糖鎖分析とは?抗体医薬の糖鎖プロファイルから何が読めるか

抗体の分子量は約15万で、糖鎖が占めるのは2%ほどです。ところが、その糖鎖からフコースという糖を1個外しただけで、免疫細胞の受容体(FcγRIIIaNK細胞などが持つ活性化型のFc受容体。抗体Fcとの結合でADCCの引き金になる。詳しく →)への結合が最大で約50倍に強まったと報告されています(Shieldsら、2002年)。アミノ酸の配列は一字も変わっていません。
糖鎖分析抗体などのタンパク質に結合した糖鎖の種類や割合を調べる分析です。効果や安定性、免疫原性に影響するため構造を確認します。詳しく →は、この糖鎖を種類ごとに分けて、それぞれが全体の何%かを出す試験です。結果は G0Fコアフコースを持ちガラクトースを欠くIgGの糖鎖種。CHO産生抗体で主成分になりやすい。詳しく →、G1F、Man5 のような記号と割合の一覧で届きます。暗号のように見えますが、どの糖鎖タンパク質に付加される糖の鎖状構造で、抗体の有効性・免疫原性などに影響する重要な品質特性。詳しく →が何に効くのか、どんな動きなら気にするのかを知っていれば、成績書も受託先の報告書も読み方が変わります。
品質保証にも、分析の依頼先を選ぶ購買にも、バイオシミラーの先発品比較に関わる人にも、この「一覧の読み方」は共通して役に立ちます。
記号の読み方と効く先 ― 少数派から見る
IgGのN型糖鎖は、重鎖のAsn297IgGのFc領域で各重鎖にN型糖鎖が1本付く、決まったアスパラギン残基の位置。糖鎖修飾の起点になる。詳しく →という決まった場所に、抗体1分子あたり2本付いています。この糖鎖は二つのCH2ドメインのあいだに挟まれていて、酵素で全部外した抗体はFcγRIIIaにほとんど結合せず、ADCC抗体FcがNK細胞などのFcγRIIIaに結合し、そのエフェクター細胞に標的細胞を傷害させる作用。詳しく →も立ち上がりません。抗原に結合するFab重鎖の一部と軽鎖がジスルフィドで連結した約50kDaの抗体フラグメント。2本鎖で折りたたみがやや複雑。詳しく →側は変わらないのに、細胞への指令が届かなくなります。
記号の規則は単純です。糖鎖の根もとは共通で、その先に付くガラクトースの数をGの後ろの数字が表します。0個ならG0、1個ならG1、2個ならG2。末尾のFは、根もとにフコースが付いていることを示します。高マンノース型マンノースに富むN型糖鎖。フコースを欠くがクリアランスが速く、ADCC増強手段としては別扱いで監視する。詳しく →は、マンノースの数を添えてMan5のように書きます。CHO細胞抗体など組換えタンパク質の生産に広く使われる、チャイニーズハムスター卵巣由来の培養細胞です。詳しく →で作った抗体ではG0FとG1Fが大半を占めるのが普通で、管理の目は残りの少数派に向きます。
| 糖鎖の特徴 | 効く先 |
|---|---|
| フコースが無い(アフコシル体コアフコースを欠く糖鎖を持つ抗体。FcγRIIIaへの結合が強まりADCC活性が増強する。詳しく →) | FcγRIIIaへの結合とADCC。フコースが外れるほど強まる |
| ガラクトースの数(G0F、G1F、G2F) | 補体を介した細胞傷害(CDC抗体Fcに補体C1qが結合してカスケードが進み、膜侵襲複合体が標的細胞の膜を破壊する作用。詳しく →)に影響する |
| 高マンノース型(Man5など) | 血中からの消失の速さ。多いと速く消えると報告されている |
| シアル酸糖鎖の末端に付く酸性の糖。負電荷を加えるため酸性バリアントに寄与し、薬物動態にも関わる。詳しく →が多い | ADCCが弱まる方向の報告がある |
| ヒトが持たない糖(α-ガラクトース、Neu5Gc非ヒト型のシアル酸で免疫原性リスクがあるが、CHO細胞はほとんど付加しない。詳しく →) | 免疫原性薬そのものが患者の免疫応答を誘発しやすい性質。凝集体や不純物、投与経路、患者背景などが要因になる。詳しく →。アレルギー反応の原因になりうる |
高マンノース型については、ヒトで血中から速く消えることがGoetzeらの2011年の報告で示され、マンノース受容体が関わると考えられています。

糖鎖の一覧は、多数派の比率よりも、少数派のどれがどれだけ出ているかを見て読みます。
割合の読み方 ― 相対値と、動く幅
