CHO細胞とは?抗体をヒトでなくハムスターの細胞で作るのはなぜか

CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞)は、ハムスターの卵巣に由来する細胞で、抗体医薬の多くは、この細胞に抗体を作らせて製造します。ヒトの細胞ではなくCHO細胞を使うのは、大きな培養槽で何年も同じ品質の抗体を作り続けられることと、承認審査の実績があるためです。 どの細胞に作らせるかは、抗体を作る細胞を用意する細胞株開発目的タンパク質を安定して高く産生する細胞のクローンを選び出し、製造に使える産生細胞株として確立する工程です。詳しく →の最初に決め、培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →や受託先の選び方もこの選択に沿って決まります。
一方で、候補を早く試す段階では、ヒトの細胞のほうが速く作れることもあります。どの細胞が適しているかは、何で比べるかによって変わります。
この記事では、CHO細胞が製造で担う役割、ヒトの細胞ではなくCHO細胞を使う理由、糖鎖タンパク質に付加される糖の鎖状構造で、抗体の有効性・免疫原性などに影響する重要な品質特性。詳しく →とウイルスの心配、もっと多く作れる細胞が出ても置き換わらない理由、宿主を決めるときに確かめる順番を説明します。
- CHO細胞とは:チャイニーズハムスターの卵巣に由来する細胞で、抗体の遺伝子を入れると、その抗体を作って培養液に出します。
- なぜヒトの細胞で作らないのか:商業生産で問われる、何年も同じ品質で作り続ける力と、承認審査の実績で、CHO細胞がヒトの細胞を上回っているからです。
- もっと多く作れる細胞が出たら置き換わるのか:作れる量が多いだけでは置き換わりません。
1. CHO細胞は、抗体医薬の製造で何をする細胞か
CHO細胞は、チャイニーズハムスターの卵巣(Chinese Hamster Ovary)に由来する細胞で、抗体の遺伝子を入れると、その抗体を作って培養液に出します。 薬になるタンパク質を作らせるために使う、このような細胞を宿主細胞と呼びます。
抗体は4本の鎖が組み合わさった大きなタンパク質で、根元の部分(Fc領域抗体の定常部にあたる「足」の部分。FcγRや補体、FcRnと相互作用し、機能や血中半減期を担う。詳しく →)には糖鎖が付いています。大腸菌や酵母のような微生物は、そのままではヒトの抗体と同じ糖鎖を付けられません。そのため、Fc領域を持つ抗体の製造には、鎖を組み立てて糖鎖を付けられる動物の細胞が使われます。

2014年から2018年7月までに承認された品目を集計した調査では、抗体医薬の大半がCHO細胞で作られていました(Walsh G. 2018)。一部は、NS0細胞(マウスの骨髄腫に由来する細胞)やSp2/0細胞のような、マウスの細胞で作られています。
図の下の段の4つが、宿主を比べるときの基準です。次の節からは、この4つの基準でヒトやマウスの細胞と比べます。
2. なぜヒトの細胞ではなく、ハムスターの細胞で作るのか
商業生産で問われるのは、何年も大きな培養槽で同じ品質の抗体を作り続けられるかと、承認審査の実績で、その2点でCHO細胞がヒトの細胞を上回っているからです。ヒトの細胞でよく使われるのは、HEK293細胞ヒト胎児腎臓由来の細胞。遺伝子導入効率が高く一過性発現に向くが、商業生産の実績はCHOより限定的。詳しく →(ヒト胎児の腎臓に由来する細胞)です。遺伝子を入れやすい。しかも、遺伝子が染色体に組み込まれた細胞を選ばなくても、短い期間育てるだけで抗体を集められます。この作り方を一過性発現遺伝子をゲノムに組み込まず一時的に発現させる方式。短期間で少量の抗体を得るのに向く。詳しく →と呼び、候補を比べる段階や非臨床の試験で、数十から数百mgの抗体が早く欲しいときに便利です。
商業生産では、比べる基準が変わります。遺伝子が染色体に組み込まれ、抗体を作り続ける細胞(安定発現株)を作り、その細胞を何年にもわたって数千Lの培養槽で育てられるかが問われます。
大きな培養槽で作り続けやすい理由
CHO細胞は、液の中に浮かんだまま高い密度まで増え、血清(動物の血液から取った成分)を含まない培地にも馴化させられます。途中で栄養を足すフェッドバッチ培地を追加供給しながら抜き取らずに回分培養する方式で、抗体などの本培養(生産培養)で標準的に用いる生産方式。詳しく →培養の後半には、1 mLあたり1,000万〜3,000万個の細胞に達することもあります。
周りの仕組みもそろっています。抗体の遺伝子を持つ細胞だけを残す方法(選択系)は、グルタミン合成酵素(GS)を使う系と、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を使う系が確立しており(細胞株開発)、培地とフィードフェドバッチで追い足す濃縮した栄養液。いつ・どれだけ・どう入れるかが生産性と品質を左右する。詳しく →(途中で足す栄養液)も複数の会社が市販しています。
