微生物・発酵基礎知識・製造工程

微生物由来タンパク質の回収・精製とは?破砕から精製まで

大腸菌の発酵槽から出てくるのは、目的タンパク質ではありません。目的物を中に抱えたままの菌体です。培養上清に分泌される動物細胞培養と違って、微生物では中身を取り出すところから始まります。ポリメラーゼもヌクレアーゼ核酸を分解する酵素です。製造では培養由来の残存DNA/RNAを分解・除去して製品の純度を高める目的で使い、ベンゾナーゼが代表例です。詳しく →もリガーゼも、AAV遺伝子治療で遺伝子を運ぶウイルスベクター。血清型によって集まりやすい組織が異なる。詳しく →やmRNAの製造に使う酵素の多くは、この経路を通って出てきます。

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微生物由来タンパク質の回収・精製とは?破砕から精製まで

核心は一点です。微生物ダウンストリーム培養液から抗体を分離・精製する下流工程。清澄化からProtein A、ポリッシュ、UF/DFまでを指す。詳しく →には、動物細胞の工程には存在しない前段が二つあります。菌体を壊すことと、大腸菌の外膜に由来するエンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →を落とすこと。この二つが工程の長さと歩留まり製造工程で投入した原料や中間体に対し、最終的に規格に合った製品として回収できた割合を指し、低いほどコスト増につながる。詳しく →を決め、しかも互いに絡みます。強く壊せば中身はよく出ますが、遊離するエンドトキシンとDNAも増えて、後段の負荷が上がります。

この記事では、破砕から始めて、可溶性発現目的タンパク質が正しく折りたたまれ、破砕後の可溶性画分(上清)に溶けた状態で得られる発現形態。と封入体発現の分岐、封入体の巻き戻し大腸菌内で不溶性の塊(封入体)になったタンパク質を可溶化し、正しい立体構造へ巻き戻して活性を回復させる操作です。詳しく →、清澄化培養液から細胞や破片を取り除いて目的物質を含む上清を回収し、後工程に渡せる清澄な液にする工程です。詳しく →と多段クロマト、エンドトキシン除去の順に解説します。上流の発酵は微生物発酵の製造解説、封入体の詳細は封入体リフォールディングの解説にあります。最後に、工程を組み立てる順序を並べます。

この記事の要点
  • 微生物では目的物が細胞内に溜まるため、高圧ホモジナイザーによる破砕が固有の前段に入ります。
  • 可溶性発現か封入体発現かで工程の長さが変わり、封入体では巻き戻しの収率が律速に座ります。
  • 大腸菌のエンドトキシンは負電荷と疎水性を併せ持つので、原理の違う手法を重ねて桁を下げます。

破砕 ― 強く壊すほど後段が重い

発酵が終わったら、まず菌体を集めます。

ディスク式遠心機高速回転する円盤で連続的に固液を分離する遠心機。培養液からの菌体回収に使う。かマイクロフィルトレーションで培地と分け、回収したペレットを破砕緩衝液に懸濁し直す。高密度培養菌体を高い密度まで増やして、容積あたりの生産性を高める培養。詳しく →なら乾燥菌体で 100 g/L の桁になるので、この時点で扱う液量はかなり絞られています。洗浄を挟んで残存培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →成分を落としておくと、後段の分析で助かります。

破砕の標準は高圧ホモジナイザー高い圧力で試料を細い隙間に通し、その力で細胞や菌体を壊す装置です。中の目的物を取り出す破砕工程に使います。詳しく →です。500〜1,500 bar で狭いバルブ間隙から噴出させ、せん断流れの中で分子にかかる物理的な力。強すぎると抗体の凝集や微粒子発生を招く。詳しく →と急減圧で細胞壁を壊します。製造スケールでは GEA のような大型機、開発スケールでは Avestin の EmulsiFlex や Constant Systems の装置がよく使われます。グラム陰性の大腸菌は比較的壊れやすい一方、酵母やグラム陽性菌は壁が頑丈で、同じ液を何度も通す必要が出てきます。

ここで効いてくるのが、壊しすぎの代償です。パスを重ねれば回収率は上がりますが、菌体デブリ破砕で生じる細胞の破片。過度な破砕で微細化すると後段の遠心・ろ過を妨げる。詳しく →が細かくなって清澄化が詰まり、遊離するDNAとエンドトキシンも増えます。発熱もあるので、パスの間に冷却を挟まないと目的物のほうが先に壊れます。⁠破砕条件は回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。詳しく →だけでなく、後段の負荷を決める設計変数です。

