微生物・発酵基礎知識・製造工程

微生物発酵(大腸菌)の製造工程とは?発酵から封入体・精製まで

大腸菌(Escherichia coli)は、組換えタンパク質をつくる宿主として今もっとも広く使われている微生物のひとつです。増殖が速く、培地が安価で、遺伝子操作の手法が確立しているため、インスリンや成長ホルモン、各種酵素、抗体フラグメントなど、数多くの医薬品やバイオ試薬が大腸菌で生産されてきました。

全体像 ― 発酵で「量」を、精製で「質」をつくる

大腸菌プロセスは、おおきく「菌を増やして目的タンパク質を作らせる前半(発酵)」と、「菌体を壊して目的物を取り出し、不純物を除く後半(回収・精製)」に分かれます。

特徴的なのは、抗体プロセスのProtein Aのような「ほぼ一発で捕まる」キャプチャー手段が無いことです。大腸菌では宿主由来タンパク質(HCP)や核酸、エンドトキシンといった不純物がもともと多いため、複数のクロマトグラフィーを組み合わせて段階的に純度を上げていきます。

全体像を一覧にすると、次のようになります。

区分工程主な役割
発酵菌株構築・形質転換発現プラスミドを大腸菌に導入する
発酵セルバンク(MCB/WCB)同一品質の菌を凍結保存して再現性を担保する
発酵高密度流加発酵栄養を追加しながら高細胞密度まで増殖させ発現を誘導する
回収菌体回収(遠心・ろ過)培養液から菌体を分離して濃縮する
回収高圧破砕菌体を物理的に壊して内容物を放出させる
回収封入体の回収・洗浄不溶性の塊を遠心で集め夾雑物を洗い落とす
精製可溶化・リフォールディング変性剤で溶かし正しい立体構造へ巻き戻す
精製イオン交換・HIC段階的にHCP・核酸・凝集体を分離する
精製エンドトキシン除去発熱性物質を規格以下まで下げる
精製UF/DF濃縮と製剤バッファへの置換を行う

工程ごとの詳細な並びは大腸菌の工程フローも合わせて確認してください。

POINT
大腸菌プロセスは「糖鎖が無い」「封入体になりやすい」「エンドトキシンが多い」という3点で抗体プロセスと大きく異なります。この3つを意識すると工程設計の意図が読み取りやすくなります。

菌株とセルバンク ― 出発点をそろえる

最初の工程は、目的タンパク質の遺伝子を組み込んだ発現プラスミドを大腸菌に導入することです。生産株にはタンパク質発現に適した系統がよく使われ、誘導性のプロモーター(T7系など)を組み合わせて増殖と発現のタイミングを分けて制御します。発現のスイッチには古くからIPTGが使われますが、コストや誘導の均一性を考えて乳糖による自己誘導を選ぶこともあります。

構築した菌株は、性質がそろった状態で凍結保存しておきます。これがセルバンクで、品質の基準となるマスターセルバンク(MCB)と、製造のたびに使うワーキングセルバンク(WCB)の二層構成で管理するのが一般的です。この考え方は大腸菌の工程フロー上でも抗体プロセスと共通です。 セルバンクで出発点の菌をそろえておくことが、ロット間の再現性を支える前提になります。

高密度流加発酵

大腸菌の発酵は、種培養から本培養(生産発酵)へとスケールを上げて進めます。実験室では卓上型バイオリアクターで条件を詰め、製造ではより大型の発酵槽や、用途によってはシングルユースバイオリアクターを使います。動物細胞培養とちがって大腸菌は増殖が速く、培養時間は誘導まで含めても数時間から十数時間と短いのが特徴です。

生産性を高める鍵が、流加(フェドバッチ)培養です。グルコースなどの炭素源を最初に大量に入れると、過剰な代謝で酢酸が蓄積し、増殖と発現を阻害します。そこで炭素源を少しずつ供給し続け、酢酸の生成を抑えながら高い細胞密度まで増やします。乾燥菌体重量で100g/L前後に達することもあり、これが大腸菌の高い容積生産性の源です。

