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HILIC(糖鎖プロファイル分析)

HILIC(Hydrophilic Interaction Chromatography、親水性相互作用クロマトグラフィー)は、抗体や糖タンパク質からPNGase Fで遊離させ蛍光標識したN型グリカンを、アミドカラムで親水性に応じて分離する糖鎖プロファイル分析です。2-ABやRapiFluor-MSで標識し、蛍光(FLR)またはMSで検出して、G0F・G1F・G2F・高マンノース(Man5など)・シアリル種・アフコシル化体などの相対%を求めます。グリコフォームの分布は抗体のADCC活性や半減期、安定性に関わるため、特性解析・工程開発・ロット一貫性評価・比較性の重要品質特性(CQA)として運用します。

N型グリカンG0F/G1F/G2F2-AB/RapiFluor-MS相対%プロファイル

用途・特徴

HILICは、移動相中の有機溶媒(主にアセトニトリル)の比率を高くした条件で、固定相表面の水和層と糖鎖の親水性基との相互作用を利用して保持・分離するモードです。糖鎖は親水性が高いほど強く保持されるため、シアル酸やガラクトース、マンノースの数が多い構造ほど遅く溶出し、おおむね糖の数や極性の順にピークが並びます。固定相にはアミド系(amide/glycan BEH amideなど)のカラムが広く使われ、検出はFLR(蛍光)またはMSで行います。

分析の前処理として、まずPNGase FでN型グリカンをタンパク質骨格から酵素的に遊離し、還元末端を蛍光標識します。標識試薬は古くから使われる2-AB(2-aminobenzamide、還元アミノ化)と、より迅速でMS感度の高いRapiFluor-MSやInstantPCなどがあり、目的(FLRのみか、FLR-MSでの構造同定も行うか)に応じて選びます。標識後はクリーンアップで余剰試薬を除き、HILICアミドカラムに注入してグラジエント溶出します。

得られたクロマトグラムの各ピークを積分し、主要グリコフォーム(G0F・G1F・G2F・高マンノース・シアリル種・アフコシル化体など)の相対面積%を算出します。FLRは定量性・再現性に優れ規格試験に向き、MSはグルコースユニット(GU値)と併せた構造同定に役立ちます。インタクト/サブユニットLC-MSが分子全体のグリコフォーム分布を見るのに対し、HILIC(放出糖鎖)は個々のグリカン構造を高分離で定量する相補的な手法で、エキソグリコシダーゼ消化と組み合わせれば構造帰属の確度を上げられます。

Point
  • PNGase F遊離→蛍光標識→アミドカラムでN型グリカンを親水性順に分離・定量する
  • 標識は2-AB(汎用)とRapiFluor-MS/InstantPC(迅速・高MS感度)から選ぶ
  • G0F・G1F・G2F・高マンノース・シアリル種・アフコシル化体などの相対%を算出する
  • FLR検出は定量性・再現性に優れ、MS検出はGU値と併せた構造同定に役立つ
  • グリコフォームはADCC・半減期・安定性に関わりCQAとして管理される
  • GU値(デキストラン標準)でピークを校正し構造帰属の再現性を高める
  • エキソグリコシダーゼ消化と組み合わせると構造帰属の確度が上がる
  • カラム・前処理キット・標準品・解析ソフトをまとめて選定・運用する

使用方法

試料からN型グリカンを酵素遊離し、蛍光標識・クリーンアップを経てHILICアミドカラムでグラジエント分離し、FLR/MSで検出してピークを積分します。

1試料を変性・還元し、PNGase FでN型グリカンを遊離する
2遊離グリカンを回収し、塩・タンパク質を除去する
32-ABまたはRapiFluor-MS/InstantPCで還元末端を蛍光標識する
4クリーンアップ(HILIC-SPE等)で余剰標識試薬を除く
5HILICアミドカラムに注入し、アセトニトリル系で平衡化する
6有機溶媒比を下げる逆グラジエントで親水性順に溶出する
7FLR(蛍光)またはMSでクロマトグラムを取得する
8デキストラン標準でGU値に校正し、ピークを帰属する
9各ピークを積分し、主要グリコフォームの相対%を算出する
10システム適合性を確認し、規格・基準と照合して判定する
実際の条件は、対象分子、標識試薬(2-AB/RapiFluor-MS/InstantPC等)、アミドカラムの粒子径・形状、移動相(ギ酸アンモニウム濃度・pH・アセトニトリル比)、グラジエント、カラム温度、検出方式(FLR/MS)、GU校正・標準品、解析ソフト、試験法バリデーションの有無によって変わります。シアリル種は調製・保管中の脱シアリル化に注意が必要です。

HILIC(放出糖鎖)と LC-MS(インタクト/サブユニット)の違いは?