可溶性か封入体か ― 工程の長さが倍違う

破砕液を遠心すると、目的物がどちらの画分にいるかが分かります。

可溶性画分にいれば話は速く、清澄化してそのままクロマトに掛けられます。発現温度を下げる、弱いプロモーターRNAポリメラーゼが結合して転写を開始するDNA上の特定の塩基配列領域。詳しく →を使う、シャペロンタンパク質の折りたたみを助ける分子。共発現させると折りたたみ効率が上がり凝集が減ることがある。詳しく →を共発現する、MBPやSUMOのような可溶化タグMBPやSUMOなど、融合して目的タンパク質の可溶性を高める配列。を付けるといった上流の工夫は、すべてこの画分に目的物を持ってくるためのものです。

沈殿側に落ちていれば封入体です。不溶性の凝集体として溜まっていて、そのままでは活性がありません。ただし悪い話ばかりではなく、封入体は純度が高くプロテアーゼタンパク質を分解する酵素。破砕で放出され目的物を分解するため低温や阻害剤で抑える。詳しく →にも分解されにくい。問題は、活性を取り戻すのに変性と巻き戻しという二工程が追加され、そこが歩留まりの律速に座ることです。

POINT

封入体か可溶性かは、発現系を決めた時点でほぼ決まります。後から選び直すには発現構築に戻ることになるので、判断は細胞株の構築段階に前倒しするのが現実的です。ジスルフィド結合の数が多いタンパク質ほど巻き戻しが難しくなる点も、このときに見ておきます。

封入体 ― 変性させてから巻き戻す

封入体の処理は、洗ってから解いて、また固める作業です。

まず洗浄します。低濃度の界面活性剤タンパク質の凝集や容器壁への吸着を防ぐため製剤へ少量加える添加剤で、細胞培養で細胞を保護する目的でも使われます。詳しく →やマイルドな変性剤、塩を含む緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →で、膜断片、宿主タンパク質、DNA、エンドトキシンを先に落としておく。ここで落とした分は、後段のクロマトで落とさずに済みます。洗浄の質が最終規格に直結するのはこのためです。

可溶化には高濃度のカオトロープを使い、尿素なら 6〜8 M、塩酸グアニジンなら 6 M 前後を置きます。ジスルフィド結合システイン残基どうしが作るS-S結合。タンパク質の立体構造を留める橋になる。詳しく →を持つなら DTT や β-メルカプトエタノールで還元します。二次構造αヘリックスやβシートなど、主鎖が局所的に取る規則的な折りたたみ様式。遠紫外CDで割合を推定する。詳しく →をある程度残したまま分散させるマイルド可溶化で、活性回収率を上げた報告もあります(Singh et al. 2015)。

巻き戻しは、変性剤を抜く工程です。希釈、透析、段階的なバッファー交換のいずれかで濃度を下げますが、ここで凝集するとそのぶん失います。だからタンパク質濃度を 10〜100 µg/mL まで薄めて希釈し、ジスルフィドを架け直すなら還元型と酸化型のグルタチオンを 10対1 あたりの比で入れ、0.4〜0.5 M のアルギニン分子どうしの会合による凝集を抑え、高濃度処方では粘度を下げる働きも知られるアミノ酸。詳しく →で凝集を抑える。温度、pH、希釈速度を振って条件を探す作業が要ります(Yamaguchi & Miyazaki 2014)。

封入体を選んだ時点で、工程が二段増え、歩留まりの主戦場が精製から巻き戻しへ移ります。

清澄化と多段クロマト ― 落とすものの分担

破砕液もリフォールディング液も、そのままでは濁っています。

遠心とデプスフィルターを組み合わせて粒子を落とし、TFFシステムで濃縮とバッファー交換をしてから、クロマトグラフィーシステムに掛けます。デプスフィルターろ材の厚み全体で不純物を捕らえる深層ろ過フィルターで、細胞培養液の清澄化など、細胞残渣や粒子を多く含む液の一次ろ過に使います。詳しく →は粒子だけでなくDNAや宿主タンパク質の一部も抱え込むので、後段のカラム寿命が変わります。

クロマトは捕捉、中間精製、研磨の三段構成が基本です。捕捉にはHisタグとIMAC、あるいはイオン交換。研磨には陰イオン交換、陽イオン交換、疎水性相互作用分子表面の疎水性の差で分けるクロマトグラフィー。詳しく →、サイズ排除分子の大きさの差で分けるクロマトグラフィー。詳しく →を目的に応じて置きます。設計の勘どころは、各段に落とすものを割り振ることです。目的物を純化する段と、不純物を落とす段は、必ずしも同じではありません。

とくに陰イオン交換は働きが大きい。負電荷を持つDNAとエンドトキシンをまとめて吸着するので、目的物が中性から塩基性ならフロースルークロマトグラフィーで担体に結合せず素通りして流れ出る画分。不純物を通過させて除く場合などに利用する。詳しく →で通し、不純物だけを止められます。Cytiva の Capto Q のような樹脂に加えて、Sartorius の Sartobind Q のような膜吸着体を使えば、平衡時間を短くして処理量を稼げます。

