クロマトのスケールアップとは?大きなカラムで分離が崩れるのはなぜか

クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →のスケールアップは、小さなカラムで作り込んだ精製の条件を、大きなカラムへ移す作業です。工程を移す開発の担当者と、大きなカラムを発注する購買の担当者が、どこまでを同じに保つかを決めます。
ただし、樹脂と緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →を同じにしても、分離が同じになるとは限りません。変わるのは、カラムの中の液の流れ方です。
大きくしても変えないものから始めて、崩れやすい4つの点、太くする以外に処理量を稼ぐ方法、移す前後で並べる記録をたどります。
- 何を変えずに移すのか:液が樹脂に触れている時間(滞留時間)と、樹脂1 mLあたりに載せる量です。
- なぜ分離が崩れるのか:樹脂ではなく、充填のむら、入口での液の配り方、背圧、配管が変わるからです。
- 処理量はどう稼ぐのか:高さではなくカラムを太くするか、同じカラムを何度も使うか、小型を切り替えて回し続けます。
1. 大きなカラムに移すとき、何を変えずに保つのか
液が樹脂に触れている時間と、樹脂1 mLあたりに載せる量を変えずに保ちます。 タンパク質は樹脂の粒の内側へ入り込んで結合し、また出てきます。この動きは一瞬では済まないため、流す速さを上げて触れ合う時間が短くなると、結合しきれないまま通り過ぎます。

小さなカラムの条件を移すときは、「毎分何 mL」ではなく「何分触れ合わせたか」でそろえます。洗浄や溶出の緩衝液の量も、カラムの体積を単位にそろえます。樹脂の量が増えれば、載せる量も緩衝液も同じだけ増えます。
処理量は、高さと触れ合う時間を据え置いたまま、カラムを太くして稼ぎます。直径を2倍にすれば、同じ時間に流せる量はおよそ4倍です。実際には市販のカラムの径が飛び飛びなので、高さのほうを動かして、触れ合う時間と載せる量をそろえる進め方もあります。高さを変えれば背圧も充填の挙動も変わるので、変えた分は確かめ直します。
具体的な数字は滞留時間・線速度・負荷量の計算ツールで確かめられます。
2. 樹脂が同じなのに、なぜ分離が崩れるのか
カラムが大きくなるほど、液が床の全体を均一に通りにくくなるからです。 崩れやすいのは、充填、入口での液の配り方、背圧、配管の4つです。
- 充填のむら:壁ぎわと中心で液の流れる速さが違ったり、床の一部に流れやすい道ができたりすると、溶出のピークが横に広がります。
- 入口での液の配り方:カラムの入口にある部品が、流れてきた液を床の全断面に配ります。径が大きいほど均一に配りにくく、設計がメーカーごとに違います。
- 背圧:床が高いほど、流れが速いほど圧力が上がります。アガロース系のような柔らかい樹脂では、床が潰れて流量がそれ以上は上がらなくなります。
- 配管と検出器:長さや内径、検出器の位置が変われば、ピークの形と、溶出の条件を変えたときの遅れ方が変わります(デッドボリューム)。
充填の良し悪しは見た目では分かりません。詰めたあとに目印になる物質を流し、ピークの形から判定しますこの判定には、理論段高さカラム充填の良し悪しを示す指標で、値が小さいほど分離効率が高い。充填品質の確認に使う。詳しく →(HETP理論段相当高さのこと。床の高さを理論段数で割った値で、小さいほど床が効率よく働いていることを示す。詳しく →)とピークの非対称性を使います(カラム充填とHETP評価)。
ここに落とし穴があります。この判定の値は、カラムそのものだけでなく、カラムから検出器までの配管の長さや内径にも左右されます。小さなカラムと大きなカラムで配管がまるで違うまま値を並べても、充填の良し悪しは比べられません。
3. 緩衝液と時間は、どれだけ増えるのか
カラムの体積に比例して増えます。 樹脂が10倍になれば、洗浄と溶出に使う緩衝液も10倍で、調製の手間とタンクの容量が、新しい制約として効いてきます(インライン希釈とバッファー管理)。
溶出した液を溜めておく時間も延びます。Protein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく → の溶出液のように pH の低い液は、長く置くと抗体の凝集が進むことがあるため、中和までの時間を設計に入れます。
タンクの容量と保持時間は、カラムの大きさを決めたあとで足りないと分かることがあります。カラムの径を決める段階で、1サイクルに要る緩衝液の総量と、溶出液を中和するまでの時間を一緒に見積もります。
4. カラムを太くする以外に、処理量を稼ぐ方法はあるか
同じカラムを何度も使うか、小型のカラムを切り替えながら回し続ける方法があります。 太いカラムにするほど、充填のむらと液の配り方が難しくなるため、別の稼ぎ方も候補に入れます。
- サイクル運転:同じカラムを1日に何度も使い、装置を大きくせずに処理量を増やします。樹脂の寿命と、サイクルごとの洗浄の時間が制約です。
- 連続して捕捉する運転:複数の小型カラムを切り替えて回し続けます。樹脂を使い切る割合が上がります(連続キャプチャー)。
- 充填済みのカラムを買う:均一に充填されたプレパックカラムなら、大径のカラムを自分で詰める難しさを避けられます。
どれを選ぶかは、必要な生産量と、設備や費用の条件で決めます。大きな装置でいきなり条件を詰めるのではなく、同じ高さ・同じ触れ合う時間・同じ載せる量の小型カラムで作り込み、そのカラムが大きな規模の挙動を代表することを確かめておきます(スケールダウンモデル)。
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ほかの会員向けの記事を見る →参考文献
- Cytiva, Chromatography scale-up: don't get tied down by bed height(高さを据え置かず、滞留時間と載せる量を揃えて移す考え方)
- Cytiva, Multidimensional scale-up of a monoclonal antibody capture step contributes to shortened time to market(70 mLのカラムから1,400 mLのカラムへの20倍の例。メーカーの応用資料)
- BioProcess International, Chromatography Column Qualification: Evaluating HETP, Asymmetry, and Impact During Scale-Up(HETPの値が配管の寸法に左右されること)
- Efficiency of preparative and process column distribution systems(カラムの分配器と分離の効率)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/chromatography-scale-up