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抗体医薬基礎知識・分析

糖鎖分析とは?抗体医薬における糖鎖プロファイルを評価する

糖鎖分析とは?抗体医薬における糖鎖プロファイルを評価する

抗体医薬は、タンパク質としてのアミノ酸配列だけでなく、分子に結合した 糖鎖 によっても性質が変わります。特にIgG抗体では、Fc領域に結合する N結合型糖鎖 が、安定性、血中でのふるまい、Fc受容体との相互作用、ADCC などのエフェクター機能に関わります。この記事では、糖鎖分析とは何か、なぜ抗体医薬で評価するのか、どのような糖鎖構造を見るのか、そしてHILIC、LC-MS、キャピラリー電気泳動などでどのように測定するのかを、ICH Q6B の考え方も踏まえて整理します。

糖鎖分析とは

糖鎖分析 とは、抗体医薬などの糖タンパク質に結合している糖鎖の種類や割合を調べる分析です。

抗体医薬、とくにIgG型抗体では、Fc領域に N結合型糖鎖 が存在します。この糖鎖は、抗体の立体構造やFc受容体との相互作用に関わるため、単なる飾りではなく、抗体医薬の品質を理解するうえで見るべき要素です。

糖鎖は、すべての抗体分子で完全に同じになるわけではありません。フコース、ガラクトース、マンノース、シアル酸などの有無や組み合わせによって、複数の糖鎖構造が混在します。この分布をまとめたものが、糖鎖プロファイル です。ICH Q6B でも、バイオ医薬品の特性解析では、糖タンパク質について糖鎖構造や糖鎖組成を評価する考え方が示されています。

なぜ糖鎖を見るのか

糖鎖分析を見る目的は、抗体医薬の品質と機能に関わる糖鎖プロファイルが、意図した範囲にあるか を確認することです。

抗体の糖鎖は、細胞株、培地、培養条件、精製条件、製造スケールなどの影響を受けます。つまり糖鎖は、抗体分子そのものの性質であると同時に、製造工程の影響を反映する品質属性 でもあります。

とくにFc領域の糖鎖は、ADCCやCDC などのエフェクター機能に影響することが知られています。抗体の作用機序によっては、糖鎖プロファイルの違いが薬効や品質評価に関わるため、開発・製造・品質管理で重要な分析項目になります。

糖鎖で何を見るのか

糖鎖分析では、単に「糖鎖があるかないか」ではなく、どの糖鎖構造がどの程度存在するか を見ます。主な着目点は次のとおりです。

着目点内容
フコースFcγRIIIaとの相互作用やADCC活性に関わる。少ない抗体ではADCC活性が高まる方向に働く
ガラクトース付加状態は主要な評価項目。G0・G1・G2のようにガラクトース数の違いで整理される
シアル酸含む糖鎖は電荷にも影響。電荷異性体分析との関係でも見られる
高マンノース型抗体のクリアランスや品質属性に関係。製造条件や細胞の影響を受けモニタリング対象になる
プロファイル全体個別の糖鎖だけでなく、分布がロット間で一貫しているか、工程変更で変わっていないか

どうやって測るのか

糖鎖分析には、目的に応じて複数の方法があります。

方法どう測るか特徴・使いどころ
遊離糖鎖分析(HILIC-FLD)PNGase Fなどで糖鎖を切り出し、蛍光標識してHILICで分離プロファイルを高感度に見る代表的方法。LC-MSと組み合わせ構造推定にも
LC-MS糖鎖・糖ペプチド・サブユニット等、見たいレベルで分析構造推定・ピーク同定に重要。前処理が複雑でルーチンではHILIC-FLDと使い分け
キャピラリー電気泳動糖鎖を標識し電気泳動で分離高い分離能や短い分析時間が求められる場面で
MALDI-MS糖鎖の質量情報を取得構造の確認・比較に有用。定量性は他法と組み合わせて考える

何がわかるのか

糖鎖分析でわかることは、主に次のような情報です。

見ている情報内容
糖鎖プロファイル製品中にどの糖鎖構造がどの割合で存在するか
ロット間の一貫性製造ロットごとに分布が一定範囲に収まっているか。工程の再現性の確認に重要
工程変更の影響培地・培養条件・スケール・精製条件などを変えたとき、プロファイルが大きく変化していないか
機能との関係Fc受容体との相互作用やADCCに影響。作用機序によっては機能評価と結びつく
安定性・保管中の変化糖鎖関連の分子変化が、電荷異性体など他の品質項目と関連して見えることがある

工程との関係

糖鎖分析は、分析室だけで完結する話ではありません。特に 培養工程 との関係が強い分析項目です。

工程何が起きるか糖鎖分析との関係
細胞株構築抗体を産生する細胞株を選ぶ細胞株ごとの糖鎖傾向が出る
培養細胞が抗体を産生する培地・pH・DO・栄養状態などが糖鎖に影響する
精製抗体を回収・精製する糖鎖を大きく変えないが、バリアントの分布に影響する可能性
製剤・保管製品として安定化する糖鎖関連の品質変化や、他の分析項目との関係を見る

糖鎖は、抗体が細胞内で作られる過程で付加・修飾されるため、特に培養条件と強く関係します。そのため、糖鎖分析は「抗体ができた後に見る試験」でありながら、実際には 培養工程の設計・管理ともつながる品質評価 です。

糖鎖分析で使われる主な装置

糖鎖分析で使われる装置・技術は、どのレベルで糖鎖を見るかによって変わります。前処理で糖鎖を切り出し、分離・検出でプロファイルを見て、必要に応じてLC-MSで詳細な情報を補う、という流れです。

糖鎖分析の装置・技術の全体像:前処理から構造解析、別法のキャピラリー電気泳動まで

糖鎖分析で注意すること

糖鎖分析は、前処理とデータ解釈 が重要です。

糖鎖を切り出して標識する方法では、切り出し効率、標識効率、クリーンアップ、ピーク同定が結果に影響します。また、同じ糖鎖プロファイルでも、測定法や解析条件によってピークの見え方が変わることがあります。

POINT

糖鎖の変化が必ずしもすぐに品質上の問題を意味するわけではありません。重要なのは、製品特性・作用機序・工程理解・ロット間一貫性・規格設定の中で、その糖鎖プロファイルをどう管理するかです。

まとめ

糖鎖分析 は、抗体医薬に結合する糖鎖の種類と割合(糖鎖プロファイル)を評価する分析項目です。フコース・ガラクトース・シアル酸・高マンノースなどの分布は、ADCC をはじめとする機能や品質に関わり、細胞株や培養条件などの工程の影響を強く受けます。HILIC-FLDやLC-MS、キャピラリー電気泳動を使い分けることで、糖鎖プロファイルを可視化し、ロット間の一貫性と工程の再現性を管理します。

参考文献

  • Duivelshof BL, Denorme S, Sandra K, et al. Quantitative N-Glycan Profiling of Therapeutic Monoclonal Antibodies Performed by Middle-Up Level HILIC-HRMS Analysis. Pharmaceutics. 2021;13(11):1744. doi:10.3390/pharmaceutics13111744.
  • 厚生労働省医薬局審査管理課長通知「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定について」(医薬審発第571号、平成13年5月1日)/ICH Q6B ガイドライン.
この記事は、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法や品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。