HILICはタンパク質から切り出した個々のグリカンを高分離で定量し、LC-MSはタンパク質に付いたままのグリコフォーム分布を質量で捉えます。どちらも糖鎖評価に使い、見ているものと得意分野が異なります。

結論

LC-MSは「分子全体のグリコフォーム分布を質量で素早く俯瞰」、HILIC(放出糖鎖)は「個々のグリカン構造をFLRで高分離・高精度に定量」する用途に向きます。CQAの定量管理はHILIC-FLR、構造同定はLC-MSやHILIC-MSと組み合わせるのが一般的です。

見る対象

タンパク質に付いたままのグリコフォーム

切り出した個々のN型グリカン

分離原理

逆相などでの分離+質量(質量数で識別)

親水性相互作用で糖の数・極性順に分離

前処理

脱グリコシル化不要(サブユニット化のみ)

PNGase F遊離+蛍光標識が必要

得られる情報

主要グリコフォームの分布・質量

個々の糖鎖構造の相対%(高分離)

検出

MS(高分解能質量分析)

FLR(蛍光)またはMS

微量種の分離

近接質量・同重体は重なりやすい

構造異性体まで高分離で分けやすい

定量性・GMP適性

相対定量・特性解析に向く

FLRで定量性が高く規格試験に向く

位置情報

サブユニット単位で付加位置を絞れる

遊離後のため部位情報は失われる

HILIC糖鎖分析の選定軸

標識試薬2-AB(汎用・FLR)かRapiFluor-MS/InstantPC(迅速・高MS感度)か。FLRのみかFLR-MS併用かで選ぶ
検出方式(FLR/MS)規格試験はFLR、構造同定はMS。FLR-MS同時取得が必要か
カラム(アミド固定相)glycan BEH amide等の粒子径・形状(FPP/SPP)と分離能、UHPLC対応か
分離能G0F/G1F/G2Fやアフコシル化体・構造異性体を分離できるか
前処理キット入手性PNGase F遊離・標識・クリーンアップが一体化したキットが安定供給されるか
前処理時間・自動化遊離〜標識の所要時間、プレート自動化・夜間運転に対応するか
GU校正・標準品デキストラン標準やグリカン標準でGU値校正・ピーク帰属ができるか
定量再現性主要グリコフォーム%の日内/日間再現性が要求精度を満たすか
シアリル種の保持脱シアリル化を抑える条件・移動相で酸性糖鎖を正確に評価できるか
MS連携・構造同定GU値と質量、エキソグリコシダーゼ消化で構造帰属できる体制か
CSV・21 CFR Part 11対応監査証跡・権限管理・電子記録/署名に対応するか
メソッド移管・サポート開発からQCへの移管しやすさ、国内保守・IQ/OQ・トラブル対応

評価する主なグリコフォーム

項目内容意味・場面
G0F/G1F/G2Fコアフコース付きの非・1・2ガラクトース体抗体の主要グリコフォーム、ガラクトシル化の指標
アフコシル化体(G0等)コアフコースを欠く糖鎖ADCC活性に影響、低い側で管理
高マンノース(Man5等)マンノースに富む未成熟型クリアランス・安定性に関与、上限管理
シアリル種(G2FS1/S2等)末端シアル酸付加体半減期・電荷不均一性に関与、脱シアリルに注意
合計フコシル化/ガラクトシル化%各属性の合計指標比較性・ロット一貫性の管理項目

主な注意点

注意点内容
脱シアリル化酸性・高温・乾固条件でシアル酸が脱離し、シアリル種%を過小評価する。調製・保管条件を固定する
標識効率・副反応還元アミノ化の温度・時間や試薬鮮度で標識率が変わる。クリーンアップ不足は余剰試薬ピークの原因
ピーク帰属GU値(デキストラン標準)や標準品、エキソグリコシダーゼ消化で帰属を確認し、推定のみで判定しない
システム適合性GU校正の妥当性、分離度・保持時間・面積の再現性を設定し、各測定で適合を確認してから判定する

使用される工程

HILIC糖鎖分析は、グリコフォームが品質特性となる工程で、特性解析からQCリリースまで幅広く使われます。

特性解析(グリカンマッピング)

主要グリコフォームを同定・定量し、糖鎖プロファイルを確立する。

主な用途
  • グリカンマップ
  • 構造同定

原薬リリース試験

規格に基づきG0F/高マンノース/アフコシル化体などの相対%を判定する。

主な用途
  • 規格試験
  • 相対%判定

工程開発・条件最適化

培地・フィード・培養条件によるグリコフォーム変化を比較・調整する。

主な用途
  • 培養条件
  • グリコシル化制御

クローン選抜

クローンごとの糖鎖プロファイルを比較し、目標属性に合う株を選ぶ。

主な用途
  • クローン比較
  • 属性適合

ロット間一貫性評価

製造ロット間でグリコフォーム分布の一貫性を確認する。

主な用途
  • ロット比較
  • 一貫性

比較性・変更管理

工程変更や拠点移管の前後で糖鎖プロファイルを比較する。

主な用途
  • 比較性
  • 変更前後

バイオシミラー類似性評価

先行品と候補品のグリコフォームを並べて類似性を評価する。

主な用途
  • 類似性
  • 先行品対比

安定性試験

保存中の脱シアリル化など糖鎖プロファイルの経時変化を追跡する。

主な用途
  • 経時変化
  • 脱シアリル

使用されるモダリティー

HILIC糖鎖分析は、N型糖鎖が活性・薬物動態・品質に関わる糖タンパク質系モダリティーで主に使われます。

抗体医薬
関連度
G0F/G1F/G2Fアフコシル化体高マンノース
ADCC・半減期に関わる糖鎖プロファイル評価の標準的手法として使われる。
二重特異性抗体
関連度
主要グリコフォームシアリル種ロット一貫性
抗体骨格の糖鎖プロファイル評価に使われる。
Fc融合・組換えタンパク質
関連度
N型糖鎖プロファイルシアリル化高マンノース
糖鎖が薬物動態・活性に関わる組換えタンパク質の評価に使われる。
ADC
関連度中〜高
抗体部分の糖鎖結合前後の確認
抗体骨格のグリコフォーム評価に使われる。
ワクチン
関連度中〜高
糖タンパク抗原グリコシル化確認
糖タンパク抗原の糖鎖プロファイル確認に使われる。

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