規制当局の側にも、CHO細胞で作った抗体を審査してきた経験とデータが積み上がっています。同じ品質を出せるなら、実績の多い細胞のほうが、審査で説明すべき点を減らせます。
候補を早く試す段階ならヒトの細胞が速く、承認後も作り続ける段階ではCHO細胞が選ばれます。
3. ヒトの細胞でなくても、糖鎖は問題にならないのか
CHO細胞の糖鎖はヒト型に比較的近く、ヒトにない糖鎖もマウスの細胞より少ないため、測って管理すれば宿主として使えます。
Fc領域の糖鎖は、免疫の細胞に標的の細胞を壊させる働きである抗体依存性細胞傷害(ADCC)抗体のFc領域が免疫細胞を呼び寄せ、標的細胞を傷害させるエフェクター機能。の強さや、血中に残る長さに影響します。配列が同じ抗体でも、糖鎖の構造が変われば効き目も変わるため、糖鎖は効き目と安全性を左右する重要品質特性(CQA)製品の品質・安全性・有効性を保証するため規格内に収めるべき重要な品質特性。として、糖鎖分析で管理されます。
ヒトにない糖鎖の代表が、α-Galガラクトース-α1,3-ガラクトース。マウス系細胞で問題になる免疫原性の糖構造で、CHOは作りにくい。(ガラクトース-α1,3-ガラクトース)です。マウスの細胞で作られる抗がん剤の抗体セツキシマブでは、投与した76人のうち25人に過敏反応が起きました。そのうち17人は、薬に付いたα-Galに結合するIgE(アレルギーを起こす抗体)を、投与前から持っていました(Chung CH, et al. 2008)。
CHO細胞もα-Galを付ける酵素の遺伝子を持っており、CHO細胞で作られる承認品アバタセプトからもα-Galが見つかりました。量はマウスの細胞由来の製品より少ないものの、クローン(1個の細胞から増やした細胞の集まり)によって違いました(Bosques CJ, et al. 2010)。ヒトが作れない型のシアル酸Neu5Gc非ヒト型のシアル酸で免疫原性リスクがあるが、CHO細胞はほとんど付加しない。詳しく →も、CHO細胞では低いレベルで付くことがあります。
製造で問われるのは、ヒトにどれだけ近いかより、付く糖鎖を予測し、そろえられるかです。ADCCを強めたいときも、フコースを付ける酵素の遺伝子を壊すなど、CHO細胞のまま手を入れられます(抗体のアフコシル化)。
CHO細胞を選んでも糖鎖の測定は省けないため、クローンを選ぶ段階でα-GalとNeu5Gcの量も比べておきます。
4. CHO細胞なら、ウイルスの心配はないのか
ヒトに病気を起こすウイルスの多くは、CHO細胞では増えにくいとされます。ただし、CHO細胞に感染するウイルスが原料から入る心配は残ります。
2009年6月、米国の工場で、CHO細胞を育てる培養槽の1つからベシウイルス2117が見つかりました。ヒトに病気を起こすとは知られていないウイルスです。ただ、CHO細胞の増殖は妨げます。製造した企業は、製造に使った栄養成分から入った可能性が高いと説明しました。
工場は消毒のために止まり、CHO細胞で作る酵素の薬である、ゴーシェ病のイミグルセラーゼとファブリー病のアガルシダーゼ ベータが不足しました。欧州医薬品庁(EMA)は、病気が進んでいる患者への投与を優先するよう勧告しています。
宿主の選択でウイルスのリスクが下がっても、原料の受け入れと、工程でウイルスを除く仕組みは別に組む必要があります。原料の受け入れ方は供給者管理と受入試験で、ウイルスを除く工程はウイルスクリアランスで扱っています。
5. もっと多く作れる細胞が出たら、CHO細胞は置き換わるのか
力価(培養液1 Lあたりにできる抗体の量)が高いだけでは、置き換わりません。 遺伝子編集を加えた宿主や新しい動物の細胞は数多く開発されていますが、製薬企業が見ているのは、最高の力価より、同じ品質を何年も再現できるかだからです。
仮に新しい宿主の力価がCHO細胞より3割高くても(説明用の仮の数字)、次の3点を示す必要があります。
- 長く育てても落ちないか:製造の元として凍らせておく細胞(マスターセルバンク製造の起点となる細胞を段階的に均質に凍結保存した在庫(マスター/ワーキングセルバンク)。詳しく →)を融かしてから最後の収穫まで、細胞は何十世代も増えます。その終わりの細胞でも、生産性と糖鎖が保たれるかを確かめます。
- 大きな槽でも同じ結果が出るか:小さな培養で順調だったクローンが、大きな培養槽では酸素の供給不足や撹拌によるせん断の違いで、成績が変わることがあります(バイオリアクターのスケールアップ)。
