封入体のリフォールディングとは?大腸菌発現タンパクの巻き戻し
封入体は、見た目には悪い知らせです。大腸菌で高発現させたタンパク質が細胞質で寄り集まり、不溶性の塊になっている。そのままでは活性がなく、医薬品にも酵素にもなりません。ところが、この塊は目的タンパク質が高純度で濃縮された状態でもあります。プロテアーゼタンパク質を分解する酵素。破砕で放出され目的物を分解するため低温や阻害剤で抑える。詳しく →にも分解されにくい。捨てるには惜しい材料で、実際、多くの承認品がこの経路で作られてきました。

核心は一点です。巻き戻しとは、折りたたみと凝集の競争に勝たせる工程です。変性剤を抜くと鎖は動き出しますが、正しく畳むより先に、隣の分子の疎水面とくっついてしまうことがあります。この二つは同じ材料を奪い合う反応で、どちらが速いかは濃度と条件で決まる。だから巻き戻しの設計は、折りたたみを速くする工夫ではなく、凝集を遅くする工夫がほとんどを占めます。
この記事では、可溶化で鎖をほどくところから始めて、変性剤の抜き方、凝集との競争、ジスルフィド結合システイン残基どうしが作るS-S結合。タンパク質の立体構造を留める橋になる。詳しく →を架け直す環境、そして折りたためたと判断する根拠の順に解説します。上流の回収と精製との関係にも触れます。最後に、収率が伸びないときに確かめる順序を並べます。
- 巻き戻しは折りたたみと凝集の競争なので、設計の大半は凝集を遅らせる工夫に費やされます。
- タンパク質濃度を 10〜100 µg/mL まで薄めるのは、凝集が濃度の二乗以上で効いてくるためです。
- ジスルフィドを架け直すには、還元型と酸化型を 10対1 ほどの比で共存させた環境が要ります。
可溶化 ― 鎖をほどく
まず、塊をほどいて一本の鎖に戻します。
ここで使うのは高濃度のカオトロープで、尿素なら 6〜8 M、塩酸グアニジンタンパク質の立体構造を崩して変性させる試薬で、封入体の可溶化や巻き戻し前の展開などに使われます。詳しく →なら 6 M 前後。水の構造を壊して疎水性相互作用分子表面の疎水性の差で分けるクロマトグラフィー。詳しく →を弱め、分子間の結合も分子内の構造もまとめて解いていきます。ジスルフィド結合が残っているなら、DTT抗体のジスルフィド結合を部分的に還元してチオール基を作り出し、薬物を結び付けるための反応部位を露出させる試薬です。詳しく → を 5〜10 mM 入れて全部切ります。誤って架かった結合を持ったまま先へ進むと、後で必ず戻ることになるからです。
可溶化の前に洗っておくかどうかで、後が変わります。低濃度の界面活性剤や 2 M 程度の尿素で封入体を洗うと、膜断片や宿主タンパク質、エンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →が先に落ちます。ここで落とせた分は、巻き戻した後のクロマトで落とさずに済みます。
完全に変性させないやり方もあります。低濃度の尿素と高い pH を組み合わせて、二次構造αヘリックスやβシートなど、主鎖が局所的に取る規則的な折りたたみ様式。遠紫外CDで割合を推定する。詳しく →をある程度残したまま分散させる方法で、活性回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。詳しく →が上がったという報告があります(Singh A, et al. 2015)。ほどきすぎないほうが戻りやすい、という発想です。
可溶化は「どこまでほどくか」の判断で、全部ほどくことが常に正しいわけではありません。
変性剤を抜く ― 希釈か、透析か、カラムか
抜き方は三通りあり、それぞれ効く場面が違います。
いちばん単純なのが希釈です。変性液を巻き戻し用のバッファーへ一気に入れ、変性剤の濃度を 100倍 ほど下げる。設備が要らず、スケールも素直に伸びます。欠点は液量で、最終的に数千リットルの槽が必要になることもあります。
透析と限外ろ過は、液量を増やさずに抜けます。ゆっくり濃度が下がるので、中間状態を長く経由することになり、そこで凝集が進むこともある。Repligen や Cytiva のTFFシステム膜面に液を平行に流しながらろ過し、目詰まりを抑えつつ濃縮やバッファ交換を行う限外ろ過(クロスフロー)装置一式です。詳しく →でバッファーを置換する構成が実務では多く、連続的に抜いていく設計が取れます。
