精製工程のスケールダウンとは?縮めるのは太さと面積だけ
実機の数百分の1、数千分の1の小さなカラムで、実機の分離を予測できるのでしょうか。できます。ただし縮めてよいのは、カラムの太さだけです。樹脂を詰めた層の高さは縮めません。ドリッパーを小さくしても、コーヒー豆の層の厚みと、お湯が通る時間が同じなら、同じ味に近づくのと似ています。
精製のスケールダウンは、樹脂の寿命試験、プロセス特性解析、ウイルスクリアランス試験規制当局への申請を支えるために、製造工程の各工程でウイルス除去・不活化能力を定量的に評価・文書化する一連の試験。詳しく →のように、実機ではできない検討の土台です。土台が実機とずれていれば、その上に積んだデータはすべて、別の工程の数字です。

培養も含めたスケールダウンモデル大スケールで起こる勾配やストレスを小さな槽で再現し、事前にリスクを評価する実験系。詳しく →の考え方は、スケールダウンモデルの作り方とスケールダウンモデルの適格性評価で解説しています。精製に特有の点だけを、ここで扱います。
何のために小さくするか ― 実機では回せない3つの検討
精製の検討を、毎回実機で回すことはできません。樹脂も膜も高価で、原料になる中間体ゲノムを途中までしか積んでいないAAVカプシド。空でも実でもない中間的な粒子で、測定時にどちらへ数えるかで比率が動く。詳しく →の量にも、装置の空き枠にも限りがあります。小型系に置き換えると、次の3つの検討を、数多く並行して回せます。
1つ目は、樹脂や膜の寿命評価です。繰り返し使ったときの性能低下を、実機の数百サイクルに相当する回数まで、小さなカラムで追います。Protein A樹脂の寿命の線引きも、こうした小型の試験の結果が根拠です。2つ目は、pH、伝導度溶液の電気の通しやすさで塩濃度の目安になる指標。クロマトの溶出やプール判定の管理に使う。詳しく →、負荷量、流速を振って、回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。詳しく →と純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →がどう動くかを調べるプロセス特性解析です。3つ目はウイルスクリアランスの試験です。病原性のあるウイルスを実際の製造設備には持ち込めないので、縮小したカラムや膜で行います。
培養(アップストリーム)と精製では、写し取るものが違います。培養のスケールダウンが写すのは、細胞が感じる環境(酸素、せん断流れの中で分子にかかる物理的な力。強すぎると抗体の凝集や微粒子発生を招く。詳しく →、混合)です。精製が写すのは、液が樹脂や膜をどう通り抜けるか。同じ樹脂、同じ膜でも、通し方が変われば分離は変わります。
クロマトグラフィー ― 縮めるのは太さ、変えないのは床高と時間
クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →は、そろえる量がはっきりしているので、培養より見通しのよい面があります。
分離は、液が樹脂の層を通り抜ける距離に左右されます。実機の樹脂層の高さ(床高)が20 cmなら、小型のカラムでも20 cmです。処理量は、床高を据え置いたまま、カラムの太さで合わせます。容量は断面積に比例するので、直径を半分にすれば、容量は約4分の1です。
流す速さは、1分あたりの液量(mL/min)ではなく、液が進む速さ(線流速床の断面を通る見かけの流れの速さ。スケールアップの際にスケール間で保つべき条件のひとつ。詳しく →、cm/h)でそろえます。床高が同じなら、線流速をそろえることは、液が樹脂の層に触れている時間(滞留時間)をそろえることと同じです。結合も溶出も、この時間の中で進むので、ここが実機と合っているかどうかが、分離を再現できるかの核心です。計算したいときは滞留時間・線流速・負荷量の計算ツールが使えます。
載せる量も、樹脂の体積を物差しにします。樹脂1 mLあたりに何mgのタンパク質を載せるか(負荷密度)が実機とずれると、漏れ(破過)の出方が変わります。洗浄、溶出、再生に使う緩衝液も、液量そのものではなく、カラム体積(CV)クロマトカラムの容積を表す単位。結合容量や負荷量を、この体積あたりに換算して比較します。詳しく →の何倍かで合わせます。
縮めるのは太さだけで、床高、線流速、負荷密度、緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →のCV数は実機に合わせます。
