCP は値に入らない | 前処理と解析に手間がかかる |
日々の総量は ELISA で追い、抗体が見落とす HCP の洗い出しは LC-MS が受け持ちます。米国薬局方国または地域の公的機関が定める医薬品の規格・試験法・品質基準を収載した公定書。詳しく →の〈1132.1〉が扱う質量分析の測り方は、LC-MSでHCPを測るで解説しています。
このように、ELISA の値が低いことが示すのは、抗HCP抗体が捕まえた HCP が少ないことだけです。では、抗体がどれだけの HCP を認識できるかを示すカバレッジが高ければ、この見落としは防げるのか。
5. カバレッジが高いキットなら、HCPを見落とさないのか
見落とさないとは言えません。カバレッジに合格の数値基準は無く、数字は評価法で変わり、高くても工程で残る HCP を認識できるとは限らないためです。 カバレッジとは、宿主細胞が出す HCP のうち、抗HCP抗体が認識できるものの割合のことです。
ICH のガイドラインにも米国薬局方にも、何%以上という基準はありません。USP〈1132〉が示しているのは、次の2つの評価法です。
- 2次元ウエスタンブロット:HCP を2次元電気泳動で展開し、抗HCP抗体が反応するスポットの数を、総タンパク質のスポットの数と比べます。
- イムノアフィニティー法:抗HCP抗体を固定した担体に HCP を流し、捕まった HCP と素通りした HCP を比べます。抗体アフィニティー抽出(AAE)と呼ぶメーカーもあります。
〈1132〉は、どちらも実際の測定での結合を少なく見積もりやすいとし、数字どうしの比較は慎重に、定性的に評価するのがよいとしています。メーカーの資料にある「スポットの50%超に反応」という目安も、慣例であって規制上の基準ではありません。
評価法によって、数字そのものも変わります。Cygnus Technologies のホワイトペーパーでは、2次元ウエスタンブロットで55%だったカバレッジが、AAE では92%でした。評価法の書かれていない「カバレッジ90%」では、良し悪しを判断できません。
数字の高さより大事なのは、製品まで残りやすい HCP を、その抗体が認識できるかです。精製の初めに除かれる HCP を認識しなくても製品の値には響きませんが、工程内の試料で除去を評価するときには、その分を見落とします。
つまり、カバレッジは、どの評価法で、どの工程の HCP に対して求めた数字かで読みます。工程が固まった段階で、自社の工程の HCP から抗体をつくり直すプロセス特異的アッセイ対象製品の工程で実際に出るHCPを免疫原にして抗体を起こす測定法。その工程のHCPに合う。へ移る判断は、HCP ELISAの選び方で扱っています。
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- ICH Q6B「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定について」(Step 4、1999年3月。4.1.3 工程由来不純物を管理された製造工程で最小限にすること、6.2.1 HCP には幅広いタンパク質を検出できる免疫測定法が一般に使われること。ICH の原文)。国内は厚生労働省医薬局審査管理課長通知 医薬審発第571号(平成13年5月1日): https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta7791&dataType=1&pageNo=1
- USP General Chapter〈1132〉Residual Host Cell Protein Measurement in Biopharmaceuticals(USP 39 の掲載文。カバレッジを2次元ウエスタンブロットかイムノアフィニティー法で評価すること、数字の比較は慎重に扱い定性的に評価すること、ng/mg の表記、添加回収の目安。現行版は USP–NF で確認)
- USP General Chapter〈1132.1〉Residual Host Cell Protein Measurement in Biopharmaceuticals by Mass Spectrometry(現行版は USP–NF で確認)
- Park JH, et al. Proteomic Analysis of Host Cell Protein Dynamics in the Culture Supernatants of Antibody-Producing CHO Cells. Scientific Reports. 2017;7:44246.(流加培養培養の途中で栄養(フィード)を追加しながら細胞を高密度まで育てる培養方式。詳しく →の上清で2,145種類のタンパク質を同定)
- Valente KN, Levy NE, Lee KH, Lenhoff AM. "Applications of proteomic methods for CHO host cell protein characterization in biopharmaceutical manufacturing." Current Opinion in Biotechnology, 2018;53:144-150(ICH Q6Bに数値の上限はなく、100 ppm未満が業界で広く使われる目安)
- Wang X, Hunter AK, Mozier NM. "Host cell proteins in biologics development: Identification, quantitation and risk assessment." Biotechnology and Bioengineering, 2009;103(3):446-458: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19388135/
- Hall T, et al. "Polysorbates 20 and 80 Degradation by Group XV Lysosomal Phospholipase A2 Isomer X1 in Monoclonal Antibody Formulations." Journal of Pharmaceutical Sciences, 2016;105(5):1633-1642(3製剤で1 ppm未満の酵素を検出し、それらの製剤でポリソルベートの加水分解): https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27056628/
- Fischer SK, et al. "Specific Immune Response to Phospholipase B-Like 2 Protein, a Host Cell Impurity in Lebrikizumab Clinical Material." The AAPS Journal, 2017;19(1):254-263(2016年10月オンライン公開。約90%の被験者で抗PLBL2抗体、安全性の事象との相関は見いだせず、PLBL2 を減らした治験薬で頻度が低下)
- Vanderlaan M, et al. "Hamster Phospholipase B-Like 2 (PLBL2): A Host-Cell Protein Impurity in Therapeutic Monoclonal Antibodies Derived from Chinese Hamster Ovary Cells." BioProcess International, 2015年4月(希釈で値が上がる挙動、SDS-PAGESDSで変性させたタンパク質をゲル板上でサイズ分離する電気泳動。CE-SDSの前身にあたる手法。詳しく → と質量分析による同定、総量の ELISA と PLBL2 専用の ELISA の比較): https://bioprocessintl.com/bioanalytical-methods/hamster-phospholipase-b-like-2-plbl2-a-host-cell-protein-impurity-in-therapeutic-monoclonal-antibodies-derived-from-chinese-hamster-ovary-cells
- Genentech の米国特許 US 9,920,120 B2 ほか、同じ開示を持つ一連の特許(PLBL2 を減らす精製の方法。抗PLBL2抗体と安全性の事象に相関が認められず、アナフィラキシーや重い過敏症の報告が無かったとの記載)
- Cygnus Technologies. "Antibody Affinity Extraction (AAE): An Alternative to 2D Western Blot for Determination of Polyclonal Anti-HCP Reactivity"(メーカーのホワイトペーパー。2次元ウエスタン55%、AAE 92%の比較、HCP 全体の50%超に反応し、ゲルの4つの象限すべてに反応があるという従来の目安)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/hcp-elisa