三つ目がカラム上での巻き戻しです。HisタグHisタグと金属イオンの親和性を利用して目的タンパク質を捕捉する精製法。開発初期や研究用途で使う。詳しく →を IMAC に、あるいはサイズ排除分子の大きさの差で分けるクロマトグラフィー。詳しく →カラムに通しながら、変性剤の濃度勾配で抜いていく。担体カラムに充填する多孔質ビーズ。表面のリガンドと成分の相互作用差で目的物と不純物を分離する。詳しく →に固定されている分、分子どうしが出会いにくく、濃いまま巻き戻せるのが利点です。処理量は限られるので、高価なタンパク質や少量の用途に向きます。
凝集との競争 ― 濃度がすべてを決める
なぜ薄めるのかというと、二つの反応の次数が違うからです。
正しい折りたたみは一分子で完結する一次反応ですが、凝集は二分子以上が出会って進みます。濃度を半分にすると、折りたたみの速度は半分にしかなりませんが、凝集の速度は四分の一以下に落ちる。だから薄めるほど、競争は折りたたみに傾きます。実務で 10〜100 µg/mL という、精製工程としては異様に薄い濃度が使われるのは、この差を使うためです。
薄めるだけでは液量が持たないので、添加剤を併用します。いちばんよく使われるのが L-アルギニンで、0.4〜0.5 M あたりを入れます。変性剤ほど構造を壊さずに、凝集しかけた中間体を溶かしておく働きがあります。ほかにスクロースやグリセロール微生物発酵でエネルギー源となる糖類などの炭素源と、目的遺伝子の発現を促す誘導物質のことです。詳しく →、低濃度の界面活性剤タンパク質の凝集や容器壁への吸着を防ぐため製剤へ少量加える添加剤で、細胞培養で細胞を保護する目的でも使われます。詳しく →、PEG なども場面によって効きます。
温度も効いてきます。4〜15℃ に下げると両方の反応が遅くなりますが、凝集のほうがより強く抑えられるので、結果として収率が上がることが多い。巻き戻しの条件出しとは、折りたたみを速くする条件ではなく、凝集を遅くする条件を探す作業です。
一度に全量を入れず、数回から十数回に分けて少しずつ加えるパルス希釈という方法があります。すでに巻き戻った分子は凝集に参加しにくいので、瞬間的な変性タンパク質の濃度だけを低く保てば、槽の容積を小さくしたまま同じ効果が得られます。液量がボトルネックになったら、まずここを検討します。
ジスルフィド ― 架け直せる環境を作る
ジスルフィド結合を持つタンパク質では、もう一つ条件が要ります。
還元剤で全部切った状態から、正しい相手どうしで架け直す必要があります。ところが、ただ酸化すればよいわけではありません。一度架かった結合が間違っていた場合に、それを開いて架け直せる環境でなければ、途中で固まってしまいます。そのために、還元型と酸化型を共存させます。還元型グルタチオンと酸化型グルタチオン酸化還元系に使う酸化型のチオール試薬。還元型グルタチオンと組み合わせ、正しいジスルフィド形成を促す。を 10対1 くらいの比で、合計 1〜10 mM の濃度に置くのが定番です。システインとシスチンの組み合わせも使われます。
pH も同じくらい効きます。システインのチオール基システイン残基が持つ-SH基。ジスルフィド結合の還元で生じ、マレイミドなどと結合する反応点になる。詳しく →が反応するのは解離した形なので、pH 8〜9 あたりに置くと交換が進みます。低すぎると架け直しが止まり、高すぎるとタンパク質そのものが不安定になる。この窓は狭いので、緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →の選択まで含めて詰めます。
残った還元剤の持ち込みにも注意が要ります。可溶化で入れた DTT が巻き戻し液に残っていると、酸化還元のバランスが還元側に寄って、いつまでも架かりません。希釈倍率か、脱塩の一段かで、ここを切っておきます。
何をもって折りたためたとするか
収率の定義を決めておかないと、条件出しが進みません。
いちばん確かな指標は活性で、酵素なら比活性、受容体結合ならその結合を見ます。ただし活性測定に時間がかかる系では、条件を振る回数が稼げません。そこで構造側の指標を併用します。サイズ排除クロマトグラフィー多孔質の担体を通る時間差で分子をサイズ順に分離し、抗体の凝集体や断片がどれくらい含まれるかを測る手法です。詳しく →で単量体の割合を見るのが基本で、Tosoh Bioscience のようなカラムに Wyatt の光散乱を組み合わせると、見かけの分子量まで確かめられます(凝集体の分析)。
