抗体医薬プロセス解説

プロセス特性解析:リスク評価からDoEでCPPを見極める

工程開発で、条件を振る作業には二通りのやり方があります。一つは、一度に一つのパラメータだけを動かして、残りを固定する方法。分かりやすく、結果の解釈も素直です。何十年も、開発はこのやり方で進められてきました。もう一つが、複数のパラメータを同時に、計画された組み合わせで動かす方法です。

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プロセス特性解析:リスク評価からDoEでCPPを見極める

核心は一点です。前者では、パラメータどうしの相互作用が見えません。温度を上げると収率が下がる、という結果が出たとして、それが pH が低いときだけの現象なのか、どの pH でも起きるのかが分からない。製造の現場では複数の条件が同時にずれていくので、この情報が無いまま管理幅を置くことはできません。工程特性解析リスク評価とDoEで、どの工程パラメータがCQAに効くかを定量的に調べる工程特性解析。詳しく →で実験計画法パラメータを変えたときCQAがどう応答するかを効率よく調べる実験計画法。詳しく →を使うのは、実験回数を減らすためというより、この相互作用を見るためです。

この記事では、工程特性解析が何を答える作業なのかを確かめてから、パラメータを絞り込むリスク評価、実験計画法の組み方、スケールダウンモデル大スケールで起こる勾配やストレスを小さな槽で再現し、事前にリスクを評価する実験系。詳しく →の扱い、そして許容範囲の決め方の順に解説します。小さな系で得た結果を実機に持っていけるかについては、スケールダウンモデルのほうにまとめてあります。最後に、進める順序を並べます。

この記事の要点
  • 一度に一つずつ振る方法では、パラメータどうしの相互作用が見えません。
  • 振れる実験の数には限りがあるので、リスク評価で候補を 10 前後まで絞ってから始めます。
  • スケールダウンモデルが実機を代表していなければ、得られた管理幅は実機では使えません。

何を答える作業なのか

工程特性解析規格試験より高い分解能で製品の品質特性を詳しく調べること。比較可能性の評価などで用いる。詳しく →が答えようとしているのは、三つの問いです。

一つ目が、どのパラメータが品質特性を動かすのか。二つ目が、動かすとしてどれだけ動くのか。そして三つ目が、どこまでなら動いても品質が保たれるのか。この三つに答えられれば、重要工程パラメータ製品の品質に大きく影響する工程条件。傾向を監視して管理された範囲で運転する。詳しく →の一覧と、それぞれの管理幅が書けます。

逆に言えば、この三つに答えないまま管理幅を置くと、根拠が経験だけに痩せます。規制当局からその幅の根拠を問われたときに、実験のデータで説明できない。バリデーション試験法が目的に合う性能を持つことを立証する妥当性確認。正確さ・精度などを評価する。詳しく →の計画書を書く段階で、ここが空白だと分かることがあります。

作業そのものは、実験を回して統計で解析するだけです。ただし、振れる実験の数には限りがあります。⁠限られた回数でどこまで答えられるかが、この作業の設計の中身です。

リスク評価で絞る

いきなり実験に入る前に、候補の数を減らしておきます。

工程には無数のパラメータがあります。培養なら温度、pH、溶存酸素培養液に溶けている酸素の濃度。細胞の呼吸を支えるため一定に保つ制御対象。詳しく →、撹拌速度、通気量、フィードフェドバッチで追い足す濃縮した栄養液。いつ・どれだけ・どう入れるかが生産性と品質を左右する。詳しく →の組成と速度、播種密度、培養期間。精製なら各段の流速、滞留時間、緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →の組成と pH と塩濃度、負荷量、洗浄の回数。この全部を実験で振ることなど、できるはずもありません。

そこで、知識と経験で当たりをつけます。FMEA起こりうる故障モードとその影響を洗い出して優先度づけする、リスクアセスメントの手法。詳しく → のような枠組みで、各パラメータが品質特性に影響しうるか、その影響の大きさと、制御の難しさを点数化する。5段階 程度の評価を掛け合わせて順位を出し、上位のものだけを実験の対象にします。

実務では、工程一段あたり 10 前後まで絞るのが現実的です。ここで落としたパラメータは実験で確かめないので、落とした根拠を記録として残します。⁠絞り込みの質が、その後の実験の価値を決めます。見落としたパラメータは、後の逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →として表面化します。

実験計画法 ― 何回で何が分かるか

絞り込んだパラメータを、計画された組み合わせで振っていきます。

最も単純なのが、各パラメータを上限と下限の2水準だけ取り、全組み合わせを試す方法です。パラメータが 5 なら 32通り、7 なら 128通りで、実験の回数が指数で増えていきます。そのままでは現実的ではありません。

