リフォールディング条件の最適化:DoEで凝集と収率のぶれを抑える

33種類のタンパク質を使って、14種類の試薬が巻き戻しにどう効くかを調べた研究があります。いちばん大きく効いたのは、pHと還元剤の選び方でした。添加剤と還元剤の組み合わせが、相乗的に巻き戻しを進めた例も見つかっています(Willis ら、2005年)。
巻き戻しの条件は、一つずつ決めても、合わせたときに最適になるとは限りません。そこで、最初から複数の条件を組み合わせて振る実験計画法(DoEパラメータを変えたときCQAがどう応答するかを効率よく調べる実験計画法。詳しく →、Design of Experiments)が使われます。
大腸菌の封入体(細胞の中で固まってできる、不溶性のタンパク質の塊)を巻き戻す工程は、ここで半分を失えば、後ろの工程をどれだけ磨いても全体の収率を取り戻せません。条件の詰め方で、凝集も、日ごとの収率のぶれも、規模を変えたときの再現性も変わります。
巻き戻しの現場で起きること ― 凝集・収率のぶれ・規模の壁
変性剤を抜くと、タンパク質の鎖は、正しい形に折りたたまれるか、隣の分子とくっついて固まるかのどちらかに進みます。この競争が、現場で起きる困りごとのほとんどの出どころです。
一つ目は凝集です。液が白く濁る、沈殿がたまる、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)多孔性樹脂の孔に小分子ほど入り込む時間差を利用し、分子をサイズで分けるクロマトグラフィー。詳しく →で単量体より先に出るピークが大きくなる、といった形で現れます。濁りがなくても安心はできません。溶けたままの小さな凝集体や、ジスルフィド結合システイン残基どうしが作るS-S結合。タンパク質の立体構造を留める橋になる。詳しく →(システイン同士をつなぐ硫黄の結合)を間違った相手と結んだ分子は、見た目では分からないからです。凝集は分子同士が出会って進むので、巻き戻し大腸菌内で不溶性の塊(封入体)になったタンパク質を可溶化し、正しい立体構造へ巻き戻して活性を回復させる操作です。詳しく →は1 mLあたり10〜100 µgという薄い濃度で行うのが基本です(原理は封入体のリフォールディング)。
二つ目は収率のぶれです。同じ配合表で作ったのに、今日の収率が先週の半分だった、ということが起きます。疑う場所は、封入体のロット(洗い方や可溶化の仕方、混じっている宿主タンパク質の量が違う)、可溶化に使った還元剤の持ち込み量、酸化還元対の状態です。還元型グルタチオン酸化還元系に使う還元型のチオール試薬。酸化型と組み合わせ、誤対合ジスルフィドの再編成を助ける。詳しく →は、溶けた状態で空気に触れると少しずつ酸化されるので、作り置きの液は、計算上の比からずれていることがあります。
三つ目は規模の壁です。試験管で成功した条件を大きな槽へ持っていくと、同じ配合なのに収率が落ちることがあります。薄い濃度を守ると液量がふくらむこと自体が壁です。2021年のレビューは、希釈法は簡単だから生産規模でも主流であり続けると述べたうえで、大きな液量、混ざり方のむら、薄い液での分析の難しさを課題に挙げています。どのタンパク質にも使える汎用の手順(プラットフォーム)はなく、堅牢な管理手法も乏しいとも指摘しています。だから、条件を詰める作業はタンパク質ごとに必要です。
条件出しの目的は、収率の最大値を探すことより、凝集とぶれを抑え、規模を変えても再現する条件を見つけることです。
一つずつ振る方法が外れる理由 ― 条件どうしの相互作用
条件出しの定番は、pHを振って一番よい値を決め、次に温度を振る、という進め方です。巻き戻しは、この方法が外れやすい工程です。
理由は、条件どうしが互いの効き方を変えるからです。ジスルフィド結合の架け直しは、チオール(システインの硫黄の端)がイオンの形になって初めて進みます。pHを上げると架け直しは速くなりますが、その速さは還元型と酸化型の比や総濃度で変わります。pHの最適値は、酸化還元対の条件次第で動くということです。
ドレッシングの酢と油を一つずつ決めるようなもので、酢の量を決めてから油を変えると、酢のちょうどよい量が変わってしまいます。冒頭の研究でも、添加剤のNDSB 201と還元剤の組み合わせが、Cdc25Aというタンパク質の巻き戻しに相乗的に効きました。
実験計画法は、条件を表にして、全部の組み合わせのうちの一部を、偏りが出ないように選んで試す方法です。8つの条件を3段階ずつ振るだけで、全部の組み合わせは6,000通りを超えます。全部は試せなくても、選び方に筋が通っていれば、効きの大きい条件と、組み合わせで効く条件を少ない実験で見分けられます。Vincentelli らは、96通りの巻き戻し緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →をこの考え方(一部実施計画)で組み、96穴プレートで自動化して、24種類のタンパク質で検証しました(2004年)。設計表の作成と解析は、JMP(SAS Institute)やMODDE(Sartorius)のような統計ソフトが受け持ち、人が決めるのは、どの条件をどの範囲で振るかです。
