疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)とは?担体と塩の条件はどう決めるのか

疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)高塩条件で疎水性の違いを利用して結合・分離する方式。凝集体や疎水性の高い変性体を分ける。詳しく →とは、タンパク質の表面にある水をはじく部分の違いで分ける精製の方法です。抗体の製造では凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →(抗体どうしがくっついたもの)を除く工程に使い、どの担体カラムに充填する多孔質ビーズ。表面のリガンドと成分の相互作用差で目的物と不純物を分離する。詳しく →(カラムに詰める粒)とどの塩を使うかを決めて組み込みます。
ただし、担体への付きやすさは抗体ごとに違い、カタログの結合容量担体が結合できる目的物の量。大きな粒子は樹脂ビーズの細孔に入りにくく、結合容量を稼ぎにくい。詳しく →もモデルのタンパク質で測った値です。担体と塩の条件は、自社の抗体で測って決める必要があります。
この記事では、HIC分子表面の疎水性の違いを利用して分けるクロマト担体で、高い塩濃度で吸着させ塩を下げて溶出させます。抗体の凝集体除去などに使われます。詳しく →の仕組み、担体の選び方、カタログの数字の読み方、運転の仕方、塩でつまずく点を順に説明します。
- HICとは:塩を足してタンパク質の水をはじく部分を担体に付け、塩を減らして外すことで、水をはじく強さの違いで分ける精製です。
- 担体はどう選ぶのか:抗体の水をはじく強さに合わせてリガンドの強さを選び、数種類を小さなカラムで試して、凝集体の減り方と収率で決めます。
- カタログの結合容量は使えるのか:モデルのタンパク質を決まった条件で測った値なので、担体を並べる参考にとどめ、自社の抗体と塩で測り直します。
1. 疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)とは何か
HICとは、塩を足してタンパク質の水をはじく部分を担体に付け、塩を減らして外すことで、水をはじく強さの違いで分ける精製です。 この水をはじく性質を疎水性と呼び、電荷の違いで分けるイオン交換と違って、HICは疎水性の違いを物差しにします。
塩の向きも、イオン交換とは逆です。イオン交換は塩の少ない液で付けて塩を上げて外し、HICは塩の多い液で付けて塩を下げて外します。

抗体の精製では、Protein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく → で抗体を捕まえたあとの仕上げで、HICを主に凝集体の除去に使います(Lu Y, et al. 2009)。凝集体の中には1分子の抗体(単量体)と電荷が近いものがあり、電荷で分ける陽イオン交換負に帯電した担体に正電荷のタンパク質を静電的に吸着させて分離する手法。抗体のポリッシングに広く使う。詳しく →だけでは削りきれないことがあります。
そこで、電荷とは別の物差しで分けるHICを工程に並べると、イオン交換で取りこぼした凝集体を拾えます(Ghose S, et al. 2013)。ポリッシング捕捉工程の後、電荷や疎水性の違いを使って残った副産物を削り純度を上げる磨き上げ精製。詳しく →工程全体の組み立ては抗体精製ポリッシングとは?、凝集体が工程のどこで生まれるかは抗体の凝集は工程のどこで増えるかで扱います。
このように、HICを工程に加えるかは、電荷で分ける工程のあとに残る凝集体の量を見て判断します。
2. なぜ塩を足すと付き、塩を減らすと外れるのか
塩を足すと、タンパク質のまわりの水が塩に取られて水をはじく部分が表に出るため、担体の水をはじく部品に付きます。 この部品はリガンド担体ビーズ表面に結合させた官能基やタンパク質で、目的物や不純物と相互作用して分離を担う部分。詳しく →と呼ばれ、ブチル基やフェニル基のような水をはじく原子の集まりを、担体の表面に並べたものです。
反対に塩を下げていくと、水が戻ってタンパク質を包み、付きかたの弱いものから順に外れます。凝集体は単量体より水をはじく面を多く出しやすく、多くの場合は強く付いて遅れて外れます。
この外れる順番の差が、HICで凝集体を落とせる理由です。
付ける力は、塩の種類によっても違います。HICでは、硫酸アンモニウム(硫安)、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムのように、まわりの水を強く引き付ける塩が好まれます。こうした塩はコスモトロピック塩と呼ばれ、同じ濃度なら食塩(塩化ナトリウム)より強くタンパク質を担体に付けます。