- 規制当局に説明できるか:細胞の由来と特性を、製造に使う細胞についての国際的な指針 ICH Q5D生物薬品の製造に使う細胞基材の樹立と特性解析について定めた国際調和ガイドライン。詳しく → に沿って説明でき、ウイルス安全性の評価を満たせるかが問われます。
どれも、CHO細胞では何十年分もの知見が積まれている項目です。細胞株開発の現場でも、最も多く作るクローンより、品質の変動が少ないクローンが選ばれることがあります。
新しい宿主を検討するときは、力価の数字より先に、この3つに答えるデータがそろっているかを確かめます。
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- 6. 宿主を決めるときは、分子が求める糖鎖と製造の期間から確かめる
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ほかの会員向けの記事を見る →参考文献
- ICH Q5D, Derivation and Characterisation of Cell Substrates Used for Production of Biotechnological/Biological Products
- ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく →, Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products
- Walsh G. Biopharmaceutical benchmarks 2018. Nature Biotechnology, 2018.(2014年から2018年7月の承認品目の集計)
- Chung CH, Mirakhur B, Chan E, et al. Cetuximab-induced anaphylaxis and IgE specific for galactose-alpha-1,3-galactose. N Engl J Med. 2008;358(11):1109-1117.(投与した76人のうち25人に過敏反応、そのうち17人は投与前の血清にセツキシマブへのIgE。IgEはα-Galに特異的)
- Bosques CJ, Collins BE, Meador JW 3rd, et al. Chinese hamster ovary cells can produce galactose-α-1,3-galactose antigens on proteins. Nat Biotechnol. 2010;28(11):1153-1156.(CHO細胞のα-Galを付ける酵素の遺伝子、アバタセプトのα-Gal、クローンによる量の違い。量はマウスの細胞由来の製品より少ない)
- EMA, Supply shortages of Cerezyme and Fabrazyme - priority access for patients most in need of treatment recommended(2009年。ベシウイルス2117と供給不足)
- GEN, Genzyme Temporarily Halts Production at Plant in Massachusetts(2009年6月16日。同社の発表:CHO細胞の増殖を妨げるウイルス、製造に使った栄養成分から入った可能性)
- Kim JY, Kim YG, Lee GM. CHO cells in biotechnology for production of recombinant proteins. Applied Microbiology and Biotechnology, 2012.
- Lalonde ME, Durocher Y. Therapeutic glycoprotein production in mammalian cells. Journal of Biotechnology, 2017.
- Wurm FM. Production of recombinant protein therapeutics in cultivated mammalian cells. Nature Biotechnology, 2004.
- Jayapal KP, Wlaschin KF, Hu WS, Yap MGS. Recombinant protein therapeutics from CHO cells: 20 years and counting. Chemical Engineering Progress, 2007.
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/chocell