進め方は二段に分けます。第一段は、条件が多いうちに粗い網をかけて、効かない条件を落とします。第二段で、残った三つか四つを細かく振り、最適点と、そこから少しずれても収率が落ちない余裕を見ます。変性剤の抜き方(希釈、透析、カラム上)のように選択肢が飛び飛びの条件は、設計表に混ぜず、方式ごとに別の実験として回します。
一つずつ振って決めた最適値は、ほかの条件を固定したときだけの最適値です。
比べる指標と記録する項目 ― 収率の分母と、繰り返しの列
条件を比べる前に、何をもって「うまくいった」とするかを決めます。ここが曖昧だと、実験のあとに、比べられないデータが残ります。指標は、それぞれ得意なことが違います。
いちばんの落とし穴は、単量体なら正しく折りたたまれていると読んでしまうことです。ジスルフィド結合を間違った相手と結んだ分子も、大きさは単量体と同じです。SECの結果は凝集の程度を見る指標と割り切り、折りたたみの正しさは活性か、遊離チオールの測定(遊離チオールとジスルフィド結合の分析)で補います。凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →の測り方は凝集体をどの分析で見るかに、SECに光散乱を組み合わせる方法はSEC-MALSにあります。
「収率」の分母も決めておきます。上澄みの中の単量体の割合が90%でも、沈殿として半分が失われていれば、投入した量に対する回収は半分に届きません。この二つは別々の列に記録します。
単量体の割合が最大の条件と、活性が最大の条件は、一致しないことがあります。両方を記録しておけば、食い違った条件で何が起きているか(間違った結合で固まっているのか、など)の手がかりが得られます。片方だけの記録では、食い違いに気づけません。
同じ条件を数回繰り返す列も、最初から表に入れておきます。設計の真ん中の条件を3回ほど繰り返せば、同じ条件でどれだけ結果が揺れるかが分かり、条件を変えて出た差が、ただのぶれより大きいかを判断できます。
記録は、後から別の人が読み直せる形で残します。封入体のロット番号と洗浄・可溶化の条件、可溶化で入れた還元剤の量と巻き戻し液への持ち込み量、変性剤の最終濃度、酸化還元対還元型/酸化型グルタチオンなど、リフォールディング時にジスルフィド形成を助ける酸化還元系。詳しく →を作った日、変性液を加える速さと撹拌のしかた、巻き戻し液で実測したpHと温度、止めた時間と分析までの保存条件です。DSFを読み出しに使った96穴の巻き戻しスクリーニングの報告では、巻き戻しにかける時間も効く条件に挙がりました。時間は固定せず、変数として記録します。
96穴への分注は自動液体ハンドリング、吸光度や蛍光の読み取りはプレートリーダー、単量体の割合はSEC-HPLCの製品ページから装置を探せます。
収率の分母と、測った指標と、実測した条件が同じ表に残っているデータだけが、後から比べられます。
小さな実験と実規模の確認 ― 96穴から槽まで
96穴プレートなら、1回の実験で96通りの条件を試せます。ただし、そこで出た結果は、実際に使う方式で確かめるまでは仮の答えです。
小さな系には限界があります。1ウェルの液量は数百 µL以下で、薄い濃度で巻き戻すので、入っているタンパク質はマイクログラムの桁です。測れる指標は限られるので、活性は後回しにして、濁りやSEC、DSFのような構造側の指標で絞ります。
もう一つの限界は、方式の再現です。希釈だけならプレートでも再現できますが、透析、カラム上の巻き戻し、変性液を少しずつ加える方式は、再現しにくくなります。希釈でも、液量が増えるにつれて、変性液を入れる場所と速さ、撹拌が結果を左右します。モデルタンパク質のリゾチーム細菌の細胞壁(ペプチドグリカン)を分解して壁を弱める酵素。菌体の酵素的溶解に使う。詳しく →を使った研究(Mannall ら、2007年)では、撹拌の強さ、注入の速さ、酸化還元の比、変性剤の濃度を組み合わせて振っています。強く効いたのは変性剤の濃度と酸化還元の比、それに注入の速さでした。注入が速くて混合の効率が悪い条件でも、高い収率が得られた組み合わせがあります。撹拌をよくすれば済む話ではありません。混ぜ方は、他の条件との組み合わせで効き方が変わります。
温度にも同じことが言えます。小さな液量は外気に左右され、大きな槽は目標の温度に落ち着くまで時間がかかるので、設定値ではなく実測値を時間を追って記録します。