多段クロマトの設計とは、どの不純物をどの段で落とすかの割り振りです。

エンドトキシン ― 負電荷と疎水性を別々に突く

大腸菌を使う限り、エンドトキシンは必ず出ます。

外膜のリポ多糖が破砕で大量に遊離し、負電荷と長いアシル鎖の疎水性分子が水と親和せず、油脂や非極性溶媒と相互作用しやすい性質で、二本鎖RNAと一本鎖RNAではその程度が異なり分離の指標となる。詳しく →を併せ持つために、目的タンパク質と静電的にも疎水的にも結びつきます(Schneier et al. 2020)。加熱でも通常のろ過でも落ちません。しかも複合体を作られると、測定値まで実態より低く出ます。

だから原理の違う手法を重ねます。まず陰イオン交換のフロースルーで負電荷を突き、大半をここで落とす。次に Triton X-114温度を上げると相分離する界面活性剤で、疎水性を利用してLPSを抽出除去する。 の相分離で疎水性を突く方法があり、曇点の 22℃ を境に界面活性剤相と水相に分かれるので、遠心するだけで分離できます。正電荷を付与した除去膜は既存のろ過工程に組み込みやすい反面、吸着容量に上限があるので、負荷が下がった後段の仕上げ向きです。ポリミキシンB固定化は選択性が高いものの、リガンドの漏出があるため最終工程には置きにくい。

規格は投与経路で決まり、一般の注射剤なら体重あたり 5 EU/kg、髄腔内投与なら 0.2 EU/kg です。USP <85> と日本薬局方のエンドトキシン試験法に基づいて、LAL法か組換えファクターC法で実測します。試薬は Associates of Cape Cod のライセートや Charles River のカートリッジ系、rFC なら FUJIFILM Wako の製品があり、エンドトキシン試験の実務は抗体医薬のエンドトキシン管理にもまとめています。残存DNAを 10 ng/回 の桁、宿主タンパク質を 100 ppm の桁まで下げる要求と合わせて、ICH Q6B の規格設定の考え方に沿って組みます。

POINT

エンドトキシンの除去率は、実測しないと分かりません。目的物と複合体を作っていると見かけの値が下がるので、希釈系列で干渉を確認したうえで規格と突き合わせます。落としきれない場合は、精製条件ではなく破砕と洗浄の条件まで遡って複合体の形成を抑えるほうが早いことがあります。

工程を組み立てる順序

設計に入るとき、先に決めておくと後が楽な順番があります。

一番目は、目的物がどちらの画分に出るかを実測することです。 可溶性なら工程は短く済み、封入体なら二段増えて歩留まりの見積もりが変わります。ここが決まらないと設備も原価も置けません。二番目に、投与経路からエンドトキシン規格を引きます。5 EU/kg なのか 0.2 EU/kg なのかで、除去手法を何段重ねるかが変わります。

三番目の破砕条件は、回収率だけを見て決めず、清澄化のろ過面積とエンドトキシンの負荷まで含めてパス数と圧力を決めます。四番目に、クロマトの各段に落とす不純物を割り振ります。陰イオン交換にDNAとエンドトキシンを任せるなら、目的物の等電点から運転pHが決まり、フロースルーで通せるかどうかもここで判断できます。

最後に、測り方を決めます。宿主タンパク質はELISA、残存DNAはqPCR、エンドトキシンはLAL法かrFC。どれも工程中間体で測れるようにしておくと、規格を外したときにどの段が効いていないかがすぐ分かります。⁠落とす手段を並べる前に、どこで何を測るかを決めておくほうが、結局は早く収束します。

参考文献

ガイドライン・基準

  • ICH Q6B: Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products(生物薬品の規格及び試験方法の設定)— 宿主由来不純物(HCP)・残存DNA等の規格設定の基本指針 https://database.ich.org/sites/default/files/Q6B%20Guideline.pdf
  • ICH Q5A(R2): Viral Safety Evaluation of Biotechnology Products Derived from Cell Lines of Human or Animal Origin — 微生物発酵には直接適用されないが、不純物クリアランス評価の考え方の参照基準 https://database.ich.org/sites/default/files/ICH_Q5A%28R2%29_Guideline_2023_1101.pdf
  • United States Pharmacopeia (USP) ⟨85⟩ Bacterial Endotoxins Test/日本薬局方「エンドトキシン試験法」/European Pharmacopoeia 2.6.14 Bacterial Endotoxins — LAL法等によるエンドトキシン規格試験の公定法
  • FDA Guidance for Industry: Pyrogen and Endotoxins Testing — Questions and Answers — 発熱性物質・エンドトキシン試験に関する規制当局の指針

主な文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、微生物・発酵に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。