逸脱・OOS・CAPA・変更管理:GMPの「直す仕組み」
製造中の温度が一瞬だけ管理幅を外れた。試験結果が規格から外れた。装置を更新したい——こうした場面に立ったとき、品質担当者はどう動けばよいか。GMP医薬品を一定の品質で安全に造るために守るべき製造・品質管理の基準(適正製造規範)です。詳しく →は手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。を守り記録を残す「正しく回す仕組み」として語られることが多いですが、実際の現場では、どれほど手順を整えても想定外は起きます。「想定どおりに行かなかったとき」「意図して変えたいとき」に品質をどう守るか——GMPにはそのための「直す仕組み」が用意されています。

その中核が、逸脱管理・OOS(規格外結果)調査・CAPA(是正措置・予防措置)・変更管理の四つです。名前だけ見ると別々の手続きに見えますが、実際には一本の線でつながっています。想定外を検知し、原因を突き止め、影響を評価し、再発を防ぎ、必要なら計画的に変える——この流れ全体が、医薬品品質システム(PQS)開発から製造・出荷まで品質を継続的に保証する組織的な仕組み。ICH Q10が示す。という一つの器の中で動いているのです。
だとすれば大事なのは、個々の手続きの細部よりも、「なぜこの仕組みが必要で、互いにどうつながっているか」という全体像でしょう。四つの仕組みは、それぞれが単独の書式ではなく、検知から是正・予防・計画的変更までを一本につなぐ品質の循環として初めて意味を持ちます。GMPの基礎そのものについては GMPとは?バイオ医薬品製造における品質保証の基礎 もあわせてご覧ください。
- 逸脱・OOS・CAPA・変更管理は、GMPの「直す仕組み」であり、医薬品品質システム(PQS)の中で一本につながって動きます。
- 逸脱は隠さず記録・評価することが本質で、OOSは明確な根拠なく初回結果を無効化せず試験室と製造を切り分けて調査します。
- CAPAは根本原因分析の深さで実効性が決まり、恒久的な変更は変更管理で事前に影響評価と承認を経て実施します。
逸脱管理:想定外を「隠さず記録する」ことから始まる
逸脱(deviation)とは、承認された手順や規格、仕様から外れた事象のことです。培養温度が管理幅を一時的に超えた、作業手順の一工程が定められた順序で行われなかった、原材料製造の起点となる原料で、その品質や持ち込む不純物が最終製品の品質に影響しうるため、規格管理が重視される物質。の受け入れ試験結果が想定と違った——こうした「決めたとおりに行かなかった事象」がすべて逸脱にあたります。現場で実際に直面すると、「これは記録すべき逸脱か」と迷う場面も少なくありません。
ここで最も大切な原則は、 逸脱は「起こしてはいけないもの」ではなく「起きたら必ず記録し、評価するもの」だという点です。 現場で逸脱を隠したり、記録せずに済ませたりすることは、GMPにおいて最も重い問題の一つ。逸脱そのものより、それを記録・評価しなかったことの方が、品質システムの信頼性を大きく損ないます。
逸脱管理の基本的な流れは、おおむね次のように整理できます。ただし具体的な区分名や期限は企業や各極の規制運用によって異なるため、一つの目安として捉えてください。
| 段階 | 行うこと | 目的 |
|---|---|---|
| 検知・記録 | 事象を発見したら速やかに記録する | 事実を残す |
| 初期評価・分類 | 品質への影響度で重大度を仕分ける | 調査の強度を決める |
| 影響評価 | 該当ロット・他ロットへの影響を評価する | 製品品質を守る |
| 原因調査 | 重大な逸脱は根本原因を究明する | 再発防止につなげる |
| 是正・処置 | ロット判定と必要な措置を決める | 出荷可否を判断する |
| 完了・記録 | 調査結果と結論を文書化する | 証拠を残す |
逸脱の重大度をどう仕分けるかは、品質リスクマネジメントリスクに基づいて品質を判断する、品質リスクマネジメントの考え方を示すICHのガイドライン。(ICH Q9リスクに基づいて品質を判断する、品質リスクマネジメントの考え方を示すICHのガイドライン。)の考え方に沿います。軽微な逸脱(minor)であれば簡潔な記録と評価で足りることが多い一方、製品品質や患者安全に影響しうる重大な逸脱(major/critical)は、後述する根本原因分析目に見える不具合の背後にある真の原因を、何段も掘り下げて体系的に突き止める作業。とCAPA問題の原因を除く是正と、再発を防ぐ予防をあわせた品質活動。照査で見つかった事項をつなぐ。まで踏み込む必要があります。リスクに応じて管理の強度を変える——この発想が逸脱管理の土台にあります。