確かめる順序は、プレートで絞った上位の条件を、実際に使う方式のまま中間の規模で回し、同じロットの封入体でプレートと並べて比べることです。差が出たら、混ぜ方か温度を疑います。そのあとで実際の槽に進みます。全条件を回せる量の封入体を同じロットで確保してから始めないと、途中でロットが変わった時点で比較が崩れます。
プレートで見つけるのは候補で、実際に使う方式で再現してはじめて、条件として決まります。
よくある失敗 ― 明日から確かめられること
条件出しのつまずきは、次の4つに集まります。
一つ目は、範囲の取り方です。狭すぎると何も効かない結果が出て、広すぎると極端な条件でどれも凝集し、比べられなくなります。過去の知見と予備実験で範囲を決めてから、設計表を作ります。
二つ目は、封入体を1ロットだけで決めることです。洗い方や可溶化の仕方が少し違うロットで、同じ条件が同じ収率を出すとは限りません。決めた条件は、別のロットでも確かめます。
三つ目は、還元剤の持ち込みです。可溶化に入れたDTTが巻き戻し液に残ると、酸化型を共存させても環境が還元側に寄り、結合がなかなか架かりません。条件を何十本振っても、この一点で全部が同じ方向にずれ続けます。
四つ目は、最適点だけを見て余裕を見ないことです。収率が最大の条件が鋭い山の頂上にあると、日々のわずかなずれで収率が大きく落ちます。最適点の周りも振っておき、少しずれても落ちにくい場所を選びます。
条件出しを始める前に、手元で次の点を確かめてみてください。
- 「収率」の分母を決めてあり(投入量か、上澄みの中の割合か)、単量体の割合と活性(または遊離チオール)を別々の列に記録する
- 設計の真ん中の条件を、3回ほど繰り返す列を入れてある
- 全条件を回せる量の封入体を同じロットで確保し、別ロットでの確認も計画に入れてある
- 還元剤の持ち込み量と、酸化還元対を作った日を記録する欄がある
- pH、温度、混ぜ方(変性液を入れる速さ、撹拌)を実測値で残せる
- プレートで見つけた条件を、実際に使う方式と中間規模で確かめる日程が入っている
巻き戻しと酵素変換を一続きで詰める例はプロインスリンのリフォールディングと酵素的変換に、工程の管理範囲を決める段階のDoEはプロセス特性解析にあります。ICH Q8(R2)が設計空間(Design Space品質が保証されると実証された、工程パラメータや原材料特性の多次元的な組み合わせの領域。詳しく →)を入力変数の組み合わせと相互作用で定義しているように、規制の側も、条件どうしの相互作用を前提にしています。
参考文献
- Willis MS, et al. Investigation of protein refolding using a fractional factorial screen: a study of reagent effects and interactions. Protein Sci. 2005;14(7):1818-1826. doi:10.1110/ps.051433205(14種類の試薬と33種類のタンパク質、pHと還元剤の効き、添加剤と還元剤の相乗効果)
- Vincentelli R, et al. High-throughput automated refolding screening of inclusion bodies. Protein Sci. 2004;13:2782-2792.(96通りの巻き戻し緩衝液を一部実施計画で組んだ自動化スクリーニング、24種類のタンパク質での検証)
- Mannall GJ, Titchener-Hooker NJ, Dalby PA. Factors affecting protein refolding yields in a fed-batch and batch-refolding system. Biotechnol Bioeng. 2007.(撹拌・注入速度・酸化還元比・変性剤濃度が収率に与える影響)
- Applied Microbiology and Biotechnology 2021年のレビュー, doi:10.1007/s00253-021-11151-y(生産規模での希釈による巻き戻しの課題)
- A Systematic Protein Refolding Screen Method using the DGR Approach Reveals that Time and Secondary TSA are Essential Variables(DSFを読み出しに使った96穴スクリーニング、巻き戻し時間の影響)
- ICH Q8医薬品開発とQbDの考え方を示すICHガイドライン。重要品質特性(CQA)を定義している。詳しく →(R2), Pharmaceutical Development(設計空間の定義)
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