一覧の割合は、検出できた糖鎖の合計を100とした相対値です。抗体が何mgあるか、糖鎖が何モルあるかという絶対量ではありません。ひとつが増えれば、どこかが減って見えます。
少数派では、小さな数字の動きで意味が大きく変わります。たとえばアフコシル体が4%から8%になったとき、一覧の上では4ポイントの動きでも、受容体に強く結びつく成分は倍に増えています。この見方を忘れると、数ポイントの差を測定のばらつきとして流してしまいます。
もう一つの読み方が、点ではなく幅で見ることです。同じ製品でも、ロットや時期で糖鎖は動きます。バイオシミラーの開発会社の研究者らが先発品を調べた報告(Schiestlら、2011年)では、エタネルセプト(エンブレル)の有効期限が2009年末までのロットは揃っていたのに、2010年からは別のプロファイルのロットが現れ、G2Fを含む糖鎖の割合が約50%から約30%に下がっていました。先発品でさえこれだけ動くので、糖鎖の規格は一点の値ではなく、機能が保たれることを確かめた幅で置きます。先発品との合わせ込みはバイオシミラーの開発と同等性評価に、製造を変えたときの比較は同等性評価(ICH Q5E)にあります。
いくつかのロットが同じ方向に動いたときは、分析と工程のどちらが動いたのかを切り分けます。標準品と保管試料を同じ日に測り直して、標準品の値が前と変わらなければ、分析は安定しています。そのうえで動いているなら工程の側で、培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →や温度などの培養条件との関係は抗体の糖鎖はなぜ効き方を変えるのかで解説しています。
糖鎖の数字は、1ロットの値ではなく、複数ロットの幅と、その幅の中で効き目が保たれているかで読みます。
測り方で、読めることが変わる
標準的なのは、糖鎖を酵素(PNGase F)で切り出し、蛍光色素を付けてHILIC親水性の担体で極性の高い分子を分離する手法です。抗体から切り出した糖鎖のプロファイル解析などに使われます。詳しく →で分ける方法で、糖鎖ごとの割合を出す形として最も普及しています。その代わり、切り出した時点で、その糖鎖が抗体のどこに付いていたかは分からなくなります。
切り出さずに、抗体まるごと、またはいくつかの断片に切った状態で質量を読む方法なら、どの糖鎖の組み合わせが1分子に載っているか、どの鎖に付いているかが分かります(インタクト質量分析)。ペプチドに切ってAsn297の糖ペプチドを読む方法は、部位ごとに糖鎖を捉えられ、多属性法(MAM)の一部として他の品質特性とまとめて運用できます。
他の施設や他社の数字と並べるときは注意が要ります。NISTが標準抗体の糖鎖を76の研究室に測らせたところ、研究室ごとに報告された糖鎖の種類は4種から48種までばらつきました(De Leozら、2020年)。標識の違いや前処理で数字が動く場所はN型糖鎖プロファイリングにまとめてあります。
同じ抗体でも、方法が違えば見えるものが違います。数字を並べる前に、方法をそろえます。
成績書で読み違えやすいこと ― Fabの糖鎖と、割合と活性
一つめは、糖鎖がFcだけに付いているとは限らないことです。抗体を丸ごとPNGase Fで切ると、FcのAsn297の糖鎖と、抗原に結合するFabに付いた糖鎖が、区別なく混ざって出てきます。Fabにも糖鎖を持つ抗体では、問題の糖鎖がどちらにあるかで意味が違います。
実例が、抗がん抗体のセツキシマブです。マウス由来の細胞株で作られたこの抗体では、投与直後のアナフィラキシーが一部の地域で多く報告されました。原因を調べたところ、患者が投与前から持っていたIgEが、糖鎖の末端にあるα-ガラクトースに結合していたことが分かりました(Chungら、2008年)。このα-ガラクトースはFab側の糖鎖にあります。Fcの糖鎖だけを見ていては気づけません。
二つめは、割合が出ていても、効き目そのものは測っていないことです。アフコシル体の割合とADCCは結びついていますが、ADCCの強さは受容体との結合や標的細胞の状態にも左右されます。効き目が重要な抗体では、糖鎖の割合に加えて、細胞を使った活性の試験で確かめます(細胞を使った抗体の機能評価)。