逸脱管理の目的は「逸脱をゼロにすること」ではありません。想定外を確実に検知・記録し、品質への影響を評価し、必要な逸脱には再発防止までつなげる——この一連の流れを組織的に回すことが本質です。逸脱の隠蔽こそが、品質システムにとって最大のリスクになります。
OOS:試験室で規格を外れたときの調査手順
試験結果が規格や判定基準を外れる——そのとき、製造担当者も品質担当者も一様に緊張します。このケースは逸脱の中でも独立した手順として扱われます。これがOOS(Out-of-Specification=規格外結果規格を外れた試験結果。測定側の問題か製造側の問題かを切り分ける調査手順が定められている。)です。医薬品の出荷可否は試験結果に基づいて判断されるため、「規格外試験結果が規格の範囲を外れること。原因調査の対象になる。」という結果が出たとき、それが本当に製品の問題なのか、それとも試験側の問題なのかを慎重に切り分ける必要があります。
OOS試験結果が規格の範囲を外れること。原因調査の対象になる。調査の考え方は、米国FDAの「Investigating Out-of-Specification (OOS) Test Results」というガイダンスによって体系化されており、国際的に参照されています。大まかには、まず試験室内で原因を探る段階(第一段階)と、それで明確な原因が見つからない場合に製造まで含めて調べる段階(第二段階)に分かれます。
第一段階では、試験手順・機器・試薬・分析者の作業に明らかな誤り(ラボエラー試験手順・機器・試薬・分析者の作業に生じた明らかな誤り。OOSの第一段階で確認する。)がなかったかを確認します。ここで重要なのは、 明確な根拠なく最初の結果を無効化してはならない、という原則です。 「たまたま外れただけだろう」と再試験を繰り返し、都合のよい結果だけを採用する——いわゆる「テスティング・イントゥ・コンプライアンス合格値が出るまで試験を繰り返し都合のよい結果だけ残す不正行為。OOS調査で最も戒められる。(合格が出るまで試験する)」は、OOS調査で最も戒められる行為です。最初のOOS結果を破棄するには、それを説明できる明確な原因が求められます。
第一段階で試験室側の原因が特定できない場合、調査は製造工程まで広がります(第二段階)。原材料、工程パラメータ、装置、他ロットへの波及の可能性まで含めて評価し、最終的にその結果が製品品質を反映した「真の規格外」なのかを判断します。真の規格外と結論されれば、そのロットは不適合として扱われ、逸脱・CAPAの対象になります。
OOS調査を支える前提が、試験データそのものの信頼性です。誰がいつ測定し、どの値を採用・除外したかが監査証跡いつ誰が何をしたかを記録し、改ざんや削除ができないようにした操作履歴。記録の信頼性を支える。として追えなければ、調査の結論も信頼できません。この論点は データインテグリティ で詳しく扱っています。
CAPA:是正と予防で「同じ問題を繰り返さない」
逸脱やOOS、あるいは苦情や査察指摘の原因を突き止めた後、それを踏まえて再発を防ぐ仕組みがCAPA(Corrective Action and Preventive Action=是正措置・予防措置)です。名前のとおり、二つの異なる措置を含みます。
是正措置(Corrective Action)は、すでに起きてしまった問題そのものを正し、その直接の原因を取り除く措置です。一方、予防措置(Preventive Action)は、まだ顕在化していないけれど起こりうる類似の問題を、未然に防ぐための措置です。ある培養タンクで起きた問題を修正するのが是正、同じ設計の他タンクでも起こらないよう先手を打つのが予防、というイメージです。
| 種類 | 対象 | タイミング | 具体例のイメージ |
|---|---|---|---|
| 是正措置(CA) | 実際に起きた問題とその原因 | 発生後 | 不具合のあった手順・設定を修正する |
| 予防措置(PA) | 起こりうる類似の問題 | 発生前 | 同型の他設備・他工程にも展開する |
CAPAの実効性を左右するのが、後述する根本原因分析(RCAウイルスベクター製品に、増殖する能力を持つウイルスが生じていないか調べる安全性試験です。混入がないことを確認します。詳しく →)の深さです。 原因の掘り下げが浅いと、CAPAは「担当者に再教育した」といった表面的な対策に流れやすく、同じ逸脱が繰り返されます。 査察でも、CAPAが根本原因に正しく対応しているか、そしてその効果が後から検証(有効性確認)されているかが重視されます。措置を打って終わりではなく、「その措置で本当に再発が止まったか」を一定期間後に確かめるところまでがCAPAの一部です。