大きくする向きの話はクロマトのスケールアップとは?で解説しています。
ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べるろ過 ― 縮めるのは面積、そろえるのは流れ方
ろ過は、膜やろ材の面積で縮めます。何をそろえるかは、工程ごとに違います。
限外ろ過とダイアフィルトレーション半透膜で目的物質を濃縮したり(限外ろ過)、緩衝液を目的の組成に置き換えたり(ダイアフィルトレーション)する工程です。膜面に沿って液を流すTFF方式が使われます。詳しく →(UF/DF)では、膜1 m²あたりの透過の速さ(フラックス)、膜にかかる圧の差(TMP)、膜の面をなでる流れの速さ(クロスフロー膜面に沿って平行に液を流す流れ。せん断力で膜面の堆積を掃き流し、濃度分極を抑える。詳しく →)を、実機と一致させます。膜1 m²あたりの負荷量と、バッファーを入れ替える回数も同じです。さらに、流路の長さが実機と同じ膜のフォーマットを選びます。流路長が違うと、せん断と、膜の表面にできるタンパク質の層の様子が変わるからです。見方は膜フラックス(LMH)とTMPとUF/DFの基本に、高濃度の抗体を扱う膜の選び方は高濃度UF/DFの膜選びにまとめ、運転条件の計算にはTFFの運転条件ツールが使えます。
清澄化のデプスフィルターろ材の厚み全体で不純物を捕らえる深層ろ過フィルターで、細胞培養液の清澄化など、細胞残渣や粒子を多く含む液の一次ろ過に使います。詳しく →では、ろ材1 m²あたりの処理量(L/m²)とフラックス膜を単位時間・単位面積あたり透過していく流れの量。粘度に反比例し、高濃度で大きく低下する。詳しく →をそろえ、実機の処理量まで詰まらずに流し切れるかを、小型の同じ系列の製品で見積もります。ろ材の構成が実機と同じものを縮小した製品を使うのが条件で、選び方はデプスフィルターの選び方で解説しています。
ウイルスろ過のスケールダウンは、ウイルス安全性製造工程がウイルスをどれだけ除去・不活化できるかを評価し、製品の安全性を確保する取り組みです。各工程の低減能力を対数の値で示します。詳しく →の主張に直結します。滞留時間、圧力、タンパク質の負荷量、前処理細胞移植の前に患者へ行う処置。生着の場を空けるために既存の骨髄細胞を減らす目的で実施される。詳しく →を実機と合わせた縮小フィルターで評価します。代表性の作り方はウイルスクリアランス報告書の読み方で、フィルターの選び方はウイルスろ過とは?で扱っています。
小型カラムの使い分け ― 絞り込み用と、実機の代わり
小さなカラムと言っても、2種類あります。条件の当たりを広く探すカラムと、実機の代わりに使うカラムです。
RoboColumn微量の担体を詰めた超小型カラムで、自動分注ロボットに載せて多数の精製条件を並行で試すハイスループットスクリーニングに使います。詳しく → は、前者です。液体ハンドラー(自動で分注するロボット)に載せて、多数の樹脂や条件を並列に評価します。200 µL のカラムは内径5 mm・床高10 mm、600 µL のカラムは内径5 mm・床高30 mmで、Repligen の OPUS RoboColumn のほか、Cytiva の PreDictor、Bio-Rad の Foresight、東ソーの ToyoScreen が同じ形式で揃っています。ここで気をつけたいのは床高です。実機が20 cmなら、10 mmは20分の1。滞留時間だけを実機に合わせようとすると、線流速も実機の20分の1まで落ちます。液の流れ方が別物になるので、得られる値は絶対値ではなく、条件どうしの比較に使います。
後者が、1〜5 mL程度のミニカラムです。ÄKTA などのクロマトシステムカラムに試料を通し、成分ごとの吸着の差で目的物を分けて精製する装置です。送液・検出・分画をまとめて制御します。詳しく →に接続し、同じ樹脂、同じ床高で、線流速と滞留時間を実機に合わせれば、結合容量の測定やグラジエント塩濃度やpHを段階的・連続的に変化させ、担体に結合したタンパク質を順に溶出させる操作。詳しく →の検討結果を、太いカラムへ移しやすくなります。5 mL級が、スケールダウンモデルとして使われる理由です。
進め方の定石は、µL のカラムで樹脂と条件を絞り、mL のカラムで実機の条件に近づけて確かめ、最後に適格性評価で実機を代表していると示す順です。製品はRoboColumn、ミニカラム、プレパックカラムのページで比べられます。