つまり、HICでは担体だけでなく、塩の種類と濃さも、分離を決める条件の一部です。
3. 担体はどう選ぶのか
担体は、抗体の水をはじく強さに合わせてリガンドの強さを選び、数種類を小さなカラムで試して決めます。 リガンドが強すぎると抗体が外れにくくなって回収率が落ち、弱すぎると凝集体と単量体の差が出ません。
リガンドの強さ
基本は、水をはじく性質の強い抗体には弱いリガンドを、弱い抗体には強いリガンドを当てることです。Tosoh Bioscience の担体の系列では、弱い順にエーテル、PPG(ポリプロピレングリコール)、フェニル、ブチル、ヘキシルと並びます。
ただし、リガンドの名前だけでは強さは決まらず、同じリガンドでも担体に付ける密度が高いほど強く付きます(Cytiva ハンドブック)。
ある報告では、市販の7種類の担体に、リゾチーム細菌の細胞壁(ペプチドグリカン)を分解して壁を弱める酵素。菌体の酵素的溶解に使う。詳しく →(卵白に含まれる小さなタンパク質)がどれだけ強く付くかを比べました。その結果、密度の高いフェニルの担体がブチルやオクチルの担体よりリゾチームを強く付け、上回ったのはヘキシルの担体だけでした(Ghose S, et al. 2013)。
そのため実際には、強さの違う担体を数種類、あらかじめ担体を詰めた小型のカラム(プレパックカラム担体があらかじめ充填された状態で届くカラムで、自分で詰める手間や充填品質のばらつきをなくし、すぐに使えるようにしたものです。詳しく →)で試します。塩の濃さを変えながら、凝集体の減り方と収率を比べて候補を絞ります。
粒子径
粒子径は、分離のよさと圧力の兼ね合いで選びます。粒子が小さいほど分離はよくなりますが圧力も上がるため、同じブチルの担体でも35〜100 µmの3つの粒子径をそろえた系列があります。
つまり、担体選びでは、名前が同じでもメーカーや密度で強さが違うことを前提に、試す候補を選びます。
4. カタログの結合容量で担体を比べられるのか
カタログの結合容量は、モデルのタンパク質を決まった条件で測った値なので、担体を並べる参考にはなっても、自社の抗体で載せられる量を表すものではありません。 結合容量とは担体1 Lに付けられるタンパク質の量で、液を流しながら測った値を動的結合容量と呼びます。
例えば Tosoh Bioscience は、同じ系列の4種類の担体をリゾチームで測った容量で比べています。容量は、リゾチームを1 g/L、流す速さ100 cm/hで流し、出口に漏れた量が入口の10%に達した時点(10%破過)までに付いた量です。
| リガンド | 疎水性の強さ | リゾチームの動的結合容量(g/L) |
|---|---|---|
| エーテル | 弱い | 12.5 |
| PPG | やや弱い | 44.2 |
| フェニル | 中くらい | 27.5 |
| ブチル | やや強い | 32.2 |
表では、PPGはフェニルやブチルより疎水性が弱いのに、容量がいちばん大きく出ています。PPGは基材の設計が別の系列なのでリガンドだけの差とは言えませんが、強い担体ほど容量が大きいとは限りません。
さらに、容量は測るタンパク質で動きます。同じブチルの担体でも、製品ページにはリゾチームで30〜50 g/Lとあり、別の資料にはヒト化モノクローナル抗体単一のクローンに由来し、同じ標的部位を認識する均一な抗体。詳しく →で約42 mg/mLという値が載っています。塩の種類と濃さ、流す速さ、温度でも容量は変わります(Cytiva ハンドブック)。
つまり、メーカーには容量を測った条件を確かめ、カラムの大きさは自社の抗体と塩で測り直した容量から決めます。
5. 抗体を付けて外すのか、素通りさせるのか
HICの運転には、抗体を付けて外すバインドエリュート目的物を担体に結合させ、塩濃度やpHを変えて溶出させる運転様式。溶出の分画により凝集体などの不純物を分離・除去できる。詳しく →と、抗体を素通りさせるフロースルークロマトグラフィーで担体に結合せずに流れ出る液(画分)、またはそれを使う運転方式です。目的物を素通りさせ、不純物だけを担体に結合させて除くときに使います。詳しく →があり、分離と処理量のどちらを優先するかで選びます。
- バインドエリュート:抗体を担体に付けてから、塩を下げて外します。外れる順番で分けるため、凝集体と単量体をきっちり分けたいときに向きます。