なお、あらゆる逸脱にCAPAが必要なわけではありません。軽微で一過性の事象まで重いCAPAを課すと、システムがCAPAで溢れ、本当に重要な案件に手が回らなくなります。ここでもリスクに応じて対応の強度を選ぶ——品質リスクマネジメントの発想が生きてきます。
RCA:根本原因を掘り下げる技法
CAPAの質は、根本原因分析(RCA, Root Cause Analysis目に見える不具合の背後にある真の原因を、何段も掘り下げて体系的に突き止める作業。)の質でほぼ決まります。RCAとは、目に見える不具合(症状)の背後にある、真の原因を体系的に突き止める作業です。「なぜその逸脱が起きたのか」を一段だけでなく、何段も掘り下げていく——それがRCAの本質です。
たとえば「培養温度が管理幅を外れた」という事象に対し、「センサーがずれていた」で止めてしまうと、CAPAは「センサーを交換した」で終わります。しかし、「なぜセンサーのずれに気づかなかったのか」「なぜ校正の頻度がずれの進行に追いついていなかったのか」と掘り下げると、真の原因が校正計画の設計にあったと分かることがあります。ここまで到達して初めて、再発を止める予防措置が打てます。
RCAには決まった唯一の手法があるわけではなく、事象の性質に応じて使い分けます。代表的な技法を整理します。
| 技法 | 概要 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| なぜなぜ分析「なぜ」を繰り返して原因を深掘りする根本原因分析の技法。比較的単純な因果に向く。(5 Whys「なぜ」を繰り返して原因を深掘りする根本原因分析の技法。比較的単純な因果に向く。) | 「なぜ」を繰り返し原因を深掘りする | 比較的単純な因果の事象 |
| フィッシュボーン図人・機械・材料・方法などに要因を分類して整理する根本原因分析の図法。 | 人・機械・材料・方法などに要因を分類する | 要因が多岐にわたる事象 |
| FMEA起こりうる故障モードとその影響を洗い出して優先度づけする、リスクアセスメントの手法。 | 起こりうる故障モードと影響を評価する | 予防的・設計段階の分析 |
| フォルトツリー分析望ましくない結果から原因を論理的に展開し、複合要因が絡む重大事象を分析する手法。 | 望ましくない結果から原因を論理展開する | 複合要因が絡む重大事象 |
大切なのは技法の選択そのものより、 「人のミス」で調査を止めないことです。 ヒューマンエラーは多くの場合、結果であって原因ではありません。なぜそのミスが起きやすい状況だったのか——手順の分かりにくさ、負荷、設備の設計——まで踏み込むことで、教育や注意喚起に頼らない、仕組みとしての再発防止が可能になります。
変更管理:計画的な変更を「事前に統制する」
ここまでの三つ(逸脱・OOS・CAPA)が「想定外が起きた後」の仕組みだったのに対し、変更管理工程・設備・手順などの変更を評価・承認し、品質への影響とともに記録する仕組み。(Change Control)は毛色が異なります。意図して行う計画的な変更を、事前に統制する仕組みです。
医薬品製造では、原材料の供給元変更、装置の更新、工程パラメータの調整、手順書の改訂、製造場所の移管など、さまざまな変更が日常的に発生します。これらは前向きな改善であることも多いのですが、品質に影響しうる以上、「よかれと思って勝手に変える」ことは許されません。 変更管理の本質は、変更を禁じることではなく、変更が品質に与える影響を事前に評価し、承認を得てから実施する点にあります。
変更管理の一般的な流れは次のとおりです。
| 段階 | 行うこと |
|---|---|
| 変更提案 | 何を、なぜ変えるのかを起案する |
| 影響評価 | 品質・工程・規制・バリデーションへの影響を評価する |
| 分類 | 変更の大きさ(重大度)を仕分ける |
| 承認 | 品質部門を含む関係者が承認する |
| 実施・確認 | 計画に沿って実施し、必要なら再バリデーションプロセスや設備に変更が生じた際に、変更後も品質・性能が適切に保たれることを改めて実験・文書で実証する活動。を行う |
| 完了・記録 | 結果を文書化し、届出が必要なら当局へ提出する |
