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疎水性相互作用レジン(HIC)

疎水性相互作用レジン(HIC)は、タンパク質表面の疎水性領域とリガンドの疎水性相互作用を利用して分離するクロマトグラフィー担体です。高塩条件で結合させ、塩濃度を下げて溶出するという、イオン交換とは逆向きの塩の使い方が特徴で、Protein A後のポリッシュ工程で凝集体や誤対合・断片の除去に使われます。

疎水性相互作用クロマトグラフィー凝集体除去ポリッシュ精製高塩で結合・低塩で溶出

用途・特徴

HICは、タンパク質表面に露出した疎水性領域と、Phenyl・Butyl・Hexyl・Octyl・PPGといった疎水性リガンドとの相互作用を分離原理とします。硫酸アンモニウムやクエン酸ナトリウムなど kosmotropic(塩析側)な塩を高濃度で添加すると疎水性相互作用が強まって担体に結合し、塩濃度を下げると溶出するため、塩濃度の操作で結合・溶出を制御します。

イオン交換が荷電・pHで分けるのに対し、HICは疎水性の違いで分けるため、サイズや電荷が近く分離しにくい不純物にも別の選択性を与えられます。抗体プロセスではProtein A捕捉とイオン交換の後段に置き、凝集体(HMW)や誤対合体・断片、酸化体などを取り除くポリッシュ工程で使われます。

結合させるには高塩条件が必要なため、ロード前に塩を添加してサンプルを調整する前処理が前提になります。塩種・塩濃度はタンパク質の溶解性や活性、担体の疎水性の強さと合わせて設計し、結合過剰や析出を避けながら回収率と分離能のバランスを取ります。

Point
  • 疎水性の違いで分離し、イオン交換とは別の選択性が得られる
  • 高塩で結合させ、塩濃度を下げて溶出する(IECと逆の塩の使い方)
  • 硫酸アンモニウム・クエン酸など塩析側の塩を使う
  • Phenyl/Butyl/Hexyl/Octyl/PPG など官能基で疎水性の強さと選択性が変わる
  • 凝集体(HMW)や誤対合・断片の除去など、ポリッシュ工程で使われる
  • ロード前に塩添加でサンプルを調整する前処理が前提になる
  • 高塩バッファは粘度が上がりやすく、圧力・流速の管理が必要になる
  • アルカリ(NaOH)でのCIP耐性や寿命、ベースマトリックスも選定要素になる

使用方法

基本的には、サンプルに塩を添加して結合できる条件に調整し、高塩で平衡化した担体にロードして洗浄したあと、塩濃度を下げて目的物を溶出します。

1塩添加でサンプルを調整する
2担体を高塩バッファで平衡化する
3サンプルをロードして結合させる
4高塩条件で洗浄し弱吸着分を除く
5塩濃度を段階的・勾配で下げる
6目的物を溶出して分画する
7UV等でピーク・分画を確認する
8強吸着分をストリップする
9CIP(NaOH等)で洗浄する
10再平衡化して次サイクルへ
実際の条件は、官能基(リガンド)と疎水性の強さ、塩種・塩濃度、サンプルの疎水性・溶解性・粘度、流速・圧力、目的分子と除去対象(凝集体・誤対合・断片など)によって変わります。塩濃度が高すぎると析出や圧力上昇を、低すぎると結合不足を招くため事前のスクリーニングが重要です。

HIC と イオン交換(IEC)の違いは?

HICとイオン交換(CEX/AEX)は、いずれもポリッシュ工程で使われるカラムですが、分離原理と塩の使い方が異なります。

結論

イオン交換は「電荷で分けて塩で溶出」、HICは「疎水性で分けて塩を下げて溶出」と整理できます。電荷では分けにくい凝集体や誤対合・断片に対して、HICが別軸の選択性を補完します。