小さくすると出るずれ ― 壁・配管・充填
そろえる量を守っても、小さなカラムや小さな膜には、固有のずれが残ります。
1つ目は壁の影響です。カラムが細いほど、樹脂の体積に対する壁面の割合が増え、壁ぎわの流れが本体と違ってきます。液が壁に沿って抜けやすくなると、分離は甘くなります。2つ目は、カラムの外にある配管、継手、検出器の容積(デッドボリューム容器やデバイスに残って投与に使われない液量。過充填量を決める際に考慮する。詳しく →)です。小さなカラムほど、この容積が相対的に大きくなり、ピークが広がります。広がりの原因を樹脂の実力と取り違えないために、装置だけの広がりを先に把握しておきます。見直し方はデッドボリュームの記事にあります。3つ目は充填の質です。同じ床高でも、樹脂の詰まり方にむらがあれば分離は落ちます。使う前に、理論段数クロマトカラムがどれだけ鋭いピークを保てるかを表す指標で、値Nが大きいほど分離能が高い床を意味する。詳しく →(HETP理論段相当高さのこと。床の高さを理論段数で割った値で、小さいほど床が効率よく働いていることを示す。詳しく →)と非対称性を確かめます(カラムの充填とHETP、計算はHETP計算ツール)。
小さくするほど、壁・配管・充填の影響が大きくなります。そろえる量が数字で合っていても、この3つが実機とずれていれば、小さなカラムの結果は実機の予測になりません。
明日から確かめられること
自社のスケールダウン試験実生産スケールの工程を縮小した模型で実施する試験で、ウイルスクリアランス評価など実機では実施困難な試験の代替として用いる。詳しく →や、受託先の報告書を読むときに、次の点を確かめてみてください。
- 床高は実機と同じか。違うなら、何で補ったか(µLのカラムなら比較用か)
- 線流速、滞留時間、負荷密度(樹脂1 mLあたりのmg)が実機と一致しているか。緩衝液はCV基準か
- カラムは、使う前に充填処方済みの溶液をバイアルやシリンジなどの容器へ無菌的に充填し、封止する製造工程。詳しく →の質(HETPと非対称性)を確かめたものか
- 装置のデッドボリュームを把握しているか。ピークの広がりを樹脂のせいにしていないか
- ろ過で、膜のフォーマット(流路長、ろ材の構成)が実機と同じ系列か。フラックス、TMP膜をはさんだ供給側と透過側の圧力差。UF/DF(TFF)の運転を左右する主要パラメータ。、クロスフロー、L/m²がそろっているか
- 適格性評価製造装置やユーティリティが意図どおりに据え付けられ、動き、性能を出せることを文書で裏づける活動。詳しく →の報告書があり、使う目的と運転範囲が書かれているか
ここまで整えたスケールダウンの結果は、樹脂の選び方やプロセスバリデーションの判断を支えます。
参考文献
- ICH Q5A(R2)細胞株由来のバイオ医薬品について、ウイルス安全性評価の枠組みを示すICHガイドライン。詳しく →, Viral Safety Evaluation of Biotechnology Products Derived from Cell Lines of Human or Animal Origin
- ICH Q8医薬品開発とQbDの考え方を示すICHガイドライン。重要品質特性(CQA)を定義している。詳しく →(R2), Pharmaceutical Development
- ICH Q11原薬の開発・製造を扱い、原薬側の管理戦略の作り込みを示すICHのガイドライン。詳しく →, Development and Manufacture of Drug Substances
- ICH Q5E, Comparability of Biotechnological/Biological Products
- FDA, Guidance for Industry: Process Validation: General Principles and Practices
- Repligen, OPUS RoboColumn Pre-packed Chromatography Columns(200 µL は内径5 mm×床高10 mm、600 µL は内径5 mm×床高30 mm)
- Sartorius, RoboColumn Datasheet(200 µL はスクリーニング向け、600 µL は最適化や滞留時間が長い条件向け)
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