スケールダウンモデルの適格性評価とは?実機の代わりに使える根拠
ウイルスクリアランス試験規制当局への申請を支えるために、製造工程の各工程でウイルス除去・不活化能力を定量的に評価・文書化する一連の試験。詳しく →は、ウイルスを加えた液を流す試験なので、製造設備の中ではできません。小さく作り直した縮小モデルで行い、その結果を実機の工程の安全性として申請に載せます。縮小モデルが実機と違えば、「ウイルスが何桁減る」という数字は、別の工程の数字です。
では、縮小モデルが実機を代表していると、どうやって示すのか。示すのは三つです。実機と同じ条件でそろえたこと、工程の進み方が合っていること、製品の品質が合っていること。しかも、これを使う目的ごと、運転する範囲ごとに示します。

EMAは、2013年4月にバイオ医薬品の工程バリデーションの専門家ワークショップを開き、縮小モデルを個別の論点に挙げました。まとめの資料は、縮小モデルを商業工程の不完全な代表としつつ、必要なものと位置づけ、比べる実機のロットが少ないと統計での比較が難しい点も挙げています。プロセス特性解析、ウイルスクリアランス製造工程がウイルスをどれだけ除去・不活化できるかを評価し、製品の安全性を確保する取り組みです。各工程の低減能力を対数の値で示します。詳しく →、逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →調査、受託先から届いた小型データを読む場面のどれでも、報告書を読む目は同じです。
縮小モデルの結果が使われる先 ― 用途で変わる「代表」の意味
同じ縮小モデルでも、使い道によって、代表していなければならないものが違います。
| 用途 | モデルが代表すべきもの | 外れたときに起きること |
|---|---|---|
| プロセス特性解析商用製造の前に、工程パラメータと品質の関係を実験で明らかにする作業。管理戦略の土台をつくります。詳しく → | 運転範囲の中での、品質の動き方 | 小型で見つけた管理幅が、実機では使えない |
| ウイルスクリアランス | 除去や不活化に効く条件(pH、導電率液のイオン強度の目安となる電気の通りやすさ。バッファ調製やクロマト制御で監視する。詳しく →、接触時間、載せる量) | 除去能を、実機より高く、または低く見積もる |
| 逸脱調査 | その逸脱が起きた条件での挙動 | 原因を取り違える |
| 一次スクリーニング多数の抗体クローンから、次段に進める候補を結合・発現・多様性で手早く絞り込む初期の選抜作業。詳しく → | 条件の優劣の順位 | 有望な条件を落とす |
適格性は、装置に付くものではありません。プロセスと、用途と、運転の範囲の組み合わせに付きます。粗いスクリーニング向けに適格とされたモデルを、そのまま管理幅の根拠に使うと、示していない範囲にまで結論を広げてしまいます。
縮小モデルを組む考え方は、培養がスケールダウンモデルの構築とマイクロ/ミニバイオリアクターに、精製が精製工程のスケールダウンにあります。小型装置の事例はAmbr 250の記事で解説しています。ウイルスクリアランスの指針(ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q5A)にも、旧版から、縮小した製造系を扱う項があります。
適格かどうかは「このモデルを、この目的に、この範囲で使ってよいか」という形で問われます。
何を示すのか ― 条件、進み方、品質
一つ目は、そろえた条件です。培養なら温度、pH、溶存酸素培養液に溶けている酸素の濃度。細胞の呼吸を支えるため一定に保つ制御対象。詳しく →、栄養を加える計画を、精製なら樹脂を詰めた高さ、液を流す速さ、接触時間、載せる量、液のpHと導電率を、実機と合わせます。ろ過なら、膜の面積あたりに流す量です。合わせられなかった条件は、割り切ったものとして書き出します。
二つ目は、工程の進み方です。培養なら増え方、生存率細胞集団のうち生きている細胞の割合。凍結・培養の品質を示す基本指標。詳しく →、代謝の推移、力価を、精製なら溶出のピークの形、回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。詳しく →、プールの範囲を並べて比べます。最後の値だけでなく途中の経過まで見るのは、終点が同じでも道筋が違えば、逸脱調査などで食い違うからです。
三つ目が、製品の品質です。糖鎖、電荷バリアント、凝集体のような重要品質特性(CQA)製品の品質・安全性・有効性を保証するため規格内に収めるべき重要な品質特性。は、最終製品の安全性と有効性に直結するので、適格性の核です。
実例があります。アダリムマブのバイオシミラーの培養工程を扱った2019年の報告(AAPS PharmSciTech)では、最終力価、積算生細胞密度、生存率に加えて、凝集体、酸性ピーク、アフコシル化率、高マンノース型マンノースに富むN型糖鎖。フコースを欠くがクリアランスが速く、ADCC増強手段としては別扱いで監視する。詳しく →の糖鎖が、スケールの間で同等と示されました。増え方だけでなく、品質まで含めて比べています。公開された別の報告では、抗体の培養工程の縮小モデルを、商業スケールの性能と製品品質で検証してから、プロセス特性解析規格試験より高い分解能で製品の品質特性を詳しく調べること。比較可能性の評価などで用いる。詳しく →に使っています。
比べる実機のデータが、運転範囲のどこにあるかも見ます。中心の条件でしか比べていなければ、範囲の端で成り立つかは分かりません。ウイルスクリアランスでも同じで、中心の条件でしか試していなければ、端での除去能は分かりません(ウイルスクリアランス報告書の読み方)。