ジスルフィドが正しく架かったかは、還元と非還元の両条件で泳動を比べる方法や、遊離チオールの定量で見ます。厳密にやるならペプチドマッピングタンパク質を断片に切り分け、どこがどれだけ化学変化したかを調べる分析。詳しく →で結合の位置まで確かめますが、条件出しの段階では重すぎます。
条件を大量に振る局面では、装置に任せる手もあります。Unchained Labs のような多検体系で条件をマトリクスで振り、NanoTemper Technologies の熱安定性抗体が熱に対して立体構造を保つ性質。融解温度(Tm)などで評価する。詳しく →測定で折りたたみの質を比べる。評価が速い系を先に作っておくほうが、結局は早く収束します。巻き戻しの収率は、活性と構造の両方で押さえて初めて規格に書けます。ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく → が求める特性解析規格試験より高い分解能で製品の品質特性を詳しく調べること。比較可能性の評価などで用いる。詳しく →も、ここが出発点です。
収率が伸びないときに確かめる順序
巻き戻しが 10% を切っていたら、次の順で当たります。
一番目は、濃度です。 10〜100 µg/mL より濃いなら、まず薄めます。液量が問題ならパルス希釈可溶化液を少量ずつ繰り返し添加して瞬間濃度を抑え、中間体の衝突と凝集を減らす希釈の工夫。に切り替え、ここで改善するようなら原因は凝集との競争だったと分かります。二番目に、還元剤の持ち込みを確かめます。可溶化で入れた DTT が残っていれば、ジスルフィドは架かりません。
三番目が酸化還元対です。グルタチオンの比と総濃度、そして pH が 8〜9 に入っているかを見ます。架かりはするが活性が出ない場合、間違った組み合わせで固まっている可能性が高く、架け直しの環境が足りていません。四番目にアルギニン分子どうしの会合による凝集を抑え、高濃度処方では粘度を下げる働きも知られるアミノ酸。詳しく →を 0.4〜0.5 M で入れ、温度を 4〜15℃ へ下げます。
それでも伸びないなら、可溶化まで戻ります。ほどきすぎていないか、封入体の洗浄が足りていないか。巻き戻しの条件は独立には動かないので、下流から一つずつ当てて、効いた変数の組み合わせで詰めていくのが結局は早い。
参考文献
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q6B(生物薬品の規格及び試験方法の設定). https://www.ema.europa.eu/en/ich-q6b-specifications-test-procedures-acceptance-criteria-biotechnological-biological-products-scientific-guideline
- ICH Q5Cバイオテクノロジー応用医薬品の安定性試験の考え方を示す国際調和ガイドライン。詳しく →(生物薬品の安定性試験出荷時から有効期限まで品質特性が規格内にとどまることを確認する試験。詳しく →). https://www.ema.europa.eu/en/ich-q5c-stability-testing-biotechnological-biological-products-scientific-guideline
- USP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく → General Chapter <1045> Biotechnology-Derived Articles. https://www.usp.org/
- Ph. Eur.欧州医薬品品質局(EDQM)が発行する、医薬品の品質基準を定めた公定書で、署名国・加盟国の規制に法的効力を持つ。詳しく → 一般項(タンパク質医薬品関連の一般試験法)
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