- フロースルー:抗体は付かずに流れる条件にして、より強く付く凝集体を担体に残します。担体を使うのが凝集体だけなので、同じ担体の量でより多くの抗体を処理できます。
選び方の考え方は、陽イオン交換のバインドエリュートとフロースルーと共通しています。
HICは従来、イオン交換より結合容量が小さかったため、抗体の仕上げではフロースルーが特に好まれてきました(Ghose S, et al. 2013; Lu Y, et al. 2009)。
メーカー側の検討でも、フロースルーで凝集体を1%未満に下げつつ、単量体の回収率を高く保った例があります(Cytiva の応用資料)。別の例では、ミックスモード担体イオン交換と疎水性など複数の相互作用を一つの担体に併せ持たせ、単一モードでは分けにくい成分を分離できるクロマト担体です。詳しく →(電荷と疎水性の2つの力を持つ担体)で付けて外していた工程を、HICのフロースルーに替えました。単量体の純度99%以上のまま担体に載せる量を約3倍に増やせ、最終製品の収率も8%上がっています(Terova O, et al.)。
このように、凝集体が少なく処理量を優先したいならフロースルーを、凝集体をきっちり分けたいならバインドエリュートを先に試します。
6. 塩の扱いでは、どこでつまずくのか
HICは高い濃度の塩を使うため、廃液と液量、抗体の沈殿、温度の3か所でつまずきやすくなります。
廃液と液量
最もよく使われる硫安は、排水の扱いが難しく処分の費用が高くつきます。高い濃度の塩は、ステンレスのタンクを腐食させるおそれもあります(Ghose S, et al. 2013)。
塩を足せば、液の量も増えます。同じ報告にある3つの抗体の既存の工程では、必要な硫安が200〜650 mMと抗体ごとに違い、濃い塩の液を足すために載せる液を14〜33%薄めていました。HICの出口の液にも塩が残るため、次の工程の前に希釈や限外ろ過(UF)・透析ろ過(DF)が要ります。
抗体の沈殿
塩が濃すぎると、担体に通す前に抗体そのものが沈殿することがあります(Ghose S, et al. 2013)。Cytiva のハンドブックは、条件を詰める前に、塩の濃さを変えた試験管で抗体が溶けたままかを確かめるよう勧めています。
温度
疎水性の相互作用は、多くの場合、温度が上がると強まります(Cytiva ハンドブック)。同じハンドブックの例では、23 °Cでは担体に付いて塩を下げる途中で外れたタンパク質が、試料だけを4 °Cにすると付かずに素通りしました。
ラボと製造室で室温が違えば、外れる塩の濃さの位置もずれることがあります。試料・緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →・カラムの温度をそろえ、温度も条件の1つとして記録します。
塩を減らす選択肢
硫安を減らす方法は、次の3つです。
- 低い塩向けの担体:低い塩の濃さや、付ける力の弱い塩でも分離が出るとうたう担体です。
- ミックスモードイオン交換基と疎水性基を同じリガンドに併せ持ち、複数の相互作用で分ける樹脂。詳しく →担体:電荷の力も使うため、塩を濃く調整せずに使える場面があります(ミックスモードクロマトグラフィーとは?)。
- 無塩のフロースルー:疎水性のとても強い担体を選び、塩の代わりにpHで条件を合わせて抗体を素通りさせます。複数の抗体で試し、収率と凝集体の除去が、高い塩を使う従来のHICと同じ程度になりました(Ghose S, et al. 2013)。
どれも塩と廃液を減らすための選択肢で、分離そのものがよくなるとは限りません。
つまり、塩の濃さを決めるときは、凝集体の減り方に加えて、抗体が沈殿しないこと、廃液と脱塩の量、製造室の温度まで含めて確かめます。
7. 自分の工程では何から確かめるのか
自分の工程では、抗体が沈殿しない塩の範囲を最初に確かめ、そのあと担体、容量、運転、温度と廃液の順に決めます。
- 沈殿しない塩の範囲:使う塩の種類と濃さで抗体が溶けたままかを、試験管で確かめます。この範囲の中で、以降の条件を探します。
- 担体の候補:強さの違う担体を数種類、プレパックカラムで試し、凝集体の減り方と収率を比べます。
- 自社の抗体での容量:カタログの値の測定条件を確かめたうえで、自社の抗体と塩で容量と回収率を測り直します。
- 運転の仕方:凝集体の量と処理量のどちらを優先するかで、バインドエリュートかフロースルーかを決めます。
- 温度:ラボと製造室の室温の差を記録し、試料・緩衝液・カラムの温度をそろえます。
- 廃液と脱塩:塩の廃液の量と後段での脱塩の手間を見積もり、低い塩向けの担体や無塩のフロースルーと比べます。