高密度培養では酸素供給が律速になりやすく、溶存酸素(DO)を一定に保つため、撹拌速度・通気量・必要に応じて酸素富化を組み合わせて制御します。あわせてpH、温度、フィード速度も管理対象です。十分な菌量まで増えたところで誘導をかけ、目的タンパク質を発現させます。誘導後の温度を下げると封入体になりやすいタンパク質を可溶性で得やすくなることもあり、温度は発現の質を左右する操作因子です。 大腸菌発酵では、酢酸蓄積を抑えるフィード制御とDO維持が、高密度と発現量を両立させる中心になります。

POINT
「とにかく早く・濃く育てる」だけが目的ではありません。誘導の温度・タイミングしだいで、目的物が封入体になるか可溶性で得られるかが変わり、その後の精製工程の難易度が大きく変わります。

菌体回収と高圧破砕

発酵が終わると、培養液から菌体を集めます。多くは連続式の遠心分離で菌体を濃縮し、必要に応じてTFFシステムを使ったろ過で洗浄・濃縮します。動物細胞とちがい大腸菌は目的物を菌体内に溜め込むため、上清ではなく「菌体そのもの」を回収するのがポイントです。

集めた菌体は丈夫な細胞壁を持つため、内容物を取り出すには物理的に壊す(破砕)必要があります。製造規模で標準的なのが高圧ホモジナイザーで、菌体懸濁液を高圧(おおむね数百〜1000bar超)でノズルから一気に噴出させ、せん断と急減圧で細胞を破壊します。一度では壊しきれないことが多く、複数回パスして破砕率を上げます。

破砕では発熱と泡立ちが起き、目的タンパク質が変性したり、宿主由来のプロテアーゼで分解されたりするリスクがあります。そのため低温を保ち、必要なら酵素阻害剤を加え、手早く次工程へ進めます。破砕液には目的物のほかに大量のHCP、ゲノムDNA、細胞膜断片、エンドトキシンが一気に放出されます。 破砕は不純物が最大化する瞬間でもあり、ここからの精製設計が製品品質を決めます。

封入体の回収とリフォールディング

大腸菌で過剰発現させたタンパク質は、正しく折り畳まれずに不溶性の塊として沈着することがよくあります。これが封入体です。封入体は厄介に見えますが、実は目的タンパク質が高濃度で濃縮された状態で、遠心分離で簡単に分離できるという利点があります。

破砕液を遠心すると、封入体は重い画分として沈みます。これを集め、界面活性剤や低濃度の変性剤で洗浄して、付着したHCP・膜成分・核酸・エンドトキシンを落とします。この洗浄を丁寧に行うほど、後工程の負担が軽くなります。

洗浄した封入体は、まず高濃度の変性剤(尿素や塩酸グアニジン)で完全に可溶化し、ほどけた状態にします。次がリフォールディング(巻き戻し)で、変性剤を希釈や透析で徐々に除き、タンパク質が本来の立体構造へ戻るのを助けます。ここが封入体ルート最大の難所です。急に変性剤を抜くと、折り畳みの途中で分子どうしがくっついて凝集体ができ、収率が大きく落ちます。希釈速度、タンパク質濃度、pH、温度、レドックス条件(ジスルフィド結合の形成を助ける酸化還元剤の比)を最適化し、正しく折り畳まれた割合を高めます。

最初から可溶性で発現できれば、この可溶化・リフォールディングを省ける場合もあります。可溶性発現と封入体ルートのどちらを選ぶかは、収率・純度・難易度を見比べた判断になります。考え方は精製レジンの選定とも通じるので、設計の参考になります。

リフォールディングの収率は条件しだいで大きく振れるため、可溶性発現か封入体ルートかの選択は工程全体の効率を左右します。

イオン交換・HICによる精製

リフォールディングで立体構造に戻したタンパク質(または可溶性画分)から、残る不純物を段階的に除いていきます。抗体のProtein Aのような万能キャプチャーが無い大腸菌では、複数のクロマトグラフィーを組み合わせるのが基本戦略です。