条件がそろい、進み方が合い、品質が合うこと。この三つがそろって初めて、実機の代わりという言い方ができます。
ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べる「合った」の決め方 ― 先に決める許容幅
「小型と実機で、差は見つからなかった」と書くだけでは、足りません。比べたランやロットが少ないと、差があっても見えないからです。データが乏しいほど差は出にくく、雑なモデルのほうが合格に見えるという逆転が起こります。
そこで、先に許容幅を決めます。この範囲に収まっていれば、品質に影響しないとみなせる幅を、品質と工程の知識から、データを見る前に定め、小型と実機の差がその幅に収まることを示します。結果を見てから基準を作れば、どんなモデルでも通せてしまいます。
幅は、用途で変わります。一次スクリーニングなら、条件の順位が合えば足ります。管理幅の根拠に使うなら、品質特性の値そのものが幅に収まる必要があります。
よくある失敗 ― 用途の取り違え、範囲の端、分析のばらつき
一つ目は、用途の取り違えです。スクリーニングで適格とされたモデルで、管理幅の結論を出してしまいます。
二つ目は、範囲の端を確かめないことです。運転範囲の中心でだけ比べて、端での挙動を実機で見ていません。
三つ目は、実機側のデータが少ないか、古いことです。実機が立ち上がったばかりで、数ロットしかない時期に適格性を示し、その後に実機の運転が変わっても、見直されません。EMAのワークショップのまとめの資料も、実機のロットが少ないと統計での比較が難しいことを挙げています。
四つ目は、分析のばらつきを工程の差と取り違えることです。分析法の変動が大きいと、スケールの差でない差を拾います。比べる前に、分析法の変動を把握します(分析法の頑健性)。
五つ目は、変更したあとの見直しの抜けです。細胞株、工程の条件、装置、スケールが変われば、モデルが実機を代表しているかを確かめ直します。逸脱調査でモデルを使うなら、その逸脱を再現できるモデルかまで問われます(プロセスバリデーション)。
明日から確かめられること ― 適格性の報告書で見る点
社内の報告書や、受託先から届いた小型のデータに、次の点が書かれているかを見てください。
- 何の用途のモデルか。スクリーニング、特性解析、ウイルスクリアランス、逸脱調査のどれで、その外で使っていないか
- そろえた条件と、割り切った条件の一覧
- 比べた実機のロット数と、運転範囲のどこを含むか
- 工程の進み方(途中の経過)と、品質特性(糖鎖、電荷、凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →)の両方を比べているか
- 許容幅を、データを見る前に、品質への影響から決めたか
- 分析法の変動と、スケールの差を区別しているか
- 再適格性を求める変更(細胞株、工程、装置、スケール)が決まっているか
小型の装置は、製品データベースの並列培養装置とミニカラムで比べられます。小型で得た条件を実機に移すとき、工程がどう変わるかは培養のスケールアップとクロマトグラフィーのスケールアップに書いています。
参考文献
- EMA, Guideline on process validation for the manufacture of biotechnology-derived active substances and data to be provided in the regulatory submission(EMA/CHMP/BWP/187338/2014。縮小モデルを扱う節がある)
- EMA, Expert workshop on process validation for the manufacture of biotechnology-derived active substances(2013年4月9日)のまとめの資料(Kowid Ho)(縮小モデルを商業工程の不完全な代表としつつ必要とする位置づけ、実機のロットが少ないと統計での比較が難しいこと)
- ICH Q5A(R2)細胞株由来のバイオ医薬品について、ウイルス安全性評価の枠組みを示すICHガイドライン。詳しく →, Viral Safety Evaluation of Biotechnology Products Derived from Cell Lines of Human or Animal Origin(EMAでの発効は2024年6月14日。縮小した製造系の項は旧版 Q5A(R1) の6.2.2にもある)
- Development and fine-tuning of a scale down model for process characterization studies of a monoclonal antibody upstream production process(縮小モデルを商業スケールの性能と製品品質で検証してから、プロセス特性解析に使った報告)
- AAPS PharmSciTech. 2019. DOI: 10.1208/s12249-019-1451-7. アダリムマブのバイオシミラー(HS016)の培養工程の縮小モデルの適格性(最終力価、積算生細胞密度、生存率、凝集体、酸性ピーク、アフコシル化率、高マンノース型糖鎖酵母が付けるマンノースの多い糖鎖。ヒト型と異なり、活性・半減期・免疫原性や均一性で医薬用途の制約になる。がスケール間で同等)
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