そこで、組み合わせを間引いていきます。主効果と二因子間の相互作用だけを推定すればよいと割り切れば、8通り や 16通り で 5〜7 のパラメータを評価できます。ただし、間引いた分だけ推定できる効果も減るので、何が分かって何が分からないかを設計の段階で把握しておく必要があります。

効きそうなパラメータが絞れた後は、応答曲面を取る設計に移る。3水準以上を取って曲線的な関係まで読む方法で、最適点と、そこからどれだけ離れても品質が保たれるかが分かります。解析には Umetrics や JMP (SAS) のような統計ソフトを使い、モデルの当てはまりを確かめながら進めます。

POINT

実験計画法の最大の落とし穴は、水準の設定です。上限と下限を実際の製造で起こりうる範囲より狭く取ると、その範囲では何も効かないという結論が出ます。逆に広く取りすぎると、極端な条件で工程が破綻して、中間の情報が得られません。水準の幅は、製造で実際にどれだけ振れるかの実測から決めます。

スケールダウンモデル ― 実機を代表しているか

実験は小さな系で回しますが、ここに一つ前提が挟まっています。

培養なら、Sartorius の ambr のような 15 mL や 250 mL の並列系を使い、何十本も同時に振ります。精製なら、Cytiva の小型カラムやマイクロプレート形式の担体カラムに充填する多孔質ビーズ。表面のリガンドと成分の相互作用差で目的物と不純物を分離する。詳しく →を使う。これで数十通りの条件を現実的な期間で回せます。

問題は、その結果が 2,000 L の槽でも成り立つかどうかです。小さな系と大きな系では、混合の時間も、酸素の移動も、せん断流れの中で分子にかかる物理的な力。強すぎると抗体の凝集や微粒子発生を招く。詳しく →も違います。何を一定に保てば外挿できるかを決め、その前提のもとで得たデータを使います。単位体積あたりの動力を合わせるのか、酸素移動容量係数を合わせるのか。

そして、モデル自体の妥当性を示す必要があります。同じ条件で小さな系と実機を回し、品質特性が同じ範囲に入ることを確かめる。ここが示せないと、DoE で得た管理幅は実機では使えません。⁠スケールダウンモデルは実験の道具であると同時に、それ自体が妥当性を証明すべき対象です。

許容範囲を決める

解析の結果から、二つの境界を引いていきます。

一つが、品質特性が規格を外れる境界です。モデルから、そのパラメータがどこまで動くと規格を割るかを予測します。ただし、モデルには誤差があるので、予測値そのものを境界にはしません。信頼区間の内側に、余裕を見て引きます。

もう一つが、実際の製造で動く範囲です。過去のロットの実績から、そのパラメータが現実にどれだけ振れているかを出します。この幅が、品質が保たれる幅の内側に収まっていれば、そのパラメータは制御できていると言えます。

この二つの関係で、分類が決まる。実際の変動が品質を動かすなら重要工程パラメータとして厳しく管理し、動かさないなら通常の管理で足ります。⁠分類は性質で決まるのではなく、その工程での実際の変動幅との関係で決まります。同じパラメータでも、設備が変われば分類が変わることがあります。

進める順序

工程特性解析を組むとき、次の順で進めます。

一番目は、重要品質特性製品の有効性や安全性に直結し、規格で管理すべき品質特性。空実比や純度、凝集体などが該当する。詳しく →を確定させることです。 何を守るのかが決まらないと、何を測ればよいかも決まりません。患者への影響から選び、規格の有無から選ばない。ICH Q8 と ICH Q11原薬の開発・製造を扱い、原薬側の管理戦略の作り込みを示すICHのガイドライン。詳しく → の考え方がここに当たります。

二番目に、パラメータを洗い出してリスク評価工程や製品に潜在するリスクの種類・発生可能性・影響度を系統的に特定・分析し、優先的に管理すべき項目を決定する手続き。詳しく →で絞ります。工程一段あたり 10 前後まで。落としたものの根拠も記録します。三番目がスケールダウンモデルの妥当性確認です。ここを飛ばして DoE を回すと、出てきた管理幅を実機で使えません。

四番目に実験を設計します。まず間引いた設計で効くパラメータを見つけ、次に応答曲面で関係を詳しく取る。水準の幅は、製造での実測から決めます。最後に、過去の実績と突き合わせて許容範囲を引きます。⁠この作業の成果物は実験データではなく、管理幅とその根拠です。データが取れても根拠が書けないなら、設計のどこかが抜けています。

参考文献

ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べる
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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。