塩の範囲や担体を変えれば、その下の容量や運転の条件も測り直します。
疎水性相互作用クロマトグラフィー分子表面の疎水性の強さで分離するクロマトグラフィー。疎水性の評価や精製に使う。(HIC)の担体はHICレジン、条件の探索にはプレパックカラム、塩を減らす選択肢はミックスモードレジンで比べられます。担体全般の選び方は精製クロマトの担体(レジン)の選び方にあります。
HICは、抗体薬物複合体(ADC)抗体に細胞傷害性の薬物(ペイロード)を結合させた医薬。標的へ薬物を運んで作用させる。の薬物抗体比抗体薬物複合体(ADC)で、抗体1分子に結合した薬物の平均数です。効果と安全性を左右するため測定する指標です。詳しく →(DAR、抗体1分子あたりの薬物の数)を測る分析にも使います。その使い方はADCのコンジュゲーションとDARの決め方にあります。
参考文献
- Tosoh Bioscience, TOYOPEARL Butyl-650M(粒子径65 µm、リゾチームの動的結合容量30〜50 g/L)
- Tosoh Bioscience, TOYOPEARL Butyl-650(35・65・100 µmの粒子径、ヒト化モノクローナル抗体での代表的な動的結合容量)
- Tosoh Bioscience, Dynamic Binding Capacity Comparison of HIC Resins(リゾチーム1 g/L、線速度100 cm/h、10%破過での比較。エーテル・PPG・フェニル・ブチルの疎水性の序列)
- Ghose S, Tao Y, Conley L, Cecchini D. Purification of monoclonal antibodies by hydrophobic interaction chromatography under no-salt conditions. mAbs. 2013;5(5):795-800.(HICはイオン交換と異なる選択性で凝集体を除く。結合容量が小さく、仕上げではフロースルーが好まれる。硫安の廃棄費用とタンクの腐食、製品の沈殿。3抗体の既存工程の硫安の濃さと液量の増加。7種の担体のリゾチーム保持の比較。疎水性の強い担体とpHの調整による無塩のフロースルー運転)
- Cytiva, Hydrophobic Interaction and Reversed Phase Chromatography: Principles and Methods(ハンドブック)(リガンドの密度が高いほど付く力が強まる。動的結合容量は塩の濃さ・流速・温度で変わる。塩の濃さを変えて沈殿しない範囲を先に確かめる。多くの場合、温度が上がると疎水性の相互作用が強まる。試料の温度だけを下げると、付いていたタンパク質が素通りした例)
- Cytiva, Developing a HIC polishing step for the removal of mAb aggregates(Application Note)(Capto Phenyl High Sub のフロースルーで凝集体1%未満)
- Terova O, Li JJ, De Rooij J. Improving Aggregate Removal to Enhance Clinical Manufacturing of mAbs(BioPharm International)(著者は Thermo Fisher Scientific。ミックスモードのバインドエリュートを POROS Benzyl Ultra のフロースルーHICに替え、単量体の純度99%以上、載せる量を25 g/Lから80 g/Lへ、収率8%上昇)
- Lu Y, Williamson B, Gillespie R. Recent advancement in application of hydrophobic interaction chromatography for aggregate removal in industrial purification process. Curr Pharm Biotechnol. 2009;10(4):427-433.(HICは主に凝集体と宿主細胞由来のタンパク質の除去に使われる。フロースルーの運転などで処理量を上げてきた経緯)
- Thermo Fisher Scientific, POROS Benzyl / Benzyl Ultra HIC Resin(低い塩でも分解能が出るとされる担体)
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