見落としてはならないのが、規制当局への届出(承認事項一部変更承認申請、軽微変更届など)です。承認申請書に記載した製造方法や規格に関わる変更は、その重大度に応じて事前承認が必要になる場合があります。どの変更がどの区分に該当するかは各極の規制によって異なるため、変更管理と薬事(レギュラトリー)の連携が欠かせません。
なお、逸脱と変更管理は表裏の関係にあります。逸脱の是正として恒久的な変更を行う場合、その変更自体は変更管理の手続きを通ります。つまり、CAPAの実装が変更管理に接続することも珍しくありません。ここでも四つの仕組みがつながっていることが分かります。
品質システムとしてのつながり
最後に、これまで見てきた仕組みが一つの品質システムとしてどうつながるかを整理します。個々の手続きは独立して存在するのではなく、医薬品品質システム(PQS, Pharmaceutical Quality System製品ライフサイクル全体で品質を維持・改善するマネジメント体制。逸脱・CAPA・変更管理を束ねる器。)——ICH Q10医薬品品質システムを定めた国際ガイドライン。ライフサイクルを通じた品質マネジメントの考え方を示す。で定義された、製品ライフサイクル全体を通じて品質を維持・改善するマネジメント体制——という器の中で連動しています。
流れを追ってみます。逸脱やOOSという形で「想定外」が検知される。RCAでその根本原因を掘り下げる。CAPAで是正・予防の措置を決める。その措置が恒久的な変更を伴うなら、変更管理を通して事前評価・承認のうえ実施する。そして、これら一連の記録は、経営層が定期的に見直すマネジメントレビューへと集約され、品質システム全体の改善につながっていきます。
| 仕組み | 起点 | ゴール | 主な性格 |
|---|---|---|---|
| 逸脱管理 | 手順・規格からの外れ | 影響評価とロット判定 | 事後対応 |
| OOS調査 | 試験結果の規格外 | 真因の切り分け | 事後対応 |
| CAPA | 逸脱・OOS・苦情・査察指摘 | 再発・未然防止 | 事後〜継続 |
| 変更管理 | 計画的な変更・改善 | 事前の影響評価と承認 | 事前統制 |
この連鎖が健全に回っている組織は、逸脱が起きても慌てません。検知し、記録し、原因を掘り下げ、手を打ち、必要なら計画的に変える——その一連のプロセスが仕組みとして備わっているからです。 GMP査察官が品質システムを見るとき、注目するのは「逸脱がゼロか」ではなく「逸脱にどう向き合い、そこから学んで改善する仕組みが機能しているか」です。 「直す仕組み」が回っていること自体が、品質保証の成熟度を示す指標になります。
まとめ
逸脱管理・OOS調査・CAPA・変更管理は、GMPにおける「直す仕組み」であり、想定外への対応と計画的な変更の両方をカバーします。逸脱は隠さず記録・評価することから始まり、OOSは試験結果の規格外を慎重に切り分け、CAPAは根本原因分析(RCA)に基づいて再発を防ぎ、変更管理は計画的な変更を事前に統制します。
これらは別々の手続きではなく、医薬品品質システム製品ライフサイクル全体で品質を維持・改善するマネジメント体制。逸脱・CAPA・変更管理を束ねる器。(PQS製品ライフサイクル全体で品質を維持・改善するマネジメント体制。逸脱・CAPA・変更管理を束ねる器。)という一つの器の中で連動しています。想定外を検知し、原因を掘り下げ、影響を評価し、再発を防ぎ、必要なら計画的に変える——この連鎖が回っていることこそが、品質保証の成熟を示します。GMPを理解するとは、日々の手順を守ることと同じくらい、この「直す仕組み」がどうつながっているかを理解することでもあります。
参考文献
- ICH Q10 Pharmaceutical Quality System(医薬品品質システム)ガイドライン
- ICH Q9(R1) Quality Risk Management(品質リスクマネジメント)ガイドライン
- FDA Guidance for Industry: Investigating Out-of-Specification (OOS) Test Results for Pharmaceutical Production(Level 2 revision)
- EudraLex Volume 4 — EU GMP Guidelines(EU GMPガイドライン)
- PMDA(医薬品医療機器総合機構)GMP・品質関連情報
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