分離原理

荷電基との静電的相互作用

疎水性領域との疎水性相互作用

結合条件

低〜中イオン強度で結合

高塩条件で結合

溶出の方法

塩濃度を上げる/pHを変える

塩濃度を下げる

効く違い

電荷・等電点(pI)の差

表面疎水性の差

前処理

脱塩・希釈・pH調整が多い

塩添加で結合条件に調整

得意な除去対象

電荷の異なるHCP・DNA・酸性/塩基性変異体

凝集体(HMW)・誤対合・断片・酸化体

注意点

pI近傍では分離しにくい

高塩で粘度・析出・コストに注意

HICレジンの選定軸

目的分子と除去対象、運転条件に合わせて、官能基・疎水性の強さ・耐久性などを照らし合わせて選びます。

官能基(リガンド)Phenyl/Butyl/Hexyl/Octyl/PPGなど。選択性と疎水性の強さが変わる
疎水性の強さ弱いほど低塩でも溶出しやすい。強いほど結合は強いが溶出に低塩が必要
動的結合容量(DBC)目的流速での結合量。スループットとカラムサイズに影響
塩種・塩濃度硫酸アンモニウム/クエン酸など。溶解性・活性・コストで選ぶ
粒子径・圧力小粒子は分離能が高い一方で背圧が上がる。流速とのバランス
凝集体除去能HMW(凝集体)や誤対合・断片の分離が目的レベルで取れるか
アルカリ耐性NaOHでのCIP可否と濃度。サニタイゼーションと寿命に直結
ベースマトリックスアガロース系/メタクリレート系など。剛性・非特異吸着・圧力特性
回収率・選択性目的物の回収率と、除去対象との分離度のバランス
寿命・再現性繰り返し使用での性能維持、ロット間再現性
スケール対応プレート/プレパック(HiScreen等)から大スケール担体までの展開性
供給・規制対応安定供給、レギュラトリーサポート(DMF等)、文書提供

官能基(リガンド)と特性

一般に Phenyl→Butyl→Hexyl→Octyl の順で疎水性が強くなり、PPGはやや異なる選択性を示します。

官能基疎水性の傾向使われ方の例
Phenyl中程度(芳香環)汎用的に使われる。抗体の凝集体除去ポリッシュで標準的
Butyl中〜やや強(短鎖アルキル)Phenylで分かれにくい場合の選択肢。比較的低塩でも運転しやすい
Hexyl強(中鎖アルキル)弱疎水性の分子を捕捉。強い保持で選択性を狙う場面
Octyl強(長鎖アルキル)疎水性の弱い分子に強い保持。溶出に低塩条件が必要
PPG(ポリプロピレングリコール)中程度・別系統の選択性Phenyl系と異なる選択性。回収率や塩低減を狙う場面

HICで分離する主な対象

電荷では分けにくい、疎水性が異なる関連物質の分離に向きます。

分離対象内容と背景
凝集体(HMW)会合・凝集した高分子量体。モノマーと疎水性が異なり分離しやすい
誤対合体(mispaired)二重特異性抗体などでの鎖の誤対合体。目的物との疎水性差で分離
断片(LMW)分解・切断による低分子量体。Fab/半分子などの除去
酸化体・変性体酸化や部分変性で表面疎水性が変化した分子種の分離
遊離リガンド・関連不純物ADC等での未結合体や疎水性の異なる関連物質の調整
残留HCP・DNAの一部疎水性が大きく異なる宿主由来不純物のさらなる低減に寄与

使用される工程

HICレジンは、捕捉後のポリッシュ精製で凝集体や関連物質を除く工程で使われます。

ポリッシュ精製

Protein A・イオン交換の後段で関連物質をさらに除きます。

主な用途
  • フロースルー/結合溶出
  • 別軸の選択性
  • 純度向上

凝集体(HMW)除去

モノマーと凝集体の疎水性差を利用して凝集体を分離します。

主な用途
  • HMW低減
  • モノマー回収
  • 規格適合

二重特異性抗体の誤対合分離

目的物と誤対合体の疎水性差を使って分離します。

主な用途
  • 誤対合除去
  • 鎖会合の選別
  • 純度確保

ADC中間体の精製

薬物結合に伴う疎水性変化を利用し、未結合体や関連物質を調整します。

主な用途
  • 未結合体除去
  • DAR関連の調整
  • 中間体精製

断片・酸化体の除去

断片や酸化体など疎水性の異なる変異体を分離します。

主な用途
  • LMW低減
  • 酸化体除去
  • 関連物質管理

プロセス開発・条件検討

官能基・塩種・塩濃度・流速をスクリーニングし条件を最適化します。

主な用途
  • 担体スクリーニング
  • 塩条件の最適化
  • 回収率と分離の両立

GMP製造

スケールアップした精製工程で再現性高く運転します。

主な用途
  • スケールアップ
  • CIP・寿命管理
  • 工程内管理

使用されるモダリティー

HICは、疎水性差で分けられる関連物質を持つモダリティーで特に使われます。

抗体医薬
関連度
凝集体除去ポリッシュ精製酸化体・断片の分離
Protein A後のポリッシュで凝集体や関連物質の除去に使われる。
二重特異性抗体
関連度
誤対合体の分離凝集体除去純度確保
鎖の誤対合体と目的物の疎水性差を利用して分離する。
ADC
関連度中〜高
薬物結合後の精製未結合体除去中間体精製
薬物結合に伴う疎水性変化を利用した精製で使われる。
Fc融合・組換えタンパク質
関連度
凝集体・断片の除去ポリッシュ精製
表面疎水性の差を利用して関連物質を除く工程で使われる。
ワクチン
関連度
タンパク質抗原の精製関連物質の調整
対象によりタンパク質抗原のポリッシュで使われることがある。

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