三つめは、製造を変えたときです。培地や培養スケールを動かすなら、同等性の評価に糖鎖プロファイルが入るのが普通です。変更の前後で一覧を並べ、効き目に関わる少数派が、これまでの幅に収まっているかを見ます。
割合は効き目の手がかりで、効き目そのものではありません。
明日から確かめられること
成績書や受託先の報告書を受け取ったときに使える項目です。
- 割合が、検出できた糖鎖の合計を100とした相対値だと明記されているか
- アフコシル体、ガラクトース、高マンノース型のように、効き目に関わる糖鎖が個別に出ているか
- 糖鎖を切り出す方法か、切り出さない方法か。標識と分離の方法が書かれ、標準品が同じ日に測られているか
- 糖鎖がFcだけか、Fabにもあるか。Fabにもあるなら、区別して扱われているか
- 直近の複数ロットの幅が並び、今回のロットがその幅のどこにあるか
- 製造変更の前後で、糖鎖の一覧が比較に入っているか
- 割合の規格と並んで、細胞を使った活性の結果があるか
測定に使う装置は、製品データベースのHILICカラム、構造を確かめるLC-MS、電気泳動で分けるキャピラリー電気泳動にあります。糖鎖を設計して効かせる側の話は抗体のアフコシル化に、電荷の違いで見る試験は荷電変異体にあります。
参考文献
- Reusch D, Tejada ML. Fc glycans of therapeutic antibodies as critical quality attributes. Glycobiology. 2015;25(12):1325-1334. doi:10.1093/glycob/cwv065.
- Shields RL, Lai J, Keck R, et al. Lack of fucose on human IgG1 N-linked oligosaccharide improves binding to human FcγRIII and antibody-dependent cellular toxicity. J Biol Chem. 2002;277(30):26733-26740. doi:10.1074/jbc.M202069200.
- Goetze AM, et al. High-mannose glycans on the Fc region of therapeutic IgG antibodies increase serum clearance in humans. Glycobiology. 2011;21(7):949-959.(高マンノース型と血中からの消失)
- Schiestl M, Stangler T, Torella C, Cepeljnik T, Toll H, Grau R. Acceptable changes in quality attributes of glycosylated biopharmaceuticals. Nat Biotechnol. 2011;29(4):310-312.(先発品のロット間・時期による糖鎖の変化。GaBIによる要約)
- Chung CH, Mirakhur B, Chan E, et al. Cetuximab-induced anaphylaxis and IgE specific for galactose-alpha-1,3-galactose. N Engl J Med. 2008;358(11):1109-1117.
- De Leoz MLA, et al. NIST Interlaboratory Study on Glycosylation Analysis of Monoclonal Antibodies: Comparison of Results from Diverse Analytical Methods. Mol Cell Proteomics. 2020;19(1):11-30. doi:10.1074/mcp.RA119.001677
- ICH Q5E: Comparability of Biotechnological/Biological Products Subject to Changes in Their Manufacturing Process.
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/glycan