中心になるのがイオン交換です。電荷の違いで分離し、とくに陰イオン交換レジン(AEX)は、強く負に帯電する核酸(DNA/RNA)やエンドトキシンを吸着して目的物から引き離すのに有効です。目的タンパク質が吸着するか素通りするかは等電点しだいで、吸着させて溶出する設計と、不純物だけを吸着させて目的物を素通りさせるフロースルー設計を使い分けます。

仕上げ(ポリッシング)には疎水性相互作用レジン(HIC)もよく使われます。HICは高塩濃度下で表面の疎水性の差を使って分けるため、イオン交換とは異なる原理で凝集体や近縁の不純物を落とせます。原理の異なる工程を組み合わせると、1工程では取りきれない不純物を確実に減らせます。

精製の効果は分析で確認します。HCPがどこまで下がったかは宿主細胞タンパク質(HCP)分析で、核酸の残存量は残存DNA分析で評価し、各工程の除去能を数値で裏づけます。 電荷で分けるイオン交換と、疎水性で分けるHICを組み合わせ、原理の違いで不純物を取り切るのが大腸菌精製の定石です。

エンドトキシン除去とUF/DF

大腸菌プロセス特有の最重要管理項目がエンドトキシン(リポ多糖、LPS)です。グラム陰性菌の外膜由来で強い発熱性を持ち、注射剤では極めて低いレベルまで下げる必要があります。

エンドトキシンは強く負に帯電しているため、上で述べた陰イオン交換が除去に大きく寄与します。さらに必要に応じて、エンドトキシン選択的な吸着担体や界面活性剤を使った洗浄を組み合わせ、規格以下まで作り込みます。発熱性物質の管理はLAL試験(カブトガニ由来試薬を使う方法)などで行い、専用のエンドトキシン試験で各ロットの適合を確認します。

精製の最後はUF/DF(限外ろ過/透析ろ過)です。TFFシステムを使い、目的タンパク質を必要な濃度まで濃縮し、溶液を製剤バッファへ置き換えます。原理や運転の考え方は抗体プロセスのUF/DFと共通です。

充填の直前には、最終製剤を滅菌フィルター(一般に0.22µm)で無菌ろ過します。UF/DFと無菌ろ過を経て、規定の純度・濃度・無菌性を満たした原薬が得られます。 エンドトキシンの除去能を陰イオン交換と専用処理で作り込み、UF/DFで濃度と溶液を整えるのが大腸菌精製の締めくくりです。

まとめ

大腸菌プロセスは、高密度の流加発酵で目的タンパク質を大量に作らせる前半と、菌体を破砕して取り出し不純物を段階的に除く後半の、2本柱で成り立っています。

CHO細胞とちがって糖鎖修飾が無く、目的物が封入体になりやすいため、可溶化とリフォールディングという独自の工程が加わります。また、Protein Aのような万能キャプチャーが無いぶん、イオン交換とHICを原理の違いで組み合わせ、HCP・核酸・凝集体を順に減らしていきます。

そして大腸菌ならではの宿題がエンドトキシンで、陰イオン交換を中心とした除去設計とLAL試験による管理が欠かせません。工程ごとの位置づけをつかんでおくと、個々の技術や分析の話も整理して理解できます。

参考文献

  • 日本薬局方(PMDA) ― 一般試験法「エンドトキシン試験法」および生物薬品関連の各条
  • USP <85> Bacterial Endotoxins Test/USP <1085> Guidelines on the Endotoxins Test(USP
  • ICH Q6B "Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products"
  • ICH Q5A(R2) "Viral Safety Evaluation of Biotechnology Products"(宿主・原材料管理の考え方)
  • FDA Guidance for Industry "Pyrogen and Endotoxins Testing: Questions and Answers"
  • European Pharmacopoeia(EDQM/EMA) 一般章 2.6.14 "Bacterial endotoxins" ほか
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この記事は、微生物・発酵に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法や品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。
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